raging inferno
14
葵依と蓮が連携を取り、如罪組との抗争に入る頃、蓮の所属する高嶺会の抗争が始まった。
古我知才門が息子紫苑が俐皇によって殺されたことに激怒し、俐皇に復讐をしようとしたことに渡真利壮比と真栄城安里が反発、このことに激怒した才門が二人を拘束しようとしたところ、それに下位組織が反発。
完全に高嶺会を分断する抗争に発展した。
しかし、その抗争はあっという間に沈静化していく。
まず、才門に付いたのはよかったが、才門がこの抗争を制した後に、俐皇に対して宣戦布告をするという話を聞いた組組織が一気に離脱し、安里に泣きついたのだ。
分断は良くないし、会長に従うのが仁義であるが、真栄城俐皇に反発をする気が一切にないのが反発する理由だ。
まず紫苑は古我知会の理事長ではあるが、高嶺会にとってそこまで重要ではない人物である。
更に人望がなかった。父親が父親だけに、その力でのし上がったからなのか評判がすこぶる悪い。
そのため、若い衆が紫苑にいい感情を持たず、もし才門に従うなら渡真利や真栄城の組織に入り直すとまで言ったらしい。それくらいに紫苑への反発は強かった。
それもそのはずで、他人のテリトリーで高嶺会の幹部ですらないのに、高嶺会の上前を勝手に跳ねていたのだ。そのせいで補填を押しつけられ続けた下位組織は、安里に相談していた。それで何とか組が安定するようにしてもらっていたので、当然安里には恩義を感じていた。
それには壮比も安里と協力して何とか高嶺会の使い込まれる金の補填をどこからかしてくれたらしいが、親子は湯水のように女や高級品に組織の金をつぎ込んでいた。
それがあっという間に抗争が激化する前に広がり、その証拠の品までご丁寧にネットから各組織に送られてきたから、さあ大変。
それを鵜呑みにしないで才門に付くモノもいたが、一気に形勢は逆転し、才門は沖縄から持てるモノを持って逃げ出してしまった。
その脱兎のごとくに逃げた高嶺会会長、古我知才門の家を調べると出るわ出るわの高級品と使い込みの証拠。それには壮比すらも呆れるほどのものだったらしい。
そういうわけで、抗争が起こったと思ったら一週間で自滅した才門が会長の座を放棄して沖縄から逃げ出したという結果、警察が警戒する中、静かに高嶺会会長の座は、渡真利壮比の元に転がり込んできた。
「まあ、こうなるように長年かけて仕組んできたのだけど、案外脆いんですね」
壮比は暢気に言うと、それに付き合った安里が言う。
「お前の計画は長くていけない。随分待ったもんだよ」
「はは、とうとう俺らの代ではなく、次の世代の一歩前になってしまったけれど、これであなたの目的も達成できそうですね」
壮比は笑ってそう言った。
壮比と安里が繋がったのは、壮比が安里の娘である桜子を嫁に貰った時から始まっている。安里は壮比に、壮比は安里に、才門と邪魔なロシア人、そして外から介入を続ける千晴の存在を排除する計画を立てた。
ただ才門も実力でここまできた相手である。若い頃はそうした暴力性や金遣いはまだ容認されている時代だった。だからそれを諫めるものは排除されたし、殺された。
そうではない時代に突入しても沖縄は変わらなかった。
東京ほどの速度で進まない世界で、やっと訪れたのは九州統一の機会だ。
「長良沢が意外に頑張ったからな。あそこはもっと早くどうにかなっていたはずなのに、鏡の血筋は優秀過ぎたな。見切りも早い」
もうヤクザの時代ではないと、組長の死で一斉解散。他の組織はそれを受け入れ、組員を引き受けたという。長良沢の子供は全員が渡英してもう普通に暮らしている。
もっと早く崩壊をしていたはずなのに、それを持たせて綺麗に終わらせられるのは、ヤクザとしては理想でもある。
「そういや、お前の所の血筋も妙なモノを置いていったな」
安里がそう言い、壮比はそれを笑う。
「構いはしないですよ、この程度。むしろこちらとしては使える手。アレを最前線に置いておけば、迂闊に手も出せませんよ」
壮比の笑いに安里は薄気味悪いモノを見ているように言う。
「使えるモノは何でも使うか。俺は排除が一番安定だと思うけれどな」
安里はそう言う。
「あなたの努力は何の意味もなかったけれど、うちはそうはいかないですよ。蓮がアレに執着を持ち始めているんですよ。珍しいことだ」
「ほう、あの蓮がね……格闘技くらいしか興味がなさそうだったのに」
「仕方がない。だって相手は榧流本家の奥義継承だって言うじゃないか。惚れるなって方が無理ですよ」
「ああ、そこか。なるほど」
壮比がネタバレをすると安里は納得する。
格闘家が惚れるスタイルを持つ榧流。
その本家や榧流武術本家、分家とあるが、奥義を持つものには特に魅了される。
「それを引き入れるということか」
「それもありますが……親父に頼まれてたのもあります。藤宮の家はいろいろと俺らにめちゃくちゃにされているから、困っていたらさすがに助けてやれと。親父の尻拭いでもあるが、まあ爆弾を抱えてくるのは予想外でしたけど」
壮比はそう言って笑っているけれど、打算と計算で成り立っている状態で受け入れる覚悟が有るという。それはその分のメリットをしっかりと葵依自身が持っているからだ。
「まあいいさ、それで才門がどこまで逃げたか」
「一番早い飛行機に乗ったそうだから、九州に上陸はしているかと。そこから船でロシア行きが一番妥当。時間は掛かるが、飛行機を打ち落とされるよりはずっとマシでしょう」
「才門のことだ、余計なことをしてくだろうが……」
「だから才門を九州に行かせたんですよ。私だってメリットがないことはしないつもりですよ、お父さん」
そう壮比は言って安里に笑う。
得体の知れない底のないような不気味さに、お父さんと呼ばれた安里は溜め息を吐いた。
「俐皇としても、可愛いことをするじゃないか。自分と同じ行き場のない似た立場を少しは可哀想に思ってくれたようだから」
「あれはただ単に面白がっているだけだ。殺しには来たんだろう?」
「俐皇に榧流の継承者を殺せるわけないでしょう? 最初から勝負あったんですよ」
壮比は葵依の血筋の話が出た時に、葵依を調べて藤宮の家の者だと知り、さらには榧流本家の奥義継承だと知った。すぐに俐皇が九十九関係の始末に来ると思ったけれど、それは無駄に終わると予想は出来た。
俐皇もまた榧流に魅入られた一人だ。
殺せやしないと分かっていた。
暢気な壮比であるが、それでも如罪組との九州統一を賭けた戦いはまだ始まったばかりだ。
それらに才門の手が掛からない援軍を送らなければならないが、混乱した組織をまず立て直してからとなるため、蓮に言った通りに援軍はまだ遅れる。
九州を手に入れるのは沖縄ヤクザの長年の夢であり、内地の攻略ができるのはこれが最後かもしれない。
如罪組に負けたら、そのうち全土を攻略される。
それが分かっているのに、下剋上が今しかないのも分かっていた。
「すべてのタイミングは今だ」
そう壮比が言うので安里もそれには頷いた。
こんな好機はもう二度と来ない。
沖縄での下剋上が上手くいったのは、蓮たちにも届いた。
しかしそれを喜んでいる暇もなく、蓮たちは連日に及ぶ熊本市内攻略をしながら、長崎から天草に別働隊が上がり、如罪組を追い立てていく。
如罪組はどうやらロシア人の手を借りて攻略をする予定だったせいで、赤い雪が抜けた穴はかなり大きかったらしい。
しかしまた急にロシア人を見かけるようになった。
一旦優勢だった蓮たちの高嶺会であるが、そのロシア人によって攻略した地を取り返され始めた。
「ロシア人は引いたんじゃないのか?」
周りもそう言うけれど、撤退した部隊は言う。
『いえ、それが見知った顔もあって……油断をしました』
そう言われて聞き返すと。
『あれは、マトカのロシア人部隊です。中に前に見たことがある男がいて……それでマトカはまだ協定があるからと油断をしてしまい……』
下剋上によって才門を排除したことにより、どうやらマトカの千晴を怒らせたらしい。
「つまり、お姉さんが弟を虐めた組織に復讐するため、鞍替えしたってこと?」
葵依がそう言ってマトカの文字をグリグリとペンで丸に囲っている。
宙に浮いていると思ったマトカの部隊は、敵と書かれている。
「そうだな。しかし赤い雪と組んでいる如罪組が、いきなりマトカと組むだろうか?」
「じゃあ、マトカは逃亡した才門が仕掛けている嫌がらせってこと? そうなるとマトカの兵隊と如罪組という二つを相手にしなきゃいけないってことか」
葵依がそう言うので、全員が唸り始める。
「そうなるな。しかしロシア人の部隊となると日本のヤクザとは違い、あっちは軍関係者も多いし、手練れだらけだろう」
蓮の言葉に葵依は、その部隊をぶつけるのは自分の部隊だと丸を付けている。
「そうなると戦力的に、俺が行くしかないわけだ」
葵依はそう言い、蓮はそれはと思うけれど、戦力を分けるとなるとそうなってしまう。
「俺を戦力外にするなよ。ロシア人はどのみち出て行って貰わないといけないんだろ。だったら徹底的に伸した方がいい。そうしないとマトカに九州を取られる」
そう葵依が言うので、蓮はそれは間違いないと思った。
沖縄を追い出された才門は九州に逃げてきて、まだ統一されていないこの地に新たな楽園を求めたのだ。
つまりこれは高嶺会にとって、如罪組よりも高嶺会としての後処理でもある。
才門がどこへ逃げたのかは聞いていなかったけれど、そのままロシアに行かないところを見るとまだ高嶺会への未練が見て取れる。
「才門は最後の賭けに出た。ここは高嶺会としても、九州攻略としても絶対に落とせない戦いだ。如罪組攻略を比嘉に、才門の後始末を俺と葵依の少数部隊で攻略する」
その決定に決まり、蓮は葵依と共に最前線に出ることになった。
部隊を統括する役目として、日向が呼ばれ、それに橙李も就いてこざるを得なかったようで、不安な顔をしている。
「葵依、お前、これに参加してるのか?」
橙李は不安そうに尋ねてくるので、葵依はそうだと答えた。
「俺らのこれからを考えたら、俺らがこの先、この地で生活をしようと思うなら、この地を取らないといけない」
「他のところだと俺ら、殺されるからな……それは分かるけど……葵依が強いのも分かるんだけど……」
橙李がそう言い淀んでいるので葵依ははっきりと尋ねた。
「俺が蓮の側にいることで、俺の命の危機を感じるのか?」
葵依の言葉に橙李は頷いている。
「お前が死にそうな気がする……それもあいつを庇って」
橙李の言葉に葵依はニコリと微笑んだ。
「そうか、良かった。蓮が死なないなら、この九州攻略が上手くいくんだな」
「でもお前が死ぬんだぞ……いいのかよ」
「俺だけなんだろ? この中でそう感じるヤツは?」
葵依の言葉に橙李は葵依の言う通りだと頷いた。
「よし、それならいい。俺がどんなことをしても蓮を守っていれば、橙李、お前の未来も明るいってコトだ」
「でも……っ!」
「大丈夫、そのお前の予想は、俺が全部覆してやるよ。未来は決まってない。俺が何としてでもその未来を変えてやる。見せてやるから、橙李、未来は決まってないって」
葵依はそうニコリとして言い、決して両親と同じ事にはならないと言った。
それに橙李は不思議そうな顔をしているが、葵依は自分が悪くなる予感は一切しなかった。それは未来は変えられるということで、諦めることはないという証拠だ。
橙李の中での危機感が勝つか、それとも葵依の中の不安な気持ちがないことが勝つか。
葵依はそう言うと蓮の部下たちの側に行って、装備を決めているけれど、それを見てから橙李は蓮にこっそりと打ち明けた。
「葵依が多分死ぬ、それもお前を庇って」
橙李はそう言い、蓮に葵依を止めてくれと頼むけれど、蓮は言った。
「いや、ここで葵依が抜けると、この部隊自体が壊滅する。だからそれはできない」
「でもっ!」
「分かってる、お前の予想は外れないのだろう。なら、外してやる。俺を葵依が庇って死ぬことはない。その時は俺の方が死んで、葵依は絶対生かしてやる。心配をするな」
蓮はそう言って橙李を驚かせた。
葵依は蓮を庇って死ぬことを言われても、未来を変えると言ってくれ、蓮は葵依が死ぬと聞いても、自分を庇って死ぬことはないと葵依を生かすと言ってくれる。
どっちの言葉も本気で相手を思っていて、不安に駆られる橙李の心を大事にしてくれた。
「お、お前も死ぬな。お前が死んだら、葵依はきっと駄目になる」
橙李は蓮にそう言っていた。
いつの間にか二人はお互いを信頼し合う関係になっている。
離れている間に、葵依はすっかり変わってしまい、生き生きとしている。
蓮といることで葵依はやっと自分の居場所を知ったかのように、親が亡くなる前の生き生きとした本来の葵依になっている。
それは橙李にとって十年ぶりの葵依の姿であり、それは嬉しい変化だけれど、橙李の中の不安はまだ消えてはいない。
その不安を二人がかき消してくれるかもしれないという希望は、橙李の中にも生まれ始めていた。
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