Switch 11

2

 時間は、那覇空港で綾乃を見送った時間に戻る。
「ついでだから、どっか観光していくか?」
 鬼柳がいきなりそう言った。
 透耶は不思議そうに鬼柳を見上げて、それから頷いた。
「米軍基地へ行きたい。金網から覗ける所でいいから」
「解った」
 鬼柳は頷いて、SPに車を出させる。
 何故か車の中では、二人とも喋らなかった。
 透耶は真剣に考えていた。
 綾乃を見送ったら、告白はいつでもいい。
 だけど、いざそれを考えると、どう伝えていいのか解らなかった。先にあの話をするのか、それとも告白か。
 鬼柳は綾乃が帰ったら、透耶から何か話があると解っていた。 
 だがそれは透耶から言い出さないと始まらない事であると綾乃に言われた。
 それも鬼柳が嬉しい事で、綾乃も嬉しい事。綾乃に頭が上がらなくなる出来事で、透耶はそれにスッキリしている。
 考えてもさっぱり思い当たる節がない。
 一体何があるというんだ。
 そんな事を考えていたら米空軍基地近くまで辿り着いた。
 そこからは歩きで、金網がある所まで黙って進んだ。
 上空には離発着する戦闘機が飛んでいる。金網の向こうには蜃気楼が見える。
 金網の上は有刺鉄線があり、完全に世界が違う事を思い知らせる光景だ。
 透耶は立ち止まって金網の向こう、異世界を見つめた。
 鬼柳も立ち止まって、金網にもたれると煙草に火を付けた。
 透耶は暫く、黙ったままで金網の向こうを眺めている。
 こうやって考え込むのは透耶の癖なので、待っている鬼柳は慣れたものだったが、今日は内容が気になるだけに何故透耶がそこまで考えるのかが解らず、いつもより煙草の本数が増えてしまう。
「……はあー」
 いきなり溜息を大袈裟に吐いて、透耶が金網に凭れて座り込んだ。
「どうしたんだ?」
 一瞬、日射病にでもなって気分が悪くなったのかと思ったが、透耶は頭を抱えて唸っている。
「うー、駄目だ。改まってなんて何をどう言えば……」
 そう呟いた透耶の顔を鬼柳は覗き込んだ。
「何を?」
 鬼柳が不思議そうな顔をして透耶を覗き込んでいる。透耶は鬼柳を見上げて暫く見つめ合った。
 それから透耶は覚悟を決めたように立ち上がった。
 一緒にしゃがんでいた鬼柳を透耶が腕を引っ張って立たせた。
 向い合せになると、透耶が深く息を吸って言った。
 心臓が今にも飛び出しそうな程、強く鼓動している。
「よし、一回しか言わないから、よく聞いて」
 透耶は真剣な顔をして鬼柳に言った。
「うん」
 やっと話が始まる。
 鬼柳はそう思った。
 透耶は少し目を伏せて、それから真直ぐに鬼柳を見つめた。
 空気を吸い込んで一気に言った。

「鬼柳さん。好きだよ。だから、恭を俺に全部頂戴。俺を全部上げるから」

 透耶からの告白。
 それが話の内容だった。


 鬼柳は呆気に取られた顔で透耶を見つめた。
「え?」
 鬼柳は聞き間違いかと思い聞き返してしまった。
 聞き返された透耶は、真っ赤な顔をして、しゃがみ込んだ。
「だからー。一回しか言わないって言ったー」
 そう喚く透耶を鬼柳が抱え起こした。
「透耶、もう一回言って」
「やだー。無茶苦茶恥ずかしいんだからー」
「さっきの、もう一回」
「……」
「お願い、もう一回だけ」
 鬼柳が何度もお願いすると、透耶はさすがに一回だけでは駄目かもしれないと思ったのか、顔を伏せたままで言った。
「……一回だけ?」
 もう顔は真っ赤で、耳まで赤くなっている。
「そう、もう一回」
「……顔見ないからね」
「じゃあ、耳に直接言って。fighterの音で聞き逃さないように」
 鬼柳が何とか妥協して透耶は同じ言葉を繰り返させた。
「鬼柳さん。好きだよ。だから、恭を俺に全部頂戴。俺を全部上げるから」
 透耶がそう耳に言葉を吐くと、二の腕を掴まれて鬼柳は透耶と向き合うと今までで最高の微笑みを見せて言った。
「 My pleasure. I am all yours.」(解った。俺を全部あげよう。)
 鬼柳のハッキリとした言葉を聞いたとたん、透耶の瞳から涙が出た。
 鬼柳は驚いて手を離した。透耶の涙が頬を伝って流れ落ちるまで鬼柳は透耶に触れる事が出来なかった。
「……その、なんで泣くんだ?」
 鬼柳はオロオロとして透耶の顔を覗き込んだ。
 告白されて、OKしたら泣かれた。
 さっぱり訳が解らなくなる鬼柳。
 透耶は自分が泣いている自覚はなかった。
 人は嬉しくても涙が出る。
「そんな言葉、返ってくると思わなかった……」
 透耶は呟いた。
「俺は最初から透耶のモノだよ」
「……嘘」
「俺は嘘は言わない」
「だって、俺、鬼柳さんの事、何も知らない……」
「質問してくれたら答えるって言わなかったか?」
「聞かれなきゃ答えられないなら、聞きたくなかったんだ」
 透耶がそう言うと鬼柳は眉を顰めた。
「鬼柳さんは話したくないから、俺に話してくれないんだ。無理矢理聞くのは嫌だったんだ」
 透耶が続けて言った言葉で鬼柳はやっと納得した。
「えっと、それは……。俺の何をどう話せばいいのか解らなくて、質問された方が答えやすかったからだけど……」

 さすがに鬼柳もこれはバツが悪そうに頭を掻いている。
「へ?」
 鬼柳の言葉に透耶は目が点になってしまった。
 今何て言った?
 透耶がポカンとしていると、鬼柳は続けて言った。
「俺は透耶みたいに話すの上手くなくてな。だから、聞きたい順に聞いてくれると答えやすいと思ったんだ」
 ………………なに?
 つまり、鬼柳は話下手で、順序立てて何処から何を話せばいいのかが整理出来なかっただけで、別 に話したくなかった訳ではなかったのだ。
 透耶は鬼柳が話してくれないと悩んで、いつか自分と切れるつもりで話さないのだと思っていた。
 しかし、鬼柳は、透耶が質問しないから話さなくてもいいと思っていただけなのだ。
「……何、それ」
 透耶はポカンとしてしまう。
「じゃあ、何? 透耶は俺が話さないから、好きだって言えなかったって言うのか?」
 鬼柳もまさか透耶がそこに悩んでいたとは思っても見なかった。
 くっだらない……なんて下らないんだ!
 透耶はまたしゃがみ込んで、頭を抱えていた。
「……俺って、馬鹿ぁ?」
 鬼柳も何とも言えない顔をして空を仰いだ。
「なんてこった……」
 透耶が悩んでいるのは、男同士だからとか世間体だとか家族が反対するとか、ホモになったとか、とにかくノンケだから嫌だった事ではなかったのだ。
 透耶の性格からして、そうした常識で鬼柳の位置を当てはめる事はしない。
 鬼柳が鬼柳だから、とっくに好きになっていた。
 ただ考え方が非常に複雑で、難しく考えてしまう透耶には、簡単に割り切って付き合えるものでもなかった。
 いろいろ考えているうちに、奇妙な事で……まだ何かあるだろうが……とにかく、鬼柳が自分の事をあまり話したがらないという事が、今の所一番、透耶を苦しめていた事になる。
 まだまだ俺も透耶を理解してないんだな……。
 透耶がそこまで思い詰めているなら、昔話など飽きる程してやったのに……。
 そう思うと、いつ頃から透耶は自分を意識してくれていたのだろうか?という所が気になってくる。
「透耶、いつから俺の事好きになってくれたんだ?」
 鬼柳はしゃがみ込んでいる透耶と同じ様にしゃがみ込んで顔を覗き込んでいる。透耶は鬼柳と目があったが、真っ赤な顔をしながらも答える。
「……そんなの解らない。でも、鬼柳さんと居るのは嫌じゃなかった。最初から嫌いになれなかったんだ」
 最初から嫌われてはなかった。あんな事をした鬼柳を透耶はちゃんと受け入れていた。
 つまり、沖縄に来た頃には、透耶は鬼柳をそういう対象として考えていた事なる。そうでなければ、あれだけの事をされて、許すはずもないからだ。
「何だ……そうだったんだ。俺、いつ透耶が目の前から去ってしまうのか、そんな事ばかり考えてた」
 鬼柳が珍しく弱音を吐いた。
 透耶は鬼柳の瞳を覗き込んで苦笑する。
「追ってくるくせに……」
 透耶が呆れたように言うと。
「当り前だ」
 鬼柳は当然とばかりに即答した。
「でも、最初何度も逃げようとしたから」
「それこそ当り前だ。見ず知らずの男に監禁されてのんびりしてられるか!」
 今度は透耶が即答した。
「まあ、確かにな」
 鬼柳は納得して首筋を掻く。
「大体、いつもこんな事してるわけ?」
 透耶はまだ、鬼柳が透耶だけだと言った言葉を完全に信用しているわけではなさそうだ。
 まあ、最初から「君の為だけに」なんて言われても簡単に信用は出来ないし、透耶の場合は、そうした言葉を言われて、いいことがあった試しがない。それ故に鵜呑みにはしない。
 鬼柳も透耶の昔話を聞いていたから、透耶が信用出来ない部分があるのは仕方ないと思っていた。
 自分が自分の昔話をしていれば、何も問題はなかった事だからだ。
「しないよ。俺、来る者拒まずだけど、去る者を追わずだったしなあ。でも透耶抱いたら、こう、なんて言うか、俺がハマッたんだ。絶対離すもんかって。俺、自分でびっくりした。こんな事思った事なくて。自分から誰かなんて思った事なくてさ。透耶が初めてだった」
 鬼柳が自分を最初にどう見ていたのか、それを素直に話してくれる。
「……そうなんだ……」
 最初から、鬼柳は透耶しか見てなかった。
 誰でもいい人が、ただ一人の為に、こうも行動をしてくれていた。
「最初、海で見た時、ちょうどファインダーで見てた。変な子だって思って、でも綺麗だったから興味引かれてずっと見てた。あんまり幸せそうに笑ってるから目が離せなかった」
 出会った時の事を懐かしく話す鬼柳に、透耶がツッコむ。
「の割に、いきなり襲ってくれたよね……なんか怖かったし」
 透耶がそういうと鬼柳は苦笑した。
 透耶は怒っているわけでもなく、笑って言っている。
「……緊張してたんだ」
「へ?」
 意外な鬼柳の言葉に透耶はキョトンとしてしまう。
 この男が緊張してた?
 余裕綽々に見えたのに?
「綺麗な子見たって、触りたいとか欲しいとか思った事なくて、無茶苦茶緊張してた。ノンケなのは解ってたし、手を出すべきじゃないってのも解ってた。強姦は趣味じゃない。でも透耶、綺麗だし可愛いし、風呂上がりとか見たら、ムラムラときて、一人で風呂で処理した」
 最後の一言に透耶はずっこけそうになった。
 つまり、あの時鬼柳は欲情してたって事だ。
 ただの強姦魔だと思ってたよ……。
「んで、どうしようって考えてたら勃つし。そしたら昔言われた事を思い出したんだ。俺って誰も好きになった事ないだろうって。セックスなんて性欲処理程度にしか思ってなかったから、そういう奴らに、自分から抱きたい、もしくは抱かれたいって思ったら、欲しいって思ったら、それは俺にとって恋なんだろうって」
 ……誰だ、んなストレートな直訳恋愛講座しくんだのは……。
 透耶は思わず顳かみに手を当てて唸る。
「抱いたら二度と離せなくなるかもしれない。そう思ったけど、透耶の手首みたら、止まらなくなった」
「は?」
 何だその理由は……。
「深い傷がある。自殺未遂でもしたんだろうかって。だったら理由はなんだって。もしかしたら、失恋でもして死のうとしたんじゃないかって」

 傷はかなり深く、相当な怪我だったのは、鬼柳は見れば解る。
 制御しようとした心に反対の思いを強く拍車したのは、これだったのだ。
「そんな馬鹿な……」
「うん、それは見てて分かった。透耶はそんな事しない。でもその時は、透耶を捨てた奴がいるって思った。そしたら止まらなかった。俺なら、絶対にこんな事させない。一生愛してやるのにって」
 こんなモノのせいで、俺は襲われた訳か……。
 手首の傷を見て、深く溜息が出てしまう。
 ある意味、自業自得である。
 透耶は、顔を上げて苦笑した。
「俺は鬼柳さんは変態だって思ってたけどね。俺見て欲情する奴は頭がおかしいって思ってた」
「んー。そうだよな、いっぱい何か言われたけど、透耶が手に入るなら何でもよかった」
「いつもそう言うよねえ。何でもいいって」
 鬼柳の口癖だ。
 面倒臭いの次に、大抵、何でもいいが出る。
「本当に何でもいいんだ。透耶が俺を嫌いだっていいって思ってたけど。正直、言われた時は心臓が止まるかと思った」
 まさしく、透耶が鬼柳の心臓を一握りで壊してしまえる一言だ。
「それで余計に逆上したのか……。でも言う度に殺されそうになるのはたまったもんじゃないね」
 透耶が意地悪をしてそう言うと、鬼柳は凄く情けない顔をしている。たぶん、他人が何か言った所で動じはしないだろうが、鬼柳は透耶の言葉で一喜一憂する。
「もうしない」
 鬼柳は言って、透耶の額に自分の額を合わせて誓った。
「ん、俺も言わない。御免、蒸し返した」
 あれはあれで終わったはずだ。
 鬼柳はちゃんとペナルティーをこなしているし、透耶も納得したはずだ。
「いや、いいんだ。蒸し返しても。俺が悪いから、思い知らせていいんだ」
 鬼柳はそれを戒めにしている。
 あれから鬼柳は人の話をちゃんと聞こうとしている。気になる事があれば、前みたいに無理矢理喋らせようとはしていない。
「……もしかして、あれから俺の話、ちゃんと聞こうとしてた?」
 透耶が今気が付いたように言うと、鬼柳は頷いた。
「透耶はちゃんと話してくれるから、急ぐ事もないって解った。俺が何でも知りたがり過ぎるから、変な誤解も多いしな。最初からそうすれば良かったんだが、俺に余裕がなかった」
「……余裕綽々のくせに」
「まあ、透耶を好きな事に対しては自信はある。でも透耶の気持ちに対しては、俺はいつも不安で仕方がなかった」
「鬼柳さん……」
「だから、さっきの告白は嬉しかった」
 鬼柳はそう言って、透耶を抱き締めた。透耶も鬼柳の背中に手を回して抱き締め返した。
「透耶は俺のもの……俺は透耶のもの。だから、ずっと一緒に居よう」
「うん。生きている間も死んでも、俺は鬼柳さんのものだよ」




 屋敷に戻ると、そのまま二人で部屋に籠った。
 部屋に入ると同時に、鬼柳は透耶にキスをした。
 まるで、ファーストキスをするような、そんな子供なキス。
 透耶の顔を両手で掴んで、顔中にキスをする。くすぐったいと透耶が顔を背け様とするが鬼柳がそれを逃すはずもない。
「もう、くすぐったいってば」
 クスクス笑いながら、透耶は鬼柳の手を剥がそうとする。
 しかし、鬼柳は透耶の唇を舐め、上唇、下唇と甘く噛んで透耶を誘う。答えるように、甘い息を吐いて開いた唇に、今度は深く食らい付く。
「……ん」
 口内に侵入してくる舌を受け入れて、それに答える。
 長い時間、そうしてキスをしていると、透耶は頭の中が真っ白になってきた。
「……あ……ん……」
 顔の向きを返る度に透耶の声が漏れる。
 やっと唇が離れた時には、透耶は鬼柳の胸に倒れた。
 鬼柳はそんな透耶を抱え上げて風呂へ直行した。
 ぼうっとしたままで、透耶は鬼柳が服を脱がしていくのを見ていた。全部脱がされた所で鬼柳が自分の服を脱ぐのを見て、透耶は自然と手が伸びた。
 ワイシャツのボタンを外していた鬼柳が驚いて顔を上げた。
 上気した顔の透耶がボタンに手を伸ばしてそれを外していく。鬼柳は手をダラリとさせて、透耶が服を脱がしていくのを見ていた。辿々しくボタンを外して、シャツを肩から外すとスルリと床に落ちた。
 ジーパンのボタンを外し、ズボンを脱がす。
 全て脱がし終えて、二人で風呂に入る。
 風呂に入ると、主導権は鬼柳で、透耶の身体を洗い始める。スポンジで丹念に洗っていくが、左手が悪戯を始める。後ろから回ってきた手が胸の突起の周りを撫でる。
「……ん。や……」
 焦らすようなやり方に透耶が抗議の声を上げるとギュッと摘まみ上げられる。
「……あ!」
 身体が反り返ると、後ろで受け止められる。
 それと同時に、スポンジが無くなった右手が透耶の中心を握り締めてきた。泡で滑りやすくなっているから、動きが滑らかに扱き始める。
「んあ……んん、ああ……」
 胸の突起と中心を攻められて、すぐに高ぶってしまう。
 ゾクン身体に衝撃が走って、透耶は翻弄される。
「ああん……も、う……」
「いっていいよ」
 耳元で囁かれて一瞬で達してしまう。
「ああん……!」
 達してしまった透耶がそのまま鬼柳に凭れ掛かっていると、顎を掴まれて持ち上げられるとキスをされる。
「……透耶、凄い色っぽい」
「何言ってんの……」
 透耶は甘い息を吐いて目を瞑った。
 そうすると、鬼柳はシャワーを当てて泡を流していく。それが終わると、シャンプーしたり、鬼柳は自分の身体を洗ったりしている。透耶は面 白くなってきて、鬼柳の髪を洗うのに、シャンプーを手に取って予告もなく洗い始めた。
 何だか、とっても鬼柳に触っていたかった。
 自分の髪を洗う時より、丁寧に真剣に洗ってしまう。
 鬼柳は何も言わずにされるがままになっている。シャワーで洗い流すとやっと顔を上げた。
 透耶はその顔を掴んで思わずキスをしてしまう。鬼柳も黙ってそれを受ける。
 さっきの仕返しとばかりに、鬼柳の顔中にキスをする。
「……恭、しよう」
 透耶がそう呟くと、鬼柳が驚いたように目を開いて透耶を見た。
 透耶は笑っている。
「そんなに驚く言葉だった?」
「……ああ。いいのか?」
 透耶からそんな言葉を言われた事がない鬼柳は、思わず確認してしまう。
「何を今更」
 どうせこの後、犯りまくるくせに……。
 透耶がそう言うと、抱えられてベッドへ運ばれた。ゆっくりと降ろされて、鬼柳が被さってくる。雫を拭かずにそのまま来たので被さった鬼柳の身体から雫が降ってくる。
「好きにやるぞ?」
「いつも好き勝手にやってるじゃん」
「あんなのセーブしてる。本気でやったら透耶、壊れるから」
 本気のセックスって何??
「え? じゃあ、今まで本気じゃなかった?」
「いや、透耶に合わせてた。大丈夫、俺だってちゃんと気持ちいいし、感じてる」
 こういう事、あけすけに言うから透耶は恥ずかしくなる。
「透耶のそういう顔を見てるだけで、勃ってくる。イヤラシイ顔。誘ってる?」
 鬼柳が熱を含んだ声で言い、透耶は恥ずかしいながらも言葉で負けているのが悔しかった。
 余裕な顔でそういう挑発的な言い方。
 だが、本当にそうなのか、透耶はよく解らない。
 透耶はふと、鬼柳を気持ちよくさせてやろうと思い、被さっている鬼柳を押し退けて身体を入れ替えた。
「透耶?」
「誘うってこういう事?」
 透耶はそう言って、鬼柳にキスをして舌を忍ばせ絡ませる。まだまだテクニックもない精一杯な子供のやり方であるが、これが今透耶に出来るやり方だった。
 顎に唇を這わせて舐め、首筋も同じ様にして、鎖骨にキスマークを残すように強く吸って痕をつける。
 微かに鬼柳が呻く声を洩らしている。
 手で鬼柳の身体を確かめるように這わせて、その後を唇が這い舌で愛撫する。ヘソまで達した時、鬼柳の中心はもう勃ち上がって密を零している。
 本当だ、ちゃんと感じている。
 こんな幼稚で初心者のやり方なのに鬼柳はちゃんと感じている。
 透耶は鬼柳の中心を掴んで、扱いてやった。
「……っ!」
 鬼柳はうめき声を上げた。
 透耶が鬼柳の顔を見上げると、鬼柳が奥歯を噛み締めるようにして、快感に耐えている。
 それを見ていると、鬼柳が達く所を見たくなった。
 いつも透耶は自分がイク瞬間に一緒にイク鬼柳の顔が見れないくらいに余裕がなかった。
「……これ、どうして欲しい?」
「と、おや……?」
「このまま、指でイク? それとも舐める?」
 妖しく迫ってくる透耶の言葉に鬼柳は甘い息を吐いた。
 その言葉だけでイッてしまいそうだ。
「……くっ」
 いきなり、透耶が鬼柳の中心を口に銜えた。
 口で扱いて、甘く噛み、舌を使って愛撫すると、鬼柳の手が髪の中へ入ってきて押さえ付けられた。
「……透耶、もういい……」
 さすがにこの快楽に耐えられなくなった鬼柳がイキそうなので透耶の愛撫を止めた。
「何? よくない?」
「違う、良すぎるんだ……」
「じゃあ、イッて」
 再度銜え込んで数回扱いただけで、鬼柳は透耶の口の中で達した。
 その時の鬼柳の顔を見て、透耶は満足してしまった。
 気持ち良くてイッてしまって、色っぽい顔して、ああいう顔をさせたのが自分だと思うと透耶は嬉しくなってしまう。
 鬼柳のモノが口の中にいっぱいになって透耶は一瞬、これをどうしようか迷った。
 鬼柳はどうしてたっけ?
 そんな事を思って、そのまま飲み込んだ。
 こういう事を抵抗なくやれてしまう自分が信じられなかったが、相手が鬼柳だからと一人で納得してしまった。
「ちょっと、透耶! 吐けよ!」
 透耶は身体を引き摺り上げられて、鬼柳に顔を覗き込まれた。
 透耶が潤んだ瞳で鬼柳を見ると、甘ったるい顔をしたままの鬼柳が見つめていた。
「……飲んだのか?」
 透耶は頷いた。
「バカだなあ、飲む事ないのに……」
 そう言う鬼柳は嬉しそうな顔をしている。
「だって……恭はそうしてる……」
 透耶が上目遣いで鬼柳を見ながら言うと、キスをされた。まだ口の中には鬼柳のものが残っているのに、鬼柳は躊躇いもなく深く口付けてくる。
 そこから先は鬼柳の独壇場だ。
 口づけの後は耳を舐めて、それが首を伝って首筋に吸い付く、強く吸ってキスマークを残す。透耶の官能の場所である肩を舐めてそこを強く噛むと透耶の身体が仰け反った。
「ああ……ん」
 空いた背中に手を這わせて背中を撫でる。前は突起に達してそこを口に含み舌で捏ねて強く吸い上げる。
 いつもより感じてしまう事に、透耶は恥ずかしくなってしまい声を殺そうと、自分の腕に噛み付いた。
 それに気付いた鬼柳が、素早く腕を剥がそうとする。
「透耶、駄目だ。痕が残る」
 噛み付いている歯の間に指を入れて口を開かせる。素直にそれに従った透耶の腕を取り上げて、透耶が自分で付けた歯形に鬼柳が舌を這わせて舐めた。
「大丈夫。透耶の反応は素直でいいんだ。感じるままに感じて、快楽に溺れていい。俺も一緒だから……透耶の声を聴かせて」
 優しい声で言われて透耶は頷いた。
 大丈夫、聴いているのはこの人だけ。
「うん……」
 透耶の返事を聴いて、鬼柳はキスをした。
 透耶の中心を握って扱く。
「ん……あぁ……んん」
 鬼柳はそれに満足して、透耶の中心を口に含んだ。
「あ、はあ……」
 口で扱いて舌で巧みに舐めていくと、透耶の声も高くなる。
 そのまま孔を刺激して、襞を撫で、指を一本入れる。何度も出し入れをして解して二本目を入れる。
 透耶の身体をひっくり返し、腰を上げさせると、指の間から舌を入れて刺激する。
「や、ああ!」
 透耶はシーツを握り締めて衝撃に耐える。
「んあ……ああ……も、いい、キョウ……」
 指の刺激でイキそうになるのを我慢して、透耶が鬼柳を求める。しかし、鬼柳の指を動かすのをやめない。
「……ああ、キョウ……おねがい……」
「……もう少し、解さないと、傷が付く」
「いっちゃう……」
「イッていい……」
 急所をわざと刺激して、鬼柳は透耶をイカせた。
「ああぁ、んっ……!」
 身体を震わせてイッた透耶の密を掌で受け止めて、それを孔に流し込み更に孔を解す。
 イッたばかりなのに、その刺激で透耶の中心はまた勃ちあがってしまう。
「う……ん、っはあ……あぁ……」
 指の動きに合わせて透耶の腰が揺れ始める。
「あ、ん……ああぁ……キョウ……キョウ」
「ん? 何?」
 意地悪をして鬼柳はわざと透耶を焦らせる。
「……おねがい……ん」
「……お願いされるの、初めてだな……」
 鬼柳は指を勢い良く引き抜いた。
 熱くなって、密を零している己を透耶の孔に当てる。つーっと密が糸を引いてシーツに溢れている。
 先を忍ばせると、ギュッと締め付けられた。
「んんん……」
「……透耶、息吐いて……キツイ」
「……あん、で、できな……ん」
 仕方ないと鬼柳は透耶の中心を握って強く扱く。そうすると透耶の身体の力が抜けて鬼柳の侵入がしやすくなる。
 緩くなった隙をついて、鬼柳が一気に自分を押し込んだ。
「あーー!」
「くっ、キツイ……」
 荒い息を吐きながら鬼柳は透耶の背中にのしかかる。
 項にキスをして、耳を甘く噛む。
「はぁ、はぁ……」
「動いていい?」
「……はぁ、はぁ……キョウの、顔が見えない、抱きしめたいのに……」
 透耶がそう言うと、鬼柳は入れたまま透耶の身体をひっくり返した。
 潤んで上気した透耶の顔を覗き込んで、鬼柳も同じ様な顔で微笑んでいる。
「透耶、可愛い事言う」
「……ん」
 透耶は鬼柳を抱き締めた。
「恭、好きだよ」
「愛してる透耶」
 それを合図に鬼柳が動き始める。
「あぁん……あぁ、ん、はぁ、……あぁ」
 内部を熱くして、圧迫する力強い動きに透耶の頭の中は真っ白になる。
 感じるままに感じる。
 声を上げ続けて、もっともっと、とねだる。
 好きにやっていい、そう告げると、鬼柳の動きは荒々しくなる。今まで、いや、無理矢理犯された時以上に、鬼柳は激しく突き動かす。
「……ああぁ、もう……んっ」
「……俺も……透耶」
 二人で一緒に。そう言って二人は達した。
 荒々しい息しながら、鬼柳が覆い被さってくる。受け入れたままで透耶は鬼柳を抱き締めた。
 鬼柳は透耶にキスをして、顔を覗き込んで笑っている。
「透耶、最高。感じまくりだし、俺も無茶苦茶良かった」
 鬼柳の顔を見ていると、透耶は泣きたくなってきた。
 まだ鬼柳に言ってない事がある。ただ思うままに言葉を伝えたが、それだけは言えなかった。
「I love you. Toya. I don’t need anyone else but you. Tell me that it is only me that you care. Say it.」(愛してる、他にいらない。俺だけって言って。)
 透耶がそう告げると、鬼柳は少し驚いた顔をしていたがすぐに笑って答えた。
「Toya. you are my one and only. I love you. I adore you. from the bottom of my heart.」(透耶だけだ。他はいらない。愛してる。)
「Kyo. you are my first love. and surely the last. 」(きっと恭が最初で最後。)
「I swear I will love you forever. So please promise me that you will stay with me as long as the world goes round. 」(お前だけしか愛さない。だから、ずっと側に居て。)
「I promises. We will be always together 」(うん、ずっと一緒だよ。)


 今話すから。
 その勇気に、その言葉を頂戴。
 我侭で卑怯だと思う。
 ズルイとも思う。
 だが、その言葉がある限り、限りある時間を一緒にいていいだろう?
 
 もし逃げられたら、捨てられたら。
 ここで一生を終えよう。
 青い海に青い空。
 思い出がいっぱいある所で死のう。


 ねえ、神様。
 永遠を下さい。

 

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