Switch101
17
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「うわ、無茶苦茶可愛い!」
俺はそう言って、慌てて自分の声を飲み込んだ。
ゆっくりと視線を上げて透耶を伺う。
透耶は、机の上のパソコンから視線を反らしてはなかった。
黙々と作業をしている手は止まる事がないのを確認して、俺はホッと息を吐いた。
危ない…危うく透耶に気付かれる所だった。
俺は、書斎のソファに座って、最初は暇を持て余していた。
何気なく、書斎の本を漁っていたら、何故かそこから透耶のアルバムが出てきたのだ。
勝手に見るのは何だと思ったが、どうも透耶が隠している風だったので、絶対見てやる!と意気込んで、4冊のアルバムを引っ張り出した。
どうも引っ越しの時おかしかったんだよな。
写真は高校時代…それも転校してからのしか見せてくれなかったし。
他は本家に送ったとか言ってたが、思いっきり嘘だったんだ。
で、何で見られたくないのか。
それは、その写真が女の子にしか見えないからだ。
これを見て、男の子だと言ったら誉めてやる所だ。
幼稚園時代は、制服の色で男の子だと認識は出来るが、小学になった頃になると、私服なのでハッキリ言って解らない。
大抵、光琉と一緒に映っているのだが、どっちが透耶なのかはすぐに解る。
途中になってくると、光琉の肌が焼けて見分けはつく。透耶は相変わらず白い色で日焼けはしてない。
そういえば、肌が紫外線に弱いとか言ってたな。
双児でも、肌質は違うのか。
身長は高い方で、これで小さかったら、まず苛められてるな。
順調に身長は伸びたらしい。
小学の終わりの頃には、もうガキ臭さは一切ない。
見事な美少年ぶりだ。
この頃から、光琉が一緒に映っている写真が少なくなっている。
面白い事に、写真の光の角度で、透耶の瞳の色が微妙に違うのが解る。
薄い茶色ではあるが、ここまで周囲の色が載って変わるのも珍しい。
光琉の方はそうでもないのだが。
途中で、光琉以上に透耶にそっくりな女の子がいた。
ああ、これが従姉か、思わず納得だ。
中学に入ると、学校関係の写真がまったくない。
行事ごとの集合写真程度で、友達とかと映っているのは殆どない。
それより多くなっているのが、例の京都の写真だ。
集合写真らしいのに、家族と、あの一族の関係者が映っている。
こりゃ、美形の一族だな。
これだけそっくりなのが一緒にいたら、一発で解る。
透耶は母親そっくりで、母親は従姉にそっくり、その従姉と子供はそっくりで、その子供は透耶にそっくり。
見事だ。
絶対、旦那の遺伝子は何処にもないんだろうなあ。
まるでクローン再生でもしているかのようだ。
これが全員なのか、子供4人に青年が1人に女性が2人。(透耶の父親は省く)
写真では笑っているが、途中から透耶の表情がなくなっていくのが解る。
いつからだ? 笑わなくなったのは。
大体、中学の半ば頃か?
冷めた目になっている。あまり表情のない透耶と従姉はますます似て、光琉とは断然違う。
これのお陰で、透耶は光琉関係で騒がれなかったのかと納得。
あまりに違い過ぎて、いくら似ているとはいえ、印象が違い過ぎる。
高校時代の写真の方が、光琉と似ている印象が深い。
意外な事に、ここまでで透耶がピアノを弾いている写真は一枚もなかった。
しっかし、美人さんだ。
壮絶な美とでも言った方がいいんだろうか?
これでは誰も近付けない。そういうオーラがある。
高校くらいになると、表情は殆どない。
暗くはないのだが、淋しい印象がある。
気が付いたが、春、高校二年になるくらいだろうか、珍しく従姉が映ってない。
学校が長期休みの時は、必ず京都へ行っているみたいだが、あの家族が映ってない。
透耶の表情もまったくない。
ああ、これが例の従姉の事件の後か。納得だ。
ここから京都の写真がない。
何処かの家らしい、写真がいくつかある。
映っているのは、13才くらいの中学生の子供と一緒のが多い。
知らない子供と男。
で、それが夏で終わっている。
そこから写真がなかった。
アルバムのページはまだ余っているのに、まるでそこから全て切り取ったように何もない。
ああ、そうか、この後が学校を辞めるきっかけになった事件が起こったのか。
別のアルバムには、転校してからの透耶の写真はあるが、半年の空間が、このアルバムにもあるわけだ。
「恭…何見てるの…」
透耶の声がして俺は視線を上げた。
見ると、透耶が青い顔をして俺を見ている。
俺は黙って透耶を見つめ返した。
もちろん、何を見ているのか、それは透耶にだって解っている。
暫く見つめ合いが続いたが、透耶の方が先に折れた。
深く息を吐いて、言った。
「それは見られたくなかったんだ」
「だろうと思った。わざわざ隠してるしな。でも俺は透耶の全部が見たかった」
俺が正直に言うと、また透耶が溜息を吐いた。
「もういいけど…全部見たんでしょ?」
「見た」
「ならもういい。適当に戻しておいて」
透耶は言って、またパソコンに視線を戻した。
別に怒っている訳ではない。
必死に隠してあったのを見つけられて、見られたから、もう隠す必要がなくなったという意味だ。
「なあ、これ貰っていい?」
俺がアルバムを持ち上げて言うと、透耶がまた視線を上げた。
ありありと、胡散腐そうな顔をしている。
「どうするの?」
「俺の秘蔵の宝物にする。可愛いのはコピーして引き延ばす」
俺がそう言い切ると、透耶がクスクスと笑い出した。
「馬鹿だ馬鹿だって思ってたけど、やっぱり馬鹿だ」
「馬鹿でも何でもいいよ。頂戴」
「欲しいならあげるけど、コピーして引き延ばしたりするなら駄目」
透耶は笑いながらそう言った。
ちっ!秘蔵の宝物の辺りで言うのやめときゃ良かった。
俺がそう思って悔しい顔をしたので、透耶がまた笑い出した。
やっぱり、透耶はこうやって笑っている方がいい。
こういう冷めた表情は似合わない。
このアルバムの、透耶が見られたくない部分は、誰にも見られないように俺が何処かへしまってしまおう。
後は俺のお楽しみって事で許して貰うとするか。
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