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13
ふたりっきり
永須裕紀(ながす ゆうき)は、仕事の営業中に雨に降られた。
電車から降りてかなり歩かされた山近くの家から駅まで三十分も歩いていた。
こんなに遠いならタクシーを呼べば良かったと思ったが、あいにくスマホも会社に置き忘れてしまい、お客様の自宅でタクシーを呼ぶということもできなかった。
というのも、今回の訪問は謝罪だった。
なので、やっと許して貰ったところで電話を貸してくださいとは言えなかった。
仕方ないのでまた二十分ほど歩いたところにある小さな店先にある電話ボックスに辿り着いたところで土砂降りの雨が降り始めたのだ。
「やばい……仕方ない……」
そう思いながら電話ボックスに飛び込み、空を見上げて雨がやむのかどうかを見た。
歩いて十分の距離で駅に着くのに、タクシーを呼ぶのはどうかと思ったのだ。
そして電話ボックスから外の雨を覗いていたところ、目の前にあるシャッターが閉まっている店先に見覚えのある人が雨宿りをしているのに気付いた。
「……あ、正人……」
名前は浅津正人、昔裕紀と付き合っていたことがあり、元カレである。
イケメンのエリートサラリーマンであり、出世は間違いなしと言われていた。
けれど、会社では男と付き合っていることがネックとなり、結婚をしないことで出世コースに乗れなかった。
そして正人の会社から正人の出世のために別れてやってくれと言われた。
どうやら社長令嬢との婚約を目的とした見合いが行われるのだという。
正人の将来のために裕紀が足かせであるとはっきりと言われたので、裕紀は辛くなり、正人と別れた。
理由は他に好きな人ができたと言った。
もちろん正人は別れないと言ったけれど、それでも裕紀は強引に家を飛び出し、引っ越しもして会社も転職した。
きっとこれでもう会うこともないと思っていた。
だってここは、地方にある鄙びた街の外れだったからだ。
どうしてこんなところにいるのか理由も分からなくて呆然としていたら、正人も裕紀に気付いた。
視線が驚きの視線に変わり、そしてニコリとホッとしたような優しい笑みを浮かべていた。
「こっちおいで!」
正人がそう大きな声で呼んだので、裕紀は恨み言くらい聞くべきだと思い、正人の隣に走っていった。
雨はそこから土砂降りが更に強くなり、二人は雨の中で話すのも何だと言うことで、斜め前にある喫茶店に入った。
地元の人が入るような店だったけれど、店主一人しかいなかったのでちょうど良かった。
「いらっしゃい」
「お勧めのコーヒーを二つ、あと軽食ありますか?」
正人がそうマスターに話していると、マスターがお勧めを言った。
「男の人にはどうかと思うけれど、うちはパンケーキにクリームが定番だよ」
「じゃあ、それを一つと、ホイップなしのバターがあれば、それを一つ」
「畏まりました」
マスターがあっさりと注文を受けてパンケーキを焼き始める。
「先にそこ、座ってなさい。水とお手拭きを取ってくる」
正人はそう言ってマスターと会話しながら、水とお手拭きを自分でもって席に戻ってきた。
席は窓側であるが土砂降りの今は車が時折通るだけで、傘をさした人さえも通っていなかった。
「お手拭き、熱いから気をつけて」
「ありがとう……」
お礼を言って受け取る。
正人はいつもそうだった。
何でも裕紀がする前にしてしまい、裕紀はそれを受け取るだけで何もかもが甘やかされていた。
けれど、それに甘えていたのは裕紀であり、正人は自然とそうしてしまう性格なのだろう。一ミリも変わってはいなかった。
「あの、何で……こんなところに?」
裕紀はそう聞いていた。
正人の仕事は海外を取引相手にする企業の営業だ。
こんな田舎にいるような人ではない。
そう裕紀が聞いたら、正人はふっと息を吐いて言った。
「ああ、会社、辞めたんだよね」
「……え?」
思いもしなかった答えに、裕紀は動揺した。
「何で、あんなにやりがいがあるって……」
「あーそうなんだけどね……裕紀、君と別れた後くらいだったかな。急に見合い話が持ち上がってね。でも私はゲイで女性と結婚なんてごめんだと思って断ってはいたんだ。けれど、娘との結婚を断るなんてと社長を怒らせてしまってね。それで左遷されそうになったから、こっちから辞めてやった。もちろん不当な理由での左遷を理由にした裁判をしたけどね」
そう正人は言う。
どうやら裕紀が気を効かせていたことは、正人にとって何の効果もないどころか、むしろ足かせになっていたようだった。
「どうなったの?」
「もちろん、勝ったに決まっている。パワハラだからね。私の仕事の評価も十分よかったのもあって、左遷される理由がまずないことが証明されて、社長は会長にそれがバレて降格、私もそのまま会社にいてくれと言われたけれど、もうエリートでいる意味もなかったし、辞めてしまったよ」
そう言い正人は笑っている。
「それって、どういうこと?」
エリートである意味があると正人が思っていると思ってたが、それがないとは思わなかったのだ。
裕紀はただ正人が優秀なだけだと思っていたけれど、正人にそうでないといけない理由が存在していたという。
「恥ずかしながら、私は裕紀、君にいいように見られたかった」
「……え?」
「かっこいい人でいたかったんだ。仕事もできる何でもできるってね。そしてエリートであれば、私生活には口を出されないと思っていた」
正人はそう言うけれど、エリートな正人の私生活にまで彼らは入り込んできたのだ。
「全部、君のためだった……」
正人の言葉に裕紀は泣きたくなった。
あの別れ話でさえ言わなかった正人は、裕紀の意向通りに結局別れてくれた。
けれどそのせいで正人は価値を見いだせなくなったと言った。
「正人、俺……あの」
「うん、知ってるよ。気付いたんだ」
「……え?」
「君がどうして私と別れたがっているのか、その理由。社長に脅されたんだろ? 出世に響くとか、一回どころじゃない。何度も何度も家に押しかけられてまで何度も」
正人はそう言うので裕紀はとうとう泣いた。
「ごめんなさい……」
あのことを正人に言ったところで、解決することはないと思っていた。
エリートであることが生きがいの正人を巻き込んでもいいことなんてないと判断をしてしまった。
「君は間違っていた」
「……うん」
「そのことを相談してくれていれば、私は会社を捨てていたよ。だって結局、社長の娘と結婚をしなければ左遷されていただろうから、もちろんそうされたらまた裁判をしただろうけど、それでも裕紀を選んだよ?」
正人がそう言った時にコーヒーとパンケーキが運ばれてきた。
「お待たせしました」
「ああ、ちょうどよかった。裕紀はクリームたっぷりのパンケーキが好きだったよね。今でももちろん好きだよね?」
正人はそう言ってニコリとして裕紀にクリーム付きのパンケーキを差し出した。
今でも正人は裕紀のことを思ってくれているのが分かった。
「ごめんなさい……ありがとう」
「いいよ。謝ることはない。君は追い詰められていたんだ。けれど私はそれに気がつかなかった。恋人失格だよ。別れられて当然だったんだ……」
「そ、そんなことない。俺が、勝手に……思い詰めて……」
裕紀は自分が勝手なことをして、結局は正人のためにもならないことをしたと知った。
裕紀は暫く泣いたあと、正人がお手拭きで涙を拭いてくれた。
「ほら、泣きすぎると酷い顔になるよ。裕紀は笑っている方が可愛いから、ね。ほらパンケーキを食べよう。お腹が空いていると悲しくなるからね」
正人はそう言い、裕紀は正人に言われた通りにパンケーキを食べた。
黙々と食べて美味しかったからなおさら黙って食べきった。
「美味しかったね」
「うん、美味しかった」
雨はまだ大降りをしていて、これでは外を歩くことはできない。
タクシーを呼ぶのかどうするのかというところで、テレビでは大雨警報が出ているほどだった。
「これはタクシーを呼ぶしかないね」
正人がそう息を吐いて言うので裕紀は頷いた。
「そうだね」
何とか過去の別れた時の誤解を解き、裕紀は自分が悪かったことを思い知った。
何でこんな良い人をあんな辛い別れで追い詰めたのか、本当にあの時の自分を殴ってやりたいくらいに辛いままだ。
けれどまたやり直そうなんて言えない。
それは決して別れを切り出した裕紀が言ってはいけない言葉だった。
雨の様子をニュースで眺め、マスターも店をそろそろ閉めると言うので二人はタクシーを呼んだ。
タクシーが来るまで待たせて貰っている間に、正人が言う。
「裕紀はこっちで元気にやれている?」
「……うん、大丈夫」
「もう新しい恋人はできた?」
「……恋人は、いないよ……それどころじゃないから」
新しい土地に越してきてから必死に働いていたので、恋だの愛だのは考えなかった。
「どうして?」
「…………だって……できない」
自分から勝手に別れを切り出したことや、きっと他に恋人を作っても同じことの繰り返しになると思ったら、とてもじゃないけれど恋人なんて作れなかった。
そして何よりも裕紀は、正人を愛していた。
「それは、私が誤解をしてもいい答えかな?」
「…………」
それもはっきりと答えないでいると正人は言った。
「分かった。降参するよ。私は裕紀を追って、こっちに引っ越してきたんだ」
「……え?」
まさか追いかけてくるとは思わず、正人を見ると恥ずかしそうにしている。
「本当は憎かったよ。でも見合いのことでこじれた時に、ああこれが理由かって気付いたら、君のことをとても愛しく思ったよ。君は私のために身を引いたんだって。そしたらどうしても君を追わなければならないって思った。でも、こっちにきてすぐに君を見つけたけれど、君は必死に頑張って生活をしている。私のことなど思い出す暇もなく。そしたら何か、君の目の前に立てなかった」
正人はそう言う。何故立てなかったのかは明白だった。
「君が望んでくれた私ではない以上、私はただの無職の男だ。君と誤解が解けても私には何もない状態だ。とてもじゃないが、君の前に顔を出せる立場ではない。だから、この四年間、頑張って働いて君に見合う男になろうと頑張っていた」
正人がそう言いながら名刺を出してきた。
それは正人の今の会社での立場もしっかりと書かれている。
「部長……になったんだ……」
「出戻りでまた同じ会社になんて、恥ずかしいけれど。それでも国外ではなく国内営業にしてもらった。海外出張中に会社に裏切られていたことは一生トラウマだろうね。だからここにいるわけ」
この街には地方ながらもリタイアした元政治家や起業家がいたりする。
避暑地扱いになっているのもあり、春や夏、冬も人が多い。
それでも大きな観光事業しかないので、仕事はあまりないのも事実だ。
そんな政治家や起業家に話を付けに行くのが部長である正人の仕事だ。
「そして、今日ははっきりと言える」
「……」
「裕紀、君を迎えにきた」
そう言い、正人は裕紀の手を握った。
「君を一生のパートナーとして結婚もしたい」
正人の真剣な言葉に、裕紀はまた泣き出して頷いた。
「嬉しい、正人……ずっと愛していた……」
「うん、知ってるよ。どれだけ私が君を愛していると思っている。再会した時の君の視線からずっと君が私をずっと思っていたことなんてお見通しさ」
二人は手を握り合って、また付き合い出すことにした。
二人はそのままタクシーで正人のホテルに戻った。
正人は出張中でこっちに来ていただけで、ホテルは駅前に取ってあった。
豪雨になったせいで裕紀も会社に戻らなくていいと言われて、結局ホテルに入った。「ああぁっ……正人……すき、んっはぁっ……あっあんっあんっ」
「私もだよ、裕紀……」
二人は服を脱ぎ合って、すぐに絡み合った。
早急に体を求め合って、そして挿入までも早かった。
もう求め合うのが当たり前で、そうしないと堪らないほど興奮もしていた。
「ひあぁっあんっ正人、はげしっ……あっああっあっあんっあんっあひっあっやっああっ」
正人にペニスを挿入された裕紀は、久しぶりだったけれど、一人で慰めていたのもあり、中はすぐに広がってくれた。
「ああ、正人、ふかいっああっ……あっあひっい゛っあっあんっ!」
それでも裕紀が思う以上に深く、正人は裕紀の中に入り込んできて、裕紀はそれに翻弄された。
「ああっおくっ……あっあんあんああっ……ああんっひっああっ……あぁっいいっひっああんっ!」
「裕紀の中、とても気持ちがいい……裕紀、ここを他の誰かに許したりしていないよね?」
「あっああぁ……してない……正人だけっあっあひっあんっああーっあっあっ……あっあぅん……あぁっ」
「嬉しいよ、裕紀……」
「はぁっもっやらぁ……ぁあ、んっ、やっ……、あぁんっあっああぁんっ! んっ、んぁっあぁっ」
「ここが裕紀の気持ちがいいところだったよね」
「らめっおちんぽっ……あっあぁああっあ゛ひっ、いっあっあんっらめっ、あっあんっあんっ」
激しく正人は性欲を裕紀にぶつけ、裕紀はその正人の強い思いに振り回された。
「ひああぁっい゛ぃっあっそこっだめっ……あっあうっひああっあ゛ひっあっらめっああああんっ」
奥まで突き挿れて腰を強く振り、裕紀を抱く正人の性欲は止まるところを知らなかった。
「あああっひあっらめっ……あっああぁっああんっ! あひっあんっあっあっあっあんっ」
「やっとだ。裕紀……ああずっとこうやって抱きたかったよ……裕紀、愛しているよ……」
「ああんっ正人、いいっ、きもちいっ、いいっ……あっい゛っあひぃっあああぁーっ……! あひっ、あ゛っひああっ……あっあんっあんっ」
強く奥まで挿入して激しく引き抜かれると裕紀は快楽に嬌声を上げ続けた。
「ひあっあっあんっあんっらめっ……あっあっああっあひっらめっ、中出しはぁっ……あっあっあんっ」
「ああ、裕紀、裕紀っ」
「ああぁんっ、正人……ああぁっひぃんっあんっ、ああぁあんっ」
「出るよ、裕紀、受け止めて……っ」
「あっああっやあぁっ……あ゛っああっ……あ゛ひっああっ、やっらめっ、あんっいくっいくっ」
あっという間に絶頂を味合わされて、裕紀は天国にいる気分を味わった。
二人は四年ぶりに再会をして、そしてまた愛し合うことになった。
会社の関係で離れていたけれど、正人が強く移動を願い出て、裕紀のいる街に引っ越してきたのはそれから半年後だった。
そして二人は同棲を始め、やっと落ち着いた生活を手に入れた。
二度と離れないように、お互いにカミングアウトをして周囲に関係を知らせた。もちろん昨今の流れで受け入れられる風習だったので、問題なく暮らしていけたのだった。
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