shortshort 18

連続する敗北

「じゃんけん、ぽん!」
 菅島はそう言って出した手を見て、顔色を変えた。
 出したのはパーだった。しかし相手の浦崎が出したのは。
「はい、チョキで俺の勝ち~」
 と言った。
「菅島、弱ぇ~」
 浦崎がそう言って笑いながら、菅島の腰を掴んだ。
 今二人は全裸でベッドの上だ。
 ラブホテルに入り、いざセックスだとなった時に菅島がじゃんけんを提案するのには意味がある。
 というのも、二人はゲイである。
 ただ問題は、どっちもタチだったことだ。
 出会った時に受けに振られた二人が出会い、セックスが好きすぎて振られたという理由まで同じだった。
 だから二人でセックスすれば問題がないとなったが、大問題が残っていた。
「いや、俺もタチだから」
「俺もそうだけど、男に突っ込むのが好きなんだけど?」
 と、いざ裸になってから二人はお互いにタチであることを知ったのだ。
 しかし二人は考えた。
 ここまできてセックスせずに帰るなんてできない。
 よってじゃんけんになって菅島は負けてしまい、ネコとしてデビューをしてしまった。
 しかしセックスの相性がよかったので二度目に及んでしまったが。
「今度は俺がしたい!」
 とタチの方をやりたいと言う菅島にニコリとして浦崎が言った。
「いやそこはじゃんけんでしょ? それならやったやらないにならないし、それなら俺も納得するし」
「わ、分かった」
 何故か前回負けたことが頭に浮かんだが、今度は勝つだろうと思い、菅島は言いくるめられて浦崎とじゃんけんをして負けた。
 それから一年、セックスのタチをじゃんけんで勝った方にと決めるようになって既に百回は超えているセックスで菅島は全敗することこそ奇跡だろうと思う羽目になっていた。
「何で勝てないんだ……何でだ」
「さあ、俺も分からねえし、もうじゃんけんどうこうでなくて良くない。お前、絶対ネコの素質あるし……」
 めちゃくちゃセックスの相性が良すぎて、二人は一年間セフレとしてやってきたが、もう恋人と言っていいくらいにデートもするし、旅だって一緒に出かけ、家にも出入りする仲になっていた。
 それなのにラブホが面白いからという浦崎に連れられて菅島はラブホテルに行き、道具を使って遊ばれてしまうのだ。
 それでも相性がいいので暫く立つとセックスをしたくなって結局二人はラブホテルに入ってしまう。


「はあ……んっあああっ!!」
「ほんと、堪らないね……すっかり雌ま○こになってやがる」
「も、なんで……勝てないんだよ……あああんっ」
「なんでだろうな……ほんと、これで百四十勝目っと」
「ひあああんっああんっ……ああんっあああん……も、おち○ぽ……ああんんっ」
「好きだもんなこれ、マジで……」
「ひぃいいっああんっもっ奥ばっか……ああんっ……ああんっ」
「もっとだろうが!」
「あぁん! あうっおま○こ、おちんぽでっおま○こ掻き混ぜ……あんあんっぁあああーっ!」
「おらおら!」
「あっあんっ、はぁんっ! あんっあんっいいよぉおっぁあうっおちんぽっ凄……あーっあぁあーっ!」
「凄いのは分かってるだろ! もっと奥がいんだろうが!」
「あぁああーぅんっふぁっぁんっあんっそこぉっ! おま○こ突いて……っあーっあー!」
「やっと素直になってきたなっほらしてほしいこと全部口に出せよ!」
「あぁふっ……もっといいとこ、おちんぽでっもっとおま○こ突いてぇええ!」
「分かってるよ、ここを擦りながら、奥で中出しされるのが一番好きなんだろう。ほらよっ!」
「あぁあんっあんっあんっ精液中出しきたっっあっあっんあっ!」
セックスを始めてしまえば、そこはどっちがどうというのはあまり関係なくなり、菅島は浦崎に攻め立てられるだけである。
 そしてそれが気持ちがいいのだけれど、どうしても冷静になると納得できなくなってしまうのだった。

 どうやってもじゃんけんで負けるから菅島は会社でも休み時間に友人とじゃんけんをしてみたりしている。
 しかしそこでは菅島はじゃんけんに強くて、九割ほどは勝ってしまうのだ。
「なんでだ……」
「菅島さん、つえーよ」
「いや、それはないんだよな……」
 菅島が勝ってるのに落ち込むので同僚はどうしてだと聞いてきた。
「実は、友人と毎回じゃんけんして奢る奢らないってやってるんだけど、百四十連敗中なんだ……」
 そう菅島が言うと同僚はさすがにその連敗は奇跡だと言った。
「マジで、あり得なくない。確率的に負けてもせいぜい十連敗くらいしたら一回は勝ちそうなのに……しかも菅島さん、会社ではほぼ負けなしですよね?」
「だから、おかしいって言う話なんだよ。なんであいつには俺、負けてんのか分からないんだ」
「うーん、別に菅島さんにじゃんけんの癖とかないと思うし……俺は、一応癖とかないかなとちょっとは研究したんですけど、ないんですよね……」
「だろう……だから何でか分からないし、毎回違う動作でじゃんけん繰り出す技も編み出しているのに負けるんだよ」
「それは謎ですね……」
同僚もさすがに理由は分からないと首を傾げた。

 その不思議な話をした後でも菅島は浦崎にはじゃんけんで負け続けていた。
「もう……なんで、あああんっ!!」
 何で負けているのか理由も分からずに、ただ浦崎にアナルにペニスを突き挿れられて好きに動かれてしまう。
「ああんっ……ああひっあああっんっ」
「おら、腰触れって……そうそう、負けたからってマグロやってんじゃないぞ」
「もう……マジで腹立つ……あひっああんっああああんっあっあっあっあああ!!」
 それでも気持ちが良いので菅島は絶頂へと導かれる。
 最近はじゃんけんをするためにセックスをしているまであり、一回一回突っ込む時には連続でじゃんけんをしておいてからやる。
「じゃんけんぽん。ぽん。ぽん、ぽん。はい全勝」
 これだけやっても負け続ける菅島は、負けた手を睨み付けて唸る。
「なんでだ……本当になんで負けているんだ……」
「いいから、これで連続四回抜かずに絶頂だな、ちなみに俺が四回イクまでだから、お前が何回イこうが関係ないからな」
 にっこりと恐ろしいことを浦崎が言って、菅島は浦崎の手によって喘がされる。
 連続で何度もイカされても、浦崎が射精をしない限り一回にならず、二時間ずっと中を擦られ続ける羽目になる。
「あっあっあっもぅっもうっおま○こでいったのぉっぁんっあんっ」
「まだだって言ってんだろ? まだ抜かずに三回はあるっ」
「あっああんっおちんぽっ足りっ足りないいぃっ! いいとこぉっ……おま○この奥、奥にもおちんぽっせいえきっ欲し、いっぁあんんっ!」
「くれてやるから、目一杯喘いでろよっ」
「あっ、あっ、あ……っああぁ……っあ、あ、あ、い、いく、いく――……っあああああぁぁ――――!」
 それでも気持ちが良いのでセックスだけはどうしてもやめられない。


 ある日、やっぱり負け続け百六十連敗をしたことを知った同僚が言った。
「多分なんですけど、直前に何か癖が本当に分からないくらいの癖があるんだと思うんですよ」
「なるほど。それを解明していくしかないわけか」
 さすがに突っ込まれ過ぎて菅島は自分のフォームを何度も鏡で見ながら動画にとってみたりまでした。
 ここまで来たら一回でもいいので、浦崎に突っ込みたいのだ。
 もう既にここまでで一年半、菅島はタチの役割を果たしてない。
 すっかりネコであると言われてもおかしくはないほどに、アナルは出来上がっていると言って良かった。
 もちろんそれでいいとさえ思う時もあるが、忘れられないのは敗北感があるせいだ。
 負け続けているからそうなったと思うことが辛かったのだ。
 それでも身体の相性がいい浦崎とのセックスは不快なことは一切なく、ただ快楽だけは想像以上に貰えるから、関係を切りたいわけでもないため、会わないという選択肢はなかったのだ。
 しかしこの考え自体が既に敗北であることを菅島は知らなかった。
「どうしたんだ? 最近ちょっと暗いぞ?」
 あまりに負けることに関してナーバスになっていた菅島はとうとう浦崎に言っていた。
「じゃんけんに負けるから、いろいろ考えてたんだ……俺、会社でもじゃんけんとかやってもらってるけど、強いんだよな……。それで勝率九割なんだ。でもお前とやると十割負けじゃん? 一回も勝てないっておかしくないかってなって」
 菅島の暗い気分は全部浦崎とのじゃんけんにあると言われて、浦崎はまさかそんなことで菅島が悩んでいるとは思っていなかったから驚いていた。
「それで?」
「一回も勝てないのが何か、もうどうしようかなってなってきて、俺、こんな小さいことで悩んでるのもどうかなと思うんだけどさ……こういうところがいやだって振られたわけだけど……」
 小さな事でぐだぐだ悩む癖が抜けず、それを恋人に心が狭いと言われてしまい、勢いで振られたこともあり、悩むのはよくないと思うがそれでも菅島は気になったらどうしても悩んでしまう。
 しかし浦崎はそれを心が狭いなどとは思わなかったようだ。
「俺だってなんでお前に勝っているのか分かってないよ。普通にじゃんけんしたら勝ってるだけだしな」
 浦崎がそう言い、浦崎が何か小細工をしているわけではないと言う。
「だよな。別にフォームがおかしいわけでもないし、じゃんけんの方法をいろいろ変えているし、毎回違うやり方で出してるし……」
 そう菅島が言うと浦崎が驚いていた。
「そこまでやってんだ?」
「やってるに決まってるだろ、勝てないんだから」
 菅島はそう言ってブツブツと文句を言う。
「お前とセックスしなきゃ、じゃんけんで悩むことはないんだろうなって思うよ」
 菅島がそう言い出したところ、浦崎はコーヒーを飲む手を止めた。
「え、何、お前は俺とセックスするのがイヤになった?」
「……は? いや、そういう話じゃなくて……」
 急に声が低くなった浦崎の言葉に菅島は空気が変わったのを感じた。この感覚は浦崎から感じたことはない、負の感情が一気にわき上がっているのだと気付いた。
 浦崎は何か怒っているように席を立ち、菅島の腕を引っ張って歩いて行く。
「え、ちょっと……浦崎?」
 引き摺られながらラブホテルまできた。
「……じゃんけん……」
「え、あ、じゃんけん、ぽん」
 よく分からないままでじゃんけんをした。
 また負けるんだろうなと思っていた菅島だったが、出した手はチョキで浦崎はパーだった。
「……は、え、あ、勝ってる?」
 信じられないことに初めて一勝したことになってしまった。
「なんで……勝って……?」
 百六十連敗をした後に一勝したことに菅島が驚いているが、浦崎は言った。
「さあ、今日はお前の勝ちだ。好きにするがいい」
 浦崎がそう言うとホテルに入っていく。もちろん菅島は引き摺られていった。
 部屋に入ってすぐに二人は抱き合ったけれど、浦崎はアナルなどを解す用意は自分ですると言って風呂でひたすら自分でやり始めてしまった。
 負ける気がしていなかったのか、用意はされていなかったし、菅島も浦崎の気持ちが分かるだけに本人の好きにしてもらうしかなかった。
 今はタチでネコになる気持ちは、正直は中々容認できないのは仕方ないのだ。
 菅島は最初こそ抵抗があったけれど、慣れてしまった今は抵抗が一切ないから、浦崎が動揺しているかもしれないという事実だけは初めてネコになった時の気持ちが蘇った。
 そしてすっかり用意をしてきた浦崎が菅島を押し倒してくる。
「わ、あっ……浦崎……」
「これでお前は満足するんだろう?」
「え、何て?」
「俺に突っ込めないから、セックスをするのをやめるなんて言ってるんだろう?」
 浦崎がそう言うので菅島は混乱した。
「いや、そんな話はしてないけど……」
「してただろ。負け続けるから納得できないって」
「それは……じゃんけんに負けるのが納得できないだけで……別にお前とのセックスをイヤだなんて思ってないけど?」
 菅島がそう言うと浦崎は菅島を睨み付けてから言った。
「今更、お前を抱くのを辞めろとか、絶対に無理だからな。別れるくらいなら突っ込ませてやるから、俺と付き合え」
「いやだから、付き合うとか付き合わないとか、別れるとか……ええ? 俺ら付き合ってたのかよ!」
 セフレだと思っていた菅島がそう言うと、浦崎が歯を食いしばって菅島のペニスをアナルに入れようとしている。
「ま、待てってちょっと……そうじゃなくて……!」
 押し倒されたから菅島は浦崎との話が噛み合っていないことを気にして、浦崎がのしかかっているのを上手く転がせて体位を入れ替えた。
「だから、そうじゃなくてな」
 菅島は浦崎を見ると浦崎は泣いていた。
「……あのな」
 浦崎が泣いている理由がやっと菅島にも分かった。
「早とちりしてんじゃねえよ……たく。あのな、じゃんけんに負けるのはイヤだけど別にお前とセックスするのがいやだって言ってないじゃん」
「でも……さっき付き合ってるのかって……言った」
 そう言われて菅島は言った。
「つーか、俺ら付き合う付き合わないの話、そもそも最初からしてねーからな」
 菅島の言葉に浦崎がふっと泣き止む。
「……してないっけ?」
「してない。セックスくらいしてたまに飯食って、今じゃ家にまで平然と行き来してるけど、話は一切してない」
 そう言うと浦崎は少し顔を赤らめた。
「そ、そうだったか……済まない……」
「いいけど、お前は俺と付き合いたいのか?」
「……付き合っていると思ってた」
「ああ、だから急に切れたのか。あのな、言われてない以上は俺らは友達兼セフレ以外に関係を示すものがないんだから」
 菅島がそう言うと、浦崎が言った。
「お前と恋人になりたい。ずっとそうだと思ってた」
「……俺は今までそういうの考えたことはないけど、やってることはそれと変わらないから、別にいいかなとは思う」
「気持ちが籠もってない」
「仕方ないだろ、そもそも考えることでもなかったんだから。イヤならそもそもお前と一年半もセックスしてねえし」
 急に好きだ嫌いだの恋愛話になっても急に恋人として好きになるなどしてきたわけではないので気持ちがそこまで変わらない。
「徐々にでいいじゃん、お前との身体の相性はいいんだし、俺はこのままでもいいと思ってるしな」
 そう言いながら菅島は浦崎のペニスを手で扱いた。
「う、あ……待てっ」
「だめー、さっさと勃起させろ」
 菅島はそう言い、浦崎のペニスを勃起させるとそれを自らのアナルに突き入れた。
「……はあっんったまんない……やっぱこっちでいいや」
 菅島はしっかりと奥で浦崎のペニスを受け入れたらもうタチのことに拘るのを辞めようと思った。
「さあ、たっぷり楽しもうぜ。もうじゃんけんとか関係なくな」
 菅島が言った言葉に浦崎は復活して菅島といつも通りの関係になった。
 結局菅島が拘っていたのはじゃんけんで負けるということのみで、関係性に関しては否定もしていなかったし、タチをしてみたいというのは普通にちょっと思った程度だった。
 それから二人は恋人同士になって一緒に暮らすための部屋を探した。
 もちろんその先は話し合いによって何もかもを決める。
 でも時々はじゃんけんをするのだが、あの百六十連敗から一回勝って以降、菅島は浦崎に連続百連敗中である。


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