117-理性が消え失せる夜に

 最近の幸せな生活に保谷は若干の不安を覚えた。
 恋人の田島のお陰で保谷は真面な人間になれている。
 昔、無茶をして自暴自棄になって落ちぶれていた。でもそれでは駄目だと思い、一念発起して大学に入り直して、そこで田島と出会った。
 二年ほど年上になる保谷は、家庭の事情で高校には行けず、やっと夜間を出てから大検を取って大学に入ったのだと言う半分真実の言い訳を信じてくれた。
 田島とはすぐに恋仲になった。
 二人が就職してもそれは続いて、半同棲をするまでになった。
 このままの幸せが続けばいいと願っていたが、こんなに幸せでいいのだろうかと、最近は不安になってしまう。
 過去の自分、それを今更認めることはできない。
 あんな自分で生きてきたら、今頃死んでたと思うほどに保谷の生活は荒んでいた。
 今の生活は、そこから脱却してやっと掴んだ幸せだった。
 けれど最近、その時のことを頻繁に思い出してしまう。
 あんなどうしようなく、駄目な人間のなれの果てなんて、二度と思い出したくもないのにだ。
「嫌な気分だ……」
 そう窓の外を見ながら、休憩のコーヒーを一口飲んで保谷が言った。
「今日の飲み会、出られそうですか?」
 そう言ってきたのは隣の課の課長、境野だ。
 大学は違ったが、同期入社で同じ課に所属していた人だ。
 結局、境野が出世して別の課の課長になった。
「境野課長……」
「ああ、それは人前だけだって言っただろ。同期なんだし、普通に呼び捨てでいいよ」
 境野がそう言うのだが、それに保谷は言った。
「どこで誰が聞いているのか分からないから、課長って呼びます」
 保谷はその地位に合わせた態度で接すると、境野は少し不満そうだったが仕方ないと思ったのか溜め息を吐いた。
「それで、気分が悪いのか?」
「あ、いえ、何でもないです。天気が悪そうだから雨かなと思ったら、嫌だなって」
 保谷がそう言うと、窓の外を眺めて境野が言った。
「本当だ。今夜は雨が来るな。傘は持ってないし、終電までに飲み会を抜け出さなきゃな」
「雨の中二次会三次会も面倒ですね。今日は一次会だけで抜けて帰ることにしますか」
「お、いいね。誰かが抜ければ白けるけど、二人で抜ければ嫌みも半分だ」
 境野がそう言うので、保谷も頷いた。
 雨が降る日は、早く帰って寝た方がいい。
 保谷はそう思って、境野と一緒に飲み会の一次会で抜ける約束をした。


 飲み会は社員がかなり参加してしまい、居酒屋の半分が社員で埋まっている。
 どの課の人も入り交じり、中には女性目当てで群がっているところもある。
 保谷は最初は同じ課の人たちと一緒に飲んでいたが、自然と輪を離れて気付いたらいつの間にか境野の隣に座っていた。
「よう、飲んでるか?」
「ほどほどには。あんまり酔うと碌なことにならないので」
 そう保谷が言うのは、前に酒に酔って境野に絡んだ経験があるからだ。
「はは、あの時は押し倒されて、危なかったしな俺」
「あー、本当にすみません。もうあんな失態はしないように飲みます」
 保谷はあの時のことは半分しか覚えていない。
 自分があの時何を思っていたのか。
 ただあの時は、境野を押し倒して先を望んだのだ。昔のようにだらしなく。
 それが悪夢であるのは酔いが覚めた後だ。本当に後悔してお酒はほぼ飲まなくなった。
 酔い潰れて自分の今を壊す可能性があることが、本当に恐ろしかったのだ。
「ま、俺は保谷ならありなんだけどね……ただし俺が押し倒す側だったらだけど」
 そう境野が言うので保谷が驚いて境野を見る。
「またまた冗談ばっか」
「冗談か、お前、彼氏がいるだろう? 田島っていう同学生だっけ? 一度見たことがある。お前あの時幸せそうだったからな」
 境野は保谷に男の彼氏がいることを知っていると告げた。
 それに保谷は何の答えも返せない。知られるということは、会社でのみの破滅に近いことだ。だから知られないように、様々な工夫もしたのだ。
 一緒の建物に部屋を二つ借りて、隣同士になってなるべく自分たちの友人にも知られないようにしている。同棲とは言えない形であるが、お互いの部屋で二人だけで過ごす状態は半同性に近いだろう。
 それでも両親や肉親にすら知られてはいけないので、その辺の苦労は多い。
「……何で、田島のことを……」
 田島を見た程度なら、名前を知ることはないだろうし、見た程度で友人同士で歩いていたからと言って、彼氏がいるという反応にはならないはずだ。
「相手の名前を知ってるのは、俺のその時の相手が田島を知ってたから。それで、見た場所はラブホテル。部屋から出てきたところの出入口でお前らが出てきたんだよ。俺らは入るところだった。そっちはすぐにタクシーを拾っていたから、俺らのことに気付く暇はなかったんだろうけど。四月十六日、午前二時くらい」
 そう言われて保谷はヒヤッとした寒気を感じた。
 相手に何もかも知られた状態でしらばっくれても無駄だと言われているのだ。
 日程も時間も覚えている。あの日は朝までコースが変更になって、ラブホテルを二時に出たのだ。だから余計に覚えている。
 間違いなく境野に見られていたのだろうが、四月のことを今更持ち出してくるのはどういいうことなのか。
 今は九月。五ヶ月も前のことをわざわざ選んで話し出すのに意味があるのか。
「あの、その話を今何でするんですか?」
 周りは大盛り上がりの中であるが、隅っこの方で座って、ちょうど二人だけになっている保谷と境野はこそりと話し込んでいた。周りは二人が同期なのも知っているし、仲がよかったことも知っている。そんな二人の真剣な顔で話しているところを邪魔しようとは思わないらしく、誰も近寄ってこなかった。
 それをいいことに、境野は保谷に言い寄るように言った。
「これを飲んで」
 そう言われて、ある包みを出された。
 普通のカプセルであるが、この状況で中身が普通の訳はない。
 保谷の勘はそう告げている。
「これを拒んだら、どうなるんですか?」
 カプセルを手に取ることはできずに境野を見た。
 境野は酒を少し飲んでから言った。
「そうだな。まずはお前の過去あたりをあの彼氏に話してみるか? どういう反応をするだろうか。黙って許すというには、あまりな過去だよな?」
「…………調べたんですね……どこからですか?」
 保谷はだからかと納得しながらも、その出所を探った。
 保谷がホモであることを会社に隠しているのは、ただ単にそういうことで目立ちたくないためだ。もしバレてもそこまでの支障はない。
 会社を首になるわけでもないし、田島に迷惑はかかるだろうが、田島は覚悟してくれている。バレた時はあっけらかんといこうと。
 でも保谷は自分の過去を田島には話してはいない。
 中学を出てから二年間、保谷が何をしていたのか。それを聞けば優しい田島は許してはくれるだろうが、きっとそのうちどうしてもそれがちらついて関係は駄目になるだろう。
 そんな予想が付くから、絶対に話したくはなかったのだ。
 それに保谷を調べても、簡単にこの過去は出てこない。
 関わった人が大物過ぎて、掘り返してもその時の証人は誰も口を割らない。身の破滅の危険がある秘密を誰彼構わず話すわけもないのだ。
「……俺もそこにいた」
 そう言われて保谷は目を見開く。
 そんな馬鹿なことがあるのかと驚いてしまったが、境野は言った。
「親父に連れて行かれた。大きな屋敷の地下で、周りには同じような年のヤツが結構いた。お前は……目隠しをされていて、手錠で繋がれていた。俺らは順番にお前を犯した。それが初体験で、親たちはそうして息子に男の味を教えていたらしい。何度か通った。お気に入りだったから、俺はお前を何度も犯した」
「……っ」
「でもある日、お前はいなくなっていた。主人に聞いたら、お前は成長して主人の好みじゃなくなったので暇を出したと。何処で何をしているのかは知らないと。俺には探す手段はなかった。でも、ここでお前に出会った。最初は全然分からなかった」
 目隠しをされて顔半分が隠されていたせいで、顔の認識もできるものではなかったし、成長期である期間から成長したからという理由で暇に出されたのなら、更に成長していて判別はできない。
 その辺がこの主人のいやらしいところだ。
 その期間の僅かな成長期を見定めて、客が容易に暇を出された人間を見分けられないようにしているのだ。
 あの場所には長くて二年、短い人だと半年程度だ。入れ替わりが激しく、客も一々一人の商品を覚えていられるほど、執着もしない。育った若者に興味がない人があの場所に招待されるので、暇を出された子供に興味はないからだ。
 だから保谷は過去を話す必要はないとずっと思っていた。
 誰も証明ができない二年をわざわざ自分で晒すなんて馬鹿のすることだ。
「分からなかったけれど、どうにも懐かしさがあって、気になってお前のことを調べた。すると同時期に二年、お前がどこで何をしていたのか誰も知らない空白があることを知った。それで確信したよ。お前は間違いなくあの時にあそこにいたんだって」
「……たったそれだけで?」
「あれから主人に尋ねに行った。お前の名前を教えてくれと。主人はこういうことの書類などを残せないからなのか凄く記憶力が良い。誰と誰がいつどこで参加して、誰を抱いたのか記憶している。だからすぐにお前のことを教えてくれた。名前と出身、これだけで十分だ」
 そう言われて保谷は深く溜め息を吐いた。
 書類などを提出した覚えはなかったが、主人がそこまでの記憶力の持ち主だったことは誤算だった。
「お前のことは俺と同じでお気に入りだったらしい。だからよく覚えていると言って、俺がお前を犯している動画をくれた。どうやら俺がお前のことを嗅ぎ回っているのを知っていたらしい」
「……まさか、これっ」
 そう言われて保谷は気付いた。
 境野が差し出しているカプセルの中身が何なのか。それは保谷がよく知っているモノだ。
 あの調教で散々使われたクスリ。快楽を呼び起こす物質を含んでいる、あの主人のお手製のものだ。外部に持ち出すことはしていなかったはずなのに何故と保谷が思っていると、境野が言った。
「わざわざくれた。今のお前の痴態が見たいそうだ。録画を条件に十錠貰った」
「……っ」
 今更、何でと保谷は目を瞑った。
 二年間の調教は保谷の今を作ったことは事実だ。けれど、その時の保谷は尋常じゃないものに支配されていた。誰もがあの時の出来事を思い出したくないと思っている。
 けれど、保谷は最近また夢を見るのだ。
 それは誰かに求められていると知っていたからなのか。それとも自分が求めているからなのか。
 主人は今の保谷を見張っていたのだろうか。そして保谷の物足りなさを知って、境野を使ってクスリを渡して、あの時に戻れと言っているのだろうか。
「お前は成長をして、顔は男らしくなっているけれど、身体はあそこを出た最終日と変わっていない。そう主人は言っていた。どうしても見てみたいそうだ、お前の今の痴態を」
 境野がそう言って、カプセルを保谷に突き出す。
 それを保谷は受け取った。
 あの主人から逃げられるわけもなく、境野からも逃げられない。
 できることなら、田島に知られることなく、このことが早く終わってしまえばいい。
 そう思い、保谷はカプセルをその場で飲んだ。
 ただ田島に知られることだけが怖かったのだ。


 間違っていると思っていても、どう回避すればいいのか分からないこともある。
 この行為は新たな証拠を作っていくだけのことで、何の解決にもならない。それも分かっている。なのに、カプセルを飲んだのは、本当に田島に知られたくないだけなのか。
 そんな疑いが保谷の中に生まれる。
「俺らは、先に帰るよ。保谷が具合悪いって」
 境野がそう言って一次会を抜けた。二人で抜けるのに最高の言い訳であるが、保谷の具合は悪いのではなく、非常によかった。
 ただ快楽がだんだんと押し寄せてきて、身体が支配されていくのが分かる。
タクシーに乗ると、もう酔ったような感覚が全体に広がり、思考回路も細かなことを考えられなくなる。
 元々、このクスリは思考回路の伝達を遅くして物事を深く考えられないようにするものだ。それに興奮剤が入っていて長年の快楽へとの関連づけから、クスリを飲むと興奮するようになる仕組みらしい。
 実際に薬物検査をしてもそこまで危ない物は引っかからず、医者が出しているクスリとしてまかり通る成分をしていると効いたことがある。
 それにそこらの一般人に使用しても、思考回路を鈍らせる要素しか発動せず、強姦などのレイプ薬剤としては使い物にならない。
 だからこれを保谷が飲んで快楽を得るようになるということは、保谷があの屋敷でこれを飲み、調教されていたという証明になる。
 保谷は持て余す熱を感じながらもだんだんと当時を思い出した。
 ひたすら封印してきた二年間の記憶。ただやってくるセックスの相手を待っているだけの日常。狂ったようなパーティーと凶悪なセックスだけの夜。
 どれも狂っていて、どうしようもなかったと思う。生きているのを実感するのは快楽を得ている時だけという、人としての人権すらなかった。
 それなのに時折その熱を思い出してしまい、どうしようもない自分に震えたほどだ。
 保谷は、境野の腕を掴んで必死に悲鳴が上がりそうなのを耐えた。
 車は境野の言った通りの場所に着いた。
 そこは周りには倉庫のような建物があり、人の姿は一切ない。海の匂いがしたので海の近くなのだろうが、汽笛や海のさざ波はまだ聞こえない範囲だ。
「倉庫はここだ」
 そう言ってタクシーを降りると、倉庫の入り口から中に入った。
 そこにはコンテナがたくさんあり、そのコンテナの奥、建物の中央辺りにコンテナで作った家がある。
「小さな家を建てる業者が倉庫に使っている場所だ。こういう誰にも知られたくないことに使うには、コンテナハウスが便利だ」
 そう言ってコンテナハウスに入ると、小さな部屋の中にダブルベッドが入っている。きっちり入った奥は風呂やトイレがあるし、手前には台所までついている。その四方や天井にカメラが無数にあり、撮影用の部屋であることが分かる。
 倉庫の中であることや、更にコンテナハウスに防音をつけている建物だから、倉庫の持ち主しか入ることができない以上、誰にも分からない場所になる。
 保谷はそこでスーツを脱いだ。ちゃんとハンガーなどがあったのでそこにすべて脱いで服をかけた。さすがに服の替えはないだろうという判断だったが、境野は何も言わずに準備をしている。
 コンテナの中に撮影用に照らされる照明まで付いていて、そのベッドに保谷は寝転がらされる。
 十七の時からほとんど成長をしない体。男としてはちゃんと育ったはずの体であるが、働き出した二十七歳の男の体と言われると幼さが残りすぎていると言えた。
 付き合っている田島はその少年さが残る体が好きで、保谷の体が気に入っていると平然と言ってくる。だから保谷はこの身体が成長をしないように気をつけている。
 初めて付き合った恋人に好きだと言われたから、そうしなければ喜んでもらえないと恐れたからだ。だがそのせいで境野には勘付かれ過去を掘り返されこんな状況になっている。
「さあ、もう二錠飲んで貰うよ。変な抵抗はいらない。当時のままで受け入れることだ。私はそれを望んでいる。主人の願望など知ったことではないが、見せつけてやるのもいいだろう……さあ、保谷……いや、絢(あや)」
 そう言うと境野は保谷を抱きしめる。
 絢というのは、あの屋敷にいた頃に名付けられた保谷の名前だ。もちろん本名ではないし、たった二年だけ使われた識別番号のようなものだ。
 けれど当時を思い出していた保谷には、十分効果があった。
「あ……ああ……ん……」
 残りのクスリも飲んだが、これは即効性のある粉薬で、喉を通っている間にも熱く効いている気がするほどだ。
カタカタと体が震えだし、境野が触っているところからだんだんと熱くなって、保谷はベッドの上で悶えた。
「あああっ……あひっ、あっ、ああっ……」
 そんな保谷をしばらく長め、完全にクスリが効いてきたころに境野は保谷に触れた。
「あんっ、やっ、あぁっ……、いぁっ、ふぅっ」
「絢……ずっと君のことを忘れられなかったんだ……ああ、絢……」
そう言うと境野は保谷にキスをして舌を絡め合った。保谷はそれに抵抗せずに受け入れた。抵抗する意思は既になかった。
 クスリは完全に効いていたので、久しぶりにこの感覚を思い出した保谷は、その刺激によって呼び起こされた感覚に捕らわれたのだ。
「んふっ……ああっ……んっふっ……ああ、ちくびっあんっ」
「かわいい乳首なのは変わってないね……美味しいよ絢……」
 境野はうわごとのように何度も保谷を絢と呼び、丹念に保谷の体を舐めていく。
 乳首は完全に勃起してしまい、堅くなって境野の涎でテカっている。
境野は執拗に乳首を吸い上げて指でこね上げてくる。それに保谷は翻弄されて腰を自分から振ってしまっていたが、本人はそれに気付いてなかった。
「あ゛ひっ、いっあっちくびっあんっらめっ、ちくびばっかっあっあんっあんっ」
「そう? じゃあ、おちんぽを触っていいよ、何度でもイッていいよ」
「ひああぁっい゛ぃっあっちくびっらめっ……おちんぽっきもちいい……あっあうっひああっ」
禁止されていたわけではないが、許可されるまで弄ってはいけないというルールが未だに保谷を縛っている。それに気付いた境野は、乳首を吸い上げながら、保谷のペニスの亀頭を指で押している。
「あ゛ひっああんっちくびっらめっああんっおちんぽっいいっいいっ、手、とまんないっあっああああんっ」
 グリグリと乱暴にしてくる手に保谷は腰を揺らめかせながら、手でオナニーを激しくした。自分でするオナニーでは得られない快楽が今得られている。それが想像以上に気持ちよくて、保谷の今までの認識が覆りそうだった。
「あああっひあっらめっ……あっああぁ~っ!」
好きな人とのセックスが気持ちがいいと思ったのは、セックスをしなくなって五年目だった。極力避けてきたことだったが、それでも体を繋げることで安堵できる幸せを知った。
 けれど、あの二年から十年経ってすっかり忘れていたわけでもないのに、あの時のセックスの気持ちよさだけを追求した行為が、実は正解だったのではないかと思うほどに今感じている。
 幸せなんてぶち壊してでもこの快楽に溺れていたいという、心の奥底にある感情。目を瞑ってきたものがゆっくりと重い蓋を開けて這い出てきている。
「あひっあんっあっあっあっあんっ……いいっああんっきもちいいっんふっあん」
嬌声を上げて喜んでいる保谷に、境野はすっかり気をよくした。
 主人に渡されたクスリを使うのは嫌だったが、主人がこれを使えば保谷は境野に絶対に逆らえないだろうと言った言葉は本当であった。
 ただ二年屋敷にいただけでも、快楽のルールを忘れられないのだ。それを思い出させるにはクスリはきっかけに過ぎない。当時と同じように攻める境野の行為を保谷はちゃんと覚えている。思い出させれば、それだけでいいと。
「ああんっいいっ、きもちいっ、いいっ……あっい゛っあひぃっ」
 乳首を噛んで引っ張り上げると、保谷は体を反らして絶頂をした。
 ビューッと精液を吐き出してそれが保谷の腹を汚している。それを境野は指で掬い上げ、痙攣している保谷の口の中に入れた。
「んふっ……んんっんふっふっんんんっ」
 自分の精液であるが、他人の物とそこまで変わりがあるわけではない。だから舐めても平気なのだが、それは保谷のスイッチの一つを押した。
 精液の匂いと味は、昔散々味わったものだ。無理矢理口の中を犯されて、押し込まれそれを啜った。
 恋人である田島はそこまでの行為は求めないから、フェラチオ自体をしたのは屋敷にいた時だけだった。
 保谷の痙攣が治まると、境野は保谷にフェラチオをさせた。これすらも保谷は抵抗なく受け入れた。
「ん゛んっ……ふぅっ、ん゛むっ、ん~~~っ……」
「ああ、絢、気持ちがいいよ……相変わらずの舌使いだね……おっおっ」
「んっ……んっ……んふっんっ」
ジュルジュルとしっかり咥えて保谷は境野のペニスを美味しそうに扱いた。
「おっおっでるっ絢、出すよっ……」
「ん゛むっ……ん゛っんっんんぅっ……んっんっ」
境野はすぐに保谷の口の中で射精をした。ねっとりとした精液が口の中に溢れ、保谷はそれをしっかりと受け止めて飲み干した。精液は飲むように教育されたから、自然とそうしてしまったのだが、精液で汚れた境野のペニスを舌で綺麗に精液を舐め取った。
「んふっんんっ……」
 喉を慣らして精液を飲んでしまうと、境野は今度はイラマチオで保谷の口の中でペニスを勃起させるために扱いた。
 喉まで犯されながらでも保谷は感じた。
境野は保谷の口でペニスを再度勃起させると、すぐに保谷のアナルにペニスを突き入れた。
「あああぁーっ……! あひっ、あ゛っひああっ……あっあんっあんっ」
 ひどいやり方であるが、保谷のアナルは簡単に境野のペニスを受け入れた。
 こういうことがずっとの環境だった保谷は、自分でアナルを解していくことを毎日やっている。恋人もそれを喜んでいたから、今でも続いていた。さらには今日は飲み会の後、恋人の家に行こうと思っていたので、念入りに仕事中にアナルプラグも入れていたのだ。
 飲み会に行くときに抜いておいたが、それでもアナルはすっかり解されていて余裕で境野のペニスを飲み込んだ。
「さすが……昔からペニスを飲み込むのは巧い子だったよな……誰にペニスでも美味しそうにペロリだったね……ああ、中がとても熱くて気持ちがいいよ……絢……素敵なままだ……ずっと君を抱いていたいよ……私の物になりなさい……いつでもおちんぽしてあげるよ……」
「やら……あっあっあんっあんっらめっ……それはらめっあっあっああっ」
 初めて否定の言葉を口にした保谷に、境野はまだ足りないかと口移しで保谷にクスリを飲ませた。それは通常の五倍になる液体のクスリだった。
「んっ……んぷっあひっらめっ、はぁっ……あっあっあんっ」
 クスリの液体を飲んでしまうと、保谷の様子は更に変わった。
がくがくと体を震わせて、挿入を繰り返す境野の突きにあっという間に達したのだ。
「あひっあへっ、い゛っいくっあっああああぁーっ!」
 ピシャッと射精した保谷であるが、ペニスはまだ勃起している。ガチガチになったペニスが体の痙攣で揺れている。その先からはだらしなく精液が垂れ流しになっている。
 それでも境野は変わらず腰を強く打ち付けてきて、保谷はその動きに悲鳴を上げた。
「やぁっあっあんっあんっ、らめっらめぇっ……あっあっ!」
 嬌声はもう止まらない。保谷は口から涎を垂らしながら嬌声をあげ続け、それは悲鳴に似た声になっていた。
 もうそこにはいつもの自分は存在せず、狂った昔の自分がいた。
 快楽だけに身を寄せて、ただただ気持ちがいいと喘ぐだけの存在。
「あああっ、やあああっ! ああっ、あんっあっあんっ!」
「絢……絢……ああっ絢……」
「あぁっ、いやっ、でちゃうっ、もうやらぁっ……あっあふぅっ」
「気持ちがいいよ絢、腰が止まらない……ふっふっ」
「あっあっあっ、やぁっ、はげしっ、はぁっ、あうっ、ひぃぁっ」
 ただひたすら腰をお互いに振り続け、余計なことは言わずに絡み合って擦り合った。
「ああっ、いくっ、おま○こでっ、いっちゃう、はぁっ、いっちゃうっ! ああんっ」
「ああ、中出ししてあげる……ぐっはっ」
 そう言うと境野が保谷の中で射精をした。その射精を奥で受け止めて保谷は絶頂をした。
「ああぁっ! あっあぁっ、んひぃっ、しお、ふいちゃうっ……あっあんっあんっ!」
絶頂をしたと同時に、保谷は透明な液体がペニスから噴き出した。
「はぁっ……はぁっ……、ぁん、もう、やぁ、あはぁん……」
 ビシャッと噴き出した後は、普通に尿の用意に液体が弧を描いて噴き出た。
「あ……あう……ああ……」
「絢、漏らしちゃったか? はは、いいね、でもまだ終わらないよ」
 そう言うと境野は自分の服のところに戻り、ポケットから注射器を取り出すとそれを自分の腕に三本ほど打った。
「……あ……あ……」
 境野はそれが済むとにっこりと笑って言った。
「準備はできたよ、さあ楽しもう、絢にも液体のお薬を上げるよ」
「や……もうやら……ああっ」
 境野は覚醒剤に近い何かを自分に打っていてテンションを上げてきた。そして逃げようとする保谷の尻に液体の瓶口を突っ込んで液体を流し込んだ。
「あ゛あ゛ひっあ゛っまって、らめっあ゛っあ゛っ」
あのクスリをこういう使い方をされたことはなく、保谷はただでさえ過剰に与えられたクスリに怯えた。
一般人には効かなくても保谷には効くクスリ。だからこそ怖さを知っている。
「あひっあっはぁっあっあっああぁんっ……あんっあんっあんっ」
あっという間に体の毛穴が開くほどの衝撃を受け、何もされていないのに体を痙攣させて絶頂をした。
 ジャーッと尿を漏らすように潮を吹き、がくがくと体がベッドに倒れると、境野は保谷を引き寄せて腰を掴むと、アナルにペニスを突き入れてきた。
「ひあああぁっ……おま○こにらめっ……ぁあんっもうっらめらめっ……ぁあっあっあっああっ」
突き入れたと同時に挿入を繰り返し、のたうち回る保谷の体を境野は狂ったようになって犯した。
「あぁっやぁっ、おちんぽらめっズボズボやらっ、おま○こ変になっちゃうっあっあっあんっ」
「絢……絢……」
「あ゛あぅっ……ひっああぁっはぁっあっあ゛っあ゛っあひっあぁっ、あんっあんっ」
 境野は狂ったように射精をしながらでも腰を振り続け、壊れたおもちゃのように何度も絢と繰り返した。
「あぁっひっあ゛っあ゛っあぁあっあんっあっ……あぁんあ゛あっあっんんっんーっ」
保谷は腰を捕まれて後ろから突き上げられて逃げられず、感じすぎた保谷はぐったりしたままでも犯され続けた。
「あひっあ゛っもっいくっいっちゃうっあっあっあっ」
 嬌声だけが唯一自由になるものだったが、こうなっても気持ちがいいと頭が認識してしまい口からはいいとだけ出てしまう。
「はぁああ……ぁん、おちんぽ、きもちいい……あっあっいいっあぁんっ」
境野のペニスが気持ちがいいのは本当で、クスリだけでどうにかなっているわけでもなかった。快楽を感じるスイッチが入っているのは、クスリのせいではないからだ。いわゆる暗示でそうなっているから、本心から保谷がそう思っているから感じていると判断されているだけなのだ。
「あぁああん……おちんぽ、あっあっいいっはぁん……んっ、おま○ここわれる……ぁあ、あ゛っひっあっあんあんあんっ」
 境野は口から涎を垂れ流しながら、一心不乱に腰を振り続け、うめき声を上げて獣のようになって保谷を犯した。
「あ゛あ゛あんっひっい゛ってるっ、いってうからっあ゛あっもっらめえっあっあんあんあ゛あーっ!」
絶頂して散々喘がされても、何度絶頂をしても、射精をしながら境野は挿入を続け、その乱暴さに保谷は感じて喘ぎまくった。
「あっひっあ゛っあうっあっあっあんっふっ……あっあああっ」
 もはや何のためにセックスをしているのか分からないほどに乱れ、ただひたすら絡み合った。
「ひあああ~っ……おちんぽいいっあうっ、あっあんっあ゛あっああぁ~っおま○こっああんああっ!」
 境野のペニスはいつまでも勃起しており、射精をしても止まらず、ガチガチのままであったが、やっとだんだんと射精の頻度が落ちた。
「あ゛ああっ……あひっひっあっああぁんっもっおま○こでっいくっいっちゃうっ!」
痙攣して絶頂をすると最後だとばかりに境野が一層激しくなった。
「ふあっ……あっいっああっ……おま○こっらめっあああっ! あ゛っあ゛っうっひぃっあっあんっあああっ……!」
絶頂中に突き上げられて、中で射精をされた。
 先に吐き出した精液が逆流してきて、アナルから噴き出している。
「ああああ~っ……あひっ、いっ……あっ、んっ……せいえきでてるっはぁっはぁっ……はぁっ……おま○こもうらめ……っ」
やっと境野のペニスが出ていくと、抜かずに五回以上出した精液がドロドロとあふれ出てベッドを濡らした。
 狂ったようなセックスがやっと終わりを迎えたのだと保谷が認識した時に、コンテナの部屋の中に人が入ってきた。
 それが誰かなんて認識するのはもう保谷にはできず、薄れゆく意識の中でただ懐かしい声を聞いた。
「さようなら、絢」
 それは屋敷の主人の声だったと思う。


 保谷が次に目を覚ました時は、病院の一室にいた。
 入院の理由は急性アルコール中毒という理由だったが、本当の理由ではない。
 一日入院して即退院になり、自宅に戻ると会社から休養を一週間取るように命令された。
 どうやら会社の飲み会で急性アルコール中毒になったので労災の認定が下りたらしい。どういう手を使ったのか分からないが、一週間後に出社すると、境野が急に会社を退社していた。
 個人的な理由による退職で、それも退職願一つを送ってきただけで、自宅に行くと引っ越した後だというのだ。誰も理由がわからないが境野は消えてしまったらしい。
 保谷もあの後、どうなったのか分からないままであるが、境野が消えた理由は館の主人だろうと思い至った。
 館の秘密を外部に持ち出し、卒業して退所したものを脅したという理由で消されたのかもしれない。
 しかしそれだと館でしか作られていないクスリを境野がもらえた理由がわからない。 保谷はいろいろと考えたが、結局分からないままである。
 ただ、館の主人が言った。
 さようなら、絢。
 その言葉はきっと本当なのだろう。
 絢という人間はもう開放され、二度と館と関わらない人間として生きていく。それを許されているのだ。
 だから、保谷はそのことを追求しなかった。
 あの夜はなかったのだろうし、世間的にもないのだろう。
 ただ開放された性欲は、燻り続け、保谷はそのために恋人の田島を翻弄している。
 セックスに関して、理性は消え失せ、本性を見せる。
 その乱れる保谷に恋人の田島がのめり込んでいくことは想像に難くない。

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