switch101-25 のどあめ

 透耶の声が出なくなった。
 というのも、あれだ、あれ。

 透耶がセックスしようと言ったから、俺のストッパーが切れたからだ。

 確かに、俺も我慢に我慢を重ねていたから止まらなかったのもあるが、透耶が俺を求めてくれたから、余計に止まらなかった。

 本当に、そう言われたのは久しぶりだった。

 最初に透耶にしようと言われたのは、沖縄で透耶が告白してくれた時。
 二度目は、透耶が睡眠薬で身体の調子が悪く、朦朧としていた時。
 三度目は、誕生日で、透耶が酔っぱらってしようと言って来た時。

 それ以外では、合意ではあっても透耶はしようとか言わない。

 それだけに俺のストッパーも止まらなかった。

 悪いとは思ったけど、透耶が失神しなくなったのもあって、声が枯れるまで続けてしまった。
 透耶も感じ過ぎなくらいに感じてくれたから、嬉しくて。

 だけどダメだな。
 ちゃんとセーブしないと、透耶が壊れる。

 声が出なくなった透耶は、咳は出るし、治りかけてた時ものどあめで声の調子を戻していた。

 俺だって、のどにいい食べ物で対応したけど、透耶の機嫌は悪い。

 まずは、電話に出れなくて打ち合わせが出来なかった事で怒られた。

 俺が通訳して電話してた、結局メールになった。

 宝田と、SPとは小さいパソコンで会話しているし。
 俺とはしてくれない。

 なんか、三日くらい声出なくて、お決まりのプラカードでお帰りとか言われると、哀しいなあ。

 キスはしてくれるけど、してくれるけど、怒ってるんじゃあダメだなあ。

 どうやったら機嫌直してくれるのかで俺の頭は一杯だ。

「お前、今、透耶の事考えているだろう」
 いきなりエドにそう言われた。

 そう俺は今派遣社員とかいうので、エドの仕事を手伝っている。

「何で分った」
 俺がそう問うと、エドは呆れた顔をして、企画書を俺の前に突き出した。

「透耶へのラブレターが企画書にまざっていたんだ。たくっ、まだ喧嘩してるのか?」

 そう言われて見ると、俺が透耶へ綴った思いがかかれた紙があったのである。
 無意識に書いてたらしい。

「喧嘩っつーか、透耶が喋れないから」

「で、必要以上に無視されてるんだろうが。それは痴話喧嘩と世間一般では言うんだ」
 痴話喧嘩というか、夫婦喧嘩みたいなもんだろうなあ。
 俺が落ち込んでいるのがバレてしまった。

 ムッとしてラブレターになってしまった企画書を取りかえそうとしたら、エドは返してくれなかった。

「こっちで処分しておく。仕事の時は仕事に集中しろ。じゃないと余計に透耶に嫌われるぞ」
 その言葉が俺の胸に突き刺さった。

 そう、仕事を引き受けた以上、きちんとやらないと透耶は怒る。
 そういう責任感だけは、俺以上に強いからなあ。
 とほほな気持ちでエドを無視し仕事に向かった。

 

 その日帰ってくると玄関で透耶が出迎えてくれた。

「おかえり恭」
 そう言って透耶がおかえりのキスをしてくれた。

「え? 透耶、声!」

「うん、昨日から大分マシだったんだけど、やっとヘンリーさんから喋っていいって許可貰ったの」
 そう言った透耶はニコニコ笑っている。

 え?機嫌直ってる?
 何でだ??

 さっぱり解らなかった俺に、透耶はクスクス笑って答えてくれた。

「だって、仕事中にラブレター書いてくれたんでしょ? エドワードさんの秘書の人が届けてくれたの」

 あ!!  エドのやろう!!

 俺が怒りをあらわそうとすると透耶がいきなり抱きついてきた。

 え?何でだ?

「恭からラブレター貰ったの初めてだよね。なんか嬉しかったぁ」

 そう透耶の機嫌が直ったのは、俺の透耶への思いやら、どうしたらいいのかを書いた企画書の一部なんだ。
 それだけで透耶の機嫌が直ってしまった。

 意外な解決法に俺も驚きだ。
 そんな事でいいのかと思ってしまう。

 四苦八苦してた苦労が報われて、俺は違う感情が芽生えてしまう。

 セックスしてええ、今すぐ透耶を抱きたい。

 それが伝わったのか、透耶がクスクス笑って。

「もう仕方ないなあ」   
 と呟いた。

 つまりOKという事だ。
 速攻ベッドまで運んで行くと、透耶は始終笑っていた。

 ちゃんと今度は透耶に合わせるから、優しくするから。

 その日はちゃんと透耶に合わせてセックスする事が出来た。