switch101-54 子馬
う…立てない。
俺はベッドの上で悩んだ。
起き上がろうとしてるんだけど、手にも足にも何処にも力が入らないんだ。
原因は分ってる。
分ってるんだけど、こんなにされたのは初めてだった。
腰が痛いのは当たり前としても、身体全体がダメだなんて、まったくなんて男なんだ。
一生懸命さっきから起き上がろうとしているんだけど、ベッドの上で転がってるだけになっている。
むむむ…。
起き上がる事がこんなに難しい事になるとは思わなかった。
「そろそろ手を貸してもいいか?」
その原因を作った男がそう言う。
俺はその男を睨み付けて怒鳴る。
「いい! 自分で起きる!」
声だけは威勢がいいけど、実際はやっぱりベッドの上でもぞもぞと動いているだけに過ぎない訳で…。
情けない事にホント、どうにもならないんだ。
少し休んでは、起き上がろうとするのだけど、徐々に起き上がる体勢になっても力が抜けてやっぱりベッドに撃沈している。
もう…なんでこんなに俺って弱い訳?
そんな愚痴すら出てしまう。
原因を作った男は悠然としていて、俺のバスローブを持ってベッドの端に座っている。
さっきから手を出そうとしているのだけど、俺が威嚇してはしょうがないとばかりに見守っている。
かれこれ一時間程になる。
「透耶、時間いっぱい。風邪引くからもうダメ」
原因を作った男、鬼柳さんは、とうとう見てられないとばかりに暴れる俺にバスローブを簡単に着せると、さっと俺を抱え上げた。
意図も簡単にやってしまうから腹が立つ。
人間1人をそんな簡単に扱う鬼柳さんが憎いんだけど、抱き上げ方は優しい。
絶対に階段の途中で落としたりしないと安心出来てしまう。
でもやはり階段は怖いので、目を瞑って鬼柳さんにしがみついてしまう。そうすると何故か鬼柳さんは喜んだ顔をするんだよね。
そうした顔が無表情で何を考えているのか解らない顔をしている時よりもっとイイ顔なんだって最近気になるようになってしまった。
元がいいんだから、そうした顔してればいいのにと言ったら。
ずっと笑顔で俺に接してくるから、時々憎らしくなってしまう。