105-ヤマツミの使者
噂がある。
その村には山の神様の物を送ると、使者が礼にやってくるという。
その話を聞きつけたのは、友人の品田だ。
「俺んちのじっちゃんの実家近くの山なんだけど、最近観光開発会社が入ってさ、リゾートにして別荘を建てまくってんだよ。けど、夏は避暑にいいんだけど、冬はどうしても交通の便が悪すぎて、客足が途絶えちゃうんだって」
そんな話が品田と数人の友人で昼食を取っている時に出た。
今は冬で、寒さに震える学生が暖房の効いた食堂で温かいラーメンやうどんを口にしていた。
「でさ、良いところは良いところなんで、この冬はサービスデイとか招待券とか用意して、とにかく客を呼んで良いイメージを作ろうっていう計画なわけ。その計画に村の知り合いをまず招待しようってんで、俺が友達呼んでパーティーでもやれって言われたわけ」
そう品田が言うのだが、問題は沢山あった。
「んでもよ、俺ら帰省すっから、旅行はいけないぞ?」
まず一人が言った。そこにいた友達は全員正月は家族や友達と迎えるために実家に帰る予定だ。
「それなんだよな。誰かいない? こんな時期に行ってくれるヤツ」
そう品田が言い出したので、一人が言った。
「西元は地元隣の県だよな? 旅費はそこまでかからないなら行ってやれば?」
無責任に言い出された西元はうーんと唸った。
「マジ、西元暇? マジで来て、彼女を呼んでもいいから」
その期待を別の友人が壊してく。
「残念でした、いませーん。こいつ最近振られたばかりだし」
「え、マジ? あのおっぱい大きい子に振られたんか?」
全員が身を乗り出してそう言い出し、西元は頷いた。
「身体は良かったんだけど、二股されて、その間男が俺の方だったわけ」
西元が思い出しても胸くそ悪いと言いながら実情を話すと、全員が引いた。
「うわー、それは悲惨だ」
「俺らの前で平然と、付き合ってくださいって言ったよなあの子」
「信じらんねぇ、女ってこええ」
西元の元彼女の所業に驚きの声が上がるが、そこに品田が突っ込む。
「じゃあ傷心旅行でどうぞ!」
そう言われて、品田が招待券を出してきた。
見るとペンションの部屋ではなく、一戸建てのペンションを貸してくれるというのだ。
「これ、何日いれば良いの?」
「うーん、期限か。聞いてなかったな。ん? 長期間いるつもりか?」
「あーうん、俺んち今年は姉夫婦と両親がハワイに行くんだけど、俺のことすっかり忘れてて換算に入ってなかったって、昨日暴露されて、予約を取り直ししようとしたら、この時期って多いじゃん、だから取り直ししたら正月にハワイにいけないって分かって、帰ってこなくて良いよって言われてさ」
「うはっ西元、踏んだり蹴ったりすぎねえ?」
さすがにそこまでの不幸が重なるとは思わなかったらしく、友達が本気で西元の不幸に対して心配をしている。
「どのみち帰っても、同級生もあんまり帰ってないみたいで、東京に出たヤツが多いから、集まりも悪いらしくて同窓会もないしで、本気で俺、いくとこないんだよ。だから、どうせなら長期間どっかいくところないかなーって思ってたから、これ二週間くらい泊まれるなら、行こうかなとか思って」
そう西元が言うと、すぐに品田がその辺の確認をしてくれた。
「オッケーだってよ。俺がバラ捲いた招待券で結構行く気になった奴らがいたらしくて、一人でもペンションは貸してくれるってさ」
品田が誘った手前、一人はお断りとは言えなかったらしい。そんな雰囲気が伝わってきたが、寮も正月は休みで帰省しなければならないのだが、両親はそんな西元に帰ってくるなと寮の閉鎖のことを忘れている発言をしているので、帰ってもきっと迷惑がかかるだけだろう。
「悪いな、大勢で行った方がいいみたいなのに」
西元がそう察して言うと、品田が笑って言う。
「構わないよ、ペンションが埋まればいいんだろうし、後出しでなしとかマジないし、うちのじっちゃん割と口出す方だから、適当に人使ってやっぱなしだとキレる」
つまり孫を使って人を呼んでおいて、その人を断ることをすれば、じっちゃんがキレてもう手伝ってくれないという話になったらしい。
「まあ、いいじゃん。そこ、近くにコンビニもあるしスーパーもあるらしいよ。自治会に頼んだら車も出してくれるらしいし」
「あ、本当。それは助かる。飯とか買い込まないといけないとか思ってたんだよな」
西元がそう言うと、なんとか品田と予定を立てられた。
十二月の最後の週と正月を跨いだ一週間、寮の開く日程が四日なのでそこまで旅行に出ることになった。
西元は両親に寮の閉鎖があることや品田のじっちゃんの田舎に旅行に行くことを報告すると、両親はその旅費を出してくれた。
「やだわー、寮が閉鎖するの忘れてたわ。そうよね、正月は職員の人も休むわよね」
などと母親が言っていたがその通りである。
寮は年末の二十八日に閉鎖し、完全に学生を追い出してしまう。そして正月明けは職員は三日から働くが掃除や支度などで一日かかるようで、四日まで開かない。
そんなわけで、西元は一人旅をすることになった。
二十四日の昼に出て電車で東京駅に行き、そこから奥多摩の方へ向かう。一応頑張れば日帰りできるらしい村は奥多摩の山奥にある。最近は近くまで電車で行って、後はバスに乗る。バスに揺られて三十分くらいで別荘地に付く。山を越えれば東京を出るらしいが、その山の麓にペンションが建っている。
高い山の裾野に川があり、その断崖の上に段々になった更地があり、そこにペンションがあちこちに立っている。まだ建設中の建物もあることから夏は盛況だったらしい。
ただ秋は紅葉があるので、そこまでは客足も多かったが、冬はさすがに何もない山奥では客は来てくれない。雪もほぼ降らないのに、道は凍って、山の麓なので気温も下がる。
つまり冬は見応えがないのだ。ただ春になると山々に咲く桜や梅といった花が見られるので客足はそこから戻ってきて良い感じになるようだ。
西元がバスで麓までやってきた時、五人ほどの学生が二組ほどわいわいしながらバスに乗っていた。その人たちも同じ宿泊客だろうが、ペンションの位置は違った。
「あんまりうるさいとイヤな気分になるでしょう」
そう言われて学生たちとは反対側にあるペンションの中で一階平屋のペンションを紹介された。夫婦や年配の客が泊まれるバリアフリーの建物だった。
「へえ、凄いですね」
「でしょう、こういうのにも力を入れているんですよ」
「冬は山の緑は枯れるんですね。ちょっと寂しい気がします」
西元がそう言うと案内人も頷いた。
「そうなんですよ。山の木が紅葉が終わると枯れて散ってしまうんで、枯れ山の冬は見所がないってのが問題でしてね」
「こうやって招待とかキャンペーンとか、いいと思いますよ。そしたら春夏秋の倍率が何倍にもなりそうな気がします。冬はお試し期間のようにすれば、都心から近いし、人は来ると思うんですよね」
西元がそう言う感想を言うと、案内人の目が光った。
「はあ、お値段をちょっといじったりとか?」
「そうそう。ホテルでもゴールデンウィークとか正月とかお値段は上がっちゃうでしょ。あれですよ」
「はあ、ありますな。交通も上がりますね。なるほど、他の期間にお値段ちょっとあげて冬の分を蓄えると。ふむ良い案ですな」
案内人がそれを気に入ったように、何度も頷いている。
「いやあ、学生さんはそういうのも思いついたりするんですね。感心感心」
「ははは」
受け売りみたいなことを言ってしまい、西元は案内人に気に入られた。
「あのさね。一つだけ気をつけて欲しいんですよ。本当はここに来る人には言わないんですが。この山の道を上がりきったところにある地蔵が七人ほどいらっしゃるのですが、あれには何があっても触れないでください。もちろん、ぶつかって倒れてもです。そのままにして報告していただきたいのです。自分で元に戻したり、ちょっと片付けたりとかせんでいいです。そういうもんなので、そのままにして報告をお願いします」
案内人が部屋の仕様を話してくれた後に、帰り際に思い出したようにそう言い出した。
「その地蔵は何なんですか?」
「山の神様へのお供え物を届ける地蔵なんです。人が行くとちょっと不都合があるという場合にその地蔵のところにお供え物を置いて代わりに行って貰うんです。そういう儀式があって、まだ地元でも残ってるんですよ。地元でも信じている人は少ないんですが、観光開発の人もちょっとなんかあったらしくて、地蔵さん退かせられないで終わったんですよ」
「曰く付きの……ですか、はい、分かりました気をつけます」
よく分からないが忠告されたので、気をつけようと思った。
「是非、そうしてください。あんまりこういうのは言わないでおこうと思ってるんですが、どうしても気になってしまって……お客さんいい人だから」
何か思わせぶりな言い方で、案内人が忠告してから帰って行った。
「……なんだ……?」
よく分からないが、いい人だから何かあるのだろうか。
そんな気味の悪い話を聞かされて少し興ざめしかけたが、夕食の時間なのでお腹が急に減ってきた。
自分で持ってきた食事の材料を冷蔵庫から出して、簡単な炒め物を作る。ご飯は面倒なのでレンジでチンをするやつを買いためて持ってきた。着替えの荷物のほとんどはそのご飯などの食料を入れてきたので着替えは少ない。冬なのでそこまで毎日着替えなくてもいいし、洗濯機も乾燥機もあると聞いたのでなんとかなるだろう。
食事を作ってテレビを付ける。東京都なので東京のテレビが全て見られる。この辺は充実している。そのテレビを見ながら、持ってきたビールと一緒にご飯を食べた。
「やってることは、家と変わらないけど」
旅行している気にならない雰囲気であるが、それでも寒さは都心よりもある。エアコンを止めないように言われていたから都心よりも寒いのだろう。
風呂は温泉が引いてあるが温度は低いので炊き直しが必要だった。それでもすぐに炊き上がり、風呂は最高に気持ちがよかった。バリアフリーだったから風呂も広く、トイレも広い。無理矢理作ったわけではないから廊下も広い。居心地の良さがだんだん分かってきて、西元は楽しくなった。
そのままその日は寝るだけになり、テレビを見ながら寝た。
次の日は朝から自炊してご飯を食べ、暇になったので散歩に出た。
昼の暖かい時間なら寒さはそこまで来ないが、風が吹き抜けると寒さが身に凍みる。
道を歩いていくと、いつの間にか道の終わりまできていた。
「あ……あれか」
道の行き止まりは広く、迷った車がUターンできるような広さがある。そこの道端に案内人が言っていた地蔵が七人いる。
あの言葉を聞いていたので、西元は近づくことはやめた。何だか怖いじゃないかと心の中で思っていると、そこに西元と同じように散歩に来たであろう親子がやってきた。
小学生の子供が真っ先に地蔵に気付き、珍しそうに眺めに近づいた。
「やあ、同じ宿泊客かな?」
子供の父親は気さくに話しかけてきた。
「あ、はい」
「うちも招待客なんだ……ああ、弘それに触っちゃ駄目だよ」
子供が触ろうとしているのを見て父親がそう言うと、子供は触るのをやめた。触る一歩手前だったので西元は思わずホッとした。
そこで父親があれこれ聞いていたので答えていたが、西元は子供が余計なことをしないか気が気ではなかった。
その時、地震が起きた。
ぐらっときて下から突き上げるような揺れに立ってられなくて西元はしゃがみ込んだが、父親は地蔵のところにいる子供のところに走って行った。
「うわあああああっ」
地震が収まった後、父親の叫び声が聞こえ、子供の泣き声が響いた。
「パパ!」
振り返ると地蔵が倒れ、その地蔵の下敷きに父親がなっているではないか。子供は父親に助けてもらったのか無事だ。
西元は慌てて父親の元へ駆け寄り、父親の上に乗っている二体の地蔵を順番にどかして元に戻してしまった。その時は父親を助けたいという気持ちだったので怖がっている余裕はなかった。
父親は地蔵が退くとゆっくり立ち上がって、ホッとしたように子供を抱きしめた。
子供は泣いていて、その子供を真っ先にあやしている。どうやら父親はどこも怪我をしていないようでちょっと地蔵が当たったところが傷む程度だったようだ。
「た、助かりました。ありがとうございます」
父親は子供が落ち着いたところで西元に礼を言った。
「あ、いえ……」
そこで西元は案内人の言葉を思い出した。アレは倒れたらそのままにしておくのが通例だ。だから倒れたら倒れたままにしておくことと言われたことを思い出した。
西元はそのまま倒れた地蔵を横に倒しておくのではなく、元に戻してしまったのだ。
しまった……忘れていた。
それに気付いて真っ青な顔をしていると、父親はそれがさっきの出来事で動転したのだろうと思ったのか、西元の背中をゆっくりと擦って家に帰ろうと促した。
帰り道の途中で西元は誰かに付けられている気がした。
「ん? 何だ?」
父親の方も何か感じるのか、時折振り返っては誰もいないのを確認している。
「何だろね。怖がらせたいわけじゃないけど、さっきから誰かいる気がして……でも一本道だし、誰かいればすぐ姿が見えるんだけどね……」
さすがに脳天気だった父親もさっきの地蔵関係の霊障ではないだろうかと不安になっているようだった。
気味が悪い思いをしながら三人は散歩道を戻り、途中の分かれ道で別れた。
「何かあったらすぐに管理会社に電話するんだよ……」
父親がそう言い残し去って行った。
何だか気持ちが悪い思いをした散歩だったので、出かけるんじゃなかったと西元は思いながら家に入った。
その日はそれでも不安だったのでペンションを出て買い出しに出かけ、スーパーまで歩いて行き、酒やつまみを買い込んで出るとちょうどペンションに戻るバンが止まっているのに気付いた。
他の客を乗せてきたのだが、聞いてみると乗るスペースがあるというので乗せて貰った。乗り合いは大学生グループだったが、西元には気付かずに乗り込みペンションに戻った。
その夜も同じように過ごし、昼間のことは気のせいだと思うことにして就寝した。
2
その日から西元は、誰かの気配を感じるようになった。
窓を開けて空気の入れ換えをすると、誰かが入り口から覗いている気がしたのだ。
あんなイヤなことがあったからなのか、気味が悪いことが起こり続けた。
常に誰かの気配を感じて振り返り、誰もいないのを確認してはまた同じことを繰り返す。あまりに気味が悪くて外に出るのをやめた。それから五日間くらいその気味悪さを味わっていると、今度は正真正銘の人が訪ねてきた。
それは地震の時一緒にいた父親だ。
「あのさ、君大丈夫? その後のことなんだけど、変わったことないかい?」
父親が言いにくそうに聞いてきて、西元は少しだけ首を横に振った。気配を感じるだけで特に何かされたわけでもない。はっきりと言えないから首を横に振ったのだ。
「そうか。でもやっぱり、君も帰った方がいい。ここ何かいるよ。言いたくないけど、あの地蔵に何か曰くがあるんじゃないかと思って案内人さんに聞いたら、ないよって言うんだけど。あれ、昔の山の神に供物を授けるための身代わり地蔵って言って、その地蔵が持つものは神様の物になるっていうやつらしいんだ……。だから何かあってもおかしくはないと……いや怖がらせたいわけじゃない。ただここは本物のような気がするんだ。だから、僕らは予定を切り上げて帰ることにしたんだ。ここを離れればなんとかなるんじゃないかと思って」
父親は相当怖がっていて、ここから逃げる決心をしたようだ。
けれどそれで済むのだろうかと西元は思ったが口にはせずに自分の事情を話した。
「……そうですか……俺は行くところがないんでここに来てるので……」
西元もできればここを去りたいが、寮は閉鎖されているし、実家に帰っても同じ気がしたのだ。これはたぶん付いてくる。そういうやつだ。
「……そ、そうか。じゃあ気をつけて」
父親はそう言うと家族を連れた車に乗って去って行った。
一緒に乗っていた奥さんは青ざめた顔をしているし、元気な子供だったはずの子が真っ青な顔をして毛布に包まっている。
何かあったのかと聞かなくても、何かあったのだろう。逃げ帰りたくなるような何かが。
気味が悪く、西元はすぐにドアを閉めた。
寒さが増したのでエアコンの温度を上げて寒さを紛らわせ、テレビを見た。酒を飲んで足りなくなったら買い出しに出た。酔ってないとやってられない、気配がどんどん強くなっている。
その気配がグンと背後にいるように感じるようになったのは、あの家族が去った次の日のことだ。
それまで分散でもされていた気配が一気に西元だけに向いた気がしたのだ。
「……」
あの父親に何かあったんじゃないか。そう思えて仕方なかった。
そのままテレビを見ていると、都心の事故のニュースがやっていた。
「……あ……」
ニュースは都心で早朝に単身事故を起こした自動車事故のニュースで、その画面にはあの父親の顔写真が出ていた。幸いなのか、奥さんは無事で子供も無事だ。なくなったのはあの父親だけで、逃げ帰っている途中での交通事故だった。
西元はゾクリとした。
俺、殺されるのか?
そう思ったのだ。逃げても無駄だと分かっていたけれど、逃げれば殺される。逃げ道はないと言われたようなものだ。
近くでする気配が増したのも当然だ。あの父親を追っていた半分がこっちに戻ってきたのだ。標的はあと一人と言わんばかりに存在感を増してだ。
西元は電気を付けたまま寝て、次の日には急いで街に降りた。そこで図書館を見つけて飛び込んで、そこで地元の伝承について調べた。特にあの地蔵関係だ。
まずは新聞でペンション開発時のニュースをパソコンで探ると、一発で出てきた。
事故は地蔵の周りの道路整備時だ。地蔵を動かした業者の二人がその後死亡した。そしてその地蔵のせいだと思って元に戻した二人の業者のうち一人が精神を病んで入院。もう一人は所在不明だと言う。
そこで西元はふと気付いた。
「……地蔵を動かし触れた人は死んでるけど、触れても元に戻した人は死んではいない?」
僅かな違いであるが、大きな違いだ。この差は何か。
あの地蔵のことを調べると、やっと昔の口述で伝わった伝説の話が出てきた。
地蔵は元々、山の神の使者として作られ、そこに祭りものをすることで山に出入りしても安全を得られるようにした。山の供物を一部捧げることで山に感謝し、その山の恩恵を受ける。やがて儀式は山の神に様々なものを捧げて、村の安全を願うようになる。
その儀式はかなり古く、江戸時代を遙かに超えた室町まで遡ることができた。その時代はこの辺りはまだ開発もされておらず、山の民がいた時代だ。
地蔵の起源は分からないが、何かの代わりに地蔵がその役割を長く勤めているはずだ。
人の代わり、そうだ人の代わりにと案内人が言っていた。
山の神に供物を届ける人間の代わりに地蔵がいたとすれば、地蔵に先に触れることは地蔵に供物があることを知らせる役割だったのではないだろうか。
でもあの日、地蔵に何もお供えはしなかった。けれど、あの父親は結果がどうであれ触れたことになった。
地蔵はあの父親を山の神への供物と認識したのではないか?
そういう臆測が成り立つ。が、それは臆測にしかならない。
地蔵を元に戻すということはどういうことなのかが分からない。
飽くまで西元は地蔵を元に戻してやっただけだ。倒したわけでも最初に触れたわけでもない。その場合どうなるのか……結果はでなかった。
とぼとぼと歩いて帰ると、ペンションの入り口の道であの案内人に出会った。
「あ……あの」
そう話しかけると、案内人がギョッとした顔をしてから言った。
「あんた約束守らんかったんか……なんで」
そう言われて西元は案内人に縋るようにして言った。
「俺は人を助けて地蔵を元に戻しただけだ……なんでその助けた人が死んで、俺はまだ生きてるんだ?」
混乱した西元がそう言う喚くと、案内人が近くの作業場に案内してくれた。
「落ち着いたかね」
お茶を出されて泣きそうで取り乱した西元だったが、やっとお茶を飲んで落ち着いた。
「すみません、取り乱してもどうにもならない上に、忠告を深く考えもせず破ったことは間違いないのに」
西元がそう言うと、案内人がその時のことを尋ねてきた。
西元はそれを詳しく話して聞かせ、最後にその父親が事故で死んだこともニュースで知ったところも話して、その後気配が増してそれが始終付きまとっている事も話した。
「そうか、もう側にいるなら、逃げるのは無意味じゃ。それは用が終わるまで付いて回る。役割があるからな……けれど、先の人が死んだなら、お前さんはたぶん死にはすまい」
案内人が少しだけホッとしたように言った。やはり先例があるのだ。
「それは工事現場の人が地蔵を退かせた二人が死んで、戻した一人がおかしくなって、一人が所在不明だからですか?」
西元がそう言うと、案内人が頷いた。
「わしらは何があったかは知らんが、地蔵に供物扱いのものがあってそれが何であれ神に貰われていったなら、地蔵を戻した人は礼を受けるという。しかし異形のモノの礼じゃ、何をされるか分からん。気が触れるものやそのまま消えてしまうものだっている。それくらいは分かるが……あの所在不明の工事の人なら、つい先日まで村に住んでたよ。気が触れてはいたが、ある日急に我を取り戻して街に戻っていった。そんとき何かあったんじゃと聞いてはみたが、果てしない夢を見させられてしまったと言うただけで……」
「その人の今の居場所は分かりますか?」
「……分かるが……尋ねるのか?」
「俺になら何があったのか教えてくれるかと……同じ立場であるし……」
西元がそう言うと、案内人も頷いた。
「そうさな。同じなら言うこともあるかもしれん」
そう言うと、案内人はその工事の人の名前と住所を教えてくれ、さらには電話をして西元という同じ立場の人が話を聞きたいと言ったと言うと、その人は会ってくれると言ったが、一つだけ忠告を与えてきた。
「……村を出るんは日が明けてから、日が暮れる前に村に戻れとそう言っていた」
「どういう意味なんでしょうか……」
「分からないが、言われた通りにした方が身のためかもしれん」
案内人にそう言われて、西元は大人しくペンションに戻り、素早く寝て日が明けるのを待った。
日が照り返してくる時間になるのは冬だと朝の七時くらいだ。その時には既に起きていた西元は駅まで車で送って貰い、そこから電車で都内に戻った。
新宿まで戻り、そこで工事の人である佐村と会った。
佐村は現在は別の工事関係の仕事をしているという。
「いわゆる、祭祀(さいし)に関わる仕事で曰くを調べてどういうことをすればいいのかという仕事をしている。建設会社にはこういうの多いんだよ。僕は体験者であるし」
佐村は明るく笑ってそう言う。元気そうな姿に、少しだけ西元は希望が見えた。
西村は佐村に今自分に起こっていることを話して聞かせたことで、佐村は事態は飲み込めたようだった。
「君は供物の送り主扱いになっているんだというのが僕の結論かな。その可哀想な父親は、地蔵にお供えされたモノにされ、山の神の供物になったから取り戻された。どのみち、逃げられもしなかっただろうけど、村の人間がそういうことで死んだという話は聞かないから、たぶん供物でも逃げたりしないで別の供物を変わり身に供えたら助かったかもしれない……」
「じゃ、村の人に話を聞けば知ってた?」
「さあ、それはどうかな。村の人は何となくだけど、分かってるとは思う。でもよそ者には話さないだろうし、「地蔵に触れるな」という言葉は村では当たり前のことで、誰もそれに触れようとしなかったから、対処法を覚えているのはもう老人ばかりだと思う。その人たちは口が固いから喋ってくれるかどうか……僕も狂ったまま村に住んでいたから、なんとなくだけ助けて貰ったけど。所詮よそ者だったから、ほとんど放置されてた。ほら僕は工事現場の人間だからペンション計画に反対してる村人とは敵対してたしね」
あっけらかんと話す佐村であるが、本題はそこではない。
死なないで狂っているだけなら、その狂う原因が何なのかを知らなければならない。
西元がそれを尋ねた。
「どうなるんですか、俺は……」
そう西元が核心を突くと、佐村は言った。
「山の使者からお礼が届く」
「お礼って、気が狂うほどのもの?」
「その過程によって狂う人もいるけれど、僕と同じ立場だった人、間中さんは病院を出て元気でいるよ。あんまりあの時のことは思い出したくないけれど、礼は受けたからそれなりにやれているらしいよ。だから結論から言うと、君は死なない。村人はそれを知っているけど、どうして死なないのかは分からないし、その恩恵を僕らは喋ることを禁じられているから言えない。もちろん、その礼の内容もだ。それが山の神、ヤマツミとの約束だからね。君が同じ立場でも言えないんだ」
佐村はそう言って肝心な部分は教えてくれなかった。
「で、君にはいくらかの忠告をしておこうかと思って会うことにした。言えないことは言えないけど、忠告できることはあるからね」
佐村がそう言ったので、西元は聞いた。
「まず、礼は絶対に受けること。これを拒否はできないから、どこにいても受けることになるけど、村で受けると比較的短くて済むらしい。そして礼が来るまでは夜は絶対に村から出ないこと。出てもいいけど、たぶん引き摺り戻されると思っていい。どのみち村から出られないから、村にいた方がいいという意味だけど。間中さんは何度も抜けだしては村に戻されていたから」
「……」
「狂っている間、その期間は村にいるほど短い。僕は間中さんより半年も短くて済んだ。その期間は村から退去できるけれど、礼は続く。間中さんは狂ったせいで精神病院に入れられたけど、僕より長く狂ってたから何か関係があるのかもしれない」
「……」
「それで、その狂っている期間だけど、僕は三ヶ月。間中さんは一年」
「三ヶ月……」
「君はまだ大学生なんだって? うーん、単位が足りてるなら、ギリギリいけるかな。春休みとか二月からでしょ? 一月ならなんとか大丈夫そう?」
佐村は明るくそう言ってくるので、何だかお礼の内容は分からないが、なんとかなるようなものなのだろうかと思えてきてしまった。
「君は礼を受けるべきで、それは人の命で得るもの。君も僕も偶然にその場にいただけで、何も悪くはない。それだけは覚えていて。神はいつも通りにしているだけで悪気は一切ない。そういうモノだからそういうことなんだ」
佐村はそういったことを話してくれたが、肝心の内容は一切口にはしなかった。
ただ死なないこと、狂っているのは村にいれば三ヶ月くらいのこと。
その後は普通の人生に戻れること、そして礼は何かを齎すこと。
「暗くなるからお帰り」
佐村はその話をした後、すぐに西元に村に帰るように言った。
今日の話の中身は誰にも内緒で、村人にも話さないようにと言われた。
「人は自分の得になることなら、人も犠牲にする。そうなるとあの村は終わるから」
それが佐村の忠告だったし、ヤマツミとの約束は死ぬまで持続するので、それで死んだ人はいるらしい。
「……礼って何だ?」
西元は死なないにしろ、礼によって狂うとなるとその内容がこの世のモノとは思えないものだとしか思えず怖かった。
いつ始まるのか分からない礼を受けるために、西元は準備をした。
三ヶ月を村で過ごすこと、両親には論文のために村のことを調べるので村に住み込むことにして、大学でも同じように論文のために滞在するから、一月二月初旬の授業の休みを伝えた。ギリギリの日程でそれらを詰め込み、村のペンションの管理人に地蔵のことを話して村に滞在する場所用意して貰った。
さすがに地蔵のことを話した時は村長すら動揺したが、経験がある手前、すぐに場所を用意してくれた。
ペンションの工事現場の人たちが、狂った佐村と間中のためにわざわざ用意したペンション風の家が、村外れにある。さすがに地蔵の呪いの話を知っていて部下が狂ったとなれば、隠したいのが会社である。幸いそのお陰で二人は復帰して無事に生きているから、会社としてはいわゆる傷害保険的な出費だったから、懐はそこまで痛まなかったらしい。
その家を村は今後のために残しておく派と、取り壊す派がいたらしいが、西元が現れてしまったせいで、残して置く派の勝利となり、建物は残して置く流れになった。
家は村人が近づかないようにしているのと、狂った状態の人を見てペンションの人たちが不審がらないようにしてあるのだが、実はその場所はあの地蔵がいる山の近くだった。
ペンションには道は続いていないけれど、元のペンションからもそう離れていない。
その西元の側にはもうべったりとヤマツミの使者がくっついている。それは日常に感じているが、まだ時ではないのか動き出す気配はない。
「早く、楽にしてくれ……」
死なないと保証されていても、自分が狂ってしまうのはさすがに怖かった。
だから、早くその期間が過ぎてくれることを祈った。
3
その年末は憂鬱な年末になった。きっと年始も憂鬱だろうと西元は思いながら、移り住んだ家で一人テレビを見ていた。
テレビで流れるバラエティーも歌番組ももう耳には入らない。
西元は耳元で何か声が聞こえて仕方なかった。
それがヤマツミの使者が何か言っているのだろうが、人の言葉を発してないので何か理解できない。しかしそれを一日中聞かされていると気が狂いそうになる。だが慣れてきたら、それも無視できるくらいに感じなくなってきていた。
まるで麻酔でも掛けられているかのような錯覚さえする。
その年末が終わり、新年が始まった瞬間だった。
除夜の鐘の放送が流れている。その鐘の音がだんだんと聞こえなくなった時、隣にいたモノの気配がはっきりとした気配に代わり、それが実体化し始めた。
「……ひっ」
さすがに見ないものに怯えるのは慣れたけれど、実体化するなんて聞いていないかったから、驚くなという方がおかしい。
実体化するヤマツミの使者は、ぶよぶよした黒い液体のように身体を作り始め、それが人の形に近いモノになり始めた。
それは一体ではなく、三体、五体と増え始め、最終的に七体になった。
地蔵と同じ数だとこの時気付いたが、あの地蔵自体が使者の仮の姿だったとすれば、納得はできる。けれど、中身があんなものだとは思ってもいなかった。
人の形にはなったが、その大きさは二メートルはある。その物体が七体。それが西元を取り囲んでいる。
【供物を受け取った、礼を受け取れ。我が使者の持てなしを際限なく受けるとよい】
人の声が頭の中に聞こえる。
この声がヤマツミの声だったのか。女性の声だったと思う。
そうか山の神は女性の場合が多いと本で読んだ。
よく分からないまま、目の前の使者の股間からいきなりペニスのような蛇のようなものが生えてくる。
「……ひっあっ」
まさかと思っていると、七体全てがその状態だ。
すると西元の着ている服が何かの力で全部破れ、バラバラになって飛び散った。
さすがに怖くて逃げだそうとすると、その使者が西元を襲ってくる。
部屋の真ん中で押さえつけられて、足を引きずられてヤマツミの使者がそのまま西元のアナルにその蛇のようなペニスを突き入れてきた。
「ひあああっっ!!」
絶対に普通の状態なら裂けてしまっただろうほどの、その使者のペニスが深々と西元のアナルを犯してくる。
「いやだっ……こんなっ……あっああっんっんっ」
使者がすぐさま腰を振り始め、西元はそれに痛みすら感じず、寧ろそのペニスに快感を得るかのような感覚に陥っていた。
「っ……あっ、やらぁっ……んっ、あっふぅっ」
信じられないことに、神の使者に犯されて、西元はそこから快楽を得ている自分がいることに気付いた。
「はぁっ、はぁっ……そこはっ、んっあぁっ」
パンパンと打ち付けてくる腰、そして挿入されたペニスが縦横無尽に西元のアナルの中で暴れる。
「やっ……、そこは、やらぁ、んっ、はぁっ……」
ニュルニュルと内壁を押し開いて挿入されるペニスが、蛇のように暴れ、中で射精をしていく。
「あぁんっ! あっ……はぁっ、はぁっ……中出しされて……るっんああっん」
何の液体を中出ししたのか分からないが、熱い液体が西元の身体に染み渡るように入り込む。
「あぁぅっ! やっ、あんっあんっあぁんっ」
その液体に感じて悶えていると、次の使者が西元に襲いかかりペニスを挿入してくる。
「やぁあっ、あっふぅっ、あっあっ……ああーっ!」、
あり得ないほど感じて、西元は嬌声を上げた。
これがヤマツミの礼なのか。こうなることは分かっていた佐村や他の人が何をされたのか口に出して言えるわけもない。
「んんーっ、やっらぁっ! あっはぁっ……んぁっ……はぁっん……!」
ヤマツミの使者に犯されましたなんて言ってもきっと誰にも信じて貰えない。
信じて貰えないし、それで感じていることさえ知られたくはない。
使者のペニスが気持ちがよくて、もっとして欲しいなんて、そんな浅ましいことを思いだしているなんて、知られたくない。
「ぁっ、あっはぁっ……あっぁあっ、んっひゃぁっ……」
次の使者が射精をして、またその液体が西元を満たしていく。だが足りないと思い始めている。
気持ちが良い使者のペニスが、こんなのを続けたらきっと狂うに決まっている。
三番目の使者がペニスを突き入れてきた。
「あぁあっ……ぁっ、おっきいっおちんぽがぁっ……おま○こ、ごりごり擦ってっはあぁっ……んっあぅっ、きもちっ、いいっ……!」
気持ちよすぎて淫語でも出てくる。ペニスが気持ちが良いなんて普段ならきっと思いもしないことだろうし、痛みも感じないで大きなペニスが入れられるはずもないのだ。
これはきっとヤマツミの神の空間だから平然と行われていることなのだ。
それを忘れないように西元はそのまま使者に身体を預けた。
「やぁっ……おちんぽいいっ……あっ、あぁんっ、あんあんあぁんっ!」
激しく打ち付けられ、中を犯されて西元は何度も絶頂を迎えた。
使者は次々に西元の中に射精をして、まるで妊娠でもするまで続けるかのように、一巡をしてもまだ続けてくる。
「あぁあんっ! おち○ぽっ……またおま○こっいっちゃうっ……んんっ、やあぁっ!」
信じられないほど感じて絶頂をしても、その絶頂が終わらない。快楽を感じたままでまた絶頂を迎えては、使者のペニスが入り込む。
「あああーっ! いくっ、いっちゃうぅっ! はぁあんっ、あっあんっああぁー!」
二巡をすると使者のペニスが形を変えてきた。
ガチガチの硬い、しかもペニスに瘤が何個もあるような凶悪なペニスにだ。
「やぁっ! もうっやらぁあああぁんっ!」
あり得ないほど絶頂させた後に、そのペニスで犯されれば、頭の中の理性のある部分にヒビが入り、壊れかける。
「ぁっあっ、んぅっ……、や、あぁっあーっ……ひぅっ、うっ、ぁあんっ」
そのペニスで奥まで突かれて、西元はもう理性を手放そうと思った。
「んっんっ……はぁっぁ、あぅんっすご、いっ……ひゃぁっあっはぁっ、あぅんっ!」
だってこれは神の仕業なのだ。何を考えても分かるわけもない。神はこれを礼といい、それを与えることで西元を犯している。その行為に意味があるのか分からないが、あの佐村でさえ、妙に納得しているような様子だったから、きっと意味はあるのだ。
「はぁあああっ……ふぅっ、うっ、あぁああぁんっ……やぁああっ! あっいいぃっひぅっ、あひぃっ、あぁんっ!」
だけど、この行為が酷く心地良くて、身体を早々に明け渡したせいもあり、頭の中はセックスのことだけしか思い浮かばない。ただ気持ちよくてそれに身を委ねてしまいたいのだ。
「あぅっあっあんっいいっ、んっ、ひああぁっいいよぉっ」
だから西元はそこから考えることをやめた。狂ってもいい、このペニスが気に入ったのだ。もっと犯して欲しいと願ったほどに。
「やああぁーっ、んっ、いいぃっ、もっ、いっちゃうっ、いくっ! あっあぁあんっ!」
射精をしてもどんどん使者は西元を犯した。
「はぁっはぁっ……ぁ、あぁああん……やっ!? んっああぁあっあひぃっ! あっあんっ、あぁああ……」
それは朝方まで続き、西元は完全におかしくなっていた。
「あああぁーっ、やぁっ、ひっ、ふぁっ、あんっあんっ、ぁんっ!」
最後に射精をし終わると、使者はふっと消えていなくなり、吐き出した精もすべて西元の中に吸収されてしまった。
酷く気持ちが良い時間が終わってしまって、西元は残念に思うほどだった。
けれど、礼はこれで終わりではなかった。
使者は毎日西元のところに現れて、西元を犯した。
「やぁんっ、いぃっはぁっ、あっふぅっあんっ、んーっ」
使者のペニスを口に咥えることさえ覚えたし、それを飲み込むことも好きだった。大きなペニスが二本同時に突き入れられても西元は感じたし、嬌声を上げた。
「んんっ……んっ、ふ、ぅんっ……ふっん、あっああっ、また、いっちゃう、でちゃうっんっはぁんっ」
使者から与えられる快楽は次第に夜だけに止まることはなくなり、日中さえも平然と使者はやってきては西元を犯していく。
「ひぁああっ!あーっ、いくっ、いっ、んっあっああああぁんっ!」
風呂に入っていても使者が現れればその場で何時間も犯された。
「あっひあぁっもっ、ふぁあっ、おま○こっ、せいえきっ、んっぁ、なかにっ、いっぱいらしてぇっあっあんっふぁああんっ!」
気持ちいいからすぐに尻を出し、アナルにペニスを自分で誘い入れるほどに、西元はこのセックスに溺れた。
神が何を考えているとかどうでもいい。このペニスをくれるなら何処ででも身体を開いた。
「やだっ、そこ、あんっ、ぐりぐりっしないで……あっあぅっ」
そんな西元のところに来るのは、案内人だけになり、ご飯を辛うじて渡してくれた。
人が変わったようになった西元を見て、案内人は西元のところに使者が来ていることを知った。しかし、内容は聞かない。聞くと感染するからだと案内人は言った。
「あぁっ、んんっ、はぁっ、あっあっあんっ! あっ、ひぃっ、らめっ……、それ、あっいぃっ……」
使者は決して村人の前には現れなかった。村をうろついていると使者が来ないことを知った西元は家にずっと止まり、常に使者を受け入れて感じた。
「あんっ……乳首、やぁっ……いっあんっちくびっあっ、あっ」
使者は段々とセックスをするように西元のあらゆるところを開発していく。乳首だって舐めて引っ張って噛みついてと、使者によって好き勝手に開発された。
「ああぁっ! ちくびらめぇっ、あんっあんっ、あっあっああっ!」
七体同時に襲われることもあり、体中を七体に弄られまくれば、もちろん気が狂うのは当たり前だ。
その使者も段々と個性が出てきて、それぞれに違ったものを与えてくるようになっていた。
「あっああぁっ……おま○こは、らめぇ……んっ、精液中出ししちゃぁっ……あっあっいぃっ、んっ、あんっ」
パンパンと際限ないほど犯され続けること、もう三ヶ月近かった。
西元は完全にセックスに狂い、使者の与えるものを素直に受け入れていた。
「はあぁ……ひ、はぁ、あっ、ああんっ! あぁっ、もう、むりっ……あんっ、なんで、またおちんぽ大きくなってるの、あ、あぁっ……」
使者もまた既にその場に止まり、残りの一週間は昼夜も何も分からなくなるほど犯され、最後には三本のペニスさえ平然と西元は咥え、腰を自ら振った。
「もっおちんぽいいから……あぁんっあっあっ……や、らめぇっ……おま○こ壊れるっはぁんっ」
散々犯し尽くしたはずなのに、使者は西元の体中に液体を浴びせ続け、それが西元の身体に吸収されていくのを見ている。
「やああぁっ! あっあぁんっ……おちんぽっらめっ、あっあっあっ……」
そして最後の夜は一層激しく求められ、使者は休む間もなく西元を犯した。
「あひっ……あっあんっあっ……はっ、はぁ……あぁあっ……」
飲み物は使者の出す液体であり、食べ物も全てそうなっていた。
案内人が持ってきたものは既に食べられなくなって二ヶ月も経っていた。
このまま死ぬのかと思うほどであったが、西元はそれでも使者を迎え入れて犯され続けた。
「ひああぁっ……あぅっ、ひぁん、あっあっあんっあぁんっ! やああっ、はひぃっ、あっあっ、あーっ……あぁーっ……ふあっ、んっんっ、やぁっあっはぁあっ」
使者の様子がどんどん変わっていく。射精が終わった使者からだんだんと人の形を失い、元のグジャグジャした黒い物体に変わっていく。
「あっあっ……もう、あぁあっ……いっちゃ、いっちゃうっ……あっあぁっ」
使者がどんどんと西元の身体に射精をしては消えていくのを西元は悲しいと思った。もうこれで終わりだなんて酷いとさえ思った。
「あひぃっ……なっ、なめてぇ……おっぱいっ、んんっ……おっぱいちゅうちゅうして、ぁんっ、おち○ぽぐりぐりして、精液をおま○こに出してっあっあっあぁあんっ」
残りの使者にやって欲しいことを強請り、最後の最後まで西元は強請ってペニスを口にも咥え、アナルでも咥え続けた。
「やあああぁっ! ぁっあっいくっ、いくっ……! んっあっあっあっ精液おま○こにでてるっあぁあんっ!」
そして最後の使者が西元の中で射精をした。
「あぁあっ……はぁっはぁっ……らめっ……あっぁんっ……」
そのペニスが出ていくのを感じて、西元は悲しくなって泣いた。
「……いやだ……いかないで……」
そう西元が言っても使者はグジャグジャとして黒い塊になると霧散して消えた。
【礼はこれにて終わった。お前は日常に戻るといい。したが、この出来事の口外はせぬ事。人は欲が深い、我らとしても無用な争いは避けたいものだ。村を去れ、我が……】
最後にヤマツミが何を言ったのか分からない。
聞こえなかったし、もう気配もしなかった。
裸で部屋に横たわっていると、さすがに寒かった。
寒さで起き上がり、西元はまず風呂に入った。
冷静になってくると、なんであんな行為を悦んでいたのか、正直分からない。
あの時は狂っていたのだと言われたら、そうなのだろうと思うしかない。
きっかり三ヶ月。村にいると短いと言ったからそうしたが、ちょっと前の自分なら村を出ればよかったと思っただろう。
それくらいにあの時間はきっと一生得ることができない快楽の時間だった。
きっと開発された身体を使っても、人とはこの快楽は再現できないだろう。それだけは確信を持って言えた。
「……礼ってこれなんだろうか?」
そう思っていたが、分からない。
その日、西元は久しぶりにぐっすりと寝て起きた。
身体はすっきりしていたし、頭もはっきりしていた。
使者の気配はもうしなくなり、西元は部屋の窓を開けて空気を入れた。
それまでに堪っていた淫靡な雰囲気を風によって攫われて綺麗に消えた。
儀式は終わったのだと、西元は悟った。
その後、案内人がやってきて西元が正気に戻っていることを知ると、村長に伝えた。
西元はその時の記憶はないといい、詳細はヤマツミとの約束なので話さなかった。
もちろん狂気の状態だった西元を知っている人たちは、狂っている時の西元とはっきりとしている西元の両方を知っているから、それはあり得ると思った。
いろいろ聞かれても、何一つ証明するモノがないので西元は記憶がないと全てを突っぱねた。
「佐村さん時とおんなじよ、聞いても無駄よな。ヤマツミが何をしてたのか分からんから、礼が何なのか未だに分からんままだが、これで二度目に触ったやつは死なないことくらいしか分からんのよな」
そう言うのだが、誰かが言った。
「しかし、まっつんところのいとこは死んだやろ?」
「そうや、あれもおんなじになって、その後、つーさんとこの子巻き込んで死んだよな?」
「そや、それあったわ」
そう言う話がでたので聞いてみると、村外のまっつんのいとこが遊びに来て、地蔵が倒れているのを起こした。すぐに変な気配がすると言っておかしくなった。しかし同じく半年すると元に戻ったが、その時仲が良かったつーさんところの子が見舞いにいったらしい。そしてその夜に二人が死んだ。コンビニ行った帰りに電車の踏切を締まっているのに渡ったらしい。もちろん即死だった。
それでふと西元は気付いた。
まっつんのいとこはつーさんの子に話したのだ。何があったのか。
そしてそれはヤマツミの怒りを買った。だからヤマツミとのことを話で聞いて知っているつーさんの子も連れて行かれたわけだ。
佐村はそれを知っていたから、絶対に言わなかった。
もちろん間中も言わない。
だから西元も言うわけにはいかなかった。
だって死にたくはないからだ。せっかく生き延びたのだ。
世話になった村の人にお礼を言って、宿泊代金などは親が払ってくれた。
村人は両親に話を合わせてくれて、なんとかごまかしてくれた。
三月が終わり、四月になり、西元は論文を書いた。村の不思議なことを題材にしたことで、閉鎖空間における伝承みたいなノリで書き上げた。
もちろんヤマツミとの約束があるので、地蔵のことには触れず、言い伝えや伝承について自分の田舎などにも赴いて、調べた内容をまとめたものだ。
やっと大学が始まると、西元のもとに品田がやってきた。
「お前、あのまま住み着くかと思ったぞ。元気そうだな」
「ああ、久しぶり。うん、いいところだったけど、やっぱり都会がいいなと思って戻ってきた。なーんてな、論文が終わったから帰ってきた」
そう西元が言うと品田も笑う。
「そうか、それならいいんだ。まっつんところのアレみたいなことじゃなくて良かった」
「ああ、その話は聞いたけど、大変だったみたいだね。村の人もそう言ってたし」
どうやら同じ村に住んでいる品田の祖父は品田に本当のことを話していないようだ。まあ村外の人扱いの品田だから、いくら孫でも村のことは言えないというわけらしい。
「論文は出した?」
「うん、出したよ。今年は就活あるし、そろそろ出しておかないとさ」
「うえー俺まだなんだよな」
「頑張れよ」
そう品田と話していると、いつもの仲間がやってきて、休んでいる間のことをいろいろ言われるも受け流している間に話もすっかり最近の出来事に移った。
それから西元の論文は正式に提出となり、教授から面白いということで珍しくS判定をもらっていた。
それはとても凄いことで、最高ランクの成績になる。
その後、西元にはラッキーなことが続き続けた。例えば、就活に行き詰まって、品田のバイトを変わってやったところ、その会社のお偉いさんへの対応がよかったというので、本社の方に出入りできるバイトを紹介され、夏休みを使ってアルバイトをしたら、そこで副社長という人に見初められた。
バイトの内容が変更になり、副社長と付き合いが続いてセックスをする関係になると、副社長の秘書兼雑用でそのまま就職が決まったのだ。
男性の恋人というのは、既に使者のセックスで慣れていたから、すんなりと受け入れられ、さらにはそのセックスで副社長が籠絡できたわけだ。
その直後に会社の社長が倒れ、副社長が社長に昇進、それから西元が入社すると会長が亡くなり、社長が会長の座に着いたのだ。
「はは、西元がラッキー少年のように私の側に来てから、私の地位も上がったような気がする」
一生副社長でいなければならないと言われていたらしい恋人は、社長、会長と上り詰めた。これがただのラッキーではないことを西元は知っていた。
これがヤマツミの礼の続きなのだ。
西元は恋人が言うように、いるだけで存在するだけで幸運を呼ぶ存在になっていた。
好きなことをしても上手くいったし、望めば大概のことは自然に手には入るようになっている。
これが偶然の訳がないと、すぐに察した。
佐村も間中もその恩恵を受けて、今の世の中を生きているのだ。何をやっても上手くいくなら、もうその恩恵を受けて黙って生きていくだけだ。だって黙っているだけで、上手くいくのだから、誰かに喋る必要はない。
それに喋れば死ぬ。その話も実際に知っているから絶対に口は割らない。
「いいえ、あなたがちゃんと努力して頑張っているから、それが認められたのです」
西元はそう言った。
そうなのだ。これがあるとないでは短期間で成果はでない。
例えば、西元が一切関わりのないホームレスをこの会社の会長にしようとしても、きっとものすごく時間がかかるだろう。できないことはないが時間が足りない。
けれど、努力をした人がそれ相応に認められているとなると、話は別だ。その分、効果が早く出るのだ。
礼とは富のこと。ヤマツミから貰ったのは、富だ。
だが、西元はそれをあまり自分のことには使わなかった。けれどもちろん作用はしたし、恋人の功績はどんどん挙がったが、西元は恋人と一緒に暮らし始めたのと同時に、恋人が絶対に西元を手放したくないとして、西元を自宅に軟禁するようになったのだ。
富を呼ぶラッキー青年だからなのだが、それでも西元はよかった。
生きている自分が嬉しくて、それを実感できる今が幸せだった。
恋人はちゃんと恋人であったし、手放したくないが先行しているお陰か、余計なことを言う人でもなかったから、西元の周りは平和だった。
その平和を絶対に壊したくなくて、西元は恋人の元に居続けた。
その後、あの地蔵とヤマツミとの間の儀式は、未だに続いている事を知る。
たまに案内人がその被害者を連れてくるのだが、話すことは佐村と変わらない。
「礼がなんなのかは言えない。けれど、何処に行っても使者は礼をしに来る。だから村から出ずに三ヶ月滞在して受けるといい。そうすれば早くに終わる。ただその礼の内容を誰にも言わないことだ。言うと死ぬ。それだけだ」
毎回代わり映えもしない返答をするが、それで大抵の人は三ヶ月村で礼を受けたらしい。もちろん、その後は会ってもいないし、向こうも訪ねても来ない。
それぞれ自由に生きていることだろう。
西元もその通りに生きた。
けれど、時折、あの使者とのセックスが思い出される。
二度とないことだと分かっているから、村にはいかないけれど、使者とのセックスはまたしてみたいと思う。
そう思う時は、常に西元は恋人を求めた。
足りない何かを埋める行動ではあるが、恋人はそれを受け入れてくれた。
だから、それを西元は壊したくなかった。
もしがあっても、きっと西元は村にはいかない。
ヤマツミが言った。
人間の欲は際限がない――――――と。
その通りだと西元は思った。
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