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風呂から出ると、鬼柳が夕食を用意していた。
ここへ来てからも、鬼柳は食事に関しては料理人は使わず、掃除だけやらせている。
鬼柳は異様に料理が上手いから、口出しする人はいないし、使用人やら、SPの人の分も作り、美味しいと評判なので誰も文句は言わないどころか、食事を心待ちにしている人ばかりだ。
テーブルの上には日本食が並べられていて、二人で食事を取る。ただ、この食事のルールが問題だ。
透耶が座って、いただきます、をして食べ始める。
「うん、美味しい。これ何?」
「んー、これはなー」
てな会話が始まらないと、使用人達が食事が出来ない有り様だ。鬼柳が、この食事は透耶の為に作っている、という言葉があって、それに皆が従っているのだ。
だが、さすがにエドワードが選んだ人材だけあって、厳しい 規律を守っており、どんな事にも口出しはしない。
鬼柳と透耶の関係が、そういう関係である事は解っているだろうに、見る目は変わらない。
食事が終わって、食器を下げに来た使用人に透耶は問い掛けた。
「すみません、さっき頼んだ事ですけど……」
「はい、御用意出来ております。いつでもお使い下さいませ」
使用人に礼を言って、透耶は席を立った。
その会話を聞いていた鬼柳が不思議な顔をした。
「透耶、何?」
「うーん、ちょっとね」
「ちょっとって?」
「後で呼ぶから少し待っててくれる?」
「待ってればいいのか?」
「うん」
透耶が笑顔で頷くものだから、鬼柳も頷くしかない。
「解った。コーヒー用意してる」
鬼柳がそう言ったので、透耶は安心して用意された部屋へ向かった。
そこは防音の部屋らしく、誰が使うのか知らないが、完璧な部屋だった。
「エドワードさんが使ってるのかな?」
そんな事を思いながら、それに触れてみた。
懐かしい、そんなに経ってないのに、そんな事を思った。
きっと、これから一生触らないだろうと思ったのに、鬼柳の話を聞いていて、逃げてはいけないのだと思った。
好きで始めたものではないにしろ、今までやってきたのは、少なくとも好きな気持ちがあったからだ。
捨てようと思った。だけど、今はやらなきゃと思った。
座って、軽くやってみる。
怖かった物が今はそんなに怖くはない。
大丈夫、ちゃんと話せる。
「透耶? 出来るのか?」
鬼柳が透耶に呼ばれて行った部屋に入ったとたん、そう言った。
そこにあるのは、グランドピアノ。
最上級のピアノ。
手入れも調律もされていて、音も美しかった。
透耶は椅子に座って、鬼柳を見上げた。
「リクエストは?」
クラシックなんて解るかな?などと思っていた透耶だが、鬼柳は少し考えて口を開いた。
「トロイメライ」
「ははー、シューマンだね」
透耶は笑ってピアノに向かった。
息を吐いて、指を乗せる。
指は練習をしなくなってから、もう一年と半年以上動かしてなかった。プロ並とはいかないが、それでも素人が聞けば聞ける音は出せる。
忘れたはずの楽譜も、今は頭の中に蘇っている。
この曲はそれほど長い曲ではない。どちらかと言えば短めの曲だ。
鬼柳は滑らかに動く、透耶の指を眺めて動けなかった。
どうして?それが口から出そうだった。
これだけ綺麗な音を出せるのに、指だって動いている。透耶はピアノでプロを目指していたんじゃないか?なのに今は物書き?
短い曲はすぐに終わってしまった。
それでもピアノを弾くという事は体力を使う。
透耶は間違えずに、指もちゃんと動いた事に、安堵していた。
「透耶、どうして?」
不思議そうな鬼柳の声が降ってきた。
どうして?は、何故ピアノをやめたのか、という意味だ。
透耶は軽い曲を力を入れず弾きながら話し出した。
「うん、俺、ずっとピアノやってたんだ。高校もそういう学校で、ずっとやっていくんだと思ってた」
「……どういう流れでって聞いてもいいのか?」
少し不安そうな鬼柳の声に透耶は頷く。
「うん、鬼柳さんには話そうと思って、ピアノ弾けたら言おうと。でも、まだ怖い。聞きたく無くなったら言って、やめるから。あまり人には聞かれたくない話だからさ」
「解った」
鬼柳は頷いて、近くにあった椅子を持ってきて座った。
それを確認して透耶は話始めた。
「物心ついた時には、もうピアノやらされてて。母親がね、ピアノのプロだったんだ。父親は調律師っていう音楽一家。しかも父親の実家もピアノ一家で、調律師になった父を許してなかったんだ。お祖父様が子供にピアノをやらせる事で、何とか認められてた感じ。こういう家で、しかも双子だったから、変に注目されてさ。妙な取材とか受けさせられたりして、そのうち、光琉の方が、モデルの方に興味を持って、ピアノをやめたいって言い出した。俺は特にそういうのはなかったし、その時にはもう物語を書いてたから、それが出来る時間があれば、ピアノも悪くはないって思ってて。もちろん、親は何も言わなかったけど、お祖父様が干渉してきて、光琉がピアノを辞める条件で、俺がピアノを続けてお祖父様が決めた道を行くって約束をしたんだ」
「それじゃ、透耶が損してる」
「ははは、皆そう言うね。光琉もそう言った。でも俺はそう思わなかった。ピアノをやっててもお祖父様が期待している様なプロになれる訳でもなかったしね。俺のペースでやってたら到底無理なのは解ってたから。それからはもうお祖父様の干渉に接ぐ干渉。物語なんてやってる暇なくて、一日中ピアノかお祖父様の用事。中学の頃は段々ピアノが嫌いになって、辞めたくて仕方なかった。身内の期待っていうのかな?とにかく凄くて、お祖父様や母親がプロだから、周りからは嫌み言われて、何で俺ピアノやってんだろう?って真剣に悩んでた」
「……だから、指無くなればって?」
「うん、そう。いっそのこと指が駄目になれば、ピアノ辞められると思った。でも習慣で指かばっちゃうんだ。高校もお祖父様が決めた所で、東京の学校だった。条件で、独り暮らしさせてもらって、でも家事は駄 目だったけど。そこは皆プロになろうとしている人ばかりで、俺には、その蹴落としてもってのについていけなくてさ、それでもコンクールとか出るような実力があって、矛盾しちゃってた」
「透耶が上手かったんだ。実力だ」
「ありがとう」
透耶は微笑んでいたが、手が震えていた。
ここからが話の重要な部分だった。
だけど、思い出しても怖い。
「透耶。話すのが怖かったら、もういいよ」
「……指が無くなったら……その意味はもう一つあるんだ」
「解った、聞くから、深呼吸して。ちゃんと息を吸うんだ」
「うん」
透耶は深く息を吸って、心を落ち着けた。
大丈夫、この人は聞いてくれる。
「俺は、声楽の友人の練習の為に、練習室に深夜まで残ってたんだ。そこは、部屋の内側から鍵がかかる部屋で、誰にも邪魔されない所なんだけど。ピアノを弾いてあげて、練習してた。そしたら友人が……。いきなりナイフを出して、こう言ったんだ。『恋人になってくれ』って。意味が解らなかった。どういう事だって思った。だけど、向こうは真剣で、俺の断わりの言葉なんて聞いてなかった。腕を押さえ付けられて、馬乗りになって、『誰も来やしない。騒いだりしても無駄 。いうことをきかないと、指を切るぞ』。そう言われて、俺、何を思ったんだろう。別 に無くなっても構わないって、そう思ったんだ。どうせ指が無くなれば、ピアノ辞めれるし、死んでもいいや、そんな考えだった。だから、ナイフに向けて腕を振り上げたんだ」
透耶は言って、自分の腕を上げて、手首を見せた。
そこには深い傷痕がある。一本の赤い筋。
もちろん、鬼柳も気が付いている傷。
「ナイフはここを切った。びっくりするくらい血が出て、友人はまさかそんな事が起こるとは思わなかったらしい。気が動転して、ナイフを投げて逃げ出した。俺は血が流れ過ぎて動けなかった。まあ、これも寿命かって思ったけど、見回りの先生が来て、俺を発見して病院に連れていってくれた。でもね、こういう事が起ったって事は内密にしてくれって言われた」
「何故だ?」
鬼柳はまだ手首の傷を見ている。
「その友人はね、声楽ではホープだったんだ。コンクール前で。親御さんにはそんな事言える訳ないよね。息子が男に迫って怪我させただなんてさ。それに学校ってのは、事なかれ主義。えっと、学校では問題は何もない、って言い張りたいんだ。そういうのは日本の学校の典型だけどね。だから、この傷は俺が不注意でやった事にしてほしいって。俺も事を公にはしたくなかったから頷いたんだ。俺が動かなければ、怪我しなかっただろうしね」
自虐的な自分を嘲笑うように言うと、鬼柳と視線があった。
「透耶、それは違う。抵抗して当たり前だ。怪我させて逃げるなど、そいつは本当にお前の事を好きだったのか? 矛盾している。責任は取るべきだ。それくらいの覚悟もなかったのか」
鬼柳はそいつ頭大丈夫か?と言わんばかりの口調だ。
透耶は少し笑った。鬼柳なら責任を取るだろう。この人は自分に触れる為に、そうした事も含めて考えていてくれているのだから。こういう言葉が出てきても何ら不思議はない。
「鬼柳さんはそうだろうね。でも、そいつは弱かったんだ。俺は何も言わない、何もしない。ピアノを一時的に辞めるには好都合だった。そのお陰で自業自得の怪我をしているって騒ぎになって、周りは笑ったよ。けどそんなのは気にもならなかった。だけどね、人の口には蓋はしにくいもので、そいつが俺に迫って、腕を傷つけたって噂になった。噂はただの噂で、誰かがそれを見た訳じゃなくて、俺とそいつの態度で予想したんだろうね。実に的を射てたよ」
「……」
「そいつは、謝りにきた。傷つけたのは悪かったって。でもそいつは噂になったから、それを本当にしようってまた迫ってきた。馬鹿じゃないのか?って正直思った。噂を本当にする為に俺をどうにかしようなんて、俺を馬鹿にしてないか?って。だから、言ってやったんだ。『そんな下らない理由で俺に触るなら、俺は自分の指を全部無くす。ピアノも辞めて学校も辞める。お前の前から完全に消えてやる』って。俺さえいなければ全部収まると思ってた。今度は俺がナイフを持ってた。そいつが前に持ってたナイフを護身用に持ってたんだ。ナイフを振り上げて指を切ろうとしたら、そいつがナイフを取り上げた」
透耶は一旦言葉を切って、深呼吸をした。目を瞑り息を吐いて続きを話し始めた。
「そいつは取り上げたナイフを俺に突き付けて言った。『そんなに俺が嫌いなのか?どうすればいい、どうすれば俺の言う事を聞いてくれる』って。俺は『何を言っても聞けない、目障りだから消えてくれ、それだけでいい。もう一度でも同じ事を言ったら俺が死んでやる』とハッキリ言った。これでもう俺に構わなくなると思った。俺さえ居なくなれば、こいつはそんな馬鹿な事はしないって。それなのに……」
透耶はまた言葉を切った。気を失いそうな感覚が襲ってきて、いっそ話を止めようかと思った程だ。目を開けると鬼柳が無表情で見つめていた。静かな目。
透耶はまた目を瞑って話を続けた。
「部屋を出ていこうとしたら、そいつは追ってきて。皆が見ている前で……『俺の為だけにピアノを弾いてくれ。お前の音が好きだった』そう言って、ナイフで自分の喉を突いたんだ!」
人がなんの迷いもなく、自分の喉を刺す。
自慢であるはずの声を出す場所。何より大切なもの。
それを壊してしまう人。
今でも鮮やかに思い出す事ができる。忘れたくても忘れられない光景。
透耶は震える声で続ける。
「血を……口から血をいっぱい吐いて、もがきながら、俺を見てるんだ……。口が動いて、声にはならなかったけど、そいつは言ったんだ! 『これでいいんだろ。だから好きになってくれ』って!」
「透耶! 落ち着け! もういい!」
崩れ落ちそうな透耶を鬼柳は抱き締めた。
抱き締める腕が震えている。
やっぱり、この人は優しい。俺の為に身体を震わせている。俺はそんなに思ってもらえる程、綺麗じゃないのに。
鬼柳の胸に顔を埋めたままで、透耶は話を続けた。
指が無くなったらいいのに、と思っていた、もう一つの訳を最後まで話す為に。
「俺は、そいつが、死んでいくまで見ているしか出来なかった。……最後に手を差し伸べる事も、助けを呼ぶ事も。誰かが叫んでいるのも、誰かが何か言っているのも、何も聴こえなかった」
「………」
「学校側から色々聞かれたけど、俺は知らないって言い張った。意見の食違いはあったかもしれないけど、俺が怪我したのは自分でやった事だし、そいつがどうして自殺したかなんて知らない。でも知ってた。俺が追い詰めたんだ。俺の指がもっと早くに無くなってたら、俺がもっと早くピアノを辞めてたら、こんな事にはならなかった! 俺があんな事言わなければ、もっと気の効いた事言ってれば! 俺は自分の事しか考えてなかった! ピアノを辞めたかったから、俺はそいつを利用したんだ! 俺、さっさと死んでしまえばよかった!」
苦しくて、今まで誰にも言った事のない言葉を吐き出していた。きっとこんな言い訳、誰にも通 用しない。そんな事自分が一番良く解っている。
「利用してない。透耶が透耶自身の事を考えているのは当たり前だ。そいつは自分で自分を追い詰めたんだ。そいつこそ、透耶の事を考えてなかった」
鬼柳がそう言った。慰めているのではなく、率直な意見として。
だけど、透耶は首を振った。
そうじゃない、少しでもそいつの事を見ていたのなら、少しでもそれに気付いてやるべきだった。
だが、それは向こうにも言える事だった。好きなら、透耶がピアノを辞めたがっている事に気付くべきだった。けれど二人ともそれに気づける程、深く付き合っていた訳ではなかった。そして幼すぎた。それ故に起った悲劇。自分より確実に長生きするだろう相手を、そういう事で殺してしまった。
「そこまで考えてたなんて知らなかったんだ。自分を殺す程、俺を思っているなんて知らなかったんだ。ピアノを前にすると、そいつの声にならなかった声が聴こえるんだ。そしたら、ピアノが怖くなった……」
透耶は震える声で言った。
鬼柳は、やっと透耶がここを見た時に凍り付く様にピアノを見ていた訳を理解した。
亡霊を見たのだ。
今、透耶は懺悔している。
誰にも言わなかった声を、心を、それを自分にだけ伝えようとしている。
そして、それを乗り越えようとしている。
しかし鬼柳は気が付いていた。
透耶は自分が死ぬ事に関しては無頓着なこと。むしろそれを望んでいる事。他人が自分の事で死ぬ 事を何より恐れている。それなのに、自分の死は恐れも感情も死にたくないと思う事もなく、当り前であると受け止めている事。どうしてそんな考えをしてきたのか、鬼柳には解らなかった。
「怪我が治っても指は動かなかった。ピアノを弾けなくなったピアニストは用済。学校へも行けなくなった。ちょうどいいって光琉が、自分が通 っている学校へ転校してこいって言ってくれた。ピアノを辞めるって両親に言おうとした時、両親が乗っている飛行機が海外で落ちて、死亡者に名前が載ってた。学校から、事件の事で連絡があって、両親は慌ててその飛行機に乗ったんだ。その翌日にお祖父様が死んだ。俺の所へ来る途中で車にトラックが突っ込んで即死だった。俺がピアノを辞めようとすると、それを止める人が皆死んでいく。だからピアノは怖い。もう二度と触れないと決めた。俺が迷ってるから駄 目なんだと思ったから。やっぱり俺は呪われてるんだ」
そこまで言って透耶は顔を上げた。
泣き笑いのような顔で、鬼柳を見上げた。
「ごめんなさい、こんな話しちゃって……」
そう言って立ち上がろうとした透耶を鬼柳が引き寄せた。
顔中にキスを降らせて、その泣き笑いの顔をどうにかしたいと思った。
このまま一人にしたら、透耶はまた自分の中にこの事を押し込めてしまう。そして一人で泣いてしまう。その泣き声は誰に聞かれることなく、深い闇の追いやられてしまう。
それだけはさせてはならない。
辞めたピアノ、怖いと言ったピアノをまた弾こうと思ったのは、自分の為だと鬼柳には解っていた。
「俺の為に、ピアノ弾いてくれたんだな」
嬉しくて泣きそうだった。
すると透耶は顔を真っ赤にさせて頷いた。
「誰かの為に、弾きたいって思ったの、初めてだったから」
「ありがとう。良かった……透耶の指が無くなってなくて」
愛おしくて、透耶の指にキスをした。
一本一本、自分の為に動かしてくれた指にキスをした。
透耶はそれをジッと見ていた。
まるで洗礼されているかのように。
「たぶん、俺がこれから先、ピアノを弾くのは、鬼柳さんの為だけなんだと思う。それだけの理由でしか弾かない、弾けない」
透耶は真剣にそう呟いていた。
喜ばせようと思ったのではない。本当にそれだけの理由でしか、ピアノの前に立てない。
この人の為に弾こう。そう思っただけだった。
いつか離れなければならない人なのに、透耶の中ではもう鬼柳は特別な存在以外の何物でもなかった。
それを聞いた鬼柳は、それは嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
好きだと言われるより、愛の言葉を聞いた気がした。
「最高の言葉だ」
透耶はにこりと微笑んだ。
「ありがとう、俺の話を聞いてくれて」
「それは俺の言葉だ。ありがとう、誰にも話してない透耶の話をしてくれて。俺、ちゃんと頼りにされてるって自信持っていいんだな」
「なんで、話そうと思ったのか解らないんだけど」
「いい、いい。俺に話したいと思ったら、いつでも何でも聞くから。透耶の話をして」
「俺の話なんか楽しくないよ」
「そんなの関係ない。透耶の事が知りたいだけだよ。ピアノ辞めた後の話もして」
「まあ、いいけど」
何も面白くもないのになあ。
と呟きながら、さっきの話の続きを始めた。
台所でコーヒーを貰ってきて、またピアノのある防音室で話をしていた。
ここなら、話が漏れる事もない。誰も聞けない。二人だけの世界だった。
三人掛けのソファに寝転がった鬼柳が、透耶を抱き寄せて身体の上に乗せる。普段なら透耶は抵抗しただろうに、今はくっついていたかった。
「お祖父様に、両親が一気に死んじゃって、俺暫く思い通りに動く人形みたいにさ、光琉の言う事しか聞かなくて、あっち座って、こっち来て、ご飯食べて、風呂入ってって、言われないと何も出来なくて。全部光琉がやってくれてた。あいつだって仕事とかあって忙しいのにさ。俺は俺でお祖父様方の方の処理をやってた。忙しくて、弁護士、税理士、他も色々あったけど、複雑過ぎるから省くね。とにかく身の回りの事は光琉に言われないと何も出来なかった」
「言う事を良く聞く透耶も可愛いだろうけど、目が死んでるのは嬉しくないなー」
鬼柳なら喜んで世話しそう。などと思って透耶は笑ってしまう。
「はははは。まあ、色々あって、地元にあった両親の家は処分して、俺達は東京にあるマンションで暮らす事にしたんだ。親戚 とかが面倒見たがってたらしいけど、光琉が言うには、財産目当ての犬なんだってさ。お祖父様の遺産は、俺だけが相続人だったんで、詳しい内容は省くけど、貰えないはずの親戚 にも相当な額を相続させて、すんなりいった。それだけでも凄いのに、両親のも相当な財産が残ってた。今見るとびっくりだよ、よくあんなに残してたって思うくらいでさ」
本当に凄い額だった。そんなにプロって儲かるの?と思ったくらいだ。だから皆あんなに真剣で、認められようとして、相手を蹴落としてでも頑張る訳だと、初めて透耶は納得したくらいだ。
「そりゃ、本物のプロだったんだよ。そういう人は、色々な所から呼ばれる。金額も相当なもんだって言ってた。透耶達が小さい頃から注目されてたのも、母親がやっぱり凄かったからだよ。コンクール総嘗めしたとかな」
そう言われて、透耶はふと考え込んだ。
母親は確かにプロだった。だが、透耶は、どれほど凄いのか、そんな事聞いた事はないし、母親も言った事はない。母親の評判は、周りのピアニスト志望のライバルから聞かされたくらいだ。だから、世界でどれほど認められているのか、そういう事には一番疎かった。
「うーん、どうだろう? そういうコンクールの話しはした事ないけど、家の納屋にトロフィーとか賞状がやたらあったのは覚えている。部屋に飾る趣味はなかったらしいよ」
それも無造作に、さすがに賞状は額に入っていたが、箱の中に押し込められていた。居間には、光琉が学校で貰った図工の賞状なんかの方を家に飾ってあったくらいだ。透耶の賞状は押し入れに押し込んでた。透耶はそういう物を飾るのを嫌がったからだ。
「はっはー。透耶そっくりだな。そういう賞状とか、栄誉とか、そんなのより、実際にやれてればいいって所。過去の栄光より今何をやるかって事だな。そういう所はカメラと似ている」
鬼柳にそう言われて、透耶はそうか、などと気が付いた。
母親と似ている、それは良く言われた。それは顔形の話で、性格とか、行動とかは言われた事はなかった。
こういう些細な所も似ていたんだ。
それは面白い発見だった。
「それから?」
「うん、光琉は一緒に住みたがってたけど、俺は別の方がよかったから、マンションだけ移った。前のマンションは、ピアノ用の防音、ピアノ付きの部屋だったし、賃貸だったから、お金もかかる。財産ってそうすぐに使えないらしいから、光琉に借金して、マンションを買ったんだ。本当はアパートでも良かったんだけど、許してくれなくて。その時くらいからかな? 考え事すると周りが見えなくなって、気が付いたらここ何処?とか言い出したのは」
「ああ、そうか。今までピアノという物しか見てなかったから、ピアノしながら考え事してたな。それが無くなったから、抜けた感じになって、暇になった分、普段でも出始めたんだよ。元から考え込む性格だったけど、対象が違うようになったのさ」
明確な説明を鬼柳がしてくれたので、透耶は初めてそれに気が付いた。
「なるほど、そうなのかあ。確かにピアノ弾いてる時、色々考えてたけど、ピアノをどう弾くとか、この曲はこうしようとか、そういうのは考えてなかったなあ。気が付いたら終わってるって思ってたから、そんなもんなんだーってずっと思ってた」
「さっきは、どうだった?」
「うーん、凄く緊張してた。上手く弾けるかな?失敗しないか?音は大丈夫か? 後は、鬼柳さんが気に入ってくれるかなあって事だけ」
小首を傾げている透耶を見て、鬼柳ははあっと息を吐いた。
「あんまり可愛い事言うなよ」
「は?」
「立ってきた」
何が?とは聞かなくても、鬼柳がそういう言い方をするのは、あれしかないわけで。
透耶は慌てて身体を起こした。
「うわ!ちょちょっと!」
だが、やっぱり逃げれる訳ない。腕を掴まれて引き戻される。
「嘘。キスだけさせて……」
「んーもう、キスだけだよ」
キスだけで済むなら、鬼柳相手には一番安い対処の仕方である。透耶は学習していた。
仕方ないと、下になっている鬼柳に、透耶からキスをする。
軽いキス、触れて離れるだけのキスだった。鬼柳は無理に求めようとはしなかった。
唇が離れると、鬼柳は幸せそうに微笑んだ。
「どうしよう、幸せで死にそうだ」
「何言ってんの……」
苦笑してしまう透耶。
「で、それから?」
「うん。学校辞めたのは、2年が終わってからだけど。事情が事情だったから、考慮してくれたらしくて。半年、まったく行ってなかったけど、行っている事にして、家庭の事情で辞めたことになってた。その半年の間に、物語を書く事を始めたんだ。すごく面 白くて、楽しくて、ずっと書いてた。下手だけど、光琉がそれを勝手に印刷して学校へ持って行ったりして、人に読んでもらってた。俺はそれ知らなかったけど。で、3年になって編入したら、俺、そこで物書きさんって言われてたよ。光琉の兄で、物書きさん。誰も俺がピアノをやっているのを知らなかった。うーん、知ってたかもしれないけど、誰も言わなかった。色々言いたがる人もいそうなのに、光琉の友達は何か俺を守ってくれてた。俺もボケた性格だからさ、事件の事がバレても同姓同名じゃない?とか言ってたし。ほら、実家が東京じゃないし、親が死んだ事は皆知ってたから、転校してきてもおかしくはなかった状況でしょ。一年くらいは誤摩化せた。学校は楽しかった、俺、普通 じゃない所ばっかり行ってたから、学園祭とか体育祭とか知らなかったし、学校行事も面 白かったよ。でも、修学旅行は行けなかったな」
「ガクエンサイ? タイイクサイ? シュウガクリョコウ?」
おーっと、カルチャーショック。
外国人さんには日本の風習は解りません、とばかりな、カタカナ発音の鬼柳。
「あー、アメリカとかにはないのかな? 学園祭ってのは、学校全体で、出店、解るかな? お祭りに行くと、道ばたにお店出てるでしょ。たこ焼きとか、焼そばとか、金魚すくい。そういうのを、学生が学校内でやるわけ。もちろん、一般 客も入れて、お金も取って。演劇とか出し物をやるんだ。三日間ね。その準備とかも一ヶ月まえからやりはじめて、その準備も楽しいんだ」
そう説明すると、鬼柳は不思議そうな顔をした。祭りを学校内でやり、しかも一般 客も呼ぶ。凄いイベントだ。
だけど、内部に入るには前売りチケットが必要で、一般客でも学校関係者から買わなければ入れない、と透耶が説明すると、納得したようだった。
まさか、通りかかった人が、ひょっこり入れると凄く危険じゃないかと思ったのだ。
そういう場合は、トラブル処理の学生警備員が巡回している訳なんだが。
「学生がやるって事は、売る人も学生で、作るのも学生なわけだ。透耶は何をやったんだ?」
「俺? クレープ店の呼び子」
「ヨビコ?」
「あー。いらっしゃいませー、クレープどうですか?って通るお客さんを呼ぶんだよ」
「エプロンとかして?」
「う……」
いい淀む透耶。勘付く鬼柳。
「はあー、何かされたな。女装か?」
図星。
隠しても仕方がないと、透耶は力なく薄情した。
「定番中の定番で……。フリフリフリルのピンクハウス……ウェーブした胸くらいまでの髪のカツラにリボン。フリフリなエプロン。化粧とかされて……。でもクラスの売り上競争で、トップなら商品、打ち上げ費用が貰えるから、誰も妥協してくれなくて。しかも笑って愛想よくしないと、後が怖かったし、三日だけだったから我慢した。思い出してもかなりブルー……」
鬼柳はその姿を想像して、決定的な言葉を言った。
「男にモテたな」
鋭すぎる。
「う……。悲しいことにもてまくりだよ。俺の女装写真、4桁いったってさ」
不名誉な記録残したよな。と透耶は呟いた。この記録は破られる事はないと言われた事を思い出した。どう計算しても、誰かが2~3枚以上買わないと、4桁なんていかない。
「4桁? 千枚? すげー。写真屋大儲け。内分けは?」
鬼柳は素直に驚いていた。売りだから、プラスα。値段にしたら、相当な額だ。
だが、透耶は憮然とした顔で言った。
「あるわけないんじゃん。闇だよ、闇販売。誰が売ってるんだか解らなかったんだよ」
つまり通常の写真販売より現像代、プラスαが大きい訳だ。
まさしくボロ儲け。笑いが止まらなかっただろう企画者。
「見たかったな。随分可愛く出来てただろうに……」
「そういう趣味なの?」
透耶が鬼柳を覗き込んで変な顔をした。鬼柳は溜息を吐いて、そうじゃないと説明した。
「透耶だから見たいんじゃないか。他の奴が上手く化けたってみたかねえよ」
「はっはー、たぶん、写真あると思うけど。光琉が面白がって取りまくってたから」
「ふーん。面白そう。今度写真撮らせて」
「はいはい、今度ね」
なんかどうでもよくなってきたよ。
どうでもよくなっても、鬼柳に生返事で変な事を約束してはいけない事に、透耶は鈍くて気付いてなかった。
後で悲劇が待っていよう。
しかも、女装、という部分。
「まさか、男に迫られたとか……」
「あはははは。さすがに押し倒されはしなかったけどね。周りに人がいたし、俺の周りはガードが固いんだ。ラブレターは随分貰ったはずだけど。俺、一部しか知らない」
「はあ?」
意味が解らないと、鬼柳が顔を上げる。
透耶は苦笑して説明した。
「ガード固いっていったでしょ。俺に直接話を通す前に、何故だか生徒会へっていう指示が出てたんだ」
「ははあ、協定だな。抜け駆けは許さないってやつか」
そう言って、鬼柳は納得した。
たぶん、そこでラブレターの内部を見て、危なそうなのは透耶に見せないようにしてたはずだ。もちろん、プレゼントの中身も然り。
「可笑しいんだけど、そういうのって女の子の方が積極的でさ、怖いんだよ。助かったけどさ。その女の子達のお眼鏡にかかららない奴は、俺に一歩も近付けない訳。当麻っていう生徒会副会長のカリスマ女生徒が、光琉の幼馴染みで、女生徒のボスっていうのかな。仕切ってんの。逆らうと、校内の女生徒全部敵に回すってくらいに権力持ってた」
そう当麻を説明すると、鬼柳は感心した。
「けん制。所有している訳ではないが、管理者である主張をしてたわけだ。女を全部味方につけるあたり、頭いいな、その当麻って奴」
「俺もそう思うよ」
それで随分助けられたのは事実だ。
それから、鬼柳が解らないと言った言葉。
体育祭を説明すると。
「なるほど、オリンピックの地域限定学生版?」
「あー、まあ、そんな感じ。微妙に違うけど」
修学旅行を説明すると。
「はああ。よく解らないが、学生旅行を集団で手っ取り早くやる方法って事か」
「うーん、間違ってないけどね」
何かが違う気がする。
やっぱり、感覚が違うのだろう。
「なんか、聞いてると、やっぱ透耶が損してた気がする」
鬼柳は、透耶が学校を転校してからの方が、あまりに楽しいかったと笑顔で話すものだから、そう思った。
「光琉の方が得してるって?」
「そう」
「でもね、俺は妥協してただけで、光琉は自分の道を早くから見付けたってだけなんだ。俺が要領が悪いだけだよ」
透耶は苦笑している。
たぶん、透耶は光琉の気持ちは解ってない。鬼柳はそう思った。透耶は要領が悪いだけと思っているから、気が付かない。
「だから、光琉は気にして、透耶に構うんだ。小さい時に透耶に親の期待を全部押し付けて、自分だけ楽でやりたい事に逃げたから、今になって後悔してるんだ。透耶を物書きにしたかったのも、それがあったからだろう? 透耶がやりたい事があるなら、全力で何かをしてやりたい、やらなきゃならないと思ってるんだ」
意外な言葉だった。
「へえ……鬼柳さん、凄いや。俺、そんな風に考えた事ない。光琉が俺に対して負い目を感じてるなんて思ってもみなかった。ああいう性格になったんだと思った」
弟が、あれほど自分に干渉するのは、ただ自分がとろいだけだと透耶は思っていた。
確かにそうだから、言って貰わないと駄目な時もある。
自分は駄目だから、弟に迷惑をかけていると思ってる。
だから、ありがたいと思っていた。いつも感謝していた。
しかし、鬼柳は言う。
「そういう所が透耶のいいところなんだよ。与えられる好意をそういう風に偏見なく受け入れる。純粋にありがとうって思ってる。何が起っても人のせいにはしない。自分が悪いって言う。だけど、弱い訳じゃない。芯があるっていうのかな? だから、人が集まってくる」
透耶は、そんな風に見てもらった事はないし、自分で感じた事もなかった。照れて赤くなった。
鬼柳は今まで見ていた透耶はそういう人間だと感じていた。あの事件さえも、透耶は自分のせいだと思っている。
自分が、自分が、そう言って、自分を責める。
そうして悪いと思っている事を内側に隠して、自分は傷付いてない、大丈夫だと言い聞かせている。
きっと、本気で怒った事はないんだろう。感情をむき出しにして行動した事がないんだろう。
でも今は違う。怒るし、拗ねるし、よく笑う。笑うの種類が違う。
もう少し、時間をかければ、透耶は変われる。
そして、鬼柳自身も変われる気がした。
「そんなに誉めて貰っても、恥ずかしいだけだよ。俺はぼけているだけで、周りをあんまり把握出来ないんだ」
そう透耶が言うと、鬼柳がクスクス笑い出した。
「何?」
「最初もボケてたな」
鬼柳の言葉に透耶は昼間、石山が言っていた言葉を思い出した。
「ああ!SPの人に話したでしょ!」
「……仕方ないだろ。俺があんまり過保護にし過ぎるって富永の奴が言うから、最初透耶はボケてて、真冬の海に直進して、溺れる所だった。で、自分でそれに気が付いてなかったって正直に話したんだ」
「……そういうのは少し誤摩化して話してくれない。もうあんな事ないから」
「それを聞いた富永はなんて言ったと思う?」
「え?」
「はあ、それは大変です。一人で行動させるのは、屋敷の中でも危ないですねえ。だってよ」
「俺って何なんだ? そこまで酷くないと思う」
「んー? さてここへ来て、透耶は屋敷の中で、何回使用人に『透耶様、大丈夫ですか?』と聞かれたでしょうか?」
「う……。5回くらい……」
「あ? 何回?」
「あ、10回くらいかなあー」
「俺が見てただけで、20回。報告されただけで、20回」
「え! そんなに? 嘘だ!っていうか、報告って何!? なんで連絡網があるんだよ!?」
「知らねえの? 使用人の交代時間に、『今日は、ここで透耶様が詰ま付きました。調度品はもう少し寄せて下さい』『階段で落ちそうになりました。これからは、一人階段で見張りをしてください』とか言われてるぞ」
「……なんの受け継ぎだよ」
普通、仕事の受け継ぎは、仕事内容であるべきである。
ここでは、透耶が何処でどうなったのかが、報告の日課になっているのだった。
「道理で、人に見られていると思ったよ。何処に行っても使用人がいるし、いない時は、鬼柳さんか、SPの人がいるし」
おかしいとは思ってた。透耶は自分が行く先々に人がいるのは、こういう屋敷の特徴だと思っていた。
「だったら、もっと気をつけるんだな。ただでさえ危ないんだ。外なんか出したら、絶対、次の瞬間、ここ何処?とか言ってるに決まっている。下手したら言いたくても言えない状況になってるかもしれないぞ」
鬼柳が真剣に言ったので、これは大変な事になってると透耶は思ってしまった。
「……うん」
だけど…と付け加えたかったが。
透耶が素直に頷いたので、鬼柳は少し不審に思ったらしい。
「いやに素直だな」
透耶は視線を上に上げて、困ったなあという顔をした。
「……えっとね。お願いがあるんだけど」
「何だ?」
こういう時に出るお願いは、大抵決まっている。
鬼柳の声が厳しくなった。
物凄く言いにくい状況の透耶。
普通なら誰もそれを言えないだろうが、透耶は言える。
「明日、買い物にいきたいなあーって」
「何で?」
「行きたい所があって」
「何処へ?」
「本屋なんだけどさ」
「どうして?」
「明日、こっちでも、俺の本が出るらしいんだ。俺、まだ本見てないから」
ここで初めて、鬼柳の声が不思議そうになった。
「? 発売してないから見てなくて当たり前だろ?」
「うーんと、作者ってのは、先に見本って言って、出来上がった本を発売前に貰えるんだよ。でも俺、家帰ってないし。本当なら先に見て、手直しとかやらなきゃいけないらしいけど。まあ、書き直したし、やれる事はやったから、いいんだけど。駄 目かなあ? 駄目なら本買ってきてくれるだけでもいいけど」
たぶん、駄目だろうな、そんな事を思いながら鬼柳を見ていると、鬼柳はじっと考え込んだ。
目を瞑って、鬼柳は黙ってしまった。
透耶は、もしかして無視されたのかなあ? と思いながら、まあ、それも仕方ないかと、鬼柳の上から起き上がってゆっくりと降りた。
鬼柳はそれでも気が付かない程考え込んでいた。
はあ、と透耶は溜息を吐いて、ピアノを片付け、飲み終わっていたコーヒーカップを片付けて、台所へ運んだ。
「鬼柳さん、俺先に寝るね」
声をかけたが、鬼柳は眠ったように動かない。
防音室に鬼柳を残したままで部屋に戻る。
風呂に入って、ベッドで髪を乾かし、ベッド寝転がって眠りに入りかけた所へ鬼柳が部屋に入ってきた。
ゆっくりと歩いてきて、寝ている透耶の横へ潜り込んできた。透耶の身体を少し起こして、腕を頭の下へ入れて、腕枕をして引き寄せる。
話し疲れたように眠っている透耶の匂いを嗅いで、鬼柳も眠りに就いた。
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