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30
コインを投げて
仲道忠和(ただかず)は仕事終わりに居酒屋に行っていた。
一人暮らしを始めてから、居酒屋で一杯やりながら定食を食べるのが日課で、そのお陰で一切家で料理はしない生活である。
行きつけの居酒屋はオシャレで少し値段が張るので学生がやってくることはほぼない、静かな居酒屋だったから気に入って既に一年も通っている。
引っ越してきてから出会った場所だったので誰にも教えずにいたからいつも一人で食べて飲んで帰る。
店としては飲んでくれる客の方がいいのだろうが、カウンターで美味しそうに定食を食べる仲道を見て意外に食欲をそそられる人がいるらしく、サイドメニューもそれなりに出るようになったと言われた。
中にはメニューを隅々まで見る人はいないのか、定食があることすら知らなかった人も多くいたそうで、カウンターで一人定食を食べて二、三杯飲んで帰るサラリーマンも増えたらしく、いわゆる地域に根付いた感じにはなっているという。
そんな店で仲道はいつも通りに定食を頼むと、急に隣に座っていた顔形が綺麗なサラリーマンが仲道に話しかけてきたのだ。
「あの、定食なんてあるんですか?」
そう言われて仲道は隣を振り返った。
真っ直ぐな瞳が潤んでいて、それがまた綺麗だった。顔も美形と言ってよかったし、背格好も少し細めの背も高い方ではなかった。
仲道がスポーツやジムに通っているから筋肉もしっかりと付いていたからかもしれないが、ひ弱な人に見えた。
ちょうど店員が奥に下がっていったところだったので、聞く人がいなくて仲道に声を掛けてきたようだった。
「ありますよ。メニューの最後から二ページ目のところ……そうそうそこ」
仲道が説明をするとそのページを開いてから隣の男がハッとした顔をした。
「本当だ。定食がある……! ありがとうございます! てっきりこういうのはないから小皿で個別に頼むしかないのかなって思い込んでいて……」
その人はそう言い、ホッとしたように笑った。
綺麗な表情で笑う男に仲道は少しだけ心が動揺するのが分かった。
「あ、いえ……俺はメニューを隅から隅まで見るのが好きで、それで気付いたくらいだから。それに店員さんに定食ないか聞いたら教えてくれたと思いますよ」
仲道がそう言うと男は名乗った。
「僕は起田智也(おきた ともや)といいます。店員さんに聞くの、何だか失礼なきがして、メニューは捲ってたんですけど、最後の方は団体客のメニューが多かったからラストまで捲らなかったんですよね……」
起田と名乗った男はそう言い、少し恥ずかしそうにしている。
「あー俺は、仲道っていいます。確かにメニューのラストの方は団体客用ですね。その更に先に定食があるとは思わないですね」
たまたま興味があって開いていた仲道と先にあるわけもないと諦めた起田である。
お互いに性格が出ていてちょっと面白いと仲道は思ったのだった。
「ここは初めてですか?」
仲道からそう話しかけると起田は頷いた。
「そうなんです。オシャレだなと思っていつかは! と思ったまま一年素通りしてて、今日は思い切ってと入ったら居酒屋だったので、ちょっと目的と違ってしまって」
「ああ、オシャレなレストランかな~くらいの気持ちだったんですね」
「そうなんです。だから失敗したかなと思って。お酒はあんまり飲めないので」
起田がそう言って見せてきたのはカシスソーダ割りだった。
お酒の飲み慣れていない人や女性が好むお酒で、まだ半分も減っていなかった。
「あ、定食なんですけど、どれが一押しですか?」
起田は慣れた様子で注文をして店員と和やかに喋っていた仲道が常連だとは見抜いていたようだった。
「一押しですか。そうですね、季節限定が一押しかな。他のは季節限定を食べ終わってからでも食べられるんですけど、季節限定はほんと、その時期に取れる野菜と魚とか何で。今日だと鮎の塩焼き定食なんていいかも」
仲道はそう言ってメニューの中で一つだけ紙を貼り付けている場所を指さした。
そこには季節限定鮎の塩焼き定食と書いてあった。
「わ、鮎ですか……居酒屋で珍しいですね……旅行とか行った時にしか食べない魚かもしれないですね……うん、今日はこれにします。ありがとうございます」
起田は他のメニューも気になるが、それでも季節限定のものは気に入ったようだった。
「いえいえ、あ、店員さん。注文いいですか。こっちの人も」
店員が仲道の定食を持ってやってきたのでそれを受け取りながら仲道は二杯目の酒を頼んだ。その後、起田が定食を注文した。
「仲道さん、またお薦めをしたんですね」
店員がそう言って仲道を見て笑う。
仲道はそれに頷きながら言うのだ。
「いい加減、メニューの定食の一覧をもっと前にしないからさ」
「いいんですよ、定食は見つけた人の得になるメニューで。一品物頼んでくれた方がこっちとしては売り上げお得なんですよ」
店員は裏事情をさらっと笑って言ってから、何だかんだで今日の食材がちゃんと捌けてくれるのは嬉しいらしい。
また店員が奥に引っ込んでいって、カウンターには仲道と起田の他に奥の方に一人だけ携帯ゲームをしながら飲んでいる人がいる空間に戻る。
団体客は奥の方にあるテーブルコーナーにいるのでこちらの方には人は少ない。
テーブル席は二つほどあるけれど、そこは土、日の時間しか埋まらない店だ。なのでカウンターの席は意外に静かで落ち着く空間になっている。
「入り口が近いからもっと騒々しいかと思ってたんですけど、意外にさっと団体は奥に消えるんですね」
起田は店の構造状そうなっているのだと気付いたらしく、感心したように店を見回している。
「店長の自慢の店だそうですよ。内装も凝ってるし、それでいてサラリーマンにも優しい値段で安すぎないからチェーン店のように騒がしくもないって感じ」
仲道が店長から聞いた話をすると、起田は感心したように頷いている。
そんな時に起田は自分でも気付いてないのか、苦手な酒をごくごくと飲んでいるのである。
「そう、なんですね……もっと早く通ってくればよかったなあ」
少し上機嫌の起田は既に酔っているようだった。
「あの、大丈夫ですか? お酒苦手だって言ってらしたけど、ごくごく飲んでません?」
思わず仲道がそう聞き返すと、起田はハッとしたように持っているグラスを見た。
「……あ、しまった……もっと氷で薄められるの待ってたのに、喉が渇いて飲んじゃった……」
起田はそう言うとにこっと酔っ払いのように左右に揺れながら笑っている。
「み、水、飲みます?」
「はい、飲みます」
仲道は先に貰っていた自分の水を差し出した。
すると起田はそのコップを仲道の手ごと受け取って身を乗り出してコップに口を近付けてきたのだ。
「……えっちょっ」
意外に力強い起田に手を掴まれたままで水を飲ませる形になってしまった仲道であるが、どうせ酔っ払いだと思ったので起田のするがままになった。
ここで手を引いて水がこぼれたら、相手の高級そうなスーツを濡らしてしまうと瞬時に判断ができたからだ。
ごくごくと勢いよくその水を飲む起田の喉元を見ていた仲道は、何だか淫靡な雰囲気を感じ取って少し焦った。
「……あー、お水、美味しい」
水をコップ一杯飲んでしまうと起田が零れた滴を舌で舐め取っていた。
その舌の動きがまたいやらしく見えてしまい、仲道は更に焦った。
「あの、手を」
離して欲しいとお願いすると起田はニコリと笑って言った。
「はい、すみません。ありがとうございます……。お酒は、弱いのであんまり、飲まないつもりだったんですけど、カクテルジュースだって聞いたのに結構きますね……」
起田はやっと仲道の手を離してくれたが、その時、指で指を撫でるように離れていったのでそれだけで仲道はドキドキと焦った。
そこでちょうど起田の分の定食が運ばれてきたので二人は話をせずにそのまま定食を食べることに集中をした。
「ん、美味しい」
起田はどうやら定食を気に入ったようで、鮎を食べては感心しているようだった。
酒を飲んだことで気が少し楽になったのか、店員との話も弾んでいるようで、仲道が口を出さずとも起田は楽しそうだった。
そして食べ終わってから仲道は起田と一緒に店を出ることになってしまった。
お互いに会計をしてから外へ出ると、店の前で別れることになった。
「それでは、俺は一旦駅に戻るので」
同じ方向に帰る羽目になったら嫌かなと思って仲道がそう言うのだが、起田はそんな仲道を見てから言うのだ。
「あの、仲道さん。迷惑でなければ、少し付き合ってくれませんか?」
起田がそう言うので、仲道は少し戸惑った。
起田は仲道が断れないことを知っているのか、とても潤んだ目で仲道を見てくる。
「……えっと少しだけですよ?」
仲道は根負けして起田に付き合うことになってしまったのだけど、起田が新しい何処かの店にでも連れて行くのかと思っていたら、段々と繁華街先のホテル街に連れ込んでくるのだ。
「あの、起田さん?」
不安になって仲道が尋ねると、少し顔を赤らめた起田が振り向いて言った。
「仲道さんには、僕を食べて欲しいなと思って……」
そう言う起田は仲道に寄り添ってきて、いきなり仲道の股間を手で触ってきた。
「え、ちょっと……起田さん、酔って?」
「はい、酔ってます……だからとてもエッチがしたいのです……」
どうやら起田は最後に頼んだ飲物が酒だったらしく、それを一気に煽っていたみたいだった。てっきりソフトドリンクを頼んだと思っていたのに、わざと酒を飲んだのだ。
それはこうやって仲道をホテルに誘うためだった。
「でも……」
「決めきれませんか? じゃあ、これを」
そう言うと起田は外国の硬貨を差し出してきた。
「これを投げて……それで表が出たらこのまま帰って構いません。でも裏が出たらここに一緒に入りましょう」
そう起田が提案をしてきて仲道は断り切れなかった。
この時の起田の色気は半端がなく、同じく酔っていた仲道はコインを投げる羽目になった。
握ったコインを放り投げると、それを上手い具合に起田が受け取った。
「じゃあ、開くね」
受け取った起田が手の甲にコインを載せていて、その手を覆っている手を取った。
コインは裏だった。
「裏だね。じゃあ、僕を食べて」
起田がそう言うと仲道の股間を何度も擦った。
それによって仲道は酔っていたから判断もできなかった。
そしてそのまま目の前のホテルに入り、起田は仲道に逃げられないように腕を組んで部屋まで仲道を連れて行った。
部屋に入ると、ピンク色の部屋だった。
目の前が全部ピンク色になってしまい、そこで仲道の許容範囲は超えてしまった。
ベッドに倒れ込んだ仲道を起田が馬乗りになって仲道の服を脱がしに掛かった。
「こんな上物、逃がすわけないでしょ」
そう言いながら、ベルトを外し、パンツや下着を一気に下ろした。
現れた仲道のペニスは既に半勃起をしている。
「やっぱり大きい……」
起田はそのペニスを見て微笑み、それをすぐに口で咥えて扱いた。
「……う……あ……」
仲道が混乱している間に、さっさと性欲を満たすために起田はジュルジュルと音を立ててペニスを舐めて加えて扱き、更に勃起させていく。
するとそれだけで仲道のペニスは完全に勃起をしてしまったので、起田はすぐに服を脱いでしまった。
全裸の起田が仲道に跨がり、アナルから何かの道具を取り出している。
それはストッパーで、中にはローションがたっぷりと入っているようだった。
「んはあんっ……やっとおちんぽ挿れられる……んふっ」
起田はさっきまでの純情そうな表情をかなぐり捨てて、勃起している仲道のペニスに跨がった。
「ん゛っああああっ……あっ、あ゛ぁぁっ……おちんぽ挿ってくる……ああんっん゛っあああああ~っ……ん゛っあっあひぃっ」
起田は上手くペニスを自分の中に導いて、グイグイと奥へ挿入って来るペニスを楽しんでいる。
「うああ……あああ」
仲道は身動きが取れずにまだパニックになりながらもペニスを勃起させている状態。それは起田の中に挿入り込んで、そして気持ちよさで仲道は呻いた。
「ん゛ひっ……はいって、んっ大きいおちんぽが……なかっはいっちゃ……あ゛っん゛っあああっ」
「うあ、出るっ」
仲道が呻いて射精をしてしまった。
それは中出しになってしまったのでその衝撃に起田は涎を垂らしながら喜んでいる。
「ひうっ……あ゛っ、ううっ、ん゛っあ゛うっ……おちんぽ精液、いきなり中出し……んっああっ……はっ、はったまらない……まだ勃起してガチガチなまま、素敵」
仲道はしっかりと射精をしたのに、勃起したペニスが萎えることなく、しっかりと堅さを保ったままで起田の中を抉っている。
「あぁんっあっあぁあーっあ! あんあんあん! おちんぽっ、しゅご……っそこぉお!」
起田はそう言うと腰を淫らに振り始めた。
「んふぁ……あ! ぃあっ……そこ、そこおま○こいいっあああんっ!」
奥を抉るようにしてくる腰の振り方もいやらしいいけれど、それ以上に起田のアナルの中は仲道には気持ちのいいものだった。
「うあ、なんだこれ……気持ちがいい……」
「あ゛ああっ……いいっ、おま○こにおち○ぽ挿入ってっ、んひっ、い゛っ……あっ、あああっあ゛っ、おち○ぽ、いい……あっあ゛っ、ん゛っあああっ」
「うあ、うあ……良すぎる……なんだこれ」
「あ゛ひっ……んっあっあ゛っ、あはぁっ……んんあぁあっ…ひっ、あへっ…あっ、おま○こにおち○ぽ気持ちいいっああ、あんああっ」
「くそう、こんな淫乱だったのか、お前は!」
やっとショックから復活した仲道が跨がっている起田を押し倒して起き上がり、繋がったままで更には腰を強く突き挿入ていた。
「やああぁっ! あっあぁんっ……おちんぽっいいっ、あっあっあっ……あひっ……あっあんっあっ……はっ、はぁ……あぁあっ……」
「この淫乱! こうして欲しかったんだろ!!」
そう仲道が言うと起田はそれを待っていたかのように喜んでい仲道を受け入れていた。
「あぁっ……そう欲しかったの! あぁんっ……おちんぽ奥までちょうらいっ……はぁっ、おちんぽっおま○こにせいえきちょうらいっああんっいいっ」
「くれてやるよっ欲しいんだろ!!」
起田は純情そうに見えて、とても淫らな体をしていた。
乳首には輪っかのピアスをしていたし、それに繋がる鎖が揺れている。
それを引っ張ってやったら、乳首が伸びきってちぎれそうなくらいになっているが、それさえも起田は気持ちよさそうにしている。
「ひああぁっ……ちくびっいいっあぅっ、ひぁん、あっあっあんっあぁんっ! あ゛ああんっああっ!! ああああっあっぁっあっ、いいっ、おちんぽっきもちいいよぉっ……、あああぁんっ」
「中で出してやるよっ中出しがいいんだろ!?」
「ああぁんっ……はぁんっ……らして、中でせいえき、らしてっあっあっあひぃっ! あっあぁっ、あひぃっ……、らめっ、あーっああっ……、あぁっあっぁんっ」
ゴリゴリと奥を抉りながら仲道は夢中で腰を振り、起田を犯していく。
その腰付きは今までしたこともないくらいに強く乱暴で、相手を無理矢理屈服させるような強引なセックスだった。
しかしそこで仲道は今まで自分がセックスに満足しなかった理由を知った。
「ずっと、ずっとこうしたかったんだっ、おら! 俺のペニスでよがれっ!!」
そう乱暴にすることこそ、仲道が望んできたセックスの仕方だった。
甘いセックスに満足できず、恋人と上手くいかなかったのも、このせいだ。
それを起田は最初から見抜いていて、仲道をこっちの道に引きずり込んできたのだ。
「あーっそう、そうして……あなたはそういう人だっああっあぁっ、あっああぁっあひぃっ! あんっ……あっあっあああっ! あぁーっ……んっはぁっぁああっ」
「中出ししてやるっ淫乱、孕めっ!」
仲道はそう言うと起田の中に二度目の中出しをしてきた。
今度は強くしっかりと奥まで突き挿入れた状態で中出しをされ、それは入るはずもないところまで挿入り込んでいた。
「あぁっあっ、あんぅっ……、せいえききた、あぁっあーっ……ひっ、ああっ、あぁあんっんっんっ……はぁっぁ、あぅんっすご、いっ……ひゃぁっあっはぁっ、あぅんっ!」
「まだだっ!!」
仲道はそう言うとまた腰を振り始め、起田を犯し始めた。
「あぁあああっ……あああっ、あぁああぁんっ……やぁああっ! あっいいぃっひぅっ、あっ、あぁんっ! あぅっあっあんっいいっ、んっ、ひああぁっいいよぉっ」
起田はそれを受け挿れ、仲道を解放していった。
「それでいい、それで。そのまま獣のように僕を求めて」
起田は仲道の獣の部分を呼び覚まし、仲道もそれに気付いた。
もう元には戻れない道に入ったのだと仲道は気付いたが、もう戻ろうとは思わなかった。
あのコイン投げで全てが決まった。
仲道はあれに細工があることは分かっていた。
でもどうしても起田に興味があったから、細工されて裏にされたことも見逃したのだ。
だからこれは自分が望んだ姿になるための必要なことだったのだと思った。
そのセックスは午前零時まで続いた。
仲道はすっかり起田の体を気に入り、起田が望むように犯した。
そして二人はその日からセフレになった。
会うのはあの居酒屋。そこで一杯飲んで定食を食べるのが合図。
そこに来ればセックスをしたいということ。
仲道は毎日通ったが、起田は一日置きになっていた。
けれどそれが毎日に変わり、やがて二人が通わなくなるまでにはたったの一年もかからなかった。
もうずっと側にいるから待ち合わせをする必要もなかったのだった。
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