switch101-97 アスファルト
 沖縄の夏は暑いと聞いた。
 湿気がないぶん、直射日光が天敵らしい。
 俺は沖縄最後の日、鬼柳さんに頼んで、あのアメリカ基地の側の金網がある場所を歩いていた。
 ここは思い出の場所になる。
 自分から鬼柳さんに告白した場所。
 あの時はどうなるか解らなかったから、答えを貰えて嬉しかった。そして泣いてしまった。
 でもそれは俺の少しの考え違いのせいで、更に混乱してしまった場所でもある。
 最後に何処行くと言われて、俺はこの場所を選んだ。
 暑い中、アスファルトは熱気を帯びている。
 そういうモノを全て自分の中に収めておきたかったというのが、ここを選んだ理由。
 二度と来ない訳じゃない。
 また来たいからこそ、思い出の場所を覚えておこうと思ったのだ。
 鬼柳さんは何も言わず、俺の隣に立ってくれている。
 俺は気侭にそのフェンス越しに見える基地を眺めていた。
 何も言わなくても大丈夫だと思えたのは、鬼柳さんのお陰だ。こうした沈黙も苦しくない。
 側にいられる事がこれほど嬉しいとは思ってもみなかった。
 これから何があるか解らないけど、俺は沖縄に来て良かったと思えた。
「鬼柳さん、好きだよ」
 俺は鬼柳さんの腕を取って、ニコリと微笑んだ。
 煙草を吸っていた鬼柳さんは、少し驚いたような顔をしたけど、すぐに笑顔を見せてくれた。
「俺も好きだよ、透耶」
 耳打ちするように言われて、俺は顔を真っ赤にしてしまった。
 この先何かあったとしても、俺はこの場所を思い出そう。
 アスファルトが暑く焼け、向こうが蜃気楼になっているような、暑いこの場所を。
 そうすれば強く居られるはずだと。
 俺はこの場所を忘れない。
 思い出の場所として永遠に生き続けるから。