switch101-56 踏切

 家の近く文房具店に出掛けた透耶は、帰りに踏切の前で止まった。

 ちょうど快速電車が通り過ぎてた。

 それを見送っていた透耶はふと思った。

 自分と鬼柳はちょうど快速のような流れでここまで来た様な気がする。

 新幹線だと何か違う表現になりそう。

 話し合う事で途中下車して、そしてまた流れに乗ってここまでやってきた。

 選んだ人は、とても優しい人だった。
 最初は強引だと思ってたが、心が繊細な人だと解った。

 こうして流れに乗ってきたけれど、誰よりも濃い時間を過ごしてきた。

「透耶、買い物だったのか?」
 ふと後ろから声をかけられて透耶は振り返った。

 そこには買い物帰りの鬼柳が立っていた。

「あ、うん。ボールペン無くなっちゃって」

「電話してくれれば買って来たのに」
 そういう鬼柳の両手には、買い物した荷物が沢山ある。
 透耶は苦笑して言う。

「そんなにいっぱいじゃあ、頼めないよ」
 そう言う透耶に鬼柳はキョトンとしてしまう。

 自分は確かに荷物は沢山である。でもボールペンくらいなら買えるのにと思ったのだ。

 でも透耶は遠慮している訳では無い。

「散歩がてらだからいいんだ」

 家の中でしか動くことがなかったので、久しぶりに外を歩いてみたかったのもあった。

 外に出ると結構色々考える事も出来たからだ。 

「トイレットペーパー、持つよ」

「重いからいいよ」

「重く無いでしょ」
 透耶はそう言ってそれを強引に奪い取る。

 そうすれば、鬼柳の手が片方だけ開く。

「手、繋ぐ?」

 そういう意味でトイレットペーパーを受け取ったわけではないのだが、鬼柳はそう思ったらしい。

「そうだね」
 透耶は笑って鬼柳の手を握った。

 今日は素直に手を握る事が出来た。

 鬼柳はそんな透耶を不思議そうに見ていたが、透耶が素直だったので、ま、いっかと思って手を握り返した。

 快速や普通電車が通り過ぎて踏切が開いた。

 透耶は新たな気持ちで一歩前に踏み出した。

 これまで快速でやってきたから、これからは普通でやっていけるんだろうなと思っていた。