Switch101
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雨垂れ
「梅雨だから、雨が凄いね」
ベッドに寝転がったままの透耶は、バルコニーから見える位置で、外を眺めてそう言った。
愛しあった余韻が残る身体を布団の中に潜り込ませて、雨が噴き散るバルコニーを眺めている。
鬼柳は身体を起こして、煙草を一服している所だった。
「洗濯物が干せない時期だな」
家庭じみた言い方だったので、透耶はクスクスと笑ってしまっている。
「乾燥機だね」
「布団が干せない」
すっかり家事モードに戻ってしまったのか、鬼柳がそう呟く。
布団でのセックスだからすぐに布団には湿気が溜ってしまうから、毎日でも晴れていたら鬼柳は布団を干していた。
そうしないと快適な安眠が出来ないからだ。
そういうことには厳しい鬼柳である。
透耶はまたクスクス笑い出している。
そんな透耶を見下ろして、鬼柳は透耶の頭をくしゃくしゃと撫でた。
愛おしそうに何度も撫でるのである。
透耶はくすぐったいと何度も抵抗するが、頭を撫でられるのは好きだった。
「明日は晴れるかな?」
透耶がポツリと漏らした。
明日は綾乃がやってくる。そうすると雨だと鬱陶しいとでも思ったのだろう。鬼柳は、「どうだろうな」と答えて透耶の頬にキスをした。
「何か食べるか?」
時計を見ればもうすぐ正午。
そんな時間まで寝てたわけでなく、朝一番から鬼柳が透耶を求めた結果である。
「うーん、軽めのなにか」
透耶はあまり食欲がないのか、そう答えた。
まだベッドの中でもぞもぞしている。
鬼柳は頷いて、脱ぎ散らかしになっている服を掻き集めて、自分の服を取り出して着替えた。
煙草を消して、ベッドから立ち上がる。
透耶はその様子をじっと眺めていた。
「惚れ直した?」
気が付いた鬼柳がニヤリとしてそういうと、透耶は顔を赤らめて、違うと言って布団に潜ってしまった。
鬼柳は苦笑してから、部屋を出た。
透耶が軽めの食事と言ったので、トースト一枚とコーヒーにサラダとフルーツ盛り沢山にして二階へ駆け戻った。
透耶は眠ってはおらず、バスローブをきた姿でバルコニーの側の窓の方に立っていた。
どうやら雨を眺めているらしい。
透耶は晴れた日も大好きだが、雨の降っているのを眺めるのも好きなのである。
雨が降った次の日の晴れも大好きだった。
「透耶、飯」
「あ、うん」
やっと我に返ったような声を出して、透耶はベッドに戻って来た。
鬼柳はベッドに座った透耶の膝の上に食事が乗ったトレーを乗せた。
それがくると、透耶の食欲が湧いたのか、透耶は美味しいといいながらご飯を食べ始めた。
「恭は食べた?」
「作りながらつまんで食べたから気にするな」
鬼柳はニコリと笑って、透耶の頬を撫でた。
なんだろうと透耶が思っていると、口の端についたマーガリンを拭き取ってくれたようだった。
「バケツひっくり返したように降ってるな…」
「今日は家から出られないね」
「いいなそれも。透耶がいてくれるならそれでいいもんな」
「そういう問題じゃないんだけど?」
透耶は可愛らしく首を傾げてしまった。
鬼柳は笑ってベッドに寝転がった。
透耶も鬼柳が用意した食事を全部食べ終えて、ベッドに寝転がる。
「このまま寝ちゃいそう…」
「それもいいな。することもないし」
鬼柳がそういうと、透耶が鬼柳にぴたりと寄り添って来た。
本当に眠くなったからだ。
鬼柳は透耶を抱き寄せてから、布団を引き寄せて中へと潜り込んだ。
今日は寝て過ごすと決めたようだった。
「たまにはこんな日もいいだろう」
夢うつつの透耶の耳にそれだけが響いて聴こえた。
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