026-テイクアウト

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 その日は最悪だった。
 陽川(ひかわ)はファーストフードを食べたいと思って学校帰りにその店に寄った。
 友達は皆部活で忙しく、陽川はその日は部活が休みになり一人で帰るところであったため、そんな悲劇になったのかもしれない。
 ファーストフード店は何故か混んでいた。
 進む列は一か所だけで、もう一つのレジは不良たちによって占拠され、アルバイトの女性が絡まれている。
 陽川はその不良を見て思い出す。
 一部の生徒は、少し離れてたところにある不良学校の生徒だ。陽川が通う学校とは反対方向にあるのだが、陽川の家がこの近くなため、高校に進学をする時には、陽川が行っている普通学科の公立か、不良しかいない私立のどちらかしか選べない。当然、普通学科の公立を選ぶ人が多く、それでも地域的に小学校から荒れている学校ばかりなので、当然成績が悪いと私立に行くしか道はない。
 この時勢、高校くらいは最低は出ていないと、就職では上手くいかない。ちゃんとしたところに就職したいなら、大学まで行く必要があり、陽川は大学まで行ってちゃんとしたところに就職したいと思っている。
 だから私立は選ばなかったのだが、こうして町に出るだけで、私立の生徒と出くわすことがある。大抵、数人で固まっていれば無視してくれるのだが、気弱な人間が一人でいると絡まれることがある。
 陽川はファーストフードを諦め、店を早々に出た。
 関わりたくないから、遭遇しないように逃げるしかない。
 店を出て、商店街を抜けて、歩いて堤防へ上がる。
 陽川の家は、この堤防を伝って行くと橋があるのだが、それを渡った先である。小学校の頃からこの橋を渡って学校に通っていたので、今でも慣れた帰り道でもある。
 その堤防を歩いていると、後ろから自転車に乗った不良たちがやってきた。
 不良たちは自転車で通りながらも、陽川の頭を何かで殴っていった。
 その衝撃で陽川が地面に膝から崩れ落ちると、不良たちは笑って通り過ぎていく。
「ぎゃはははは」
「ヒット、ヒット」
 馬鹿馬鹿しいことをして喜んでいる。本当に頭が悪い。こんなことすれば警察に暴行で逮捕される案件だ。しかもこの様子からいつもやっていることらしい。
 憎々しげに舌打ちをして、不良たちが通り過ぎるのを見送り、自転車で去って行く不良たちの影が小さくなるまでその場で立っていた。
「くそっ……」
 だが、こういうことをいちいち警察も取り上げないことは知っている。被害者は泣き寝入りするしかない。ただ標的にならないことを望んで、こそこそと生きていくしかない。
 ここはそうした町だ。
 陽川は、やはり今日は付いてないのだと思い、引き返そうか迷った。友人たちが一緒なら、被害に遭うことはない。不良たちも多勢に無勢という言葉を知っている。中には柔道有段者もいる。彼らはそうした胴着を持っている人間だけは絶対に狙わないのだ。
 つまり弱いヤツが標的になる。
 不良たちをやり過ごすか、それとも引っ越して別の土地に行くのか。
 陽川の友人の一人も標的にされたことがある。見かけただけで追いかけられ、殴る蹴ると暴行される。さらには呼び出され金銭を強奪される。その友人は、最後には親に泣きつき、隣町に引っ越した。
 その不良は警察に呼び出されたが、少年院にすらいかずに話し合いで解放された。
 同じ学校のヤツだったが、陽川が標的になることは何故かなかった。
 堤防の上で悩んでいた陽川の横を、人が通っていった。陽川は、その人間の後ろからこそこそと家に向かって歩き出した。これなら何かあってもこの人が通報してくれるかもしれないと思ったのだ。
 だがそれは間違いだった。
 前を歩いている人間は、橋の近くに来ると、陽川の方を振り返り怒鳴ったのだ。
「こそこそ、俺の後を付けてきて、気持ち悪いんだよぉ!」
 そういきなり怒鳴りつけられて陽川は体を震わせた。
 振り返ったのは、作業着を着ている男性だ。近くの工場から自宅に向けて歩いていたのだろうが、後ろから付けられるように歩かれていたことに腹を立てていた。
「……いや、同じ方向なだけで……」
「うるせぇ、立ち止まってごそごそしてたかと思ったら、俺の後にこそこそして張り付きやがって」
 そう怒鳴り声を上げる男性だが、それに反応をしたのは、高架下にいた先ほど陽川の頭を殴って喜んで自転車で立ち去った不良たちだった。
「古田さん、どうしたんですか?」
 四人ほど人が集まってくる。
「こいつがなあ」
 男性はそう言って、ことの説明をする。不良たちは一斉に陽川の方を見た。
「お前、古田さんに何をやってんだ」
「何も」
 やってないと言おうとした陽川を見た一人が、「あ」と声を上げた。
「お前、陽川じゃん。小学校の時、隣のクラスだっただろ」
 と言われた。
「え?」
 陽川が驚いてその不良を見る。最初こそ思い出せなかったが、だんだんとその顔が、友人を殴っていじめていたやつに似てきた。
 藤沢というのが、そのいじめの首謀者だった。
「…………っ!」
 ビクリとして陽川は、歩いてきた方向に向かって逃げ出していた。体が自然に動いたのだ。逃げなければいけないとそう思ったのだ。
「こら、待て!」
 古田と呼ばれた男が、陽川の後を追って走ってきて、陽川の腕を掴むと、堤防の崖に向かって陽川を投げつけたのだ。
「ああ……っ!」
 陽川の体が一瞬宙を舞い、堤防の崖に叩きつけられる。幸い草むらの上だったお陰で痛みは酷くなかったが、斜面である。体が転がって落ちていき、堤防の下まで転がって落ちた。
 堤防の草むらの中に倒れている陽川に向かって不良たちが集まってくる。
「逃げてんじゃねーよ、陽川くん」
「そうそう、せっかく藤沢との感動の再会だって言うのに」
 そう言って近づいてきた不良の藤沢は、陽川の友人にいじめを繰り返した犯人だ。名前を聞いて確信できた。どういうわけか、当時陽川だけはいじめに合わずに済んでいた。
 陽川の服を掴んで、二山という男が歩き出す。陽川は引きずられるままで何もできずに、二山に高架下に運ばれた。
 高架下は、不良のたまり場ができていた。
 元々はホームレスが作った小さな家だったが、そこを不良たちが占拠し、ホームレスは何処かへ消えた。小さな家は、掘っ立て小屋で、中は六畳ほどの広さがある。ホームレスはこれを一年くらいかけて廃材を使って建てたと聞いた。
 この辺に住んでいる人間は、この建物があることを知っていたし、不良のたまり場になっていることも知っている。だが、行政はこれを撤去するにはお金がかかるとして、放置し続けている。
 掘っ立て小屋の前で陽川は殴る蹴るの暴行を受けた。頬は真っ赤になり、鼻血は出た。お腹も蹴られ、痛みで地面にうずくまった。
「なーんで藤沢、逃げられてんの?」
 古田がそう言うと、藤沢が言った。
「こいつといじめやってて一人だったかな転校させたんですよ。小学校の時。それからこいつ、俺のこと避けるんだよなぁ。中学校も別だったし、高校も」
「へえ、で、お前はこいつもいじめてたのか?」
「いや、元々は仲間だったんだけど、いつの間にかさっと抜けてやがって」
 藤沢がそう言うので、陽川は目を見開いた。
 俺が藤沢の仲間だったって? 何を言っているんだ? というように藤沢を見てしまった。
 すると藤沢はふっと笑って言った。まだ気付いてないのかという呆れ顔だ。
「そうそう、お前、あの時いじめてたヤツを裏切ってたってバレて、階段から突き落とされて頭を打ったんだよな。で、起きたら俺らの仲間だったこと忘れて、いじめてたヤツと親友だったって設定に記憶を改ざんしてたんだよな」
 そう言われて陽川は嘘だと叫びそうになった。だが、叫べなかった。
「それだけじゃねぇ。お前、時々記憶が戻ると、俺のところに来てたんだぜ?」
 藤沢がそう言う。
「なに……いって」
「覚えてないんだよなあ。いろいろと、本当に」
 そう藤沢が笑うと、体の大きな二山が陽川を抱え上げると、掘っ立て小屋の中に陽川を連れ込んだ。
 動けない陽川はそのまま掘っ立て小屋の部屋の中に敷かれた、ビニールシートの上に寝かされた。
「なに、なに?」
 二山が陽川の制服のワイシャツを引き裂いて、前ボタンをすべて飛ばして外してしまう。夏だから半袖であるし、ワイシャツと下着しか身につけていない。その二山はナイフを取り出して言った。
「動くと刺さる」
 そう言って、下着を下からナイフで切り開いていく。ビリビリと乱暴に切ってくるナイフに陽川は怯えた。
「ひっ……」
「動くな」
 そう二山が言ったのは、陽川が少し動いたせいで、ナイフの先が胸の辺りで刺さったからだ。
「いっ……」
 二山は下着を切り裂くと、陽川の制服を腕まで下げてそれで腕を固定した。
「な……にして」
 二山が真剣に行動しているのを、不良たちが興味深そうに見ている。先輩だという古田まで固唾を飲んでいる。大体は何をしようとしているのかは想像できたのだが、相手が男である。率先して手伝う気になれないのは男だからだろう。
 だが二山は慣れていた。
 手際よく腕を固定すると、突き出したような陽川の胸を手のひらで一撫でしてから、陽川の首筋にキスを落とした。
「やっめろっっ!!」
 ペチャペチャと二山は陽川の首筋を舐めていく。その感覚に陽川は最初こそゾッとしたのだが、どういうわけか息が上がっていく。
「やっ、あっ! やめっ! あっ!」
 首を振っても二山はそれをやめようとはしない。ペチャペチャと音を立てながら、首筋そして耳の裏、さらには耳の中まで舌で舐めていく。
「あっやっだめっんっ」
 陽川は自分でも信じられないような甘い声が口から出ていた。
 こんな訳も分からない状況で、知らない人間、しかも男に首筋を舐められて甘い声を出すなんてことは異常だ。だから陽川の頭は二重の意味で混乱していた。
 二山は首筋や耳を舐め終わると、体全体を舐めるようにして乳首まで辿り着いた。
 二山は乳首の周りを舌で円を描くように舌先で舐めていき、最後に乳首の先を軽くペロンと舐めた。
「あああっ!」
 それだけで陽川の体に電流が走ったかのように体が跳ねた。
 それを確認した二山は陽川の乳首を思い存分舌で嬲った。
「あっ! いやっ! あああぁっ! んあぁっ!」
 舌先で舐められ、転がされ、さらには吸われて歯で甘噛みをされる。
 そのたびに腰に電流が走って、自然と腰が浮いてしまう。それは二山に胸を突き出し、もっと吸ってとやっているように見える。
 陽川のズボンがはっきりと勃起していると分かるほどに膨れ、その先からはシミができている。
「もしかして……あいつ」
 古田が藤沢に聞いた。
「そうですよ。男、知ってます。仕込んだのは俺なんですけど」
 陽川が訳が分からないまま悶えているのを眺めながら、藤沢たちが状況を説明していく。
「あいつ、記憶障害の影響なのか、たまに俺の家に来るんですよ。近所だし勝手知ったる他人の家だから。でもまともに会話できる状態じゃないんです。ほっといたらいつの間にか家に帰っているし、その間のことは何にも覚えてないんです。で、覚えてないなら何してもいいんだって思って、ちょっとした好奇心で、あいつの体、開発して遊んでいたわけです」
 藤沢の言葉通りに、二山に乳首を吸われただけで、陽川は一回目の絶頂を迎えていた。
「あぁああああぁっっ!」
 陽川は信じられないほど早く追い詰められ、下着の中で射精をした。
 その放心している陽川のズボンと下着を取り払い、二山は陽川の尻を見える形にしてから、そこに自分のペニスをいきなり突き入れた。
「――――――っっ!!」
 息を飲み込む悲鳴を上げ、陽川は激痛に耐えた。絶対に裂けると思っていたアナルは、ものの見事に二山を受け入れ、裂けてはいなかった。
「すげえ、入ってる」
 他の不良もマジマジとその結合部分を観察した。
 二山はこの不良たちの中でも体が大きい。そしてペニスの大きさも皆が知っていた。それが勃起しガチガチになっている状態は凶器にしか見えないほどの鋭さを持っていた。
 それが陽川のアナルにすっぽりと入っているではないか。
 他人の、しかも男同士の行為なんてみたくはないのだが、陽川のそれは違った。
 いきなり知らない不良に強姦されているにも関わらず、陽川はそこまでの抵抗はしていなかった。挙げ句、ペニスをアナルに突っ込まれて、絶頂寸前の顔をして涎(よだれ)を垂らしている。
 これを見て、ホモだから遠慮するとは誰も言えない。


2

「あっああっ!あっ! あっ!んあっ! あぁあっ! いやあっ! いやっ! ああっ!」
 嫌だと言いながらも陽川は深く二山のペニスを受け入れ、挿入が繰り返されると嬌声を上げ始めていた。
 この感覚、何故か覚えている。そう夢の中でセックスをしている夢を見た時だ。相手はいつも誰か分からないが、楽しそうに陽川の体を隅々まで犯していた。
 陽川は自分が受ける側である夢が不思議だったのだが、どうやらあの夢は事実だったらしい。
 二山は陽川を抱き上げ、膝に乗せると藤沢に見せつけるようにして挿入を繰り返した。
 淫らに蠢く陽川は、二山の体に抱きつき、快楽を貪っていた。頭では理解できていないが、体が覚えているのだ。
 この二山のペニスも知っている。
 抉るように内壁をこじ開けて、獣のようにただ突いてくる乱暴さを、陽川は覚えていた。
「あぁっ! ああっ! んぁあっ! ああ! んぁっ!」
「俺のペニス、好きだよな」
 二山がそう陽川の耳元で言った。ペロペロと耳を舐め取られて、陽川は身もだえて震えた。
「お○んちんっ! すきっ! すきっ! お○んちんっお○んちん!」
 頭にすら思ってもいないことが、口から突然出てきた。それに陽川自身が驚き、驚愕しているという矛盾な表情だ。
「ペニスだけか、いいね淫乱」
 一人がそう言ってペニスを出し、陽川の手を取って、扱くように差し向けると、陽川は戸惑った顔をしながらもそのペニスを扱いていく。
「うっおっ上手いっ」
「お、俺も!」
 もう一人も参加して、陽川は両方の手でペニスを扱きながら、二山のペニスに翻弄された。嫌だと思いながらも体全体が喜んでペニスを迎え入れる。その快楽はオナニー以上で、陽川は翻弄された。一瞬でも気を抜いたら、快楽の渦に巻き込まれて、自ら腰を振ってしまう。
 ブチュブチュと二山はペニスが出入りすることで生まれる汁が溢れ出て、卑猥な音が鳴り響く。
 見ていただけの古田だったが、すでに勃起しているのは藤沢にも分かった。
「遠慮しなくていいんですよ。口が開いてますし」
 藤沢がそう進めると、古田はその言葉を待っていたとばかりに陽川に駆け寄り、陽川の顔にペニスを向けて無理矢理、ペニスを陽川の口に入れて腰を振り出した。
「乱暴にしなくても、陽川はちゃんと舐めてくれるますよ」
 陽川は口に突っ込まれたペニスを舌などを使って舐め始めた。二山は体勢を変えてやり、陽川を四つん這いにして体を少し浮かせると、前から後ろからペニスで突いてやった。
「んふっ! んんっ! うふっ! ううっ!んんっ!」
 両手にペニスを掴んで扱いている。四人の男に好き勝手にされているのに、陽川はそれに順応していく。
「でるっでる!」
「おれも!」
「んふっ!」
 不良たちが一斉に達した。
 陽川は口から大量の精液を受け取り、それをこぼさないように飲んで見せた。さらには両手から受けた精液も、体にかけるようにして受けた。
 だが二山は達してない。
 尚もパンパンと激しい音を立てて陽川を追い上げた。
「んあああっ! ああっ! ああっ! あ゛っ! あ゛っ! あ゛ぁっ!」
 二山の腰の動きが速くなり、陽川は丸まるように体を折り曲げて、絶頂を迎えた。
「ひぁあああっ――――――っ!」
 悲鳴を上げて達した陽川はアナルの奥で二山の精液を大量に受けて、射精をした。
 勢いよく吐き出される精液が床を濡らし、さらには倒れ混んだことで、それが陽川の全身についた。そして、倒れた拍子に二山のペニスが抜け、アナルからは大量の精液が溢れ出てくる。
「う……あっ……」
 その光景を見た不良たちは我先にと、陽川のアナルにペニスを挿入した。
挿入できなかった順番待ちは、陽川の口を借りてペニスを扱いてもらい、何度も達していた。
「んふっふっふっうふっ」
 散々陽川を犯した不良たちであったが、ふと我に返り振り返った先にいる藤沢の何とも言えない目を見ると、次第に陽川への得体の知れない何かを感じるようになった。
「あっ! あっ! んぁっ! あぁあっ! んっ!」
 二山がまた陽川を犯している。
 どうやら二山は陽川に執着があるらしく、乱暴に陽川を扱っているように見えるが、実のところ様々な愛撫を与え、陽川がちゃんと気持ちよくなるように仕向けていることに気付く。
 髪を掴んだり、殴ったりしていたのは、他の不良たちであり、藤沢でさえ暴力は振るってはいなかった。
 二山は陽川に執着があるから抱いている。
 だがそれを見ているだけの藤沢は何なのか。
 急に不良たちは自分たちの仲間である藤沢が何者なのか分からなくなった。
「どうしたんですか、古田さん?」
 古田は、自分が巻き込んでしまったと思っていたが、実は巻き込まれただけなのかもしれないと思いだした。このレイプが明るみにでれば、古田が主犯となるだろう。
 だって最初にいちゃもんを付け、陽川を不良グループに渡したのは、誰がどう見ても古田だ。
「あ、お、俺は帰る」
 古田は自分の状況が悪いことに気付いて、そそくさと逃げた。他の不良たちも、古田が逃げるほどのマズイ状況なのだと悟り、何も言わずにその場から逃げ出す。
 さっきまで仲間だと思っていたが、一番発言が過激な藤沢が、一番怖いのだ。
 何をやるにしても藤沢が仲間を必要としたことはほとんどない。一人で何かを始め、誰かをいじめ、そして教師すら破滅させたことだってある。
 そんな藤沢が、陽川のことをいきなり持ち出してきたのが恐ろしい。
 小学校時代の仲間で、記憶障害が酷い人間にセックスを仕込み、ここまでにしておいて本人はそのレイプに荷担していない。
 もし陽川が被害届を出したら、終わるのは犯した人間だけだ。
 二山は覚悟があるだろうが、他の人間には覚悟はない。
 逃げる二人の不良仲間を見やってから、藤沢は陽川の方を向く。
 二山が何度も陽川を追い立て、潮まで吹かせている。
「陽川もこれで忘れることがないだろうね。何せ、記憶がこちら側にあるときだから」
 そう言うと、ぐったりしている陽川の顎を掴んで藤沢が言った。
「せっかく普通に暮らせたのに、油断するから。でもこれからは堂々と俺たちの仲間になるんだ。なあ、陽川くん」
「うっあっ……ん」
 陽川の意思とは無関係に、藤沢の思惑に乗せられることになるだろう。
 陽川は記憶が錯乱すると藤沢のところに毎回行き、藤沢はその間の陽川の記憶がないことに気付いてからは、二山を巻き込んで陽川を性奴隷に仕上げた。
 陽川は何の記憶もない時は普通の高校生だが、記憶が錯乱すると二山のペニスを喜んで咥えるような性癖になっていた。
 藤沢はそのすべてを録画し、コレクションにしている。
 その動画は、アングラサイトにて売り上げも上がっていて、藤沢が陽川に構うのはそのためだ。
 金になるのもあるが、藤沢が陽川を抱かないのは、かつて仲間だったという意識が邪魔をしているにすぎない。二山はそれを知っているので、藤沢の前で平然と陽川を優しく抱く。
 陽川の痴態を見て、いつか藤沢が陽川を抱いて、堕ちてくればいいと二山が思っていることなど、藤沢は知っている。
 だから陽川を抱かない。
 逃げた不良仲間は写真が撮られていることに気付いてない。だから脅せばいくらでも陽川を抱きに来るだろう。
 陽川は淫乱で、その才能がある。今日だって四人の男を手玉に取って見せたではないかと藤沢は思った。
「二度と逃がさないよ、陽川くん」
 一度は記憶を消して記憶を改ざん、二度目は記憶障害を起こしての徘徊、だが三度目はない。 
 藤沢の陽川への執着は、小学校時代から変わってはいない。

 陽川はやっと、自分がいじめられた友人の子のことを覚えているのに、自分から連絡すら取らなかったのか理解した。出来るわけがないのを無意識に察していたからだ。自分がいじめてしまったことだったと。
 記憶の改ざん。それが陽川の中で起こったことだったのだ。
 記憶を消してまで逃げたはずの藤沢たちに自分から無意識に戻っていたのだ。その記憶も水が流れてくるように、だんだんと思い出している。
 夢のようだが、本当に藤沢に言われて裸になり、二山に抱かれ続けた。それも中学の時からだ。もう五年は経っている。
 昨日の夜も藤沢の家に行っていて、二山に抱かれていた。だから急に突っ込まれてもアナルは二山を受け入れられたのだ。
 どんどん溢れてくる記憶は、今の状況を納得させるもので、陽川はそれを否定したくてもできなかった。
 きっと、これからも二山には抱かれるだろう。
 記憶が戻ったことで、藤沢はさっき言っていたように二度と逃がさないと言った。
 あの藤沢なら本当にそうするだろう。
 だから、逃げられないのだ。 

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