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5日ぶりに部屋を出て居間へ降りた透耶は、子機を持って部屋を出ようとする知念と遭遇した。
「お久しぶりでございます。透耶様」
物凄く、刺が一杯な言葉に聞こえる。
「お、お久しぶりです……」
思わず小さくなってしまう透耶。
知念は透耶の顔色を見て微笑んだ。
鬼柳が無茶をしてなかったのは、透耶を見れば解る。
それから、続いて入ってきた鬼柳に言った。
「鬼柳様、綾乃様からお電話です」
知念にそう言われて鬼柳は子機を受け取った。
透耶は首を傾げながら、電話に出ている鬼柳を見上げた。
「どうした綾乃? は? 何?」
綾乃は何か支離滅裂な事を言い出して、鬼柳は眉を顰めている。
「落ち着けって。MDを聴かれた? バレたって何が? 高城? ピアニスト? ああ、謝るのはいいが、俺じゃ解らん。透耶に代わるぞ」
鬼柳はそう言って透耶に子機を差し出した。
「聞いてやってくれ」
「いいけど」
よく解らないままに透耶が電話を代わる。
「綾乃ちゃん、どうしたの?」
『先生、御免なさい。あたし、迂闊な事しちゃった』
帰った時の元気は何処へやら、綾乃は落ち込んだ声で謝ってくる。だが、透耶にはやはりさっぱり解らない。
「えーと、最初から話してくれる?」
透耶の呑気な言い方に安心した様に綾乃は話を整理した。
『……鬼柳さんにMD貰ったでしょ。あれを人に聴かせちゃったの』
「んー、俺、あの中身知らないんだけど」
サインはしたものの、結局あれが何だったのかは聞きそびれていた透耶である。
綾乃が何も言わなければ、透耶はあのまま忘れてしまっていた事だ。
『あれ、先生のピアノ弾いてた時の音なの。鬼柳さんが、録音してくれて、それをあたしにくれたの』
それでサインが必要だったのか、と透耶は納得した。
「はあ、なるほどねえ。それで?」
『あれを、学校の先生の車の中でかけてもらって、それで、その同乗者にピアニストの高城直道さんが一緒に乗ってて、先生だってバレたの』
ここが重要な事だったのだが、透耶は首を傾げて言った。
「高城? 誰それ?」
まったくもって意味がさっぱり。
『先生が学校行ってる時に、特別師事で来た事がある人。その、先生が高城さんに付きまとわれて、邪魔扱いして近付くの禁止させた、ウィーンで活躍している人』
そう言われて透耶は薄らと思い出した。
やたらしつこかった師事がいた事を。
だが、顔はすっかり忘れているし、それ以外はしつこかった事しか覚えていない。
「あー、あの人ねえ。まあ、聴かれた事は仕方ないよ」
『先生、怒ってない?』
「どうして? 別にバレた所でどうにもならないし、俺は気にしてないよ。綾乃ちゃんも気にしないでいいよ」
透耶は笑ってそう言った。
『……でも、折角鬼柳さんに分けて貰ったのに……あたし有頂天になって、先生、人に聴かせたくないって知ってるのに』
「MD取られた訳じゃないでしょ? 綾乃ちゃんが持ってるならいいよ」
『うん、御免なさい』
あまりに真剣に謝られると、透耶も何だか申し訳なってきた。
「大体、プロの人が聴いたら笑っちゃう音だしねえ。あんまり人に聴かせないで。綾乃ちゃんが恥をかくから」
笑って言って、最後は綾乃を心配する。
鬼柳に聴かせるのはいいとして、プロが聴いて耐えられる音ではないと透耶は思っている。
『……先生、それ本気で言ってるでしょ』
「は?」
意味が解らないという返事をする透耶に、綾乃は受話器の向こうでクスクス笑っている。
『ううん。先生、本当に御免なさい。ちゃんと、説明しておいたから。先生はただ一人の人の為にしか弾かない人だって』
ただ一人の人の為にしか弾かない。
この台詞を人から言われると、かなり恥ずかしいと透耶は自分の言葉の重要性に今頃気が付いた。
……なんか、俺、物凄い台詞吐いてるし。
「もう、解ったから。気にしない気にしない」
透耶が笑ってそう言っていると、鬼柳が言った。
「透耶、代わってくれ」
「あ、うん。鬼柳さんに代わるね」
透耶が電話を代わる。
「綾乃、あんまり落ち込むな。透耶がいいって言ってるんだから。それと、やっぱりいい事あった。ありがとうな」
鬼柳が綾乃に礼を言って電話は終わった。
子機を知念に渡していると、透耶は考え事をしながら居間のソファに座る。
鬼柳も追い掛けて、透耶に聞いた。
「高城って何者?」
真剣だ。
透耶は、もう高城の存在など忘れてたので、少し驚きながらも、鬼柳の要求に応じて一生懸命思い出していた。
「あ、うん、プロピアニスト。ウィーンで活躍してるらしいけど。昔、特別 師事として学校へ来た事があったんだ」
「ふーん、そいつが綾乃に何か言ったのか?」
なんか……綾乃ちゃんに何かあったら、高城って人に何かしそうなくらい真剣だよ……。
「よく解らないけど。MDの音聴かれたって事だけみたい。ああ、俺ってバレたって」
透耶は何でもない事のように言って、居間に置きっぱなしになっていたノートを取り上げて中を読む。
「透耶とそいつは何かあったのか?」
これも真剣。
本当に何かあったら、今からでも何かしに行きそうな勢いが感じられる。
「んー。あの人と俺はあまりにタイプが違い過ぎて、反りが合わなかったのを覚えてる」
「タイプ?」
「うーん。俺は別に誰かに聴いて貰うより、一人で黙々とやって自己満足するタイプ。あの人は、沢山の人に聴かせて認められて絶賛される事で喜ぶタイプ。だから、練習の仕方とか集中の仕方、基本的な考え方が違うわけ」
透耶が分かりやすいように説明すると鬼柳は納得した。
まったく正反対のタイプだった訳だ。
「なるほど。それで透耶は嫌われてたのか?」
「うーん、今は恨まれてるとは思うけど。前、話したよね、俺の音は人に聴かせるもんじゃないって」
「うん」
「だから、俺、クラスメイトの前じゃ弾かなかったんだ。練習室にいつも籠ってた。でも、その特別 授業で弾かされそうになったんで無視してやった」
今思い出しても嫌な事だったと言わんばかりの透耶。
「透耶らしくないな」
今の透耶なら、妥協して弾きそうな感じなのだが、昔と今は違う。
しかし、無視するほどだったのだから、何かあるとは鬼柳も感じた。
「言い方が嫌だったんだ。俺みたいに弾けばコンクール上位に入れるとか、訳解んない説明するわけ」
透耶は、今でも、それだけは許せない事だと思っていた。
「ははあー、そりゃ透耶怒るなあ」
鬼柳は思いっきり納得してしまう。
透耶はペンを手に取って何かを書き足しながら話を続けた。
「なんかねえ、お祖父様とか母さんの信者なんだよ、その人。相手してるのがバカバカしくなって無視決め込んだら、まあ熱血なのかなあ、しつこく弾けとか言ってきて、付きまとうから練習全然やらなかったんだ。
そしたらお祖父様に呼び出されるし、適当に邪魔だって言ったら近付かなくなったんだけど。あれ、禁止命令が出てたんだって。そりゃ恨まれてるだろうねえ、俺は。綾乃ちゃん、大丈夫かなあ? あの時、適当でも弾いてればよかったかもしれないなあ」
自分の事はどうでもいいので、それで綾乃に迷惑がかかる方が透耶は気になってしかたない。しかし、鬼柳はどうってことないと言った。
「綾乃は上手くやるだろう。あれでもあの歳にしちゃあ、しっかりしてるからな」
妙な所で綾乃を評価している鬼柳。
「確かにねえ。……それより、鬼柳さん、勝手に音取らないでよ」
透耶はやっと思い出した様に鬼柳の方を向いて言った。
「悪かった。もうやらない。怒ったか?」
さすがに無断はまずかったと反省している鬼柳。だが透耶は別の事を気にしているだけだった。
「怒ってないけど、取るなら取るって言ってくれないと。俺、ベラベラ喋ってんだよ、恥ずかしいじゃないか」
あの時何喋ったっけ?と思い返しても思い出せない。
意外だが、透耶なら言いそうな事でもあった。
ピアノの音なんかより、自分が喋った内容の方が気になるだけなのだ。
「言ったらいいのか?」
「それならいいよ。でも、どうするの、それ」
本当にそんなものどうするんだ?という顔だった。
「透耶が仕事してる時とか、構ってくれない時に聴く」
にっこり微笑まれて言い切られてしまうと透耶は呆れるしかない。
「何それ……」
まったく、予想もしない事をやってくれるよ……。
昼食を食べ終わった後、鬼柳がコーヒーと一緒に何かを持ってきてテーブルに置いた。
「透耶、これ。返しておく」
そう言って差し出されたのは、透耶の財布と携帯電話とシステム手帳だ。
今まで信用されず、隠されていた透耶の持ち物だ。
「え? いいの?」
透耶が見上げて言うと鬼柳が微笑んで言った。
「うん、だって透耶はもうずっと俺と一緒に居てくれるから」
逃亡防止は取り合えず解除されたらしい。
「ありがとう……」
しかし、今までこれをまったくと言っていい程必要としなかったのが不思議なくらいだ。
結構、俺って恵まれてたのかなあ?
などと感想が出てしまう。
携帯は充電してなかったので、バッテリーがピンチだ。
取り合えず、留守電とメールを呼び込んでみた。
「……何だこれ」
恐ろしい程のメールと留守電。
まず留守電を聞いてみると。
『透耶!何処にいるんだよ!一日一回義務電話忘れてんじゃねえ!』
光琉だ……。
後は怖くて聴けない。
メールを確認すると、方々から入っている。
光琉が圧倒的に多いが、当麻、京極、谷崎……。
ほぼクラスメイトからだ。
「これは全員に連絡しないといけないのかなあ……俺って無茶苦茶迷惑なやつだ」
透耶は呟いてしまう。
それにまだ他にも連絡をつけないといけない場所が数件ある。
「連絡するのか?」
隣に座って透耶の様子を見ていた鬼柳が言った。
「うん、これはさすがにマズイ。件数多いけど、屋敷ので掛けていいかな?」
透耶がそう言うと、鬼柳が居間の隣にある応接間に入っていって子機を持ってやってきた。
「ん、これ使えばいい」
「ありがとう。……さて、光琉は避けるとして……まず当麻だな」
透耶はそう呟いた。
携帯にメモリーしているナンバーを探し出して、まず当麻に電話をかける。三回呼び出し音がして相手が出た。
『はい、当麻です』
「もしもし、榎木津です。茜さん……」
いらっしゃいますか?は言えなかった。
『透耶!? 透耶でしょ! あんた何処に居んのよ! こっちがどうなってるのか解ってんのかよ! こら! ふざけんな!』
思わず電話を遠くに離してしまう透耶。
隣に居た鬼柳にもそれが聴こえていたので、びっくりしている。
「……怒りMAXって感じ?」
「うん、そりゃ一ヶ月も行方不明になってたらねえ……」
透耶はまだ怒っている当麻に釈明をしなくてならず、 当麻が怒鳴っている間にあれこれ言い訳を考えていた。
散々怒鳴って清々したのか当麻の声が落ち着いた。
『で、あんたは今何処にいるわけ?』
「えっと、沖縄です」
素直に居場所を喋る透耶。
『沖縄!? 何で! ちっ、そりゃ地元探してもいねえはずだ』
当麻が舌打ちをしている。
透耶が行方不明の間、随分捜しまわったようで、京都までも捜索対象になっていたらしいが、さすがに沖縄までは手が回らなかったようだ。
「うん、御免ね。ちょっと事情があって……」
『どういう事情があれば、一ヶ月も連絡しないで行方不明になれるわけ?』
「うーん、考えたい事があって」
まさか拉致られて誘拐されて、沖縄まで来たなんて、口が裂けても言えない。
『つまり、言いたくないって訳ね。あんたが言い淀む時は、自分の問題だからね。いい、それは聞かない。一応、編集者の手塚さんから無事って連絡あったから、どっかで生きてるとは思ったけどさ』
安堵したような溜息を吐いて当麻が当麻なりに納得している。
「うん、御免ね」
『電話をかけてくれたって事は、それは解決した訳ね。そうでしょ』
「うん」
『まあ、すっきりしちゃって。で、あたしがトップバッターでしょ?』
「あはははは、解る?」
相変わらず鋭いと透耶は思った。
『どーして、あたしがあんたら双子の仲を取り持たなきゃならないわけえ?』
「ううう、返す言葉がありません」
相手が見ないのに、透耶は頭を下げてしまう。
『取り合えず、こっちの現状は説明するわね。光琉は仕事はしてる。暴走は、あんたの新刊の時だけね』
「あー、あれは、やっぱ止められなかったんだ……」
あの情景を思い出して透耶が呟いた。
『見たなら話が早い。あれで捜索願だしたつもりなのよ。どこかで同じ顔見かけたら、連絡くれって冗談みたいに本気でラジオで喋ってたわよ。そうそう、双子だからかしら? いきなり光琉が沖縄行かなきゃとか呟いてたけどさ』
「は? 何だそれ?」
『よく解らないのよ。マネージャーさんの話だとタクシーでラジオ聴いてた時にいきなりそう言ったそうよ。で、沖縄行こうとしてたから皆で止めたけどさ。別 に光琉に似た人を見かけたとか、そういう事じゃなかったそうよ』
「何だろ? 俺も解らないや」
全然根拠はないのに、場所が当たっている辺りが恐ろしい。さすが光琉という所だろうか。
『まあ、それはいいとして。岩村さんから透耶の居場所を探す様に言われてたけど。あれだ、総会の話』
「あ、そっか、時期だった……」
透耶は慌ててシステム手帳を開いた。日にちを確認するとギリギリ間に合う。
『まだ少し先らしいけど、後で電話しておきなさい』
「はい」
『手塚さんから伝言。新人インタビューの話が来ているそうよ。他社は断わったらしいけど、自社はどうしても断われないから、何とか返事が欲しいそうよ。売れ行き好調で、編集長が大喜びして食事に誘いたいと言ってた。これは断わったから。印税の支払いはまだ先だけど、振り込みだから、光琉に口座番号調べさせて振り込み手続きしておいた。雑誌連載の話が上がってるらしいから、それは手塚さんと話してよ』
「うん、解った」
まるで透耶の秘書のように、全ての事柄を理解して処理している当麻。
本来なら、もっと言う事はあるだろうが、事前に処理をしてくれているから、伝える事は短くて済んでいる。
『で、いつ帰ってくる訳?』
一番肝心な事言われて透耶は言葉を失った。
「いつって、それは……」
俺だって解んないよ……。
チラリと根源を見ると、その根源は透耶のシステム手帳を真剣に見ている。
『あんた、誰かと一緒でしょ?』
「え!?」
鋭い指摘に透耶は驚いて動揺してしまう。
何で解るんだ……。
『ははあー、やっぱそうか。あんたが銀行口座での引き落としも、クレジットも使わないで、沖縄に行ける訳ないじゃないの。一ヶ月どうやっても所持金だけで、食べて寝る所確保出来るはずないしね。てっきり誘拐でもされたんじゃないかって思ったけど、身代金要求もないし、誰かと一緒でその人がお金を払ってるんだろうって思ってた』
誘拐も身代金も実際にあったんですけどね……。
しかも貢いで貰ってます、しっかり……。
そりゃ口座見張られてたら、どういう状況かある程度は解ってしまうものである。
妙に的を射ている言い方に透耶は更に動揺してしまう。
「え、まあ、その。一緒かな?」
誰とは言えないが……。
透耶がそう思っていると、当麻が決定的な言葉を言い放った。
『で、どんな男なわけ?』
ゴトン。
当麻の言葉に透耶は子機を落とした。
な、な、な、何で!?
何で、男って解るんだ!?
透耶はそのまま固まってしまった。
側で見ていた鬼柳が、不思議そうにそれを見てから、何か思い付いたように子機を拾って受話器に話し掛ける。
「Hello?」
そう言うと、電話の人物は一瞬言葉を失った。
『……え? 外国人? きゃー!京極!外国人が出た!』
電話の向こうで当麻の叫び声が聴こえる。
よく聴いていると、向こうでドタバタしているのが聞こえる。
『何叫んでんだ。透耶が英語喋る訳ないだろ? 相手だって日本語喋れるって。落ち着け当麻、挨拶だよ。……Hello。日本語でいいですよね』
いやに落ち着いた声の男が出た。
京極って……誰だ?と鬼柳は考えたが、透耶の話の中に出てこなかったよなあと、少し訝しんだ。
「構わんが」
鬼柳はよく解らないが対応する事にした。
『俺は京極と申します。じゃあ、貴方が透耶の相手なんですね』
ストレートに聞かれて、鬼柳はストレートに答えた。
「ああ、そうだが。透耶、固まってるぞ。何言った」
『一緒にいる相手が男かって聞いただけです』
京極の言葉に、鬼柳は納得してしまう。
喋ってないのに言い当てられたら、透耶じゃなくても固まるだろう。
「なるほど。で、他に何か用事があるか?」
『いつ東京へ戻るつもりなのか、それだけお聞きしたいです』
「そうだな……ゴールデンウィークが終われば、俺の用事も終わるから。その頃に戻る予定だ」
『では、帰ったら一回顔を見せるようにと伝えて下さい』
「解った」
鬼柳がそう言うと電話は切れた。
なんか、元クラスメイトで友達のはずなのだが対応の仕方が、どうも保護者な感じだったので、鬼柳は不思議に思った。
そういや、透耶は自分の友達とか親友の話しってしないよな。
光琉の友達の……とかいう言い方をする。
もしくはクラスメイトという名称でしか言わない。
透耶にとって、そういう人は必要なかったのだろうか?
これほど人懐っこいのに?
鬼柳と出会う前の透耶。
すごくギャップがあるような気がして、鬼柳は気になって仕方なかった。
そこまで考えてから、 鬼柳は電話を置いて透耶をトリップから引き戻した。
「え? あれ?」
透耶は手に持っていた子機がなかったので思わず探してしまう。自分で落とした事など既に忘れてる。
「ほら、落としたぞ」
鬼柳が今拾ったという風に子機を渡すと、透耶はそれを受け取って慌てて電話に出た。
「御免、どこまで話たっけ? って切れてるじゃん!」
透耶は一人で受話器にツッコミを入れる。
「へえ、じゃあ、いいんじゃないの?」
しらばっくれる鬼柳だが、透耶はすぐに気が付いた。
「……電話に出たな」
唸る様に言うと鬼柳は、またシステム手帳を見ながら答えた。
「ん、透耶が電話を落としたから、電話繋がってるのか試して、そしたら向こうから話し掛けてきたから正直に答えただけだけど?」
何処が悪いんだという言い方だったが、透耶には鬼柳の目的が何だったのかはすぐに理解出来た。
鬼柳は自分が透耶の男であることを主張したいのだ。
その気持ちは透耶にも解る。
透耶もそれは主張したい。
この男は自分のモノであると。
「透耶、京極って誰だ?」
「へ? あ、京極さん、一緒に居たんだ。うん、光琉の友達で当麻の憧れである元生徒会長」
透耶がそう説明すると、鬼柳は透耶の方を見た。
「ふーん。他に何処かかける?」
「あ、うん。……岩村さんに……」
透耶はブツブツ言いながら電話をかけ始める。
鬼柳はそんな透耶を見て、またシステム手帳に視線を落とした。
綺麗にまとめられている中身は、学生が持っているような軽い手帳ではない。
ビジネスマンのようなもので、中は沢山の文字で埋められている。
3月までは学校行事が書き込まれていたが、4月以降は毎年の恒例行事らしい事柄が書かれている。
母親、父親の命日。親戚らしい人の命日。
それは解るが、何故か会社名の入ったものがある。
アドレス帳の方を見ると、株式とか、建設会社、そういう会社名の入ったページがまとめられている。住所は東京だったり、京都だったり。
最初に透耶の財布を見た時も驚いた。
所持金自体は少なかったが、クレジットがゴールドだったり、いくつもキャッシュカードがあったりで、一瞬資産家の息子かと思ったが、透耶はそうではない言い方をしているし、捜索願も出てはいなかった。
まだ、透耶が話していない、透耶の身の回りの事がある。
透耶にとっては、どうでもいい事であってもだ。
「恭、手帳貸して」
電話をしながら透耶がそう言った。手渡すと素早くページを開いて何かを書き込んでいる。
「はい。ええ、いいですけど。え? 合併ですか? はあ。……それ、3番目駄 目ですよ。皆引っ掛かったでしょうけど、向こうに有利過ぎます。もう少し粘ってみれば、譲歩すると思います。5番目も……」
こういう電話かと思えば。
「ええ、田口さん、おはようございます。……それじゃ田口さんが不利です。向こうは進出に欲しがってるんですから、もう少し強気で構いませんよ。……手腕でしょ?折角今まで頑張ったんですから、もう少し。そうそう、大丈夫ですって、社長でしょ?」
そういう如何にも透耶が社長に見える口振り。
電話の向こうを宥めて、そういう電話を何本かしてやっと電話が終わった。
「透耶、今の何? 会社でもやってんの?」
鬼柳が不思議そうにそういうと、透耶はうーんと考えてから鬼柳の方を向いた。
「経営はしてないよ。お祖父様時代からの相談役ってのかなあ? お祖父様はさ、悪戯をいっぱいして、俺にそういう会社経営の相談役ってのをやらせてたんだよ。俺は最初知らなかったんだけど、宿題ってのやらされて、それが実際に会社を動かす方法だったりとか。今は本当に相談役……、やりたくないけど、放っておけなくて……見捨てるのは簡単なんだけどねえ」
「この株ってのは?」
システム手帳に書き込まれたメモを見て鬼柳が聞いた。
「お祖父様の持ち株だったやつ。俺はいらないけど、昔からお祖父様について株操作してる人を首にするわけにいかないし、もうお爺ちゃんだから、年金だけじゃ暮らして行けないでしょ。俺が株持ってるだけで、お爺ちゃんは操作するだけで丸く収まるから」
結局株に詳しい訳でなく、ただお爺さんを首にしたら可哀相だから、持っているだけという。
「印税って?」
「お祖父様の作曲した本のもの。そういう遺作は全部俺の相続だったし、管理はお祖母様に任せてる。バイエルみたいなのだからさ、マメに売れてるらしいよ」
透耶が何でもないという言い方をした時、鬼柳が驚いた顔をして聞いた。
お祖母様って……。
「ちょっと待て。爺さんの嫁は生きてるのか?」
鬼柳が慌ててそう聞いてきたので、透耶はキョトンとして答えた。
「うん、お祖母様生きてるよ。あれ言わなかったっけ?」
自分の事と母親の実家の話はしたが、父親の実家の話しは殆ど出てこなくて、お祖父様は言ったが、お祖母様の話は一言も出ていなかった。
そうなると、根本的な所が疑問となる。
「じゃあ、遺産の大半は祖母さんの物じゃないのか?」
もっともな質問だ。
透耶はそれを聞いて大きく頷いた。
「普通そうだよねえ。んもう、お祖母様って頑固なわけよ。お祖父様も何考えてるんだか、よく解らなかったけど、お祖母様は一層輪をかけて解んない。遺産は放棄してるんだ。でさあ、もう70なんだけど、アパート暮らしするから、年金と自分の財産で十分だとか言って家出て行こうとするんだよ!信じらんない!」
透耶は今でも信じられない出来事だと叫ぶ。
普通、資産家の嫁となれば贅沢三昧で、遺産入れば少ないだの言ってもめそうな話だが、まったくその逆で全てを捨てて出て行こうというのだから、若い人でも出来ないのにそれを老人がやるところが、普通 じゃない。
「……パワフルな祖母さんだな」
「お祖父様が亡くなるまで、最初に就職した、お祖父様の建設会社のさ事務やって働いてたんだよ。専業主婦したっていいのにさあ。余生を楽しもうとか、遺産入ったからのんびり生き様とかないわけよ!さすがに皆で止めたけど、家にいてもお祖父様がいないから、する事がないって言うから……」
「言うから?」
「俺が相続したもので、お祖父様の家や持ち出さなくていいものを全部管理させる仕事に就いてもらった……」
透耶が負けたとばかりにそう言うと、鬼柳が爆笑した。
「ただでは管理させないのか?」
「仕事なら引き受けるって言ったんだ。でもさ、家にいるって事は、家賃を払わないといけないとか、光熱費だとか、そういう事を言い出すんだよ!自分の方がお金払わないといけないって!信じられない!どうして実孫が祖母からお金取れるっていうんだっての!絶対究極の嫌がらせだって!」
透耶はもう信じられないと真剣に叫んでいる。
更に鬼柳が爆笑した。
透耶は今思い出しても悔しくって仕方ないと言う。
鬼柳は笑いを収めてから言った。
「透耶、その祖母さんにハメられたな」
こんな事を言われて、透耶はキョトンとする。
「え?」
「どうせ、透耶の事だ。財産放棄しようとしただろう?」
「当り前だ。お祖母様がいるのに、どうして俺が財産を全部相続しなきゃなんないんだって今でも思ってる。贈与出来るなら今すぐにも手続きするよ」
大真面目に言う透耶。こういう真直ぐだから、騙されやすいのだと鬼柳は思っている。
「だからさ、祖母さんが遺産放棄を最初にすれば、透耶しか相続人がいないわけだ。それで透耶にまで放棄をされたら、それは国の物になるだろう? そうさせない為には透耶を混乱させて、相続させる、という手段だった訳だ。とにかく祖父さんの個人財産の方はそういう方法で相続させた。な、透耶は祖母さんの目の前でサインしたんだろ?」
そういわれて、透耶はむーと考えて思い出す。
「……あ、そうだった。すぐにでも出て行こうとして、引越し屋とかまで呼んでたからさ、慌てて書類にサインしたから、結局何をどう相続したのか解らないんだ。会社関係は、問答無用で親戚 に相続させたけどさ」
「つまり、透耶に相続させたかったのは、祖父さんの個人財産だった訳だ」
鬼柳にそう言われて透耶はふと考えた。
そう言えば、個人財産の方の書類は先にサインさせられたが、会社など事業関係については、親戚 に分担させてしまう事には何も言われなかった。
「なんだ、お祖母様もそんな手の込んだ事しないで、素直に言えばいいのに。個人財産なんてたかが知れてる」
何だかあれほど別の意味で大騒ぎ遺産相続なんか、他にないだろう。何しろ、血族が全員放棄しようとしているのだから。
たかが知れていると思っている財産の事は、透耶は内容を殆ど知らない。入ってくる印税と、親戚 がどうしてもと納めている会社の利益くらいなら、透耶の口座に入ってくるので、それが凄い金額なのは知っている程度である。
透耶が凄い財産の額と言っていたのは、自分の目に入るお金の動きの事だけだったのだ。
呑気にそう言った透耶に鬼柳は笑いながら言った。
「透耶。資産家で作曲家の個人財産がどれくらいになるか考えた事ないんだな」
そう言うと透耶はうんと頷いた。
「知らない。税理士とか弁護士に頼んでるし、俺が普段使ってるのは、両親の方の保険金だから。何、俺の財産に興味ある?って言うか、恭もいつもどっからお金出してんの!?」
透耶の財産の話から鬼柳の財産の話になっている。
今の今まで全部エドワードが出していたはずはない。そういうのは鬼柳が一番嫌う所だからだ。
「俺? んまあ、俺のは昔エドのところでバイトした金があるからなあ。阿呆みたいな金額振り込まれてたし。今はそれで暮らしてるって感じ」
「エドワードさんの所でバイトって?」
意外な言葉に透耶は驚いてしまう。
「あ? なんか透耶がやってたみたいのかなあ。書類見て駄目だしとか、ああしたらいいこうしたらいいとか、ちょっと企画出したりとか、そういうの」
鬼柳がこういう自分の事を話すのは珍しい。
「へえー。でもさ、そういうのって幾らくらい貰えるもんなの?」
「さあ、基本は知らないが、成功報酬だったしなあ。口座には3千万くらい入ってた」
さらりと凄い事を言う鬼柳。
「さ、三千万!? お金持ちじゃん!」
物凄い金額が出てきたので、透耶は叫び声を上げた。
軽く言うから、透耶はパニックになってしまう。
「んー。そうか? 透耶の総資産からしたら大した事ないと思うぞ」
「俺の総資産? えー? 俺って一体幾ら持ってるんだろう?」
本当にその総資産を知らない透耶。
横領されてもたぶん気がつかないだろう。
「俺も自分で幾ら持ってるのか知らないなあー。アメリカの銀行は止められてるし。日本のは、仕事のとエドのやったのとしかないしなあー」
などと、自分の財産をまったく把握してない二人。
二人で真剣に考え込んでいたが、解る訳はない。
「じゃあさあ、調べてみる?」
透耶が鬼柳にそう言った。
「何で?」
鬼柳が不思議な顔をした。
すると透耶が少し恥ずかしそうな顔をした。
「……あのさ」
「ん?」
「……東京帰ったら、どうする?」
何とも頓珍漢な質問だ。
「どうするって?」
鬼柳がキョトンとする。
「……その、バラバラで住むの?」
上目遣いで首を傾げて見つめられると、鬼柳はクラリときてしまう。しかも言っている事が可愛すぎる。
一緒に住まないのか?という事を言いたいのだ。
「透耶ー!」
鬼柳はそう言って透耶に抱きついて押し倒した。
「な、な、何?」
何でいきなりこうなる訳?
そう思いながら顔中にキスされているのもどうだろう?と透耶は思ってしまう。
「んー、もう、何やってんだよー」
「あんまり可愛い事言うから」
そう言いながらキスをして来るから、思わず受け入れてしまう。普通のキス。
「……ん」
唇を舌でペロリと舐められる。
なんで、一緒に住む話が可愛いんだが……。
そう透耶が悩んでいると。
「そうだな。金合わせたら、どっか一軒家でも買えるかもしれないな。家、買おうぜ」
鬼柳がそう言い出したので、透耶は鬼柳の住まいがどんな所なのか興味が湧いた。よくよく考えれば、鬼柳の日常生活の事は何も知らないのである。
「……恭は、今どんな所に住んでるの?」
「ボロビルの一角。機材を置くのにどうしても場所が必要でな。暗い方が機材も痛まないし。でも一緒に住むには適してない。周辺も治安が良くないし危ないしな」
「じゃあ、地下があるといいねえ。暗室とかに使えるし」
と、透耶。
「透耶のピアノも買わないといけないし、置く場所と、書斎もいるなあ」
と、鬼柳。
「キッチンも対面だといいなあ」
などと言い合っているが、どう考えても規模が大きくなりそうだ。
「どう考えても、家探ししなきゃいけないじゃん」
そういう結論しか出ない。
そこで、双方がどれだけの金額を動かす事が出来るのかを調べなきゃならない訳だ。
まず鬼柳が何処かへ電話をかけた。
暫く怒鳴っていたが、何か妥協したらしく頭をガシガシと掻いている。
「透耶、ゲーム会社がハードを出して自社ソフトを出すとしたら?」
「はあ?」
「経営サポートだけどさ」
「ああ」
透耶は頷いて質問に答える。それを鬼柳が英語に直して電話に向かって喋っている。それから、幾つか質問したら同じ事の繰り返し。
10の質問に答えると電話は個人的な話になって終わった。
「で、何だった訳?」
さっぱり解らない事を聞かれたものだから、透耶は心配になってきた。しかし、鬼柳は微笑んでいる。
「アメリカの銀行の凍結を解除するのに、くそじじいの質問に答えさせられた。それで、透耶は合格したって訳だ」
「はああ?」
まったくもってさっぱりな解答である。
「俺の本来の口座はな、何でかじじいに使えないようにされてたんだよ。まあ、家を出たのが許せなかった仕返しなんだろうけど」
仕返しは仕方ないだろうなあなどと鬼柳は呟いている。
「家って、アメリカの? じじいって恭のお祖父さん?」
「ああ、じじいは銀行の頭取。親父は出版社の社長」
「凄いお金持ちじゃん」
鬼柳の実家がそういうお金持ちだとは透耶もまったく知らなかった。
本当にちゃんと聞かないと、解らない事である。
「親はな。俺のもんじゃないし。大学からエドの親父の所でバイトして、小遣い溜めてたのがあるんだが、それを使えなくされてたから、カメラだけで食ってた。時々エドの電話で質問に答えてたら、必要無い金振り込まれてたけど、あれも役に立ってるしな」
「必要にかられて、カメラやってたの?」
「大学入った頃からカメラはやってたんだ。近所に報道カメラマンが住んでて、色々教えてもらってた。20で大学出て、銀行員なんてガラじゃねえし、さっさと家を出たんだ。ちょうどカメラの仕事もあったしな」
「20って。飛び級でハイスクールまで出たって事? ええ?じゃ秀才なんじゃないか!」
透耶は更に驚いてしまう。
そんな凄い経歴があったとは……。
透耶が物凄く驚いている顔を見て、鬼柳は苦笑した。
「そんなんじゃない。面倒臭かったんだ、さっさと学校出たかったし、家も出たかった。あいつらの世話になるのもムカツクしよ。大学出て、日本に帰ったカメラマンに付いていったんだ。それが報道カメラマンの始まり」
それだけの理由で飛び級して大学行くか?
することないから、報道カメラマン?
真剣にやっている人からすれば、そんな馬鹿なと言いたいところだ。
そこまで考えて、透耶はふとある事を思い出した。
「あ!俺肝心な事聞いてなかった!」
何で今まで聞かなかったんだ?
普通、名前の次くらいに聞かないか!?
透耶は自分の失態に呆れてしまう。
「ん?」
「恭って幾つなの? えっと歳」
物凄く普通に、たぶん一番最初に聞くはずの事を聞き忘れていた透耶。
鬼柳も少し驚いている。
「あれ? 言ってなかったっけ?」
本当に真剣に聞き返された。
透耶は頷く。
「聞いてない」
「3月17日に25になった」
「へえ、25かあ……え? 17日?」
そこまで言って透耶はその日付けに首を傾げる。そしてチラリと鬼柳を見た。
それって……一番最初に恭に会った日じゃないか……。
透耶がそう思っているのが解ったのか、鬼柳はニコリと微笑んで、透耶の頬にキスをした。
「一番いいプレゼントを貰ったな」
鬼柳は言って、透耶の頬を撫でる。
……俺は、プレゼントですか?
そう思いながらも、透耶は笑いながら、頬に当てられた鬼柳の手を撫でる。
透耶はいつも、鬼柳の存在を確かめる為に、自分の手で撫でて一緒にいるんだという感覚に安堵する。
鬼柳もそれが解るから、より一層愛おしくなる。
さっきまで透耶を抱いていたのに、また抱きたい気持ちになってきた鬼柳は、慌ててそれを押しとどめてから、さっきまでの話題に戻った。
「俺の向こうの銀行に入れてたので、すぐに動かせるのは5億らしいが」
……5?
……億?
「……今なんて言った。5? 億!?」
透耶は呆然として問い返した。
鬼柳は首を掻きながら、やっぱり多いんだろうなあと思った。
ただし、家を買うには、という意味で。
「ああ、日本の家は狭くて高いから、それくらいかけた方がいいのが買えると言われた」
「待て、どんな家を買うつもりだ。一軒家でも億なんて滅多にないってば。大体バイトで億稼ぐか!?」
「んー? どうだろう? 向こうはハイスクールの学生でも会社の社長とかなったりするしなあ。年収で億くらい稼ぎ出す奴もいるぞ」
平然と言われて、透耶は頭を抱えた。
世界が全然違う。
「日本で億稼ぐ高校生なんてアーティストくらいだ」
すぐ動かせるのが5億だったら、総資産は一体何億なんだ? そりゃ放っておけば利子もついてくるだろうが。
透耶の方も今幾ら動かせるのか、それを聞く為に電話を入れた。
弁護士に相談すると、こういう答えが返ってきた。
『家を購入ですか? いいのを建てた方がよろしいですよ。透耶さんの場合は、やはりセキュリティーが万全な所がよろしいですよ。そうですねえ。今なら3億は動かせますよ。もし入り用でしたら、5億も用意させますよ。いい家だったらやはりそれくらいかかりますよ?』
はっきりいって、言葉を失う。
「はあ、そんなにいらないと思いますけど。決めましたらまた連絡します」
透耶はそう言って電話を切った。
「すぐなら3億。必要なら5億だってさ。なんかもうお金の感覚解んないや」
透耶はそう言って溜息を吐いた。それは鬼柳も同じだった。
「まあな、そんなに使うもんでもないし。十分利子で一生遊んで暮らせる」
「そうだよねえ。俺、保険金でやってけるんだけど」
それでも多いと思うくらいの金額があるんだけど……。
総資産なんて、恐ろしくて聞けない……。
こんな事は知らない方がいいに決まっている。
「一生もんの買い物しようぜ。家具も買わないといけないしなあ。買ってもすぐに住める訳でもないし。さっき言ってた希望の部屋とか入れて、何軒かチョイスして貰って置こうか?」
「うん。そうしないと、たぶん何軒も不動産屋回らないといけなくなるし。じゃあ、それまでどうしようかあ? まあ、東京に帰らないと買い物も出来ないしさ」
透耶がそう言うと、鬼柳が自分が決めた日程を話して聞かせた。
「今からだとゴールデンウィークになってるから、飛行機も取りにくいし混んでるから、明けに帰ろうとか思ってる」
「うん、そうだねえ」
こんなところで億万長者の奇妙な会話が続いている。
コーヒーを用意して持ってきた知念は少し頭を抱えたくなった。
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