Switch 外伝6-11

sWe can go 11

 透耶が眠っている部屋に引き上げた鬼柳は、風呂に入って透耶の様子を見ながらベッドに腰をかけた。すでに眠っている透耶だが、穏やかとは言えない表情で眠っている。
「無理するなと言ったんだがな……」
頬を撫でてやると透耶はその手が誰の手なのか分かったのか、にこーっと微笑んでいる。
ここ二週間ずっと一緒にいる相手だから、絶対に間違わないのだろう。
透耶の隣に滑り込み透耶を抱き寄せると、透耶はいつもの場所、鬼柳の胸の中に収まってやっと穏やかな寝息になった。
そうまでして無理をさせているのは分かっている。
透耶を紹介するくらいなら、あのホテルのラウンジでも十分だった。
その失敗に気付いたのは、この家に入ってからだ。鬼柳の実家でもあるこの家は、もはや自分が知っている時のものではない。赤の他人が何人も住んでいる場所だ。
もう二度と戻ってくることはないから、最後くらい見ておいてもと甘いことを考えたのも間違いだった。あれから15年経っている。同じ家とはいえ他人が住んでいるのなら、全てが変わっていて当たり前だ。だから家に入った時、ああ他人の家に来たんだなという感想が出たのも自然なものだろう。
だが、これで踏ん切りもつくというものだ。
もう気に病んだりしなくても、この場所は昔のままの思い出と鬱屈したという記憶でとどめておける。
1回くらいは透耶も見たかっただろうから連れてはきたが、これで透耶にもあまりいい思い出の場所ではなくなっていることだろう。
正直有り難かった。透耶は二度とこの家に来たいとは言わなくなる。
「なあ、ここはあまりにも自分たちには合わないと思っただろう? やっぱり自分の家がいいと思っただろう?」
鬼柳がかつて感じた感想を鬼柳は独り言で呟いていた。
鬼柳がずっと感じていた違和感、それは自分の居場所はここにはないということだ。
改めて実感したことは、やっぱり自分の家はここではない、透耶のいる場所だということ。
それがよくわかって何より嬉しかった。


「ん……ぁあ……ん」
 妙に息苦しい呼吸をしている自分に気付いたのは、まだ頭がはっきりとしていない目覚め前。
 慣れた手、それが体中を這い回っていて、それが心地よくて透耶はすうっと意識が戻ってくる。
「はぁ……んん……な、に……?」
 うっすらと目を開けると、透耶の足は広げられ、胸には手が片方乳首に悪戯をしていて、その悪戯の主は透耶自身に顔を埋めている。
「え……? 恭……あぁ!」
 透耶が目覚めたと気付いた鬼柳が透耶自身を強く吸ったのだ。
 体が跳ね上がり透耶はシーツを握りしめて衝撃に耐えた。耐える姿を見た鬼柳は満足したようにまた透耶自身を手で扱き出す。細い体がふるふると震え出すのが溜まらなくなる。この小さな体をもっと快楽で埋めてやりたくなり、その姿に鬼柳までもが誘われるのだ。自分が獣だと思うのは、こういう瞬間だろう。食らいつくしてしまいたいのだ。
 どうしてこうも飽きないのか不思議でならない。
「も……や……なんで……朝から……んん」
 透耶から抗議の声があがるが、鬼柳は上機嫌で言葉を返す。
「こんな美味しいものが目の前にあるんだ。食べないでどうする」
「何ふざけて……あっ……んぁ……はっ」
 この声でさえ十分に鬼柳は煽られる。最初からそうだった。この声は何故か自分を煽ってきた。透耶が意識しているわけではないだろうが、こんな声を出されたらどんな男でも煽られて透耶を食らいつくすだろう。そうと自覚していないのは透耶だけだ。
 普段でも透耶の甘い声は普通の男でも引きつける何かがある。そうして誰もが想像する。セックスの時はさぞかしいい声で啼くのだろうと。
 実際、披露宴パーティーの時だって、透耶を見たやつらの感想は、セックスしたらさぞかし自分を煽ってくれるだろうということだ。細い体を組み敷いて、圧倒的な力で体を開いて、己自身をこの体に突き立てたいという欲望に駆られれる。自分を見つめてくる瞳が潤んで、少し開いた唇から喘ぎが漏れ、小さな体が快楽で支配されて自分を誘ってくるのを簡単に想像出来るから困る。
 ちょこちょことした動き、遠慮があっても時には大胆で、なにより最強なのが透耶の笑顔だ。
 あの笑顔に悩殺されるのは毎回だ。キスをすれば未だに恥ずかしがって照れて、でも嬉しそうにしてくれる笑顔が、鬼柳の本能を呼び覚ましているなんて透耶は未だに気付いていない。
「んぅ……は……あぁ……んん」
 透耶自身を舐めあげて先端を舌で弄ってまた口で上下に扱いてやると、透耶の抵抗もなくなってくる。男だからここが気持ちいいのは当然で、精を吐き出すまでは止まらないし止められたら困るだろう。
 透耶の穴もここ最近毎日のようにしていたから少し濡らしただけで指をあっさりと受け入れてくれる。だが中に入るとぎゅっと締め付けてくるから緩いわけでもない。いつまで経っても鬼柳の大きさには慣れないこそは、熱い内壁が指に絡みついてくる。それを分け入って行くのは心地がいい。
 早くこの中に入って透耶に抱きしめられたい。
「その前に、透耶、一回達っておこうか?」
 透耶の中のいいところをぐいっと何度か指で擦ってやると透耶は体をくねらせて可愛く達した。
「あぁ……んあ……あぁぁ――――――!!」
 浮き上がった体がベッドに沈み弛緩する。はぁはぁと呼吸が荒くなっている透耶の顔を覗き込むと、涙で潤んだ瞳がどこを見ているのか分からない視線が危うくて、瞬きするたびに零れる涙が一層悩殺的だ。
 透耶が吐き出した精を腹に塗りつけてそこを撫でてやると普段は感じないはずの場所でも透耶は反応する。
 涙を舐めて拭き取ると、透耶がゆっくりと意識をこちらに戻してくる。瞳が鬼柳を捕らえるとにこりと微笑んでくる。
 ああ、この顔はキスして欲しそうな顔だ。
 少し開いた唇から舌が覗いていて、誘われるように鬼柳はキスをした。
 柔らかい唇を合わせて舌を中に滑り込ませる。少し躊躇した透耶の舌に絡めるとそれに答えるように絡み返してくれた。最初の拙さから上達した透耶のキスは、雛型は鬼柳だ。透耶はファーストキスすら全部が鬼柳が初めてで、他の男や女を知らない。
 孤高の存在として誰もが手出し出来るような雰囲気でもなかったし、想像するのもおこがましいというような雰囲気を持っていたから、精々周りは透耶を眺めて好きだなと思うくらいだ。中には強硬手段に出たものもいたが、透耶の心は凍り付くばかりで溶かすものはいなかった。
 常識という中で生きている者には透耶の視線や気持ちを引き留めることは出来ずにいたし、透耶もそれを感じていた。鬼柳が透耶にとって珍しかったのは、鬼柳の自分でも十分おかしいと思っている非常識さだ。まさかそんなもので透耶の視線や気持ちを引き留めることが出来ていたとは思わなかったが。
 非常識の中でひたすら築き上げてきた鬼柳の初恋という妄想は、まさに透耶の心を溶かすには十分過ぎるくらいのものだった。ただ一途でただ愛するばかりで、答えない透耶にも苛立たずにただただ待つだけ待ち、優しさでいっぱいにすること。一度優しくしたら、絶対に裏切らないこと。それが透耶にとっては涙が出るほど欲しいものだったのだろう。
 唇の向きを変えて何度も深く口づけていると、透耶の向きを変える間の漏らす吐息が扇情的でそれが耳に入るたびに鬼柳はずっと煽られている状態だ。
「は……んんん……ぁ……ん」
「透耶……透耶……」
 呟きながら唇から反らした顎、そして首筋へと唇を滑らせる。透耶が起きるまで待っていた所有の印を首筋につける。まさに獣が獲物に有り付いて仕留めるかのように歯形を付け、赤く痕が付いた後を舐めていく。
「んん……やぁ……」
 くねるように動く体に合わせて手を滑らせ、足を大きく開いて鬼柳は自分自身を穴に突き立てた。
 とっくに準備が出来ているそこは鬼柳を受け入れて、内壁がぎゅっと締め付けるようにから絡みついてくる。それを分け入って奥まで到達するのに鬼柳は精を吐き出したい衝動を何度も抑える羽目になる。
「や、あぁぁぁ――――――」
 ずるずると入ってくる鬼柳の感覚に透耶は体を震わせながら耐えている。鬼柳の首に腕を回して抱きついてきているから、耳元で透耶の甘い声をダイレクトに聞くことになる。
「ああ、透耶の中、とろとろしてて気持ちいい――――――」
 全てを納めてしまうと鬼柳はほっと息を吐いてそう感想を漏らす。その鬼柳の声に反応したように内壁が鬼柳を包み込んで締め付けてくる。
「……透耶」
「んん……やだ、大きくなった……んん、やぁ」
 脈打つ鬼柳のものを生で受け入れていると、中で何が起こっているのかはっきりと分かってしまうから透耶は余計に淫らになってしまう。
 なかなか動いてくれない鬼柳に透耶は催促するように腰を動かし、そして囁く。
「おねがい……うごいて…………」
「動くだけでいいのか?」
 耳の周りをキスしながら問いかける。もっとはっきりとした答えが欲しいと粘ると。
「奥までいっぱいにして……恭ので、いっぱいにして」
 恥ずかしそうだが言っていることは大胆に返ってくる。
 その答えに鬼柳はにやっとして言う。
「了解」
 それを合図に透耶の中に入っているものを一気に引きずり出してまた奥まで突き入れる。ぎりぎりまで出してまた深く突き入れると透耶の体が跳ね上がる。
「あぁ――――――!! や……あぁ!!」
 待ちわびていたものが動き出して透耶は振り落とされないように鬼柳にしがみつく。
「あぁ……んん……は……ぁぁ……あっあっだめっ」
「何が、駄目?」
「そんなに……したら……だめ……あぁ……だめっ!」
「駄目じゃないだろ? ここは、透耶のいいところだからな……いいっていいな」
 透耶のいいところを集中的に攻めあげると透耶は涙を流して首を横に振り続ける。
「だめ……ああぁぁっ!! ……いい……恭、いい……ああぁ」
「ここも一緒にな……」
 腰を動かしながら透耶自身を手の平で包んで扱くと透耶の奇声が上がる。
「やあぁぁ――――――だめっ、そこ、だめ、や……あぁぁ」
 一段と内壁が鬼柳を締め付けてくる。食いちぎられそうなほど締め付けられて、一瞬鬼柳は達しそうになる。しかしそこは歯を食いしばって耐えてきつくなった内部を更に犯す。
 セックスは鬼柳にとってただの性欲処理のようなものだった。それが透耶を抱いた瞬間から、愛し合う行為に変わった。今までのテクニックを使って透耶を落としにかかったほど、透耶の体とは相性がよかった。だからすぐに鬼柳は自分の考えていることが間違いだと気付いた。落としにかかったくせに、その自分がこの体にすっかりはまっていたからだ。
 一日中でも透耶の中に居たかったし、そう本気で言ったこともある。透耶は馬鹿と何度も言ったが、本当に馬鹿になったようだった。馬鹿みたいに透耶を抱いて抱き尽くしてもまだまだ足りなかった。
 あれから5年も経っている。なのに自分は飽きるどころか、まだ飢えている部分が残っていて、透耶を見るたびに押し倒している。求めるたびに透耶の反応が嬉しくて、透耶が甘い声を上げるとタガが外れることだってあるくらいだ。
 小さな体を開いてくれて、受け入れてくれる透耶を、何より愛しいと思うのはもうずっとそうだ。
 愛しさは増してそれを返してくれる透耶にまたはまって、ずっとループだ。
「あぁぁ……んあ……も、だめ、いっちゃ……いっちゃう……っ!」
「達け……透耶」
 鬼柳も限界だったので一番深いところに突き入れると、透耶は達した。
「ああぁぁぁ――――――!!」
「……ん……っ」
 透耶の一番深いところに己の精を断続的に吐き出していくと、それを感じた透耶の体が何度も震えている。弛緩した体は鬼柳の首から腕がパタリとシーツに落ちて動かなくなっている。
 投げ出された体が熱を帯びていてうっすらと汗をかいている。胸が激しく上下していて視線は天井を見ているのだが、本当に見ているのかどうかも怪しい。
 透耶の中から鬼柳自身を抜くと透耶の瞼が震えている。
 透耶の吐き出した精は、また腹に飛び散っていて、その姿だけで十分悩殺ものだ。
 汚してはいけないものを汚した。神聖なものを汚したという禁忌を犯した気分にさせられる。そういうものに陶酔してるわけでもないし、詳しくもないのだが、言い表せばそうなってしまう。
 そもそも透耶がいけない。どんどん綺麗になって幼さが抜けてきて、美しさが増していって、綺麗に笑うからだ。
 透耶の額に張り付いた髪をかき分けてそこにキスをすると、透耶の視線が戻ってくる。ぴったりと視線が合うと透耶がにこりと微笑む。卑怯だ。これは卑怯だと毎回思う。こういう時に微笑まれたら、またやりたくなってしまうではないか。
「……透耶、もう一回」
 鬼柳は喉に言葉が絡まりながらもそう言うと透耶はのろのろと手を伸ばしてきた。
 その手を取って手の甲にキスをして、肩にかけてやる。もうそれが合図だ。
 透耶が完全に元に戻る前に、鬼柳は透耶の中にまた入り込んだ。


「……もう、何しにここにきたの……」
 ぐったりとした透耶が少し声を嗄らして文句を言う。
 体がだるくて動きたくない。その透耶に鬼柳は甲斐甲斐しくタオルで体中を綺麗に拭いていく。もちろん、最初に穴を掃除だとされた時は、また悪戯をされて、朝から透耶は自分でも何度達ったのか分からない状態だった。
「んー、まあ用事も終わったし、後は透耶が起きたら帰るよ」
 鬼柳はそりゃもう上機嫌で世話をして、透耶の体を起こして服まで着せてくれる始末だ。
「帰るの?」
 透耶はやっと体を起こして鬼柳を見た。
「ああ、帰るよ」
 鬼柳は軽く言って透耶の頬にキスをする。それに透耶はほっと息を吐いた。
 しかし、鬼柳が帰り支度をして父親に話をしに行っている間に事件は起きた。

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