Howling-29
「寧野は?」
耀は寧野の答えは聞いてないとばかりに、尋ねてくる。
本当に告白したい気分でいるので、寧野は顔を見ないで言っていた。顔を見たら逃げ出してしまいそうなくらい恥ずかしい台詞だったからだ。
「最初から嫌いじゃなかったんだ。ただ立場があるから、それで困っただけ……」
「それで?」
「お前、告白した後全然俺には近寄ってこないから、それで俺の方が気になって、お前の噂色々聞いた」
「うん」
「いつもグラウンドで体育してるときずっと一人でいるから、きっとこの世界では孤独なんだなって思った。そうしたら……」
「そうしたら?」
「俺と境遇は似てるのかなって。周りは皆自分たちと世界が違うってそう思ってて」
「それは思った。寧野はきっと俺と似た思いをしてるんだって」
「そう、なの?」
「でも、寧野は普通に戻るチャンスがあると思った。あの事件の後」
耀がそう言うので、寧野はああっとやっとあの病院で弁護士の言う通りに耀がしたのかと気付いた。
「俺のこと考えて、そうした?」
「あの事件の発端は俺だと思った。だから寧野の側にいる資格なんてない。そう何度も思った。後でそれだけじゃないって解ってからも、事件が全て片付いたら、寧野は本当の意味で普通に戻れるんだって知ってたから、俺から接触する訳にはいかなかった」
耀が本当のことを言ってくれるので寧野は恥ずかしいのも覚悟して顔を上げた。
「俺だけが普通になれると信じてた?」
そう寧野が聞くと耀はそうだと頷いた。耀は選んだ。寧野に見せることは出来ない部分を沢山背負っている。それでも誰か一人くらい、その全てを許してやってもいいんじゃないだろうか。耀は自分自身の為ではなく、部下になる人たちの為にもしていることなのだ。
世間ではそれをヤクザと呼んだとしても寧野は耀と呼ぼうと思ったのだ。
きっと耀の名を呼ぶ人は身内しかいないのだろう。
そのうち、耀の名を呼び捨てにしてくれる人なんていなくなる。そうした時に笑って名前を呼べるような存在になりたかった。
間違った未来を選んでいるとは思う、けれど、これほど惹かれた人間は耀しかいなかったのだ。
寧野はそれを間違いだとは思わず選ぼうと思った。
「俺を一般人にしたら、お前きっと後で泣くだろう?」
「寧野?」
「お前が泣くところなんて一回だけでいい。綺麗だって場違いなこと思ったりするんだから」
寧野がそうあの時感じたことを言うと耀はキョトンとしていた。
まさかあの時の寧野にちゃんとした記憶があることも不思議だったし、鮮明に耀が泣いていたところまで見ていた。しかも一滴だけ流した貴重な涙だ。
「……見られてたのか」
「全部スローモーションで覚えてる。あの時のことは」
耀がいる時だけだけれどと寧野は付け足した。
耀がいないとあの時の寧野はちゃんと生きていくことが出来なかった。けれど、あそこで一旦別れていなかったら、きっと甘えたままで生きてきたに違いない。そう思うからそこからの3年は無駄ではなかったと信じている。
「あの時、手放してくれたから、俺は俺で居られるんだ。ありがとう」
寧野が最高の笑顔を浮かべて耀に抱きついてキスをした。唇に一回、額に一回。まるで寧野は耀を神聖なもののように扱った。
「俺にとって、父を亡くした後の大事な思い出はずっと耀、お前だった」
寧野の言葉に耀は呆然としていた。
まさか寧野からこんな告白をしてくるとは思ってもみなかったし、寧野がずっとそう思ってくれているなんて考えもしなかった。
ずっと汚れた自分を見て、寧野が眉を顰めることを想像しては怖がっていた。だけど寧野は知っていて一緒に居てくれる。耀を必要としてくれる。
「……寧野」
「うん?」
「凄く愛してる」
「……えっと、それ俺の台詞」
顔を真っ赤にして寧野が文句を言う。
「最後にそう言おうと思ったのに、お前美味しいところばかり持っていくな」
「あははははは」
寧野が最後の決めを耀に持っていかれて怒っていると耀は笑い出した。
「もう、どうして耀は先に言うかな」
「俺が言わないと格好がつかないからだな」
「つかなくていいんだよ。俺が決めるから」
「あははははは」
「笑いすぎ」
「うん、おかしい。あはははは」
耀は寧野がちゃんと決めに入っていたことは知っていたが、そこを持って行かれては男が廃る。というわけで決めの台詞を奪ってしまったのだが、寧野もそう言おうと思っていたということが嬉しいことだった。
縺れて縺れて。二人はそのままベッドルームへ。
寧野はお風呂に入りたがったが、それを耀が止めた。
「せっかくの匂いが」
と馬鹿なことを言って一回寧野に拳骨を食らいそうになって避ける。
ボスッと布団にめり込んだ拳を見て寧野が言う。
「そういや、耀の方が強いんだっけ?」
「なんで一緒に戦ったわけでもないのに?」
そんなことどうして解るのだと尋ねると寧野は真剣に言う。
「今本気で殴ったのに避けられた」
と。
さすがにそれには耀も嘘だろと寧野の腕を封じるように上着を脱がせて後ろ手に縛る。この先の行為で殴られることはありそうだったので用心したのだ。
寧野と一緒にいて気を抜いたところを寧野に狙われて一撃でも食らったら拙そうだ。
「ちょっと……うわ」
いきなり本気になられて寧野は少し焦った。
「うん、ごめん。止められそうないからごめん」
あの本家で触った時のような甘いことは言ってられない。愛し合っているのだけれど、まるで獣がもつれているみたいになってしまいそうだった。
「ん、は」
寧野をベッドに押し倒して耀は寧野の上にのしかかる。寧野の上にいるのは飢えた獣だ。久々に目の前においしそうなものを出されて興奮しまくっている。
「寧野……」
なるべく大事にしたい。けれど気持ちと頭が暴走する。
「解ったから、大丈夫だから、しよう」
耀が焦っているのに気づいて寧野は笑って言う。今までどこにそんな凶暴な部分を隠し持っていたんだと言わんばかりの暴れっぷりに寧野は苦笑したわけだ。
初めてでもあるまいにと思っていると、耀が言う。
「寧野は初めてだろ? 乱暴にしたくないんだ」
そう言って耀は深呼吸をしてからゆっくりと寧野の胸に手を置いた。
「まあ、初めてだけど……うん、ゆっくりでお願いします」
緊張しているのはどっちもで寧野の心臓も口から出ていきそうだった。耀もまた同じであることは耀の胸に手を置いてみると解ることだった。鼓動が早くなっている。
唇を重ねて、舌を絡ませて、一度触れた体に手を這わせていく。あの時触った一回で諦める気はなくなってしまったのだが、二度目でもやはり緊張した。でも寧野はためらいなくキスに応じてくれた。これは嬉しいことだった。
キスを唇から首筋に移し、手はまだ肌を触って回る。
「ん……」
触られているのが気持ちいいのか寧野が甘い声を上げた。その鼻に抜けるような甘い声にちゃんと気持ちよくなってくれていると感じる。普段は外へあまり出ないのか、肌が白くなっていて耀が唇で吸って痕をつけると綺麗にピンクに染まる。
乳首を舐めて、まだ柔らかい乳首を舌で転がす。
「あ、ぁ」
軽く歯を立ててやると、体がぴくりと跳ねる。少し乱暴に吸ってやると余計に感じるのか、寧野が切なげな声を上げた。
「あっ……ん」
その乳首を吸いながら、耀の手は寧野のズボンに手をかけていた。ベルトを外し、下着ごと脱ぎとってやると寧野が恥ずかしげに身を捻らせた。だが、耀がその足を割って体を押し入れる。これで足が閉じられなくなった。
胸からすっと唇を滑らせながら、寧野の足の内側を舐めてキスマークを残した。ここまでした人間は耀だけだから、その印だ。すると寧野自身がひくりと揺れた。すでに乳首だけでも感じていたソレは、先走りで濡れていた。触れるか触れないかの辺りをキスして回り、わざと触らないでやった。
「ん……ん……やぁ」
ひくりを揺れる体に合わせて、耀はそこを手で握ってやった。そして口の中に入れて舌で扱いてやると、寧野の体が跳ね上がった。
「やっ……あぁ!」
口でされたことのない人間は、人の口の中でされると気持ちよさのあまりに驚くらしい。そう聞いていたので、寧野の反応でこれが初めてなのだと解る。
「だめ……あぁっ……あっ」
寧野が慌てたように耀を引き離そうとして体を捻っているが逃げられるはずもなく、耀はしっかりと足を押さえて寧野自身を強く吸ってやった。
「あぁぁっ――――――!」
強く吸ってやると達ってしまった。弛緩した体をすくい上げ、腰を高く上げて固定すると耀はそこにローションを塗ってゆっくりと穴を拡張し始める。
達したばかりで朦朧としている間にさっさと拡張してしまうつもりだったのだ。指を一本中に入れ、出入りを確認する。傷などつけるわけにはいかないので、二本目も慎重に入れていく。
そうしているうちに意識が戻ってきたのか寧野の体がびくっと反応した。
「あ……や、なに、あぁっ」
どうやら寧野のいいところをついてやっていたようで寧野が不安げに耀を振り返った。
「大丈夫だ、ここが寧野のいいところってことだから」
そう言ってその場所を耀が指でなでると、寧野は信じられないほど快感を味わい、さっき達したばかりだというのに、そこが勃起しているのに気づいた。
「気持ちいいんだな。ちゃんと反応してる」
「じ、実況しなくて、いいから!」
そんなことは言われなくたって解っている。余計に恥ずかしいだけだからやめろと寧野が叫んでいるのがおかしくて耀は笑っていた。
だが段々と寧野の反応が甘くなって腰が揺れ始めていた。三本の指も飲み込むようになっていたので、耀はそろそろいいかと判断して、寧野自身を指でいじってやった。
受け入れることに慣れていないけれど、耀ができるだけ拡張した孔はゆっくりと耀を受け入れていく。抵抗すらないところを見ると寧野自身をいじられていることに意識が向いていたようだった。しかし先が入った辺りで寧野が気がついた。
「う……あ……」
襲ってくる圧迫感に寧野が拳を握っていたので耀はゆっくりを体をなでてやった。
「寧野、力を抜いて。そう呼吸あわせて」
耀がそう誘導してやると、寧野はそれに合わせて耀をどんどん深く受け入れていく。奥深くまで到達するのにかなり時間をかけたので寧野は圧迫感だけ感じただけで痛みはなかった。じーんと広げられた孔がしているが、耀が動かないでいてくれたので段々となじんできたようだった。
「ごめん、抱きしめてあげることしかできなくて」
後ろからした方が最初は楽でいいと聞いていたのでそうしたが、そうすると寧野の手を握ってやれないことに今更ながらに気づいた。
「うん、大丈夫、慣れたら、ね」
息を吐きながら寧野がそう言った。焦ることはない、一回で終わりなんかじゃないんだと言ってくれた。
「寧野……動くぞ」
もう我慢も限界だった。
そんな可愛いことを言われたら暴走だって止まらない。ぐっと腰を掴んで耀は腰をゆっくりと穿ち始めた。
「……う……ぁああっ」
耀自身が出て行く感覚といいところだと行った場所を擦られて寧野は快感に体を震わせた。最初は痛いものだと聞いていた。だからかなり覚悟をしていたのに、耀のやり方が上手いのか、全然痛くないところか、もうすでに快感を得ている。
「うそ……や……あぁ!」
押し張ってくる感覚に息を吐いて、出て行く感覚に声を上げてしまって、もう何が何だか解らない状態になった。
だけれど気持ちいいことは確かだった。耀が痛いことなどするはずないと思っていたけれど、ここまで上手いとは思わなかった。おまけにいいところばかり突いてくるので、もう達してしまいそうだった。
「あ……あっ……んぁ……あぁ、も、だめ……あっ」
甘い声が勝手に口から出てくる。それに合わせて耀がどんどんスピードをあげてくる。もう放り出されそうになりながら、寧野は必死にシーツにしがみついていると、ぐっと奥まで耀が入り込んできて寧野は達してしまった。
「あああぁぁ――――――!」
大きな声を上げて達してしまうと、同時に耀も中で達していた。暖かい物が奥に打ち付けられて寧野はその暖かさに震えて体を揺らした。
ぐったりとした体を絡ませて、耀が寧野の中から性器を抜いた。
「んん……」
抜ける感覚に思わず声が出てしまうが、それも仕方ないことだ。体中が達したばかりで敏感になっていて、耀が触れた唇でさえどうにかなってしまいそうだったのだ。
絶頂感に酔っている寧野の顔は、それはもう誰にも見せたくはない色気を持っていた。
「寧野、大丈夫か?」
さすがに初めてで飛ばしすぎたと思った耀が呼びかけると、寧野はふっと目を開けて言った。
「最初からずっと最後まで縛りプレイかと思った」
抱きしめたいのに腕がほとんど縛られたままだったことに不満が出たのだ。それはさすがに悪かったと耀が謝ると寧野は仕方ないとばかりに言ったのだ。
「うん、でもそうしてくれてて助かった。途中思いっきり耀の頭殴ってたと思うから」
そういうのでたぶん性器を口で舐めていた時であろう。あの時の反応はもうそれはすごかった。陸に打ち上げられた魚のように暴れていたからだ。
「やっぱり、そうじゃないかと思ったんだ」
耀はやはりそこだったかと納得していた。
しかし体の相性はよかったのは、寧野はそれほど体の不調は訴えなかった。
「耀、眠いよ」
寧野が疲れたのか緊張から解き放たれたからなのか、眠気を訴えてくる。もう一ラウンドやりたかった耀は少しだけ不満だったが、これも初めてなのだから仕方ないと諦めた。
そして優しく言うのだ。
「おやすみ、寧野」
そう声をかけてやると寧野は耀の胸に鼻を擦り当ててから眠りに入ってしまった。
そんな可愛いことをやるとは思わなかった耀は、寧野の頭を撫でていた手を止めて必死に無理矢理起こしてまたセックスしたい衝動に駆られるのを、その後5時間ほど我慢したのだった。