ROLLIN'
番外編
耀
僕は、宝生耀。
一般にヤクザと言われる宝生組の次期組長。
と、言われている。
僕の父親は、信といって、今の組長である宝生楸ではない。
本当は信パパが組長になるはずだった。
でも、パパは心臓が悪く、前組長が亡くなると同時に亡くなった。
そして、楸パパが組長になった。
その時、楸パパは、僕のパパになってくれると言った。大きくなるまで、ずっと支えてくれると。そう約束してくれた。
そのパパは、何だか悲しそうだった。
後で解ったことだったけど、パパは本当は組長になんかなりたくなかったんだ。
ただ、組とは関係ない場所で生きたかったんだ。
でも、それは僕が引き止めてしまったようなものだ。
僕がいなかったら、きっと宝生組は幹部の人達にいいようにされてしまっていたに違い無い。そしてそれはパパにはどうでもいい事だったみたいだ。
僕がいる事で、もめ事が起きる。そうなると、自分が苦しんだみたいになってしまうと思って、留まる事を決めたようだった。
その諦めが、何か潔かったと思う。
でも違った。
パパは、この時、失恋をしていたのだ。
自分を無条件で助けてくれて、そして一年という間、ずっと一緒にいた人に失恋をしたのだ。
その名前は、月時響。
写真を見せて貰った時、とても綺麗な人だと思った。
笑顔が凄く綺麗で、眩しくて、そして、目が離せなく人だった。
パパはとても好きだったと言った。
世の中、男の人が男の人を好きになるのはおかしいというのだけど、響の顔を見た時には、全然違和感なく受け入れられた。
僕が子供だったから解らなかった事ではなくて、普通に考えても人間が人間を好きになるのには、性別 なんて関係ないと思うのだ。
実際、響は綺麗な人間だったし、パパが好きになるのも仕方ないと思った。
パパはずっと響の事を好きでいるようだった。
結婚はしない。女性とも関係を持たない。そんな取り決めを決めてしまっていたから。それは響を忘れられないからであって、他に興味がないって事になる。
それだけパパに強烈な印象を残した響に僕は会ってみたかった。
パパの傍に、響を置いてあげたいと思ったんだ。
こんな寂しそうに写真を見ながら、お酒を飲むパパを見ていられなかった。
だから、行動を起こした。
まず、月時響の素性を調べて貰って、そして現在を知る事が出来た。
大学を出た響は企画出版者に勤めていて、現在恋人はいないらしい。職場と家を往復するだけの、ほんと真面 目なサラリーマンだった。
その時、写真を手に入れたけど、響は更に綺麗になっていた。
もっとなんというか、憂いを帯びている感じがして、パパのように寂しそうな顔をしている時があるのだ。
それは、響もパパを忘れて無いってことになるんじゃ?と僕はその時思ったのだ。
そして計画をした。
パパと響を会わせるという簡単な計画。
ボディガードに協力してもらって、僕は響を連れ出す事に成功した。響は簡単に僕を信用してくれて、親切に助けてくれた。これは予想外だったんだけど、まさか家まで連れて帰ってくれるとは思わなかった。
初めて実物の響を見た感想は、本当に綺麗だって事だった。声も少し高い方だったし、身体も細くてすっきりしてて、僕の周りにいるような人間とは人種が違う気がした。
そして、僕は、パパと響を会わせる事に成功したのだった。
それからパパがどうしたかって?
もう、それは押して押して押しまくってって感じ。
ここで見つけたが百年目? もう響しか目に入って無い。
響は隙を見ては逃げようとしていたけど、それは阻止しまくった。
それは僕がいれば、響はこの家を出て行く事が出来ないって解ったから。
僕が響を慕えば慕うだけ、響の愛情は僕に注がれる。パパが嫉妬するくらい。だから、僕は自然と響に甘えるようになっていった。
それから色んな事があったと思う。
パパと響の間に色んな事が。僕が知らない事まで色々。
でもね、僕が気が付いた時には遅かった事があったんだ。
僕は、響が理想になってしまったんだ。
響のような恋人が欲しいと思い始めてしまったんだ。
それは、小学6年の時に気が付いた。
僕が一番好きなのは、響だって事。
その頃には、響はすっかりパパを受け入れていて、落ち着いた関係になってた。
響の目には、パパしか映らない。
僕はただの可愛い子供であって、恋人にはなれないって事。
背も伸びて、小学を出る時には、170センチにはなってた。でもそれでもパパには勝てない。
僕から俺というようになって、俺は、思いきって響に打ち明けた。
「響が好き。親父のように響を抱きたい。好きだ」
って。
でも、それは受け入れられなかった。当然かもしれない。
響は一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに笑顔を浮かべて言ったのだった。
「耀にも、本当に好きだって思える人が現れるよ。それは、俺のような人じゃなくて、直感でこの人しかいないって思えるような人だよ。耀は俺に好きだと言ったけど、それは楸の影響があるとしか言えないな。だからね。本当に好きな人が出来た時は、俺のことなんて吹き飛んでしまうくらいに思えるはずだよ」
響は真面目にそう言ってくれたもんだ。
一世一代の告白だったのに、響はそれは違うというんだ。
何がどう違うのか俺には解らなかった。
響を思うと、こんなにも辛いのに、それは初恋じゃないって事なのだろうか。それとも響がはぐらかしたのだろうか。
それから、数年経っても俺の前には好きな人は現われなかった。
響みたいに綺麗な人で、優しくて、そして芯が強い人。そんな人、周りにいるわけない。俺はそう思っていた。
そして、それはある日突然訪れた。
俺は一目惚れをした。
本当に響が言った通り。
目の前にいた響が消え去って、その人が突然俺の中に入ってきたのだ。
信じられない出来事だった。
パパもこんな感じだったのかもしれない。
響もこんな感じだったのかもしれない。
運命の人に出会うという事はこういう事だという事。
その人の声しか聞こえない。
その人しか見えない。
その人しか……。
まったくなんてこった。
こんな形で、自分が人に惚れるなんて。
有り得ないと思っていただけに衝撃だった。
響に「ほらね」と笑われている気がして、何だか悔しかった。
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