switch外伝10-3 Another ordinary day03


 伯爵はやっと望みのモノを手に入れた。
「はは、意外に簡単なものなのだな」
 人間一人であっても手に入れられると伯爵は妙な自信が付いた。
 人を欲しいと思ったことはなかったが、あの写真家の腕は本当にこの世の奇跡を撮していると言って過言ではない。そんな奇跡的な人間を放置しておくなどあってはならないと伯爵は思った。
 実際に鬼柳恭一に会ってみると、強面であるが長いものには巻かれる性格なのか、反抗的な態度は一切見せなかった。従順と言ってもいいほどこちらの機嫌を損ねることを恐れているような気配さえした。
 つまり見た目とは違い、意外に小心者なのではと思えてきた。
 特段問題を起こした記録もなかったし、元々はアメリカ人であるが、日本に帰化するほど日本人気質とでも言おうか、大人しいのだ。
 日本でも問題は起こしたことはなかった。
 元々は報道カメラマンをしていた経緯もあり、紛争地で活動していたせいで少しだけ危機感は強い方だと思えた。
何とか部屋を用意して、本人を招き入れてみたがあっさりと捕まってくれた。
 ここからは伯爵の手腕がものを言い、日本大使館で抱え込んだ大使を上手く使って鬼柳恭一をイギリスにはいないことにする手続きをしているところだった。
 この辺りはなかなか手間がかかったが、一人を罠に填めるとあっさりと従うようになったので、もう少しの辛抱だ。
 国外に出てしまったという情報さえ作ってしまえば、何処へ行ったとしてもユーロ圏内ならば、入り口がどこであれ移動してしまえば、本人が何処へいったかなんてわかりはしないだろう。
もっと抵抗して突拍子もない行動をしそうな雰囲気も持っているような気もしたが、それは気のせいだったらしい。
 伯爵はそう思うと、部屋に設置したカメラを見ていた。
 鬼柳はやっと自分は部屋に監禁されている事実に気付いたようで、あちこち探索したあとに独り言を言いながらも、慌てた様子もなくしばらく椅子に座っていた。
 出された飲み物には一切手を付けていないことに伯爵は今気付いた。
 食べ物も進めたのだが、本人は最初の一口以外はどうしても口にしない。飲み物も結局はそれ以上飲みもしなかった。
 警戒心が強すぎるのか、伯爵のことを信用していないのか。
 その鬼柳は、最終的には水は洗面所の水を用意して口を湿らせるくらいでやめている。
 さすがに水道水にまで仕込みはできないから、伯爵は舌打ちをした。
 だが、腹が空けば絶対に何かを口にするはずだと伯爵は楽観視した。
「どこまでその強気が通用するのか」
 伯爵は鬼柳恭一のポテンシャルを舐めていた。
紛争地域どころかアマゾンの奥地、アフリカの奥地など平然と行ってしまうくらいの体力や知識があるような人が、水があり命の危険がほぼない場所で慌てる必要がないという余裕が生まれる理由に気付く人は早々いないだろう。
 伯爵もまたその一人で、鬼柳の余裕を焦りから来る混乱と読み違えてしまった。
鬼柳はソファに横になるとそのまま眠っているように動かなくなり、じっとしてしまった。
「寝ているのか?」
 伯爵がカメラを操作してあちこちから見るが、目を瞑っているようで眠っているようにも見える。
 それから二時間が経っても鬼柳は動くことはしなかった。
 本当に眠ってしまったのかは分からないが、鬼柳が出された食事や飲み物を口にしていない以上、中に入るのは危険だ。
「彼が食事か飲み物を飲むのを確認するように」
 伯爵は執事に向かってそう言うと、執事は困惑した顔で頷いた。
「かしこまりました。しかし……」
 言いたいことはこういうことはやめましょうという台詞だったのだが、それを伯爵は睨み一つで言わせなかった。
「……余計なことは言わなくていい、予定通りに事は運んでいる」
 そう伯爵が言うと、メイドが慌てた様子で部屋に入ってきた。
「あの、旦那様……」
「どうした?」
「あの、料理長が、テレビを見ていたら……その、今日のお客様が……」
「なんだって?」
 メイドはどう話していいのかと解らない様子でとにかくテレビを見るようにと伯爵に勧めた。
 伯爵は言われた通りにテレビがある一階の部屋に移動してテレビを見ると、テレビでは大々的な鬼柳恭一の特集がやっている。
「なんだ、ただのテレビの特集じゃないか」
 伯爵がそう言うのだが、メイドはそれだけではないと言った。
 するとテレビの特集は写真集の番宣ではなく、普通にやっているニュースであることが分かった。
【彼は今、イギリスに滞在をしており、今日はその彼の居場所がわかりましたので取材班が突撃をしています。現場のエリオット?】
 そう言うと放送が中継に変わった。
 その中継先はまさに伯爵の屋敷の前である。
「な、なんだと!」
 伯爵が度肝を抜かれていると、中継班のアナウンサーであるエリオットが話し始めた。
『匿名の情報からこちらのお宅にお邪魔をしているようです。まだ出てきたという報告はないので、中にいらっしゃるのでしょうが。チャイムを押してみましょうか?』
エリオットがそう言うのだが、テレビ局のアナウンサーは今は待てと言う。
 カメラが屋敷内部が見える高いビルの上から屋敷内を撮影しており、その窓側に鬼柳が立って手を振っている姿が映し出された。
【ああ、中にいらっしゃるようですよ。ご本人です。匿名の情報は本当だったようです。そして……ふむ、彼が何か紙を広げていますね? アップ、よろしいでしょうか?】
 アナウンサーがそう言うと、カメラがどんどんアップされていき、鬼柳がガラスに押しつけた紙から文字が読み取れた。
「Can't leave the room」
 それはお昼のニュースに映し出された監禁されている男からの助けを求める言葉だった。
 さらにはそこに鬼柳は「SOS」まで付け加えてしまったからさあ大変だ。
【なんてことでしょう、彼はあの部屋に監禁されているのです! 出られないと助けを求めています!】
 そう放送で言われたところでリムジンが中継車の前にやってくる。
 混乱した現場に透耶が颯爽と登場して、伯爵の自宅のチャイムを押した。
「鬼柳恭一の恋人です。彼を出して下さい。これ以上騒動にしたいですか?」
 透耶の言葉を受けた執事が伯爵にそれを伝えた。
 伯爵はテレビでやり取りされる内容に泡を吹きそうになりながら、硬直して動けないでいる。
 それをいいことに執事はさっさと危険物である鬼柳の引取先が来たと思って、主人に無断で透耶を招き入れた。
 透耶は玄関先で執事を睨み付けた後に言った。
「このまま無事に返して頂ければ、問題にはしません。ご協力をお願いできますよね?」
 協力しないならそれなりに出るところに出てやるという透耶の気迫に執事は頷いたが、執事が鬼柳を解放する前に、鬼柳が部屋から出てきてしまった。
「電子ロックってショートするとドアが開く設定になってるんだよな。地震とか停電で閉じ込められないようにする義務があってな」
 鬼柳はわざと電子ロックを解除するために、電子ロックを弄りショートさせて自力で出てきたようだった。
「お、透耶、今回は派手だったな?」
 鬼柳は大して気にした様子もなく、透耶が迎えに来たことはテレビで知っていたから平然とそう言った。
「ここの伯爵が大使館員を買収して、恭のデーターに細工した形跡があったと報告があったから、先手を打っただけ」
 透耶はさっきから始終怒っていて、鬼柳を見つけても嬉しさで抱きついたりはしなかった。
 それくらいに伯爵の行いに苛立っているのだ。
 一時的にしても伯爵が鬼柳を閉じ込めて、良いように扱った事実は消えない。
ましてやその存在までも世間から消して、一生監禁しようだなんて計画を知ってしまったなら、怒髪天を衝く有様だ。
「恭、いい? 外のテレビ局に着いていって、スタジオで一時間インタビューを受けてきて。上手く話を合わせておいたら少しだけの窮屈で済むから」
 透耶がそう言うと鬼柳は言った。
「監禁はなかったことにするんだな?」
「その辺は好きにしていい。俺は伯爵と話してくる」
「分かった、まああんまり虐めるな? それから……ありがとう、透耶」
 鬼柳はそう言って透耶に抱きついた。透耶はやっと鬼柳に笑顔を見せてから言った。
「ううん、それが俺の役割だから当たり前のことだよ。何処にいたって探し出してみせるから。それに文句は言うけどいじめはしないよ」
透耶がそう言って鬼柳から離れると、鬼柳は門まで歩いて行き、そのままテレビ局の車でテレビ局に向かった。
 透耶は伯爵の執事に案内され、伯爵がいる一階の居間に入った。
「初めまして、お城を借りている鬼柳恭一の恋人で榎木津透耶と申します。このたびはお騒がせして申し訳ありませんでした」
 透耶がそう挨拶をすると、伯爵はやっと我に返ったように透耶の方を振り返った。
「何故こんなことをしたのですか?」
 透耶は伯爵にそう尋ねた。
 伯爵は目の前にいる透耶を目にすると、やっと透耶のことが分かった。
「ああ、写真の中の天使か……実在するのだな」
 有りもしない幻想を見せられていると思っていた存在が、今、目の前にいて喋っている。それだけでも伯爵には奇跡だった。
 けれど写真の中の天使のように、柔らかい印象や笑顔は見せてはくれていない。
 それこそ神の怒りに触れたかのように、天使は怒りに満ちている。
「老い先が短いとな、手元にいろいろ欲しくなるものなのだ。彼の才能が本当に、素晴らしい」
 そう伯爵が言うのだが、透耶はそれに反論する。
「私は、たぶんあなたより先に死ぬと思います。それでもあなたのようにいろんなモノは欲しくありません。まして他人のモノを違法に手に入れる感覚は一生理解できないと思います。それに恭の才能を認めてくれたことは嬉しいのですが、彼は今まで自由に生きてきてその中であの作品が生まれたのだと理解していれば、とてもこんな真似はできないはず。あなたは分かった振りをして、分かっていなかったのだと思います」
 透耶は厳しく伯爵を責めた。
 それには伯爵もさすがに反論はできなかったし、透耶が伯爵より先に死ぬと断言していることにも驚いていた。
 こんなに強く輝いている人が、一瞬でいなくなるように消えるのだと言われて、困惑もしていた。
「恭は返して貰います。もともとあなたの物ではないし、アレは私のモノです。横から奪う気であればそれなりの覚悟が必要です。もちろん今回のことは恭の胸一つにしておきますが、あなたが日本大使館員に対して行った買収と犯罪の証拠を私が握っているという事実を覚えておいて下さい。出るところに出れば、あなたの将来はそれこそ地獄だと思いますよ」
 透耶はそう言い切った。
 大使館員の犯罪は確かに犯罪であるが、ある意味未遂で済んだ。
 だから大使館としても公にしたくなくて、できれば穏便にと話が来ている。しかし透耶のバックグラウンドはそれこそ大使館レベルが無視していいものではなく、下手すれば大使館員どころか全員の将来がなくなることに繋がる。
 妙なところで日本の政界と繋がっている伝があるだけに、今回は大使館内にも手が回ったのだが、感謝こそすれ恨まれる筋合いはない事案である。
 透耶は自分が繋がっている全ての手管を使って鬼柳恭一の存在を守ってきた。
 穏便にしていたら鬼柳は解放されていたかどうかさえ解らない。テレビ局を間に入れることで本人の確認を第三者である国民に認知させ、国外を出た情報が怪しいことや、伯爵が一枚噛んでいるという情報までもテレビの記録に残してしまった。
 これを伯爵側がもみ消すのはもはや不可能だ。
 今や、ニュース番組はその国だけで放送されているのではなく、全世界に一斉にインターネットで配信されてしまうのだ。
 鬼柳恭一は写真家として今、世界で一番の有名人だ。そんな人が部屋から出られないと助けを求めたというニュースは、当然世界中に配信され、世界中のファンが見ている。
 その全ての記憶は消せない。
 透耶はわざと鬼柳の居所をイギリスだとバラして、テレビ局を使い本当のニュースとしてリアルタイムで放映させたのだ。
 証人は多い方がいいに決まっている。
 案の定、テレビに出演した鬼柳の話題はネットでトレンドになっていた。
 写真家が伯爵の家で軟禁され、部屋から出られなかったのを恋人が助けに来たというニュースになっている。
 瞬く間にその情報は伯爵には手の届かないところにまで配信された。
 伯爵を知っている人ならば、伯爵が何をしたのか十分に理解すらできただろう。
「……分かっていてこうしたのか? 君は?」
 そう伯爵に尋ねられて透耶は、はっきりと答えた。
「そうですよ。そこで一つ私からの提案です。あなたがロリー・ローに城を売ると言うのであれば、被害届は出さないでおきます」
透耶がいきなりそう言い出したので、一緒にいたロリー・ローすら驚いた。
 もちろんいきなりの話題変更に伯爵すら驚いた。
「何でだ? 城のことを気にする?」
 すると透耶は言うのだ。
「とてもいい状態で保存されている城です。住み心地もよくて環境も素晴らしい。ですが賃貸で貸し切るにはあまりに金額が大きすぎると思います。今回はたまたま金銭感覚が狂ってる人が借りましたけど、普通はリゾートでもなかなか借りない金額です。だから適正価格で一般の人も泊まれるホテルにきちんとした企業を入れて改修すれば、大きな黒字にはなりませんが、赤字にならないように経営はできるかと思います。それができるのはロリー・ローだと、私は彼の経営手腕を見込んで彼に売った方が城のためになると思い提案しています」
 透耶がそう言うと伯爵は鼻で笑ったが透耶は伯爵の認識のずれに呆れた顔をした。
「あなたはロリー・ローをただの甥っ子だと思ってますね。イギリスで第二位の飲食企業を展開しているだけで十分な価値があることにすら、目を向けもしない」
「一番ではないからな」
 伯爵はそう言うのだが、透耶は。
「一番はエレクトラですけれど、あそこは元々ワールドワイドであり、規模が違います。その違いすらわからないなら、あなたはきっとあの城を不動産屋に売るしか道がなくなる。それも私たちが退去したあとすぐに」
 透耶がそう暗示めいたことを言うと、伯爵はくっと眉を顰める。
実は貸し賃が高すぎて、誰も借りてはくれないのだ。
 たまたま鬼柳が提案された金額で了承してしまったために値下げを伯爵が嫌い、この値段でないとと言い張っているようなのだ。もちろん不動産屋もそれでは借りる人はいないと言っていて、手を引きたいと申し出たらしい。
 他の不動産屋に至っては買い叩くレベルで購入金額を出し渋り、伯爵の足下を見る人も出てきた。
 その中でロリー・ローは適正価格で買い取りをすると申し出ているのである。
 これ以上の条件はないのに、ロリー・ローだからという理由で売りたがらない我が儘を通している。
「叔父さん、私はあの城が好きだよ。あのままの城がとても気に入っている。だから改修は最小限にするし、そのまま残るところを多くしてたくさんの人に楽しんで欲しいと思っている。周りは自然でとてもいいし、牧場は広いから馬で走り回れるし、とてもいい環境だと思っている」
 ロリー・ローが真面目に伯爵に話しかける。
 伯爵はロリー・ローがいることに驚いていたが、それでもロリー・ローがそこまであの城を気に入っているとは思ってもみなかったらしい。
「お前はそんなにあの城が好きなのか……」
 伯爵がそうロリー・ローに言うと、ロリー・ローは頷いた。
「初めて叔父さんに招かれて行った時からずっと気に入っているよ。だから叔父さんが手放すなら私が何とかあの城の存在意義を作ろうと思っていた。最近、相続税とか維持費で城や屋敷を手放していく貴族が多いと思う。手放した後、手入れはあまりされてなくて……そのうち壊されてしまうこともある。だからあの城だけはどうしても現状のまま残してやりたいとずっと思っていた。私にはその力があると思っている。もちろん、叔父さんにもホテルにした後の計画書も見せる。いろんなパーティーをしたり結婚式とか格式あるようなこともできるようなホテルに生まれ変わるのを見てくれ」
 ロリー・ローがそう言うと、伯爵はやっとなのか、ロリー・ローが本気でそうしたいと願っているのが分かったのか、とにかく反対する理由が何も見当たらなかった。
 子供だったロリー・ローは、もう四十歳になっていた事に気付いたのだ。
そして伯爵は八十歳になっている。
 相続の話になると実の息子はあの城は要らないとはっきり言っている。ただの資産を食いつぶす建物であることは伯爵が一番よく知っていることだった。
 だから息子には「できれば父さんが始末してくれるとありがたい」とまで言われていた。だから腹が立って売ろうとしたのだ。
 しかし不動産屋には二束三文で買い叩かれるからと、賃貸を進められたがその賃貸の値段には呆れられただろう。もし売ることになっても手を貸すことはないとはっきりと断られたし、透耶や鬼柳が退去した後は不動産屋も手を引いてしまう。
 もうどうしていいのか解らないまま買い叩かれて終わるのかと思っていたが、ロリー・ローがそれを助けてくれると言う。
 不動産屋が提示した金額の二倍。それだけの価値があるとロリー・ローは言う。
「お願いだ、叔父さん……あの城を私に売ってくれ。そしてその代金で叔父さんの病気を治してくれ」
 そうロリー・ローが言うとさすがの伯爵も自分の病状のために想定外のお金を出してくれているのだと気付いた。
「…………分かったよ……お前に、ロリー・ロー……いや、ローランド、お前に売ろう」
 そう伯爵が観念したように息を吐きながら言うと、透耶はその場でお辞儀をしてから部屋を出た。
 伯爵は何も言わずにその場ですっかり落ち込んでしまったが、ロリー・ローは透耶を追いかけてきた。
 玄関先で透耶に追いつくと、まずは透耶に礼を言った。
「ありがとう、叔父さんを訴えないでくれて」
 そうロリー・ローが言うのだが、透耶は機嫌が悪そうに返事をする。
「恭が、訴えないと言うからそうしているだけです。こちらの事情で訴えないだけなので感謝は要らないです」
 透耶がそう言うと、ロリー・ローはさっき監禁されていて解放された透耶の恋人である鬼柳恭一の言葉を思い出す。
 鬼柳は虐めるなと言っていたから、訴える気はなかったのだろう。
 ただ鬼柳は伯爵にそこまでの嫌悪感は抱いていないらしく、身の危険を感じてすらいなかったらしいので、切羽詰まった感覚はないのだろうが、透耶に至っては後で鬼柳には言って聞かせないといけないと思っている。
 いつもとは逆の出来事だったが、透耶もまた自分の行動に反省するばかりだ。
「それから、城のこともありがとう。これであの城がちゃんと残っていくことになった。本当に感謝している」
 ロリー・ローがそう言うけれど、透耶はそこまでのお節介はする必要もなかったかと、ふと思ってしまった。
「それは、ここまで私たちを案内してくれたあなたへの駄賃です」
 透耶はそう言って富永に続いて歩いて車まで戻った。
透耶は伯爵の屋敷を振り返り、ふっと息を吐いてから気分を変えて車に乗り込んだ。