switch外伝10 peaceful times01


「あっ……はあっ……、あ……もう、なにやって……」
 息苦しさを感じた榎木津透耶(えのきづ とおや)は、まだ眠りの中にいたままであったが急に意識を浮上させられた。
「ああっ……!!」
 起きたつもりはなかったが、それでも言葉を発したせいか、相手には透耶が起きたという認識になってしまったのか、急に透耶自身がものを滑った感覚に包まれてしまう。
「ぁあ……!はあ……っ!」
 思わずこれは夢ではないと透耶は飛び起きた。
 もぞもぞとする感覚がはっきりと分かって、それが布団の中に潜っているものがいるのがわかった。
 もちろん、それが誰なのかは透耶にもすぐに把握できた。
 こんなことをベッドルームで仕掛けてくるのは、恋人である鬼柳以外に存在はしない。
 ましてここは旅行先のホテルの中だ。赤の他人が入ることなどあるわけもない、鬼柳が特別に取ったスイートルームの中である。
しかもそのホテルは、海の上、つまり大きなクルーズ船の中であった。
「んうっ……あ……も、朝から何して……もっやっああんっ」
 鬼柳は答えることはなく、ただひたすら透耶の性器を口に咥えて扱いてくる。
 朝勃ちのせいもあり、鬼柳が何かしていたのか、身体の反応は鈍った頭よりもよく反応してしまっていて、透耶の思考力でも追いつかない。
「あっ……ぁはあっ……! ああぅ……だめっでちゃう……ああっ!」
急激な追い上げに、透耶はとうとう達してしまい、精液を吐き出してしまう。
 するとそれを口で受け止めた鬼柳が布団から這い出てきてから、ニコリと笑って言うのだ。
「おはよう、透耶。朝から元気だな」
 そう言われて、透耶は脱力をしながらも文句を言う。
「……おはよう……あのね……普通に起こしていいって言ったでしょ……何でいつもこんな起こし方するの……それに朝から元気なのは恭の方でしょ……もうほんとに」
透耶の文句に鬼柳は透耶の身体にのし掛かるようにしてから言った。
「美味しそうな透耶が悪い。食べたくなるからな」
 さわやかな笑顔でそう言われて、透耶は更に脱力する。
 この人はこの言い訳を本気で言っているからどうしようもない。
 ふざけて言っているのでもなく、茶化して言っているわけでもないのだ。
 心の底からそう思ったから言葉にしているので、余計にたちが悪い。
「人を美味しそうとか言わないの……そういえば、ああ、海の上だったね」
 そう言って透耶が鬼柳の後ろに広がる海を見つけて、八の字眉だった眉が驚いたように変わった。
 スイートルームは、他の船室よりも窓が大きく、海が一望できる作りだ。
 もちろん、船着場に着いたといて、普通にビルの十階建てに相当する高さであるから、外から誰にかに覗かれるなんてことは一切心配しなくていい場所だ。
「朝の光に反射する海は綺麗だしな、起こした方がいいと思った」
 鬼柳が本気の理由を言ってきて透耶は察する。
 どうせ、この景色を見せようと起こそうとしたが、鬼柳の目から見える透耶が本気で美味しそうだったので、思わず悪戯を仕掛けてしまい、本気でやってしまったのだろう。こういうところは手加減を忘れてしまう辺り、鬼柳は透耶の身体をどうにかして抱きたいという願望を抑えようとはしない。
 つまり透耶を愛しているが故にそうなってしまうのだと本当にのたまいそうなので透耶はそれ以上鬼柳の行動を攻めはしなかった。
 起きた時は暖かいのもあり、すぐに違和感は覚えなかったが、気付いたら全裸だ。
 たしかシャツ一枚で下も下着だけでいたはずだが、鬼柳に寝ている間に脱がされたのだろう。これも本人に問いただすと、呆れた返答が返ってくるのだ。
「汚れたら、嫌だろう? だから脱がせた」
 そう言うのも本気であるから、透耶はもう脱がせた理由すら聞きたくもなくなる。
「海、綺麗だね。ここまで遠く陸から離れると、本当に深い青い色になるんだね。地球の青って感じ」
 透耶はその海で泳げるわけではない。まして金づちで、一時期は風呂すら怖がるくらいに水が苦手だった。けれど、青い色は大好きで、その海で泳ぐ練習をしてからは、多少は平気になっている。
 水際なら溺れないことは分かっているし、こうして大きな船ならそうそう沈没するわけじゃないことも知っている。
 そうして考慮をしながら、鬼柳は大きなクルーズ船を選んでくれた。
「透耶に、この青さを見せてやりたくてな」
 海にも撮影に来たことがある鬼柳は、スキューバーもできる。
 戦場の仕事に戻る前には、こういう撮影にも参加して仕事はこなしたらしい。
 らしいというのは、その写真は最近まで仕事用としてネガまで研究機関に渡していたからだ。
 その写真が研究の論文が出たことで、撮影者である鬼柳の写真を管理するニューヨークの事務所に返却されてきたことが今回の旅行の発端だった。
 鬼柳本人はすっかりそのことを忘れていて、撮影者として名前が論文で出たことで、初めて思い出したと言ったほどだった。
「なんだって、そう自分の撮ったモノに関心がないんだ……」
 透耶すら知らない協力機関の写真がまだまだありそうな展開になってしまったが、透耶はそれすらも今後見たこともない写真が出てくるのではないかとわくわくしている。
「その目に焼き付けて。さすがに潜れないだろうけど」
「大丈夫だよ、恭の写真があるもの。それでどれだけ凄いのか分かる。さすがに研究用みたいな潜水機には乗れないけどね」
 透耶はそう言って笑う。
 海には興味はあるがさすがに怖いので潜れないし、パニックになることがあるだろうから、まだまだ夢の話であるが、それでも水族館には行けるようになったし、世界最大の水槽のある水族館にも行ったほどだ。
 前よりも安全である状況で海を楽しんでいけるようにはなった。
 そして今回の船旅は、ヨーロッパからアメリカに向かうクルーザーで距離的には短い。乗る時間が短いのを選んだのは、透耶がパニックにならないようになるべく距離が短くてストレスが少ない方法での旅にしようと鬼柳が提案して汲んでくれたものだ。
あとは頻繁に船便が多いことも予約が入れやすかったという理由もある。
 さすがに世界一周は一年ほど乗りっぱなしになるので、そこは透耶にはハードルが高かった。
「んっ……、んふ……」
 海を見とれていた透耶に鬼柳がキスを仕掛けてくる。
 海を見せたいと言って連れ込んだはずの船旅なのに、鬼柳は初日から海を見て常に固まってしまう透耶を何度も襲ってくる。
 深い海に恐怖を持つことはあまりなくなってきたが、まるで恋人でも見つけたかのように微笑んで海を眺めているのに、鬼柳は嫉妬するのだという。
「んっんんっ……あぁ……っ!」
キスをしていたのに、足を押し開いて鬼柳に足を広げられる。そして鬼柳の指が透耶のアナルに入り込んでいる。
「あぅっ……あぁ……!あ、あ……」
 いつの間にかローションをつけていた鬼柳の指がなまめかしい動きで透耶の中を解してくる。
 昨日だって散々したけれど、それでも鬼柳のモノを急には受け止められない。
「ああっ……あぁー……!」
「透耶、可愛い……ここ、気持ちが良いよね?」
「んはぁあ……!」
擦り上げられた場所は透耶の気持ちがいいところであるし、鬼柳だって分かっていて弄っている。けれど鬼柳はこうやって何度も同じ事をしても同じように気持ちがいいのか確認を取ってくる。
「あっぅあんっ! いいっああっ」
 体調の変化でいつもと違った場合、それを透耶が訴えないせいで風邪を見過ごしたことがあり、それ以来、鬼柳は執拗に尋ねてくる。そうしてセックス中にも鬼柳が状況を判断して透耶の身体を好きなように弄ってくる。
「んっ、んうっああぁ……!」
「海ばっか、見てないで俺も見て……」
「あっ!あっ!ああ……も、海を見にきて……そればっかりっああんっ!」
「だって、透耶の新しい恋人を見つけたみたいに、じっと眺めて動かなくなるから、俺、地球に嫉妬する羽目になってる」
「ああ……っ、なに言ってんの……あっ……ぁ……んっ……ふ、う……っ」
「もうセックスしてる時しか、透耶を独占できない……」
「あっ、ぁん……!ああっ……ああ……もう……そんなことないっ、んん」
「すごい、指を締め付けてくる。そんなに俺のペニスが欲しい?」
「んあぁ……! んぁあっ……ふぁ、あぁ……っ!」
「こうやって、指で突くより奥まで突いてほしい?」
「あぁああっ、ああぅ!!」
 もはや嬌声しか上げられない透耶を鬼柳は追い上げてから指だけで透耶をイかせる。
「あぁっ、ぁ、ぁ、あっ――」
 絶頂をしてドライで達している透耶に、鬼柳は満足したように透耶の額にキスをしてから言った。
「ほらイッた……気持ちが良いね透耶、でも俺も気持ちよくさせてね」
 そう言いながら興奮した鬼柳の勃起したものが透耶のアナルに挿入り込んでくる。
「んっ……ああ、ぁっ……はぁっ、だめぇ……イッたばかりっだからっあああんっ!」
「知ってる。連続でイクの気持ちいいから大丈夫」
 ニコリと笑った鬼柳がそう言い返してくるので、透耶は快楽の海に深く沈められることになった。
「はぁっ、あっあぁっ……あっあ、やっ、ん……ひあっ、ぁあっああああんっ!」
 ほぼ一気に鬼柳の性器が侵入してきて、透耶の奥まで突き上げてくると、透耶はそれだけでまた絶頂をした。
 痙攣する身体を押さえつけて、鬼柳は絶頂感の中にいる透耶をゆるりと突き上げ始める。
「はぁっ、ん、んっ、ぁん……んっ、ぁ、ん、はぁ、ん……」
旅行に出てから透耶と鬼柳のセックスの回数はもちろん増えた。さまざまなパターンでするようになり、透耶も最初の頃よりももっと鬼柳にされることで感じるようになった。
 前だって十分気持ちが良かったのに、それ以上の快楽、たとえば連続で絶頂することや潮を吹くこと、乳首だけ撫で回されてイッてしまうなど、とにかく身体が敏感になってきたように感じる。
「ん、はぁ、ぁっはぁっ、ぁんっ、あっ、ん……」
「透耶の中、最高に気持ちが良い……すごい、うねってるな。これを待ってたんだよな……」
 透耶の中がうねりを繰り返し、鬼柳の性器を締め付けている。それが鬼柳には気持ちがいいことで、透耶にはそれで感じてしまうほどに快楽が常に続いている状態だ。
「ひゃぁああっ! あぁっ、あっあっ、あっ、だ、だめぇえ!」
 今度は精液を吐き出して透耶は絶頂をしてしまい、透耶の腹には吐き出した精液が垂れている。
「またイッたな……すごい、全身痙攣してる」
「ああ……っ、あ、あ、あ、あぁ……っ、あぁあっ……!」
「中も擦れて、気持ちがいい、透耶も気持ちがいいよね……」
 鬼柳が腰を動かして挿入を繰り返し始め、透耶は鬼柳に突き上げられて透耶は身体を反らせて感じ嬌声を上げた。
「んぁああっ! あぁっ、あ、……あぁっ! ぁ、あっいいっ……ああんっああっ! ぁ、あ、あっ! あぁっ!」
パンパンと肌がぶつかり合う音と、ローションを垂らしたことで鳴る、卑猥な音が部屋中に鳴り響いている。
「あ……っああっあぁっあぅ、はぁんっ! ん、んぁ……っあ、らめっあっああんっ」
「駄目? 違うよね?」
「あぁっ、あ、ぁ、ぃ、いい、からぁ……っ、あぁ゛あぁあっ!」
「だよな、中がぎゅうぎゅうとして、トロトロしてる」
「ああぁあ……っ! 言わないっでっ、あぁ、あぁっ、ああぁっ! や、らめぇえ……!」
突き上げられるたびに、昨夜から続いている熱が甦ってきて、透耶はその熱に溺れることになった。
「ああ……っ、あっ、あっ、ひぅっ! あ……っ! あっあっいいっ……あっいいあっぁ……っ!」
「ここ突かれるの好きだよね」
「あぁっあっあっやっ、やぁ……っ、ぁん、ぁ、ふぅ……っん……っ、はふ……っは、ぁあん……っ」
奥に突き挿入れたままで深いところで、中を描き回れて透耶は身体を反らしながら素直に快楽に堕ちた。
「あぁ、あぁ、あぁ、はっ、はぁっ……きもち、ぃ……っ」
「そうだよね、透耶これ、好きだよな……こういうのも好きだったよな」
 そう言って強く出し入れをする大きな動きにも透耶は脳天を突き抜けるほどの快楽を得てしまう。
「ひぁ……っ! あんっ! あっ、あぁああぅっ、ぁっあっあっあ……っ、いいっ……っ!」
 目の前がチカチカするほどの快楽があることを透耶はここ一年の旅行中に覚えてしまった。それがとても気持ちが良く、今までのセックスから更に一段踏み込んだ行為であることは、最初に鬼柳に教えて貰った。
「あっ! あぁん……っ! っあ、あぁああっ! あああっ! はぁっ、はぁっ、は、ぁあん……っ!」
人の快楽には際限はない。だから今まで以上に感じることは何も不思議ではない。その全てを鬼柳が受け止めるので、透耶はただ与えられるまま感じてくれればいいと、鬼柳は透耶にいつも言って聞かせる。それが透耶の中の不安を消し去り、こうやってセックス中すらも透耶は安堵することになる。
「あぁああっ! あっあ、はふっ……ん、はぁあんん! んあ……っ、ああ……っら、めぇ……っ!」
「だめじゃない……ここがいいんだよな」
「あっ……ああぁ……!ふ、あああっ……んあっ……なに……っああっああっ……やだ、そこ……や……、ああうっ、ああ……ああっ……」
 ゴリゴリと内壁を擦り上げるようにして鬼柳の挿入が激しくなると、透耶は何度も絶頂をする羽目になった。
「ああ……っ、らめっ…ああっ! んっ……あ、ああ……っああ……あああんっ!!」
「四回目だっけ? 透耶、今日はめちゃくちゃ感じてる……」
「ああっ、や……っ、も……あっ、あっんああ!あっ……ああー……っやあ……っ、あああっ!だめ、だめ……!」
「大丈夫、漏らしていいよ……潮吹きできるだろ? してみせて」
「あぁ……っ!やだ……ああっ!あ! ああああぁあ―――ああ……っ、ああぁ……っあ……っ、んんっ」
潮吹きは漏らしそうな感覚になってしまうので苦手なのだが、透耶は鬼柳に大丈夫だと言われてしまうとそのまま安堵してしまい、潮吹きをしてしまう。
「んぁああっ! い……った! ぁんっあんんーっ! あん! はぁああん……っ」
ピューッと噴き出した液体が出てしまうと、鬼柳が側にあったバスローブでベッドに垂れないように受け止めてくれた。
終わったのかと思うのだが、鬼柳がニコリとして言うのだ。
「俺、まだ一回もイッてないからな?」
 そう言われてしまい、透耶これからやっとセックスが始まるのだと気付いた。