「透耶、ピアノどうする?」
どうしても、これだけが揃わなかった事を鬼柳は凄く気にしていて、始終こればかりを言うようになっていた。
「んー、どうしようかなあ。こうなったら工場まで行った方がいいかもしれない」
ここまで粘ってしまったから、買うならそれがイイだろうと透耶は思っていた。
「工場まで行くのか?」
そこまでして買うものなのかと鬼柳は驚いてしまう。
「市販じゃ、合うのがあるか解らないし、直販の方が注文つけやすいんだよ。台数もあるし、弾き比べが出来るから」
透耶がそう言っていると、透耶の携帯が鳴った。
見ると、新居からの電話だった。
「宝田さんかなあ?」
呟いて出ると、やはり宝田だった。
「え? ハーグリーヴス氏? ああジョージさんが電話してきた? 何で電話番号知ってるの?」
意外な人からの電話があった事と、折り返し電話を掛けるように言われたと報告された。
「んん? 何だ?」
さっぱり訳が解らないが、取り合えず言われた番号に掛けてみる。
『This is Toya speaking.(こんにちは、透耶です)』
と透耶が名乗るや否や。
『Long time no see. Toya.I am sorry but I have no time to talk to you. so I am going to be brief. I guess you are tied up with moving to your new house. well. I wish you great happiness. I was thinking about sending you some present. and I came across something rare. so I sent it to you right away. It will reach you around today.I hope you like it.If you have the same one. you can send it back. Oh. and as for lunch. let’s have one with Ayano next week.I am looking forward to seeing you.So long. (久しぶりだね、透耶。すまないがこちらは時間がなくてね、用件だけ伝えるよ。新居への引っ越しで忙しいと思うが、取り合えず、おめでとう。引っ越し祝いに何かを送ろうと思って、珍しいものが手に入ったので、さっそく送らせて貰ったよ。今日辺りに届くはずだから、使ってくれると嬉しい。もし同じものがあるなら送り返してくれても構わない。食事は来週綾乃と一緒に食べよう。じゃあ、会うのを楽しみにしているよ)』
ジョージが一気に喋り、一方的に用件だけ述べて電話は切れてしまう。
「え! ジョージさん!」
透耶が呼び止めようにも既に電話は切れている。
ジョージさーん、それはないんじゃない?
「相変わらずだ、ジョージさん」
パワフルジョージ、健在という感じだ。
透耶は携帯電話を握り締めて、グッタリしてしまう。
「何だって?」
「うーん、よく解らないけど、引っ越し祝いに何か送ったって事を言いたかったみたい」
結局何が言いたいのか解らなかった透耶である。
「何かって?」
「解らない、言ってくれなかったから。でも今日届くはずだって」
「大体、何で奴が新居の電話番号知ってんだ?」
新居の電話番号は、まだ誰にも教えていない。
「さあ?」
確かに謎である。
電話が通ったのは昨日。当然誰にもまだ教えていない。なのにジョージがかけてきたということは、誰かが教えたか、調べられたかのどちらしかないわけだ。
まあ、どちらにせよ、それに構っている暇はない。