透耶がキョトンとしていると、綾乃が腕を引っ張って座るように言った。
綾乃は、年齢詐称の事は、まさに透耶が言った通り、中身の事を言っているのは解っていた。それを話を聞いてなかった透耶がすんなり答えてしまったので、ここまで以心伝心なのかと、呆れていただけなのである。
それからピアノの事を話していると、いきなり鬼柳が変な声を出した。
「げ、じじい」
鬼柳がこんな事を言い出したので、透耶と綾乃が鬼柳を見る。
「じじいって?」
綾乃がそう言ったが、透耶には思い当たるじじいがいる。
「まさか」
鬼柳の視線が自分達の後ろにあるので、二人が振り返ると、そこにはそのじじいが立っていた。
思わず透耶は立ち上がってしまう。
『Long time no see. Toya.(やあ、透耶久しぶりだね)』
そう言ったのは、我が道を突き進む、あのジョージ・ハーグスリーヴだった。
『Why are you here. George? (ジョージさん、何で?)』
透耶は驚いてそう聞いてしまう。
こんな所でジョージに会うとは透耶は思ってもみなかったのだ。
『To hear Ayano play the piano.(何をって、綾乃の演奏を聴きにきたんだよ)』
ジョージはニコリとして答えた。
『Which means…(え? それって)』
学内のコンクールでどうしてジョージが聴きに来られるのか。それが透耶が驚く理由。
『She invited me.(呼ばれたんだよ、綾乃に)』
ジョージがそう答えると、透耶と鬼柳が綾乃を凝視する。
「お前ら、いつの間に」
「仲良くなったの?」
透耶と鬼柳が同時に言うと、綾乃はキョトンとする。
「は?」
何がどうなって、仲良しなんだ?
英語が解らない綾乃には、何がどうなってそういう話になったのか流れがさっぱりである。
鬼柳が通訳してやると、綾乃はああっと笑ってしまう。
「うんとね。ジョージさんにパトロンになって貰った」
綾乃がそう答えると鬼柳が。
「援助交際とかいうヤツか?」
と真剣に言うので、透耶と綾乃が二人で殴る。
「そんな訳ないでしょ!」
「どうしてそっちにいくかなぁ」
透耶と綾乃が呆れていると、ジョージが鬼柳に説明をしている。
ジョージは、鬼柳が何を言ったのかは解らないが、明らかにパトロンの意味を履き違えているのは理解出来ていたので、英語で説明をしたのだ。
その説明を聞いて、透耶は首を傾げた。
『But. how come?(でも、どうしてジョージさんが?)』
透耶がそう聞くと、ジョージは答えた。
『When I heard her play the piano the other day. I got to like her sound.It was quite similar to yours. and beautiful.(この間の綾乃の演奏を聞いて、私の好きな音だったのでね。あれは透耶のに似てい る。いい音だ)』
ジョージは本気でそう思っていた。
ただ、透耶に関わりたいから綾乃を構うのではなく、純粋に綾乃の音に感動したからだった。
『I see. You did it well. Ayano.(そっか。綾乃ちゃん、すごいなあ)』
そう言って綾乃を見ると、綾乃は鬼柳の隣に席を移して、通訳をしてもらっている。
『Today’s performance must be great too.(今日はとても楽しみです)』
透耶がニコリと微笑むと、ジョージまで微笑んでしまう。
ニコニコなジョージを見て、透耶はハッと思い出した。
『Oh. George.As for the piano you sent to me. I can’t keep it.(あ、そうだ。ジョージさん、ピアノの事何ですけど。あれはやっぱり貰えません)』
透耶はそう言った。
すると、ジョージの顔色が変わる。
ガシッと両肩を掴まれてしまう。ジョージの表情は真剣で、透耶は目を見開いてしまう。
『Is it something wrong?(もしかして欠陥品だったのか?)』
『Not at all.I am saying….(いえ、そうではなくて)』
『Don’t you like its sound?(音が気に入らないとか?)』
『Yes. I like it. I am just….(そうでもなくて…)』
『I thought you do.That piano really sings. I couldn’t help buying it at the moment I heard its sound. believing it was made just for you. (そうだろ? あれは素晴らしい音を出すぞ。あれを聞いた瞬間に、これは透耶の為 にあるのだと確信して、即座に買ったものなんだ)』
『Well. I am pleased to hear that. but….(えっと、それは嬉しいんですけど)』
『So. you like it.Good. (じゃ、気に入ってはいるんだね?)』
『Sure I do. but…(それは、気に入ってますが)』
『Then. there’s no problem. right?(問題は何もないだろ?)』
『No.But I am not talking about such problems.(いえ、そういう問題ではなくてですね)』
『Don’t bother. then.」Let her sing. (気にする事はない。しっかりあれを弾きこなしてくれ)』
透耶が話を全部する前に、次々にジョージが畳み掛けるように話すものだから、肝心の理由が言えない。
えっと、ジョージさん、俺の話最後まで聞いて下さいー。
透耶の負け。
困り果てた透耶が鬼柳を見てしまう。
正直なんて言えば通じるんだろう?という相談でもある。
『Hey. he is talking about the money you spent on it.He thinks it is too expensive for a housewarming.(じじい、透耶は金額の問題を言ってるんだ。あんな高いものは貰えねぇって』
鬼柳が手助けすると、ジョージは何かを思い付いたように、手を打った。
『OK. then. You have the piano. but you use it with Ayano. How about this?(それでは、こうしよう。あれは透耶にあげるが、あれは綾乃と共同で使って欲し い)』
ジョージのこの発言に透耶はキョトンとしてしまう。
『Pardon? (は?)』
……どういう事?
『She can’t practice on the good piano here.I want to let her use a good piano even from time to time.What do you think? (つまり、ここでは大したピアノで練習は出来ないだろ? 時々でも綾乃にはいい音 がするピアノを触らせてやりたいんだが、それでどうだろうか?)』
ジョージの提案に透耶は、真剣に考える。
『It is a good idea.These pianos here are for practice. and they use good pianos for the competition.It is useful to know the good one. That’s for sure. (確かにそうですね。ここは練習用ですし、本番ではいいピアノを使ったりしますし ね。音のいいのも知っておくのも練習にはなります)』
透耶はそう答えてしまう。
ピアノの事、自分の事はどうでもいいのだが、綾乃が絡んでいるとなると、真剣に考えてしまうのだ。
『In this way. Ayano can sometimes visit you. ask you for some advice. It is like killing two birds with one stone.(それなら、透耶の家に綾乃が時々訪ねれば、透耶にも練習を聞いて貰えて、一石二 鳥だ)』
ジョージは名案だろうと頷きながらそう言った。
『Indeed.I agree with you.(そうですね、それならいいですけど)』
正直、綾乃の成長していく姿を見るのは透耶にはとても頼もしいものである。それが目の前で聴けるとなれば、文句どころか感謝したいくらになってしまう。
ピアノは、透耶が時々、しかも一日一時間くらいしか触ってやれない。
だから、あれ程高級品でなくてもいいのだが、綾乃が弾くとなれば、一番いいピアノで練習させてやりたくなる。
結局の所、気持ち的にはジョージと変わらない。
『So. everything is going OK about piano.(じゃ、ピアノの問題は解決だな)』
ジョージがそう言ったので、透耶はうん?っと首を傾げてしまう。
ん? 何か間違ってない? 俺……。
それを通訳して貰って聞いていた綾乃が鬼柳に呟く。
「先生、思いっきり策略にはまってる」
「まあ、透耶はああいうのが無茶苦茶可愛いんだけどな」
鬼柳は、まだジョージの罠にハマったという事に気が付かないで、首を傾げている透耶を見ながらそう言い放つ。
「惚気をどうも」
綾乃はすっかり呆れ顔。
しかし、内心、可愛いけどね。と思ってしまっていた。
「で、あたしが行ってもいいの?」
綾乃はそう聞いていた。
今のは、ジョージが提案したモノではあるが、綾乃は、二人の家に遊びに行ける事と、透耶にピアノの音を確認して貰えるという、一つはジョージと同じ考えで、一つはただの我侭だった。
だから、しっかりした方の家主である鬼柳に確認したのだ。
「来ないつもりか?」
鬼柳はキョトンとして綾乃を見ている。
この言い方では、もう綾乃は来る事になっているらしい。
「行く!」
綾乃は思わず手を上げてしまう。
このチャンス逃してなるモノか!という所である。
「来る時は電話しろ。迎えに行ってやる」
鬼柳はこれは当然だとばかりに付け足して言った。
「うん、解った」
綾乃は返事をしてニコリと微笑む。
「そういや、なんでじじいがパトロンなんだ?」
いまいち、音がどうとか言われても、鬼柳は綾乃の音を知らない。
あのジョージが絡むなら、何か他にも理由があるんじゃないかと疑っている。
打算なしにして、ジョージが動くとは思えないからだ。
こういう所は、企業家としてのジョージを知っている鬼柳の考えだ。
「よく解らないのよ。コンクールに来てくれるって言ったのは冗談だって思ってたのに、本当に来てたのよ。あの、ウィリアムズさんを通 訳にして、いきなり言い出して」
「押し切られたと」
鬼柳が綾乃の言葉を引き継いでそう言うと、綾乃はあははと笑ってしまう。
透耶の事は言えないという状況だ。しっかりあの勢いにやられてしまっているからだ。
「その通り……先生が負けるのは解るけど、あたしも負けた訳。でもねえ、英語がしっかり喋れたら断われたかもと今思ってる」
通訳であるヘンリーがいたのに、通訳になってなかったのである。
というのも、ジョージが話す事は、全てジョージがパトロンになっている事を条件に話が進められてしまっていたからだ。
しかも、ジョージは自分が言いたい事だけさっさと言うと帰ってしまうし、後日、正式な書類を持った秘書が現れ、綾乃が断る訳にはいかない状況になってしまっていたのである。
だから、英語さえ理解出来ていれば、そうなる前に少しは反論出来たはずなのだ。
「まだ習い初めか?」
鬼柳がそう聞いた。
「そう、お陰でしっかり勉強する気になっちゃって、今度の期末試験、ばっちりかもね」
綾乃は俄然やる気になっている。
いずれは必要だろうから覚えておくのに越した事はないが、今はジョージの暴走に対抗出来るだけの言語が欲しいというところが本音である。
「基礎が入ってりゃ、日常会話くらいできるようになる。透耶の覚え方も、そんなもんだ」
意図も簡単に鬼柳が言ったので、綾乃はジロリと鬼柳を睨む。
「先生は特殊よ。習った事は引き出しにきっちり入ってるんだもん。普通の人が忘れちゃうような事でも、習った事は忘れちゃいけないとでも思ってるみたいに、ちゃーんと綺麗にしまってあるのよ。そうじゃなきゃ、たった二ヶ月くらいで、あんなに喋れるようになるわけないもん」
透耶は特殊で、異常であると綾乃はいいたいのだ。
「そうなのか?」
鬼柳は、やる気さえあれば、透耶くらいには覚えられるものだと思っていたらしい。
「一応、音楽科って、学校の英語の授業以上の日常会話くらい出来る基礎は習うのよ。留学する人もいるしね。先生はそういうのが入ってるけど、使わなかっただけ。まぁ興味なきゃ覚えられないものだけど」
ジョージのお陰で、今後の綾乃の英語の試験は問題ないと思われる。
「ふーん」
鬼柳はそれを聞いて、ふむと考えしまった。
透耶も忙し過ぎるが、綾乃も忙しすぎる。
二人とも休養が必要だ。
綾乃は夏休みに入れば、ピアノ三昧だろうし、透耶は更に忙しくなってしまう。
なんだが、これはどうにかしてやらないといけない気がしてしまう鬼柳である。
学内コンクールは、留学して行く生徒の為に開かれるようなもので、綾乃は前回のコンクールで2位 だったのもあり、かなり後の方の出番になっていた。
透耶は全ての演奏に聴き入っていたが、鬼柳は興味がないので、綾乃の順番近くまで喫煙出来る場所に避難していた。
正直な所、透耶の音を知っているだけに、他の人の演奏は聞くに堪えないらしい。
『It says that she’s gonna play the one she played before.(今回は、前のモノをやるらしいね)』
入り口で貰ったパンフレットを見て、ジョージがそう言った。
『Is that the Aria? Good.I have wanted to listen to it. since I didn’t last time.(じゃ、「アリア」ですか? 良かった、俺、ちゃんと聴いてないからどうだったの か気になってて)』
透耶は、前に聞きそびれた事を気にしていたので、今日は本当に来て良かったと思ってしまった。
『Anyway. what is your favorite number?(そういえば、透耶が得意な曲は何だい?)』
不意にジョージがそう言ってきたので、透耶はうーんと考えてしまう。
『Me? The one by Liszt.It is not really a favorite though.I just play it often.(俺ですか? 得意というかよく弾くのは、「リスト」ですね)』
……恭がクラシック詳しくないから、片っ端から弾いてるんだけど。
透耶は、鬼柳がリクエストをしやすいように、毎日色んな曲を弾いていた。
その中で鬼柳が気に入った曲をリストにしてあるくらいだ。
『Why is it so?(何故、「リスト」なんだい?)』
透耶がジョージの前で弾いた曲は、リストの曲しか弾いていない。
何故と聞かれて、透耶は笑いながら言った。
『Kyo likes his Campanella and Mazzepa.Except them. he likes polonaises(恭が好きなんですよ。カンパネラとかマゼッパとか、リスト以外ではポロネーズ 系)』
『Difficult ones. aren’t they? (難曲ばかりだね…)』
また、鬼柳もそんな曲ばかり弾かせているとは。
ジョージは、苦笑してしまう。
『Exactly.Of all things. he comes to like them.He seems to lead me into a trap.(そうなんですよ、よりにもよって、難曲ばかり好きになるんですよ。一瞬、罠かな あとか思ったりします)』
透耶がそんな事を言い出したので、ジョージは聞き返した。
『A trap?(罠って?)』
『Say. he. actually understands about classical music. and makes me play only the difficult ones.(本当はクラシックに詳しくて、俺に難曲ばかり弾かせてるんじゃないかと)』
透耶が真剣にそう言うと、ジョージがグッと笑いを押さえる。
鬼柳はクラシックを知らないからこそ、簡単に難曲をリクエストしているだけなのだ。
透耶が困惑していると、鬼柳は舌打ちをした。
訳が解らないという顔をしているので、透耶が自分で何を口走ったのかを覚えてないと鬼柳はすぐに解った。
……まだ昔、それもこの場所が透耶を縛り付けている。
鬼柳は。透耶の顎を掴むと食らい付くように透耶にキスをした。
「……んっ!」
まさか、ここで鬼柳がこんな事をしだすとは思いもしなかったので、透耶には防ぐ事が出来なかった。
しかも、こうなった以上、抵抗しても無駄。
だんだんと頭が真っ白になってしまい、さっきまで考えてた事さえ忘れてしまう。
自然と鬼柳に答えてしまう。
その答えが返ってきた事で、鬼柳は安堵する。
透耶が混乱している時は、一度頭の回転を止める為に、透耶が思いも寄らない事をしてやるのが一番効果 があると鬼柳はこれまでの事で解っていた。
だが、その周りにいた人々は呆気に取られている。
高城は真っ白。
生徒達も呆然として見ている。
ジョージは呆れた顔でそれを見て、溜息を吐いている。
「ん……はぁ……」
唇がやっと離れると、透耶は全身の力が抜けて崩れそうになる。
「おっと、悪い。つい本気でやっちまった」
鬼柳はちっとも悪いとは思ってない表情で、透耶を支えると額にもキスをする。
完全に抵抗する気力もない透耶は、うっとりしたままで鬼柳を見上げている。
それが無意識に誘っているような表情なので、鬼柳もそれに流されそうになってしまう。
もうちょっとキスくらいいいよなあ、とか思いながらまたキスをしようとした時、後ろから頭を殴られた。
「たっ!」
いきなり殴られたので鬼柳が振り返ると、そこに綾乃が凄い形相で仁王立ちしていた。
「欲情すんな、エロ魔人が! ここ何処だと思ってんのよ!」
綾乃が怒鳴る。
物凄い怒っていることだけは解る。
「……綾乃、殴ることはないだろ?」
ここが何処だって関係ないとは続けて言えなかった鬼柳。
「殴らなきゃ止まらないでしょ。ほら、先生もそんな顔してないで、正気に戻る!」
綾乃は持っていたパンフレットで、軽く透耶の頭も叩く。
「え? あれ? 綾乃ちゃん……?」
正気に戻った透耶はキョトンとして綾乃を見る。
綾乃は盛大な溜息を洩らした。
「どうなってこうなったのか聴かないけど、この土偶達はどうすんのよ」
「土偶?」
透耶がそう問い返すと、綾乃が指を差す。
そこには、口を開けて目を見開いたまま固まっている人達がいた。
それこそ土偶だ。
「どうしよう……この隙に逃げちゃ駄目かな?」
透耶が真剣にそう言うので、綾乃はずっこけそうになる。
「先生が逃げても、あたし逃げられないんだけど?」
当然とばっちりは綾乃に集中する。
さすがに逃げる訳にはいかなくなって、透耶はどうしようと考え込んでしまう。
……これをどう説明すればいいんだろう?
『Ah- huh. It should be admired. the way to maneuver him into playing.(ふむ。相手を弾かなきゃいけない状況に持っていこうと画策したのは見事と言お う)』
ジョージがいきなりそう言った。
その言葉で高城が我に返る。
高城は英語が出来るから、ジョージの言葉に反応出来たのだ。
『Even if you provoke him to. I hardly believe he can give you his best tune.(しかし、苛立たせたり挑発したりして弾かせたところで、最高の音が出るとは思え ないんだが)』
ジョージはそれくらいも解ってないのかという風に言っていた。
しかし、それで怯む高城ではなかった。
『With all his gift. don’t you think that he’s wasting it?(あれだけの音を持っていながら、勿体無いとは思わないのですか?!)』
高城は、高城でこだわりがあるらしいのだが、ある意味透耶の音に惑わされている一人でもある。
あの音で狂いはしなかったが、あれ以上の音を超える事だけを目指してきた。
あれから自分は認められた。
そして音の持ち主の噂はパタリと消えた。
だから、自分はあれを超えたのだと思っていた。
それが、そうではなかった。
音の持ち主は、あれ以上の音を完成させて目の前に現れた。
そしてその人物は、ピアノを辞めていた。
再度弾き始めた理由すら気に入らない。
昔から、あの音の持ち主は、そうした事に興味を示さない。
それが気に入らない。
いっそ、断われないくらいに持っていけば、ここで再度弾かせる事が出来れば、誰もが注目して、本人も我侭を言ってられなくなるだろうと思った。
そう思って透耶を本気にさせようとしたのだ。
ジョージは呆れたように高城を見て言った。
『It is not matter of wasting or not. I am saying that it would mean nothing without his intention.You are taking a wrong method. It just makes Toya more hardheaded. (勿体無い、なくないの問題ではない。本人にやる意志がなければ意味がないと言っ ているのだ。君はやり方を間違えている。これでは透耶は余計に頑な態度を貫くだけ だ)』
ジョージがそう言うと、高城は黙ってしまう。
透耶はジョージが高城を説得してくれたのだと思って嬉しくなってしまう。
だが、しかし、ジョージである。
この後ジョージが言葉を付け足した。
『If you want him to play. first of all. ask this guy.(透耶に弾かせたいなら、まず、これに頼むべきだ)』
ジョージがこれと言ったのは鬼柳の事。
透耶も鬼柳も綾乃も、高城までもが。
「は?」
と、もう一度聞き返してしまった。
『Toya insists on playing only under him.So. you ask him first.That’s a logical sequence. See? You pushed a wrong button. (透耶は、鬼柳のリクエストでしか弾かないと言っているんだ。だったら鬼柳の方に 話を通すのが筋だろ? うん、君はやり方を間違えてるよ)』
ジョージはにっこりしてそう言い切った。
あんた……違うよ。
間違ってる、意味が違うよ。
てか、さっきまでの台詞、全部台無しじゃん。
全員の頭の中にこの言葉が浮かんでいた。
全員が呆然としている中、鬼柳一人だけがすぐに復活した。
『Son of a bitch! You just want to listen to it!(じじい! てめぇ! 自分が聴きたいだけだろ!)』
鬼柳がそう怒鳴ると、ジョージは涼しい顔をしている。
『Of course I do. What do you think I gave him the piano for?(そんなのは当り前だ。なんの為にピアノをプレゼントしたと思ってる)』
やはり、ジョージの目的は、自分がプレゼントしたピアノで透耶に弾いてもらい、それを聞くのが目的だったのだ。
『After all. that’s what you have been thinking!(やっぱりそれが目的か!)』
薄々それはあるだろうと鬼柳は思っていたので、叫んでしまう。
『What other purpose do you think I have? Though I won’t deny having expected to hear Toya say “I really like you. George!”. which was a shallow thought.I didn’t take his nature into consideration.Nor had I imagined his declining my present.(それ以外になんの目的があるというのだ。まあ、透耶に「ジョージさん大好きー」 とか言って貰いたかったのもあるが。いかんな、透耶の性格を考慮してなかった よ。まさか、貰えないと言われるとは思わなかったんでね)』
ジョージは悪びれる事もなく、あっけらかんと言い放つ。
ジョージの誤算は、透耶が貰いものとして、高価なモノを簡単に受け取らない性格である事を見過ごしていた事にあるだろう。
まあ、押し切ってしまえば、透耶は混乱して結局受け取る羽目になってしまうのだが。
『Don’t be ridiculous!(ふざけんな!)』
鬼柳が尚も叫ぶ。
すると、ジョージはまったく平気な顔で、鬼柳に言った。
『Then. would you mind my enjoying his performance?(それで、聴かせて貰っても構わないだろうか?)』
『At home. if you are craving for it.I will never let him play outside!(そんなに聴きたきゃ、家に帰ってからだ! 外でなんか弾かせるものか!)』
鬼柳はそう叫んでハッとした。
ジョージはニヤリとして笑い、透耶に向かってニコリとして言う。
『Deal.Let’s hurry to his house. Ayano. you come with us. too.(というわけだ。じゃ、さっそく透耶の家に行こう。綾乃も一緒に来るといい)』
それからジョージは高城の方を向いて言った。
『If you want to as well. do so.(君も来たければ、一緒に来たまえ)』
ジョージにそう言われて、高城は慌てて行くと答えてしまった。
勝手に話を纏めて行ってしまったジョージ。
高城も、何がなんだか解らないまま、ジョージに連れて行かれてしまう。
残された人々は、目の前で繰り広げられた英語の会話が解らず、呆然としたまま。
周りにいた人も、何がなんだか解らないまま、取り残された3人を見ていた。
その中でこの会話の内容を知っているのは透耶だけである。
鬼柳は透耶の方を向いて、しょんぼりとしてしまっている。
「ごめん、透耶」
ジョージに乗せられて勝手に言ってしまったから、透耶が怒るかもしれないと思っているのだ。
そんな鬼柳を見て、透耶は笑ってしまう。
「いいよ。ジョージさんが言い出したらどうにも出来ないし」
透耶がニコリとして言うと、鬼柳は縋りついてくる。
透耶はニコニコして鬼柳の頭を撫でる。
なんか、叱られると思って落ち込んでる犬みたい……。