raging inferno
15
九州統一に向けた高値会と如罪組の抗争は激化。
警察の出動の合間を縫って、双方が激突し、攻略の領土を広げていく。
如罪組は新たな戦力を導入してくるけれど、それに伴い、高値会には如罪組に従いたくない地元ヤクザが次々に協力をしてくれ、力は拮抗するどころか、土地勘のある地元ヤクザのお陰で高嶺会に有利に働いた。
古我知才門によって独断で介入をしてきたマトカのロシア人部隊は、最初こそ攻略が上手くいっていたけれど、高嶺会側の攻略に次々に失敗をし、捕虜をだし、さらには警察によって拘束されるモノまで出始めた。
「どういうことだ」
才門は焦る。
大丈夫だと思われたマトカの部隊が次々に撃破されている事態は想像すらしていなかった。
それは部隊を連れてきた屈強な戦士たちにも動揺が走る。
やっとの思いで撤退をしたものによると。
「最前線に馬鹿強いやつがいる。銃を撃つ前に懐に入られて、戦闘不能になる。忍者みたいなやつがいる。それに続いた部隊も強い。それで総崩れになった」
たった一人の飛び込み隊長による攻撃で、前線の部隊が壊滅に陥る。慌てて立て直そうとするとその後続部隊があっという間に制圧を完了している。
たまたま建物外に飛ばされて逃げ帰られた兵士によって告げられた内容は、屈強な兵士を恐怖に陥れてくる。
得体の知れない強さを持つ、忍者のように動き回って前線を崩してくる爆弾がいると言われたら、警戒をしてもきっと駄目だ。
中にはそれを打ち落としてくれると笑っていたやつもいたけれど、次の急襲でそいつも警察に拘束されてしまった。
銃を抜く暇もなく懐に入られて一撃で沈められたら、何も出来ないものだ。
ただ一人の圧倒的な強さを持つ男によって、マトカの精鋭部隊が総崩れしてしまったけれど、そこで才門は長年の勘の良さを発揮する。
それは高嶺会の攻略を後回しにして、如罪組の攻略に入ったのだ。
そんな折りだ。才門を尋ねてきた如罪組の一人の男によって事態は急変する。
才門のところまで一人でやってきたのは、如罪組の現若頭である松比良渡瀬(まつひら わたせ)だった。
如罪組の現組長である松比良渡里(まつひら わたり)の息子でもある。
「実はお願いがありまして、単身尋ねてきました」
というので才門は会うことにした。
「ありがとうございます。わざわざ。古我知さんの状況はよく分かっているのですが、この状況下ですので、簡単に説明します」
渡瀬の話はあっけないものだった。
「用は、私の父の暗殺を願いたい。もちろん、父は明日最前線に激励をする予定なのですが、そこで父を殺してほしいのですよ」
渡瀬のとんでもない願いに、才門が不思議がる。
「だがそうなると、前線は総崩れ、如罪組は今まで投資した九州の地での何もかもを失うのだぞ?」
そう才門が言うと渡瀬が言う。
「それなのですよ。その遠征資金が既に底をついていて、我らを圧迫している。もう撤退を余儀なくされているわけですよ。しかし完全な負けではない今では引くに引けない、そこで組長が前線で殺されたら、さすがにこれ以上の進軍を望む幹部はいなくなると思うのです」
渡瀬のとんでもない願いは、ちゃんと理屈が通っていた。
「あなたに、その後の支配地域は譲りますが、どうなるかは我々の知らぬところ」
つまり、如罪組が撤退した後を才門にくれてやると言うわけだ。
そのまま北の大地が手に入るとなれば、もっとマトカの兵隊を呼べたし、好都合だ。それを千晴に告げるとそこが最終地点だと言われて、部隊も送るからまずは如罪組の組長を暗殺するようにと言われてしまった。
千晴の指示通りに渡瀬の提案を受け入れて、才門は如罪組の組長が最前線に激励に来ているホテルを渡瀬の部下の案内で侵入して襲撃した。
ホテルの警備は緩んでいたお陰で、奇襲は成功し、松比良渡里は才門の手によって殺された。
それにより、如罪組は一気に撤退を開始し、その撤退したエリアの最前線はさすがに高嶺会によって奪われはしたが、北九州の地は何とか才門たちのマトカが死守した。
しかしこのことにより、勢力図は一気に変わり、高嶺会は福岡博多という重要地点までを傘下にすることができた。
それは重要なことで、才門にとってはそこで高嶺会に付け入られて余分な撤退を強いられたのは誤算だった。
せめて久留米までは死守できると思っていたのに、先に福岡博多の雨宮組が、ロシア人排除を始め、それに続いて地元ヤクザは一気に高嶺会に寝返ったのだ。
まるでその機会を待っていたかのような鮮やかな手の平返しに、才門率いるマトカ部隊でもそこを避けて撤退するしかなかった。幸い北九州は港を押さえていたのもあり、耐えられたけれど、それでも如罪組に従っていたヤクザは、如罪組からマトカに乗り換えるほど馬鹿でもなかったわけだ。
ロシア人に占拠されるくらいなら、高嶺会の方がマシというわけだ。
日本人である以上、そういう気持ちが働くらしく、結果として如罪組の撤退は高嶺会に良いように働いただけだった。
才門はそれを最初に悔しがったけれど、それこそ渡瀬の策略だったことに気付く。
渡瀬は高嶺会に負けるのは嫌だけれど、マトカにその土地をくれてやるのも嫌である。 そして赤い雪との繋がりがある以上、マトカとの繋がりを作るわけにも行かなかった。
その妥協点として、一部はマトカに譲るとしてもその他の福岡辺りは、高嶺会に取ってもらいたかったのだ。
如罪組として引く上での条件は、組長の渡里の死を利用して、如罪組に撤退の理由を与え、マトカに屈しないためには福岡を高嶺会に取ってもらうしかなかった。
才門は渡瀬にしてやられたことを知る。
「あの若造……とんだ食わせ者だ」
この如罪組の撤退話は、実は高嶺会にも同様に持ち込まれた。
だが渡里(わたり)の暗殺に付いて、蓮は即決で断った。
「申し訳ないが、こちらとしては堂々とやり合った上でなければ、到底認められない。まして暗殺でこの地を治めるなど、他の組織に示しもつかない。こちらとしてはその提案は聞かなかったことにする」
如罪組の撤退の話は好機であるが、あくまでそれは若頭渡瀬の独断である。これに乗ることで不利益が生じる可能性が高い。
そう蓮が受け入れないと言うと、渡瀬は困ったなと頭を悩ませているけれど、それに蓮が言う。
「そういうのを引き受けそうなのが、すぐ隣にいる。おたくとしても渡里が死んでくれるならそれに超したことがないのだろう? なら誰がやってもいいわけだ。我らでなくても」
そう蓮が告げると、渡瀬はなるほどと頷いた。
「ああ、そうですね。海外のマフィアに殺されたとなれば、面目は立つ。才門はあなたたちがやってくれるだろうし、そうすれば暗殺の依頼実行者の口も塞げる。我々としては、赤い雪にも面目は立つというわけか……なるほど、これは乗せられてみよう」
蓮の提案を渡瀬は気に入り、更に蓮がその日程を尋ねる。
「こちらとしては福岡博多を取られるわけにはいかない。そちらとしても才門に消えて欲しいのならば、同様だと思うがどうだ?」
才門には暗殺を実行した後は、速やかに退場願わないと渡瀬の悪事が如罪組に知れ渡ってしまい渡瀬としては組長になれないかもしれない。
つまり、蓮とは今後も上手くやっていく間柄として、如罪組としては悔しいけれど福岡を渡してしまうしかないのだ。
「確かに、撤退する以上余計な戦力を持たれても困る。いいでしょう、あちらが乗るかどうかで状況は変わると思いますが、この話は内密に。後日また連絡を」
そう言って渡瀬が去ってから二日後にすぐに連絡が入った。
蓮の思惑通りに才門は暗殺を受け入れ、意気揚々と作戦を決行するという情報が入り、蓮たちはそれを雨宮組に知らせてお互いに連携、如罪組が組長の激励を受けるためにホテルに集まっているのを見て、高嶺会を誘導して、渡里の暗殺が知れた時に奇襲し、福岡を奪還、博多は雨宮組との連携によって如罪組を撤退させた。
高嶺会として蓮は雨宮組とは杯を交わし、より良い関係で双方の利益を尊重していくことを後に約束することになる。
これにより高嶺会はほぼ九州を取り、王手までは後北九州の一部を狙うだけになった。
そこにようやっと高嶺会の内部抗争が沈静化し、援軍が到着する。
「後は北九州のマトカを一掃することのみ。そこには前会長である古我知才門もいる。高嶺会として、才門を生かしておくわけにはいかない。警察に駆け込まれるよりは消えて貰うために、どうしても捕らえないといけない」
つまり、才門を捕らえて海の藻屑になってもらうしかない。
高嶺会の有りと有らゆることを知っている才門を何処の手にも渡してはいけないのだ。
九州で起きているヤクザの抗争は、テレビでも取り上げられるほどになるも、高嶺会が関わっているとは報道されていない。
長良沢組の解散以後に起きた混乱の時期で、九州のヤクザが抗争をしているという流れであるが、多くのロシア人が逮捕されていることから、海外マフィアの介入も噂されている程度で、日本のヤクザが海外マフィアと抗争しているという構図が挙げられている。
警察もその辺を疑っており、ロシア人の入港すら厳しくしているけれど、どうしても抗争後の現場にはロシア人が大量に落ちているという状況で、どう解釈していいのか分からないという有様だ。
「さて、何とかここまでは来たな」
葵依は福岡に入り、やっと北九州の都市だけとなった勢力図を見て、蓮にそう言う。
「ああ、やっとだな。この一ヶ月弱、お前もよくやってくれた。ありがとう」
蓮がそう葵依を労うと葵依はそれにくすぐったそうに笑う。
「いや、俺はロシア人を排除していただけに過ぎない。自分の脅威になるものを自分の手で払っているだけだよ」
とはいえ、まだその脅威のロシア人は残っている。
才門を仕留めない限り、終わらないのだ。
葵依が前線で飛び込み隊長を続けていると、周りは最初こそ血族のことで問題があると思っている者もいたが、やがてそれは些細なことだと思い始めたらしい。
葵依は命を賭けて飛び込み、銃を乱射させる前に大体沈静化させてくれる。それは高嶺会にとって死傷者を一切出さずに行動が出来る安全な方法であり、命を守られていると実感ができたらしい。
マフィアとの抗争において、一切の怪我をしないことはあり得ないからだ。
その葵依の強さを見せつけられた部隊は、葵依に懐いていく。ヤクザなら強い男に憧れるものだが、その葵依の見た目からあり得ない力で飛んでいく戦闘スタイルは美しく、見ている者を魅了した。
蓮も隣で戦っていて、葵依には背中を預けられると思うことが何度もあり、葵依の強さに魅了される。
そんな葵依の強さは実践によって更に強化され、最初に出会った頃よりももっと繊細で大胆で動きも最小限で一撃必殺を繰り出し始めてしまう。もう射程距離がどうこうの話ではなく、相手が懐に手を入れた段階でもう相手を昏倒させられるのだ。
その動きはもう忍者と言ってよい。
これを真似できるわけもないが、それでも見ている者は触発され、蓮の部隊の組員の強さは格段に上がっていた。
それこそ、比嘉のグループにいる組員とは天と地ほどの差が出たほどだ。
なので蓮はその部隊を入れ替えながら強化していき、やがて最前線にいる部隊の力の底上げに成功した。
もはやヤクザの抗争として如罪組の組員とは子供と特殊部隊ほどの差が出ていて、そのお陰で福岡攻略すらも差して苦労もせずに行えた。
葵依の存在一つで、ここまでだとすれば、蓮は父親である壮比が葵依を受け入れると言った理由にも辿り着く。
この効果を狙っていたとすれば、それはもう思惑通りなのだろう。
葵依の持つ榧流は、部隊の組員にも浸透し始め、葵依はそれを惜しみなく組員に教えていく。
組員も最初こそ榧流は宝生組が好んで使う武術という認識しかなく、てっきり箔付けとしてそう言っているのだと思っていたらしいが、実態を見たら冗談ではなかったのだと知る。
榧流武術を取り入れた宝生組が唯一関東で君臨していられ、他の組織がその地にいられない理由にも納得する。
榧流は他の武術の基礎があり、更に熟練者であれば教えやすいのだと葵依が言っていた。ただ奥義には辿り着かないだけで、その経験者をさらなる領域に連れて行くことが出来る。
行き詰まっていた人はそこで伸びしろを感じ、伸びたことで榧流を受け止め、その師範代である葵依には尊敬の眼差しを向ける。
葵依は師範代というだけあり、教えるのが上手く、実践も嫌がりもせずに見せてくれ、組員は暇さえ有れば葵依に指導を願ったくらいに熱中をしていた。
それは蓮も変わらずであり、琉球空手を主体にした榧流の技を取り入れて、煮詰まっていた限界を更に越えたのに、まだ伸び代があると思えたほど成長をした。
葵依が実践が必要だと言っていたけれど、実践を重ねるごとに蓮は強くなっていると実感ができた。ロシア人の元海兵部隊出身らしい男たちと全く引けを取らないで戦えるのだ。
もし葵依の手助けがなければ、才門の悪足掻きにかなり手こずったはずだ。
部隊の力の底上げができたことで、攻略は当初の予定よりも百二十%くらいの速度で完成しているのだ。
ただ一人、この人がいるだけで全部が変わっている。
もし葵依がいなければ、ここまでの成果はでてないと誰もが思ったほどだ。
「だが……このまま才門が大人しくしているとは思えないが」
蓮はそれを心配する。
才門がこのまま騙された形で終わるとは思えない。それくらいに才門は往生際も悪い男だ。
もはやこれは九州統一というよりは高嶺会による内部抗争の続きである。
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