switch101-99 ラッカー

「恭何やってんの?」

 透耶が居間へ入って来た時、鬼柳がガラスに向かって何かしていた。
 透耶は気になって側まで寄ってみる。

「ああ、透耶か。と、触るなよ」
 鬼柳は透耶が触ろうとした手を止めるように声をかけた。

「これ、何?」
 透耶は不思議そうにそれを眺めていた。

「クリスマスディスプレイ」

 そう言われて、透耶は不思議そうに鬼柳の作業を見ていた。

 吹き付けられている白い粉のようなモノは、あっという間に雪の景色へと変わっていくのである。

「わあ、雪だ」
 透耶は喜んでそれを見つめた。

 飾り付けなのか、トナカイの切り抜きなどを駆使して、まるで街中にあるウィンドウのように仕上がっていく。

 鬼柳は12月中旬から1月初旬まで休みを取っている。で、イベント好きだから、それに力を注ぐのは、もはや恒例になっている。

「雰囲気出るだろう」

「うん」
 透耶は喜んでいる。
 鬼柳は満足したらしく、さっさと後片付けを始めた。

「ここだけやったの?」
 ラッカーを始末している鬼柳に透耶が問う。

「いや、中庭の窓の方もやった。二階の窓にもちょっとやったかな」
 鬼柳はそう答えて、汚れたエプロンを脱いだ。

 本格的だ…。

 透耶は今度は呆れてしまった。

 ここまで凝らなくてもいいのにと思うところまで鬼柳は準備してしまうのである。

「クリスマスパーティーまで準備してる?」
 透耶は恐る恐る鬼柳に尋ねた。
 すると鬼柳は当然とばかりに胸を張って答えたのであった。

「透耶と初めて迎えるクリスマスだぞ。パーティーしなくてどうするんだ」
 そういわれてしまうと透耶も苦笑するしかなかった。

 どうせ、二人っきりのクリスマスを考えているのだと思うけど。それって絶対無理だと思う。

 日本にいるあの人達はすぐにその情報を嗅ぎ付けて集まってくるはずだ。

 いや、そうだそうに違いない。
 透耶はそう確信した。

「他の人も来るんだよね」
 そう聞くと、鬼柳の機嫌が少し悪くなった。

 やっぱり…。

「誰が来るの?」

 すると、エドワードにヘンリー、それにジョージに、当然とばかりに綾乃にオフが取れたら光琉といつものメンバーが集まる事に決まってしまっていたのである。

 一人一人が持ちかけたわけでなく、発信はエドワードだった。
 そこから話が盛り上がって。
 鬼柳が断ろうにも、もう断れない状況を作り上げていたのであった。

「ご苦労様…」
 透耶は力なく答えた。

 これはただ事では済まないだろう。
 そこで苦労するのは鬼柳に決まっているからだ。

 楽しいクリスマスが来るのは透耶も楽しみだった。

 去年は光琉が集めた友人一同と一緒に大きなカラオケ店の部屋を借りてパーティーをした。

 それはそれで楽しかったから。今度も楽しいだろうなあと思ったのである。

「透耶が楽しいなら、仕方ないな」
 鬼柳はそこで折れたらしい。

 透耶が嬉しそうにしているのをみて、それは駄目だとは言えない鬼柳だったのであった。