Switch 24

2

「透耶さん、また鬼柳さんといらっしゃいね。とても楽しかったわ」 
 帰り際に透耶は祖母にそう言われた。
「楽しかったの?」
 透耶は不思議そうに鬼柳を見上げた。
「ああ、楽しかったぞ。透耶のあ~んなことやこ~んな事聞けたしな」
 ……何それ?
「何なのそれ! お祖母様、何か余計な事まで言ったの!?」
 透耶はここでした数々の悪戯を思い出してしまった。
「ええ、話してしまったわ」
 無気味な笑みを浮かべる祖母。
「え? な、何を」
 右往左往してしまう透耶。
「まだ、隠れんぼしたあれも探さないといけないわね」
 祖母がそう言ったので、透耶は真っ青になる。
「恭!話しちゃったの!」
「場所は話してないぞ」
 ニヤリとして鬼柳は言った。
 それはあの光琉と折ってしまった弓の事である。
 随分昔の事だが、未だに祖母は発見出来てない。
 それを探し出すと祖母は言っているのである。
 ……うわー、今更見つかって説教なんかされたくないよー!
 うわわと頭を抱える透耶を後目に、鬼柳と祖母は別れの挨拶をしていた。
「本当にまたいらして下さいね」
「世話になった。いい話も聞かせてもらったし、また透耶の話もしたいしな」
「東京でどういう生活をしているのか私も聞きたいわ」
 などと、透耶に追い討ちをかけるような挨拶をする二人。
 そわそわする透耶の反応を楽しんでいるのである。
「ああ、もういいってば!」
 透耶は止めに入った。
「じゃ、お祖母様、またね」
「透耶さんも鬼柳さんも気を付けて、またどうぞ」
「ああ」
 そう挨拶をして祖母に見送られて二人はSPと共に榎木津本家を後にした。




 榎木津本家を後にした後、二人はまだ時間が余っているからと京都見物をした。
 食事も京都名産などの湯豆腐など堪能してホテルに戻った。
 ホテルに戻った時、ロビーで、いきなりエドワードに遭遇した。
「あ、エドワードさん」
「やあ、透耶、恭、元気そうだね」
 優雅な足取りでエドワードは近付いてきた。
「あの時はお世話になりました」
 透耶は再度お礼を言う。
「いや、殆ど透耶の力でやった事だよ」
「そんな事ありませんよ」
 などと挨拶をしている透耶の隣で、鬼柳は言葉を発せずにいた。
 珍しく文句を言ってこない鬼柳を不思議に思って透耶は鬼柳を見上げた。
 その鬼柳の顔は今まで見た事もない顔だった。
 硬直していて、かなり驚いている顔だった。
「恭? どうしたの?」
 透耶が呼び掛けても反応しない。
 それくらいに驚いていた。
「驚くのも無理はないだろう。私もさっきここで彼に出会ったんだ」
 そうエドワードは説明して、指を差した。
 透耶はその方向を見る。
 すると40才過ぎくらいの口ひげを生やしたおじさんが座っている。
 こっちを見つめたままでやはり驚いているようだった。
 どっちもがここで会うはずの人物ではないと驚いているのだ。
 透耶は奇妙な感覚になった。
「恭?」
 腕を引っ張って呼び掛けるとやっと鬼柳は我に返ったようだった。
「あ、何?」
「どうしたの? 知り合いなの?」
「い、いや」
 口籠る鬼柳は珍しい。
「知らないはないだろう。お前のボスだろ」
 エドワードがそう言った。
「ボス?」
 何の?
 透耶にも訳が解らない。
 すると鬼柳がいきなり透耶の腕を掴んだ。
「部屋へ戻るぞ」
 それはいきなりで、きつく腕を引っ張られたので、透耶は混乱してしまう。
 鬼柳があの人物から逃げようとしているのは明らかだった。
「恭、逃げるな」
 逃げようとする鬼柳をエドワードが止めた。
「今更逃げてどうする」
 エドワードのきつい一言。
「に、逃げた訳じゃねえ」
「だったら、ちゃんと話してこい」
「……」
「恭、知り合いならちゃんと挨拶してきたら? 俺、エドワードさんといるから」
 透耶もこれはただ事ではないと思い、そう言って鬼柳を落ち着かせようとした。
 すると、鬼柳の手がやっと透耶の腕から離れた。
「解った話してくる」
 鬼柳は深く深呼吸してその人物に向かって歩き出した。
「エドワードさん、あの人誰なの?」
 ……恭があんなに緊張するなんて。
 それが気になって仕方なかった。
 するとエドワードの口から意外な人物の名前が出てきた。
「あの人は、宮本雅彦。恭に報道カメラマンとしてカメラを教えた人物で、仕事上のボスだよ」
 エドワードにそう言われて、透耶は衝撃を受けた。
 あの人が、恭にカメラを教えた人?
 それは、鬼柳の背中を押す最後のカードの1人の登場であった。




 透耶と別れた鬼柳は、宮本を前にまだ堅い表情をしていた。
 まだ出会いたくない人物。
 自分のカメラの師匠で、仕事のボスである宮本雅彦。
 顔を見るのは半年前以上になる。
 あの展覧会以来、鬼柳は宮本に会っていなかった。一度の連絡もせずに仕事を休暇にして日本中を逃げ回った。
 宮本も一時期は探したようだが、それ以降探してはいなかったようだった。
 ここで出会ったのは偶然だ。
 宮本の実家も京都にあったからだ。
 宮本は鬼柳を見上げてニヤリとした。
「久しぶりだな。男前があがったな」
 宮本は自分の頬を指差し、鬼柳の頬にある傷を示してそう言った。
「いや、これは」
 鬼柳は慌てて傷を隠してしまう。
 絆創膏を貼るのはかっこわるいと思って外していた。
 その傷は、自分が誘拐されていた時に殴られたものだった。
「お前らしくないな」
 身体にそれも顔に傷を作るなど鬼柳にはないと思っていた宮本だった。喧嘩は強い。それも軍人から仕込まれた武術がある鬼柳が他人から殴られるとは思えないからだ。
「これはちょっとした事だ」
 鬼柳はそう言って誤魔化した。
「それにしてもらしくない」
 宮本は傷とは違う事を漏らした。
「何が」
 鬼柳にはさっぱりなセリフだった。
 宮本は、エドワードと一緒にいる透耶を指差して言った。
「エドワードから全部聞いたよ。あの少年に御執心らしいな」
 それを指摘されて、鬼柳は宮本を睨んだ。
「それがどうした」
 透耶に執心で何が悪いとさえ思った。
 やっと出会った愛しい人である。
 それを非難される言われない。
 その鬼柳の反応を見て、宮本はふうっと溜息を吐いた。そんな話をしたいのではないのだ。
 何の為にここへ来たのかを思い出して、自分の席の前を指差した。
「喧嘩を売っている訳ではない。座りなさい」
 鬼柳にそう言うと、鬼柳も大人しくなり、宮本の指示に従って椅子に座った。
 だが言葉は出なかった。
「……」
 何を言われるのか解っていたからだ。
 宮本は身を乗り出すと、鬼柳に向かって言った。
「そろそろ戻ってきたらどうだ?」
 やはりな言葉だった。
「……」
 それでも鬼柳はすぐに返事が出来なかった。
「あの少年の事が心配で戻れないとでも?」
 宮本は透耶の事を持ち出して言ったのだが、それには鬼柳が即答した。
「それはない」
 それだけは言える。
 もう何度も人に言われた。
 透耶から少し距離を置いた方がいいと。
 それは考えていた事だから、戻らない理由を透耶にしてはいけないと思っていた。
 すると、宮本は少し眉を顰めて尋ねた。
「まだあれを引き摺ってるのか?」
「当たり前だ」
 これには即答出来た。
 あれほど嫌だと言った事をさせたのは宮本だった。
 イアソンの事。
 自分が望んでいない写真を使用された事を鬼柳は今でも快く思っていない。ましてやそんなもので賞を取ろうなど冗談でも笑えない。
 それがずっと引っ掛かっている。
 だから、戻れなかった。
 二度とあんな写真を撮りたくなかったからだ。
「なるほど。それを克服しないと戻れないと?」
 宮本はこれでは堂々回りだと思った。
 しかし、意外な言葉が鬼柳から返ってきた。
「いや、そういう訳じゃない」
 イアソンの事は怒っている。
 今でも許せないと思っているが、克服しなかった訳ではない。前程考えなくなっていた。
 それは透耶が一緒に泣いてくれたから。
 それだけで、鬼柳は傷を癒されていた。
「克服はしたのか……あの少年のお陰か」
 克服出来たのは、透耶のお陰なのだろうと宮本は思った。
 だからこそ、鬼柳は透耶を手放したくないと思っていた。
 側を離れる事さえも。
 だが鬼柳から返ってきた答えは柔らかいものだった。
「透耶がいるだけでそれだけでいいんだ」
 本当にそれだけでいいという優しい顔をする。
 宮本はそんな鬼柳を見た事はなかった。
 こんなに優しい顔をして誰かの事を思うような男ではなかったのだが、この半年で鬼柳は変わってしまっていた。
「そんなに思ってるのか……本当にお前らしくない」
 宮本はそう呟いてしまった。
 鬼柳らしくない。
 何にも執着しない男だったのに、これ程までに穏やかになれるものなのかと思ってしまう。
「俺らしいって何だ?」
 鬼柳はそれが解らなくて首を傾げた。
 自分らしいと言えば、今の自分も自分である。
 らしいと言われてもさっぱりであった。
「1人を選ぶとは思わなかったんだよ。一生縁遠いと思ってたんだがな」
 宮本は正直に話した。
 この男を虜にするような人物などこの世にはいないのではないかとさえ思ってしまう程、鬼柳は他人に興味を覚えなかった。それだけに心配ではあったが、ここまで変わられると別 人に会っているような気分になってくるのだ。
 それがなんだか心地が悪い。
「俺だって変わる」
 鬼柳はそう答えた。
「そうだな、随分変わったよ」
 たった半年会わなかっただけで、ここまで変わられてしまっては、宮本も苦笑するしかなかった。
 本当に鬼柳の変わりようには驚かされていた。
「で、仕事には戻ろうとは思っているのか?」
 宮本は話を仕事の事に戻した。
 今日はその意志を確認したくて、偶然同じホテルで出会ったエドワードに鬼柳の行方を聞いたのである。
 偶然とは驚きであるが、鬼柳もまた京都にいるという事でここまで連れてきてもらった。
 半年経った。
 鬼柳を待つ時間としてはもう十分だと思ったのである。
 鬼柳は、宮本が話を戻した事で表情を堅くした。
 それから何か考えていたようで、暫くして口を開いた。
「……もう少し時間をくれ」
 鬼柳から出た言葉は仕事に対して否定する言葉ではなかった。
「戻るつもりはあるんだな」
 宮本は再度確認する。
 それに鬼柳は頷いて言った。
「ああ、それは考えている。ただ時間が欲しい」
 鬼柳はもう少し時間が欲しかった。
 急激に戻ると決めるには心の準備が出来てなかったからだ。
「時間が必要な事なのか?」
 宮本は確認をした。本当に鬼柳に戻る意志があるのかという事を。
 鬼柳は再度頷いて言う。
「透耶にちゃんと話をしたいんだ。心の準備が欲しい」
 鬼柳はそう言ってきた。
 宮本は驚いてしまう。
「そんなに慎重になる事なのか?」
 この男はこんなに慎重な男ではない。
 こういう事はすぐに決断する事が出来る男だったはずだ。それなのに、心の準備が欲しいと言われてしまった。
 それだけ透耶に心を砕いている証拠だ。
 仕事となると、そんな簡単にきめられない。離れれば何ヶ月も離れる事になってしまう。そうした不安が鬼柳の中にあるのだ。
「俺から……切り出すのが怖い」
 透耶は自分が決めた事なら了承してくれるだろう。ただ泣かれてしまったらと考えると不安になる。
 それだけ透耶の側を離れるという事には自分にも決断が必要だった。
「そんなに繊細になったのか!?」
「もともと繊細だ」
「何処がだ」
 嫌いな事なら嫌い。言う事はズケズケと言う性格のくせに、透耶の事に関してだけは弱くなってしまう男になっていた。
「……とにかく東京に戻ったら連絡する。それでいいよな」
 鬼柳はこれ以上この話はしたくないと話を打ち切ってきた。
 考えている事ではあるが、まだ時間が欲しい。もう少しだけという気持ちがあったからだ。
 宮本もそれ以上追求しようとは思わなかった。
 鬼柳に少しでも戻る意志があると確認出来たからだ。
「いいだろう。戻るつもりがあるなら、それで十分だ」
「……」
 鬼柳は黙って頭を下げた。
 宮本はそんな鬼柳に苦笑してしまった。
 鬼柳は随分変わってしまったが、それは悪い意味ではない。
 人間としてあるべきモノを手に入れた姿だった。
 その変化は長年鬼柳を見てきた宮本には嬉しい事だった。
「それより彼を紹介してくれないか?」
 宮本は立ち上がって透耶を指差すと鬼柳にそう言った。
 あからさまに嫌な顔をする鬼柳。
「何でだ」
 本当に嫌そうな顔をするので、宮本は面白くなってしまう。
「いいじゃないか。ほら不安そうに見てるぞ」
 宮本がそう言ったので、鬼柳が透耶を振り返ると、透耶は不安そうな顔でこっちを見ていた。
 エドワードから、宮本が何者であるのかを聞いたのだろう。どうなっているのかと本当に心配している。
 鬼柳は溜息を吐いて頷いた。
「……解った」




 話し合いが終わったのか、宮本が立ち上がり、更に鬼柳も立ち上がって戻ってくるようだった。
 透耶は少しホッとしてしまった。
 宮本が何者か解った時、来るべき時が来たのだと思ったが、同時に不安になった。
 離れる事は覚悟していても、いきなり宮本が登場した事で送りだそうとする心が少し揺らいでしまったからだ。
 二人は、透耶達の前にやってくると、鬼柳から宮本を紹介した。
「透耶、宮本だ」
 嫌そうに簡単な説明しかしない鬼柳。
 エドワードと宮本は苦笑してしまう。
 宮本は不安そうな顔をしている透耶を見つめて笑って自己紹介をした。
「やあ、透耶君。私は宮本雅彦という、ちょっとしたカメラマンです。宜しく」
 そう言って宮本は握手を求めてきた。
 透耶は慌てて自己紹介をしてその手を握り返した。  
「こんばんは、榎木津透耶です。宜しくお願いします」
 不安はなくなったのか、いつも通りにニコリとして笑って挨拶が出来た。
 それを見た宮本は透耶に好感が持てた。
 こうやって鬼柳を癒してきた少年である。特別に見てしまうのは仕方のない事だった。
「可愛いね。オジサンと食事なんかどうだい?」
「はい?」
 いきなり、宮本がそんな事を言い出したので、透耶はキョトンとしてしまう。
 オジサンって……食事?
 話が透耶の想像もしてなかった所に行ってしまったので、透耶は唖然としてしまった。
 すると、握手していた手を鬼柳が無理矢理引き離した。
「てめぇ、口説いてんじゃねぇよ」
 宮本に向かって牙を剥く。
「何を言う。そういうお前も口説いたんだろ?」
「そういう問題じゃねぇんだよ」
「まったく、昔から変わらないな。気に入ったものは触らせないしな」
「なんの話だ!」
 ……へえ、気に入ったモノは触らせないんだ。
 初耳~。
 とんでもない話になってきて透耶は少し面白くなってしまった。宮本は透耶が知らない鬼柳を知っている人物である。
 色んな事を知っていて今の鬼柳をみてからかっているのは明らかだったが、少し楽しかった。
 宮本が透耶の頭を撫でようとすると、直ぐさま鬼柳が透耶を抱き寄せて宮本から透耶を引き離した。
「触るなって!」
「減るもんじゃないのにな」
「減る!」
 ……減らないと思うんだけど?
 なんか変な雰囲気だったのに、この和やかさは何?
 透耶は更に混乱してしまう。
「じゃ、食事はまたにしよう」
「うるせえな」
 鬼柳が宮本に英語で文句を言い出した時、エドワードが透耶の肩を叩いた。
「透耶」
「はい?」
 透耶がエドワードを振り返るとエドワードがこっそりと手の中に何かを手渡してきた。
「これ、宮本からだ」
 渡されたのは小さなメモ。
「何ですか?」
 透耶はこれは鬼柳に聞かれてはならない事だと思い、こっそりとエドワードに尋ねた。
「後で連絡が欲しいそうだ」
「解りました」
 何で連絡が欲しいのかは透耶には解っていた。
 きっと言われる事は決まっている。
 それなら都合はいいと透耶は思った。
 この人が最後に背中を押してくれる人なのだと透耶は思ったからだ。




 部屋に戻ると、さっそくとばかりに鬼柳が透耶を風呂に誘う。
 仕方ないので一緒に入る事にする透耶。
 さっきの宮本の話をしたくなさそうだったので、それに付き合う事にした。
「Hなしだからね」
 と念を押しておく。
「しないって」
 笑って鬼柳は答えながら透耶の服を脱がして行く。
 それが楽しいとばかりの動作に、透耶は苦笑してされるがままになってしまう。
 脱がせ終わると抱えられるようにしてお風呂に入った。
 何から何までやってあげたいとばかりに、鬼柳は透耶の身体も悪戯をせずに洗って行く。
「そんなの楽しいの?」
「楽しい~」
 鬼柳はそう言って念入りに透耶の身体を洗って行く。
 流し終わると先に透耶を湯舟に入れて、自分の身体を適当に洗っている。
 その身体には、殴られた痕がまだ残っている。
 透耶はそれをちょっと触って聞いた。
「それ、まだ痛い?」
「ん? 痛くないよ」
「顔は?」
 顔にははっきりと殴られたという痕が残っている。
 鬼柳の頬の傷を触りながら透耶は聞いてくる。
 余程心配しているようで、鬼柳も苦笑してしまう。
「口の中切れたからちょっと痛いかな?」
 そう答えたら、透耶はさっと顔色を変えてしまう。
「今は痛くないよ」
 そう言って透耶の頭を撫でると透耶はホッとした顔をする。その変化を鬼柳は楽しんでいた。
 本当に自分は大切にされているのだと思えたからだ。
 ざっと湯を浴びて、透耶を膝に乗せて湯舟に浸かる。
 そうして透耶の髪を撫でてやると透耶はうっとりした顔をする。気持ちがいいという証拠だ。
 Hしないと言ったが、どうもHしたい気分になってきた鬼柳。
 透耶の前に手を伸ばしてさっと前を掴んで扱いてみる。
「や! Hしないっっ!いっやっ!」
 気持ち良さに浸っていた透耶が我に返る。
 だが扱いてくる鬼柳の手は止まらない。
 そのまま反応してしまう透耶。
「あっ……んっ!」
「透耶……」
 耳元囁いて耳を噛むと透耶自身も一層反応する。
 ゆっくりと孔に忍び込んでゆっくりと指を忍び込ませる。
「んんっ……はっ……あぁ」
 もう透耶から否定の言葉は出ない。
 その行為に夢中になってくれる。
 鬼柳もゆっくりとした動作で透耶の身体を開いていく。
 十分に解れてきた所で鬼柳は透耶の身体を正面に向き合わせてゆっくりと己を侵入させた。
「はんっ……んっ!」
 透耶も受け入れようとしてゆっくりと息を吐きながら鬼柳を受け入れて行く。
 全てが収まった所で透耶は、はあっと息を吐いて、鬼柳にもたれかかった。
「はっ……あ……ん」
「透耶色っぽい」
「ん……何言って……」
 受け入れているだけでも精一杯なのに、鬼柳は急激に腰を突き上げてくる。
「あ! あっ!んっ!」
 透耶が甘い声をあげるのに満足して、鬼柳は夢中になって透耶の身体をまさぐった。
 透耶はただ快感に溺れるだけになってしまう。
 鬼柳がキスを求めてくると透耶も応じる。
「あっ……もう……」
「一緒に……」
「あっああ!!」
「んっ……!」
 透耶が達すると同時に鬼柳も透耶の中に放った。
「はぁはぁ……ん……」
 達した透耶は鬼柳にもたれ掛かってぐったりとしている。
 鬼柳は満足して透耶の顔中にキスをする。
「最高……」
「もう……Hしないって言ったのに……」
 ……もうしたい時には絶対するんだから……。
 透耶はもう起き上がる力もなくて怒る気力もなくなっていた。
「だって透耶色っぽいんだもん」
 ……何言ってんだホントにもう……。
 色っぽいからいきなりセックスに持ち込むのは変だと思う透耶である。
 鬼柳は上機嫌でぐったりした透耶を抱えて風呂を出てバスローブなどを着せて寝室へと戻って行く。
 透耶はもう何もする気がなくてされるがまま。
 髪を拭いたりするのも鬼柳は楽しそうにしている。
 でも、宮本との話はそこでは一度として出なかった。
 透耶もそれについて聞く事が出来なかったのである。

感想



選択式


メッセージは文字まで、同一IPアドレスからの送信は一日回まで