switch101-98 墓碑銘

 京都のある寺に透耶の両親の墓がある。

 榎木津家となっている場所。
 透耶は先を進んで墓に向かってる。

 そこには透耶の両親、祖父の墓がある。

 透耶は、ここには遺骨を納める時にしか訪れた事はなかったという。

 辛い事だけが待っている京都にさえ帰って来た事もなかったのだ。

 墓はすぐに見つかった。

 透耶と二人でお墓の掃除をして、花を植え替えたりし、線香を炊いた。

 掃除をしている時に、墓石には。

 榎木津柚梨 40才。
 榎木津彼方 40才。
 榎木津維新 75才。

 とだけ記されていた。

 ここに遺骨があるのは、榎木津維新だけである。

 透耶の両親の遺骨は入ってない。

 悲惨な事故で遺体すら見つからなかったのだから、ここにあるのは名前とその魂だけなのだ。

 透耶は手を合わせて神妙になっていた。

 俺は、透耶を幸せにするから、とだけ祈った。

 心から透耶を必要としているのは自分で、透耶もそれを望んでくれている。それが嬉しい。

 きっと透耶の両親も笑顔で迎えてくれたはずだ。

 誰も愛さないと決めた、自分の子供が、こんな俺でも最愛の人だと選んだ事を誇りに思ってくれると思った。

 透耶の両親がどうだったかは、エドワードが調べてくれたお陰でよく知っていた。

 ジャズピアニストで天真爛漫な女性だった母親。その母親を影で支えていた父親。どちらも素晴らしい人だと。

 透耶もそうだ。

 透耶は俺を深い闇から救ってくれた。ただ一人の人。

 ここまで俺が夢中になれたのは、透耶という人間が好きだったからだ。

 誰にも渡したくない。今でも不安はある。

 でも透耶の両親に負けないくらいに、透耶が幸せだったと周りに言わせる自信はある。

 だから、安心してほしい。

 俺に透耶を下さってありがとうと言いたい。

 透耶が生まれなかったら、俺は救われなかったかもしれないのだ。

 だから、透耶を授けてくれた両親には本当に感謝をしていた。

 本当にありがとう。

 それしか言えなかった。