Switch101 79

INSOMNIA

「今日もまた泊まらないのね」
 女は俺に向かってそう言った。

 情事を済ませた後に、俺はシャワーを借りて汗を流し着替えていた。

「いつもの事だろう」
 俺はそう答えた。

 例えベッドを共にした人であっても、そこへ泊まったりはしなかった。

 安眠が出来ないからだ。

 例え自分を好きだといってくる相手でも、相手はしても一晩過ごすことはなく、扱いは全員同じだった。

 セックスだけすれば、後はもう何もない。

「いつもの事だけど、一回くらい隣で寝てくれてもいいのに」
 女はベッドの隣を叩いて呟いた。

「それは無理だ」
 俺は即答する。

 本当に無理な事だからだ。

「まったく、貴方が誰かの隣で眠るなんて事、訪れるのかしら。心配になっちゃうわ」

 女は本気で隣で寝て欲しい訳ではなく、起き上がって着替え始めた。

 俺が誰かの隣で眠る?

 そんな幸せな事が訪れるのだろうか?

 俺は考えこんでしまった。

「貴方でも、一応誰かの隣で眠ってみたいとは思うのね」
 女はそう言って更に続けた。

「そんな事が訪れたら、貴方、一時も側を離れなくなってしまいそうだわ」
 女はそれは面白いとばかりに笑ってそう言った。

「そうか?」
 俺はそれが不思議で聞き返していた。

「遊んだ男ってのはね、本命には弱いのよ。できれば、早く見つかるといいわね」

「何でだ?」

「貴方を巡っての争いがなくなるからよ。早く本命を見つけなさい。そして今までみたくじゃなく思いっきり愛してあげて」

 女はそう言ってさっさと着替えを済ませると部屋を出ていった。

 俺が本命に出会った時どうなるか。
 自分でも分っていた。

 女はそれを見抜いたように言ってきただけだ。

 俺が本当に抱きたいと思う相手が現れたら。
 きっと誰にも見せないように、監禁して、甘く優しく愛するだろう。

 相手が逃げようが、何処へ行こうが何処までも追いかける。

 そう、俺は今、本当に愛する誰かを探しているのだ。

 いつか、その人の隣で安眠出来る日が来る事を願って。

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