calling-5

がたがたと音がなる。
 机にうつぶせにされたまま、腕の力が抜けて机にしがみついているような体勢になってまでも、激しく突き上げてくる衝動に寧野は甘い声を上げた。
 ニチャニチャと粘るような音が段々と大きくなり、水が波打っているような音が自分の耳にまで聞こえてきた。
「あっ……あぁ」
 気持ちが良くて善がり声を上げる寧野を耀は激しく揺さぶる。
「あっ外……見えちゃ……」
 真正面にあるのはガラス窓、外はビル街で夜の様相を見せている。
 こちらの部屋の電気は付けたままであり、外から見れば見えるかもしれない。
 ギュッと寧野の孔が小さくなり、耀自身を締め付けてくる。
「……くっ」
 激しく打ち付けていた耀の動きが緩くなる。
 そのゆるりとした動きに寧野の体が更に震える。
 背筋が反り返り、耀を誘うように腰が動き始める。
 耀が動きをほぼ止めてしまうと、寧野が自分で腰を使って、甘い声を吐きながら耀自身を飲み込むために動き始める。
「ん……んぁあ……ああんっ」
 その揺らぐ腰を眺めながら耀が寧野の尻を撫でた。
「あっん……やだ、耀……」
 その尻を掴んだまま、耀は一気に腰を入れた。
「ああああぁぁぁ!」
 体中に快感が走り抜け、寧野自身は精を吐き出した。
 それでも耀の方はまだ達しておらず、緩やかだった動きがたたきつけるような動きに変わる。
「達ったばかり……あぁぁあああっ! んぁあっ!」
 パンパンと肉がぶつかり合う音が部屋中に響いて、その激しさを知らしめる。中をえぐるように入り込み、引きずり出すように出て行く耀自身を、離すものかと必死な寧野の孔が引き締めて吸い付く。
 耀の額に汗が浮かび、それがあごを伝って寧野の背中に落ちる。
「んぁっ!」
 速さを増す耀自身が絶頂に向けて、寧野の奥まで張り込み精を吐き出した。
「あぁあああ!」
 たたきつける精を感じて、寧野も絶頂を迎える。
 耀はゆるりと自身を抜きながらも、また何度か奥まで精を吐くようにたたきつけてくる。
 吐き出した精液を何度もすりつけるように耀は腰を動かし続ける。一旦萎えた耀自身は、ものの数秒で復活し、更に大きく寧野の中で膨れる。それは圧迫感はあるのだが、寧野にはたまらない快感でもある。
「……耀……あぁ」
 達したばかりなのだが奥が疼いている。何度でも耀を堪能したいとばかりに中はいやらしく耀を誘う。それに合わせて寧野は言う。
「ねぇ、突いて。もっと……」
 淫らに誘うその姿に、耀は寧野に覆い被さるようになり、激しく腰を打ち付ける。吐き出した精がジェルの役目を果たして、内部は申し分なく濡れている状態だ。出入りが更にスムーズになり、大きくなった耀自身も難なく飲み込む。何度も出て行く耀自身を寧野は締め付け、そのたびに入る時は熱をおびえているままねじ込むように入り込んでくる。
 ぎりぎりまで抜いて突っ込むと、もう精をはき出せないほどになっているが寧野は何度も達していた。頭がおかしくなるのではないかと思えるほどの快楽におぼれ、耀に溺れていく。
 もっともっとと貪欲にねだっても耀はその手を休めない。
 何度でも応じて、寧野がもういいと言っても耀はその先の快楽を寧野に与えてくる。
「あぁああぁっっ!」
「んんっ!」
 耀がすべてを注ぎ込むように突き上げて絶頂に達すると、寧野もまた快楽の中で絶頂を迎えた。
 抜かずに五回目だった行為を、やっと耀が抜いた時には、寧野の孔はなかなか塞がらず、吐き出した精が一気に流れ出て、寧野の太ももを伝って落ちていく。
 ワイシャツだけを残し、それ以外は周りに脱ぎ散らかした様子は陵辱をしましたというように見える。それは耀を満足させ、本当を言うともう一回したくなるのである。
 だが、絶頂の絶頂というような達し方をした寧野は、快楽の世界からまだ帰ってこられず、体を何度もびくびくと震わせていた。
ドライオーガズムに達すれば、しばらくはこのままだ。
 寧野の場合、ドライオーガズムになると一回の絶頂で数分間も味わい続けることになることがある。それが寧野の限界で、それ以上すると確実に寧野は気絶する。まあ、今も気絶したようなものではあるだろうが、それでもまだ目が動いているのが気絶はしていない証拠くらいなものだ。
 耀は、まわりに散らかった服を片付け、社長室の隣にある寝室にあるバスルームの湯船にお湯を張り、それから寧野を抱えに部屋に戻る。
 やっと寧野の絶頂が終わり、本人はゆっくりと起き上がっていた。流れてくる精子を濡れたタオルなどを使って耀が拭き取る。それからふらふらとしている寧野を抱え、風呂に入り、体を丹念に洗いながら、結局もう一回した。
 シャワーが止まったと思ったら、掻き出していた指が出て行って、違う堅さのものが入ってきた。
「……うそ……なんで、ああぁあっ」
 掻き出す作業で敏感になっているところをこすられると、さっきまで散々したと思っていた行為を思い出して興奮する。
 先が少し侵入してくると、出て行くのを止めるように寧野の中がそれを抱き留める。
「出て行ってほしくなさそうだが?」
 抜こうとしたとたん、内部が全力でそれを止めることに慣れていて、思わずそうしてしまった寧野は。
「違うっ そうじゃなくて……んぁ」
「どうするんだ?」
 じりじりと押し戻されるが、それはゆっくりとで、首を振ると出て行こうとするから更に内部が止める。
「ほら、寧野はどうしたい?」
 ゆっくりと動かれ、胸の突起まで両方が摘ままれた。
「そこ、だめっあっんっ」
 乳首を摘まんだまま、くいっと指で撫でたり押しつぶしたりされると、収まっていたものがムクリと起き上がってしまう。
「体は正直なのにな」
 すっと寧野自身を握られて擦られた。
「あっあんっあぁ……ああぁっ」
 収まっていたはずの体の熱さが戻ってきて、耀を求め始める。
「ちょうだい……耀をちょうだい」
 寧野がそう言って、耀が深く突いた。
「くれてやるよ」
 柔らかくなっているそこは奥深くまで耀を受け入れ、数回の出し入れを繰り返すだけで、二人とも達してしまう。さすがに高まった気持ちのままだと一回目の時と変わらない速さだった。



「しないって……言ったのに……」
 散々されてしまった寧野は、片付けが終わった寝室のベッドに腰をかけたまま文句を言い出す。
「いいケツしてるのが悪い」
 言い訳ともなってない理由を言って寧野を呆れさせるのはいつもの耀だ。耀は本当に寧野の尻をいい尻だと思っていて、最近は後ろからしたがるのだ。
特に寧野絶ちになる海外出張などになると、その傾向は酷くなる。
 帰ってきたばかりなのに、自宅に帰れないといらだっている耀のところに、寧野が訪ねていって笑顔を見せたら、周りにいた全員を早急に追い出してこうなったわけだ。
「怒るな。愛してる」
 いきなり耀がそう言って寧野の髪を拭きながら言った。
「俺だって愛してるけど、それとこれは話が違う」
 寧野はさらっとそう返してから、まだ怒っているのだと告げた。
「それで、自宅で待ってられない理由は?」
 耀がそう尋ねてきてやっと寧野は言った。
「それを最初に聞けよ、本当に」
 そう言ってから、もう昨日になる真紅(マリーノヴィ・ツヴェート)との取り引き現場で、自分が金糸雀(カナレイカ)と呼ばれたことについて話した。
「目が合って、ぼそっと一言だけ言われたんだけど、金糸雀(カナレイカ)って呼び方は初めてで……」
「普通なら、何のことか分かっていないはずのことだな」
 寧野がロシア語のその言葉の意味を知らなければ、向こうの独り言で済んだ話だったはずだ。
「そうなんだ。向こうはそう思って呟いたんだろうけど、俺はたまたま知っていて、反応はしなかったけど、何?みたいな顔はしたかもしれない」
 寧野がそう言うので、耀は今日の取り引き相手のことを思い出す。真紅(マリーノヴィ・ツヴェート)とはいえ、いつもならば、ナンバー二の人間が担当していたと思うが、今回が真紅のボスが出向いたはずだ。
「確か名前は……」
「ジヤヴォール・クリエースト」
「そいつが金糸雀(カナレイカ)と呼んだのか?」
「そう……」
 寧野は気にしすぎなのかと思っていたが、どうやらそうではないようだった。耀もさすがにそれはおかしいと思っているようで、じっと考え込んでしまった。
「この一年、何の話もなかったのに……なのに急にだから」
「確かにおかしいな」
寧野の周りはこの一年、平和そのものだった。何の問題もなくきただけに、今更金糸雀(カナレイカ)を持ち出されても困る。
「噂を信じて、今更狙うなんてことはないと思いたいが」
「問題は……相手が俺が子供を作れないことを知らないってことだよね」
 寧野はそう言っていた。
 寧野の精子に問題があり、寧野は子供を望むことは不可能とまで言われている。いわゆる非閉塞性無精子症であると思われる。精巣中で精子が作られない、というものでホルモンの異常が原因ではないかと言われている。
 寧野を捕らえたそれを調べた煌和会(ファンフォフゥイ)が、未だにそうした兆候を見せていないのを見ると、不妊治療などでどうにかなるものでもなかったようだ。
 しかし寧野の場合、それにプラス、ストレスもかかっている。子供ができると不幸にするという明確な事情がある故、子供を作りたくないと強く思っている以上、子供は絶対にできないだろう。医者からはそう言われた。
 だから寧野を捕らえてどうこうする人間は必ず頓挫する計算だが、これに納得しない連中が毎回沸くのは、金糸雀(ジンスーチュエ)伝説のおそろしいところだ。
 しかも昨今、金糸雀一族は死に絶えた。唯一生きているとされる高黒(ガオヘイ)は行方が分からないままだ。
 彼も一応は金糸雀(ジンスーチュエ)一族の末裔ではあるが、プライドの高い彼がその事実を認めて大人しく誰かに使われるとは思わない。
 捕まっているとしても別の目的であろう。例えば、金糸雀一族の行方や出身。そういうルーツをたどる人間もいるだろう。
 寧野の無精子症を知っているのは、本人と耀たち、白鬼(なきり)の幹部、煌和会(ファンフォフゥイ)の人間、和青同(ワオチントン)の人間、そして真栄城俐皇(まえしろ りおう)だろう。
 ここからひろまったりしていないところを見ると、誰も喋る気はないらしい。自分たちに関係がないことをペラペラ喋るような人たちではないということだが、今回に関しては少しくらい噂を撒いてくれてもいいと思う。
「とにかく暫くは気をつけろ。何なら護衛も付ける」
「ふだんからぞろぞろ連れてるのに、それで誘拐されるなら、きっと酷い事件になってると思うよ」
 寧野は真面目にそう言った。それこそ抗争だと。
 白鬼(なきり)と他の組織に喧嘩を売ってまで寧野を手に入れる人間がいるなら、耀はその組織を潰してしまうだろう。だがそれも本人はやりたくないと思っている。
「どこかの誰かにいいように使われてる気がしてならない」
 そう言うのだ。
 とにかく、今回の問題は寧野の周辺の出来事を極力注意するという話で終わったのだが、その翌日には早速問題が出てきてしまったのだった。