switch101-67 コインロッカー

「恭、この荷物どうする?」

 今日は、都内に出ての買い物の日。

 普段は恭一人での買い物が多いんだけど、俺が頼んだ本が編集者に届いてると聞いて出てくる事になった。

 久しぶりに恭と出かけるのも嬉しかったんだけど、案の定、家事の鬼である恭は買い物が沢山あったりしたわけ。

「コインロッカーに預けるしかないな」

 駅にあるコインロッカーを選んで、大きな荷物が入る所を探した。

 その時、ふと思った。

 こういうコインロッカーに乳児を捨てたりする話題が。
 何でもないコインロッカーが怖くなる瞬間だ。

 一瞬躊躇した俺に恭が気が付いた。

「どうした。顔色が良くないぞ」
 恭は荷物をさっさとコインロッカーに収めて駆け付けてくれた。

「え? あのね…」

 そこで、先日ニュースで見た事を話した。
 乳児発見、乳児は死亡して数日というニュースの話。

 俺がそれを話すと、恭は不思議な顔をしていたが、すぐに俺がどう思ってるのか察してくれた。

「まさかここだったとかじゃないよな」

「ここじゃないけど、都内の何処かの駅だったと思う」
 俺はそう答えた。

「透耶は心配性だな」
 恭はそう言って、俺を抱き締めてくれた。

 そういう話しって俺は怖い。
 そんな事する人間がいるという事が怖い。

 自分は祝福されて生まれた人間。恭も望まれて生まれた人間。でも世の中には生まれた事すらなかった事にされてしまう人間がいる事が怖いのだ。

「透耶は気にすることない。そんな人間、人間じゃねえからな」

 恭はきつく抱いてくれたから、俺の震えも収まっていった。
 ホントにこの人がいてくれて良かったと思った。

 恭の生まれが複雑なのは、この間始めて聞かされた。それでも恭は生きていてくれた。それだけで嬉しい。

 出会わなかったらと考えただけで怖い気がする。

 愛する事を教えてくれたのはこの人だから。
 他人を愛おしく思う事を教えてくれたのも恭だから。

 そして、自分はこの人を愛している。だから大丈夫。少しの事で動揺するんじゃない。俺は自分自身にそう言い聞かせた。

「大丈夫…大丈夫だよ、恭」
 そう答えた時、俺は周りの状況に目が点になった。

 だって、二人で抱き合って、大丈夫だとか熱烈にしていたら、野次馬が沢山集まってたんだもん。

 ひぃい、恥ずかしい…

 周りの野次馬は何かの撮影とでも思ってたみたいで、俺はパッと恭から離れて、恭の腕を掴むと、野次馬を掻き分けて逃げ出したのだった。

 ああ、なんでこんな事にというように、野次馬は多かったのだ。

 それもそのはず。

 俺達が抱き合っていた場所は、あの光琉のネット連載恋愛小説のポスターの前だったからだ。

 顔を見れば同一人物とは気が付かないだろうと思ってても、良く見れば似てると気が付く人も出てくるだろう。

 だからそこから一目散に逃げ出すしかなかったんだ…。

 ああ、今度から外でのこういう事は控えよう。
 俺は心を強くして思うのだった。