016-kinky

1

 出入りする相手のペニスに快楽を与えられる。それに久坂が目覚めたのは十五の時だ。
 ゲイであることを公言している親切な先輩に懐いていて、一緒に行動をしていた時だ。
 その先輩にレイプをされた。
 元から狙っていたのだと言われ、集団でレイプされ、初めてにして五Pや六Pを経験させられた。そのレイプは無理矢理ではあるが、レイプする相手を快楽に落とすことが目的とされ、久坂はそこでレイプという名の恐ろしいほどの快楽を教え込まれた。
 久坂は学校の行事に参加していると嘘をつかれ三日間、先輩たちに寮の部屋に監禁され、代わる代わる先輩の仲間に回された。だがその人たちはセックスに関してはプロと言っていいほどうまかった。
 久坂は、たった三日間の間で、乳首を指で撫でられるだけで達することができるほどの体になってしまった。
 先輩たちはそうして久坂を仕上げてしまうと、興味がなくなってしまい、誰も相手をしてくれなくなった。どんなに願っても、先輩たちは「もう面白みもない」といい、従順な久坂に興味を失っていて、誰も相手をしてくれなかった。
 その時、誰でもいいからと犯してほしいと願って縋った相手が大野(おおの)という同級生だった。 大野は中学から久坂と同じ学校に通っていたが同じクラスになったことはなかった。
 大野自体が無口な上、弓道という部活をしているので基本、帰宅部の久坂とはタイプも行動もすべて違う人間だった。
 だから選んだ。
 この行動に失敗しても大野は絶対に人に言いふらさないと踏んで。
「お願い、めちゃくちゃに犯して」
 視聴覚室の鍵を盗んで、複製をして、そこを確保して大野を呼び出した。
 大野は不思議に思いながらもやってきてくれた。だが久坂がそう言い出した時にはさすがに眉がゆがんだ。
 ふだんそこまで顔色を変える人間ではない。無表情に近い人間で彼が驚いたり、顔色を変えたりしているのを見たことはなかった。
 そんな大野が眉を顰める顔をしたということは失敗をしたということだ。
「あ……やっぱり……あの」
「どういうことだ。説明をしてもらおう」
 大野はそう言い出した。
 大野は久坂を席に座らせると、久坂の座っている机に腰をかけて上から睨み付け、話せと言ってきた。
「いいから理由を話せ」
 久坂はそうした事情を話すつもりは一切なかったが、そうしないと大野が納得しないのだろうと思い、先輩にされたレイプの話をした。
「三日間、ずっとセックスさせられた。最初はいやだったけど、だんだん気持ちよくなってきて、最後にはどうでもよくなってた……俺が従順になったら、先輩たちは飽きて、俺のことは見向きもしなくなった」
 そう久坂が話すと大野が言った。
「俺はその先輩とやらの代わりなのか?」
「……代わりというか、口が堅い人なら誰でもよかった……」
 そういう意味では先輩たちと変わりはないだろう。先輩たちは自分たちがやっていることが犯罪であることを認識しているからこそ、快楽をわざと与えて従順にさせていた。そしてそうする過程が楽しくなり、久坂のように完成した人間には興味がなくなる。
 もちろん久坂には先輩にレイプされたという事実だけがあるのだが、果たしてそれはレイプだったのかと疑われるほど、自分の体が変わり果てている結果、警察に何かを相談したり、教師に事実を訴えたりなんてことはできないと分かってしまい、先輩たちに対して何もできないままだ。
 親にだって口が裂けても言えないし、言ったところで恥になると言われ、黙っているように言われるだけで、せいぜい転校することしか残されていない。
 あがくだけ自分の立場が悪くなるのが分かっているから、先輩たちにレイプされた人たちは誰も口を開くことはないのだ。
 ゲイの先輩と仲良くしているというだけで、久坂はクラスでは浮いていた。だから知り合いという知り合いはほとんどいない。
 最初の何日かは先輩たちを恨んだが、その後の変化は自分でも驚くほどだった。
 誰でもいいから犯してほしいと願うようになり、オナニーも繰り返すほどだった。それで満足ができずに大野に縋ったくらいだ。
 大野とは口すら聞いたことはないが、それでも大野の口の堅さは有名だった。
 だから、もし失敗しても黙っていてくれると、そう計算が働いた。
「……誰でもねえ……」
 さすがにあきれたような声がして久坂はいたたまれなくなった。
 大野が駄目なら、他の誰かと考えていたけれど、その甘さを今はっきりと気づいた。
 確かに誰でもいいからと声をかけて回ったら、口が軽い人間の耳にも入るだろう。そうすれば高校にはいられなくなる。
「……ごめん……こんなこと言われても困るよね」
 久坂がそう言って立ち上がると、座っていた大野がすっと手を伸ばしてきて久坂の乳首を指ですっと撫でたのだ。
「っっあ!」
 急に人に触られたので、久坂はびくりと反応した。
 予想していなかった感覚が与えられたことで、何が起こったのか理解できなかったが、大野が怖い顔をして振り返った久坂の乳首を指でつねった。
 つねったままキュキュッと強くしたり弱くしたりとしてきて、久坂は自分から待っていたとばかりに大野に向かって胸を突き出した。
「あっんぁっいいっあぁっ」
 久坂の口からは嬌声(きょうせい)が漏れる。本当にそれが好きなのだという態度に、大野は納得したように久坂を抱き寄せた。
「本当に乳首が好きなんだな……調教されてなきゃ、普通感じないしな」
「んぁああぁっ……いいっ」
 どんどん胸を突き出してくる久坂を大野は抱き寄せて目の前に立たせると、クスリと笑って言った。
「……悪くないか」
 大野はそう言うと、久坂の乳首に唇を寄せて、乳首を吸い上げた。
「あああぁぁぁぁああっっ!!」
 片方で乳首をこね回しながら、片方音を立てて吸う。そうされるだけで久坂のペニスはすっかり立ち上がっていた。
「下、きつそうだな、脱げよ」
 そう言って乳首に噛みつくと、久坂はのけぞりながらもベルトを外してズボンを脱いだ。それに合わせて、大野が下着を半分ほど脱がせた。
 プルンと音がしそうなほど勢いよく久坂のペニスが跳ねて出てくる。
「乳首だけで射精できたら、お望み通り犯してやるよ」
 大野が舌で乳首を舐め取り、音を立てて吸ってやると、久坂の腰が触って欲しそうに揺らいでいる。ざらりとした舌が絶妙に乳首を攻めてきて、それに合わせるように乳首をこねる指が擦りあげる。
 それで限界だった。
「あっあっああぁあっっあっ――――――!!」
 乳首を引っ張られたとたん、久坂は一気に達した。
 前のめりで倒れ込みそうだった久坂を大野が受け止める。
 ぐったりとした久坂を抱き留めた大野は、そこでやっと久坂が嘘をついていないことを理解したようだった。
「本当に乳首だけで達けるんだな……お前、十分エロいよ」
 受け止めた久坂を机の上に仰向けに寝転がらせると、大野は達したばかりの久坂のペニスを手のひらで掴んだ。
「ひぃぃっっ! いったばっか……んぁあ」
 ゆっくりと撫でるように手で擦られて、ゾクゾクッと震える体が机の上で跳ねる。
「んふうっ……んぁあ……いいっいいっ……」
 転がり落ちそうな体を押さえて机にしがみつく久坂。息も乱れ、嬌声が口から漏れるばかりだ。
 ふだんの久坂のストイックな顔からは想像すらできないほどの蕩(とろ)けた顔が大野の目に入り、大野もふだんの冷静な自分を見失っているように興奮していた。
 爛々とした瞳が久坂に釘付けで、一心不乱に久坂のペニスをしごいている。
「……これがいいのか……話したこともない男にペニス触られてしごかれ、お前は達するのか?」
 そう言いながら大野はベトベトに精子がついている久坂のペニスを強く擦りつけた。
「あ゛っ!あ゛っ!あ゛っ!んんぁあ゛ぁあー……んっんん!!」
 喘いだと同時に久坂は二度目の射精を強制された。
 二度目だというのに、吐き出された精は大量で、久坂の腹や胸まで飛び散った。ペニスの先からは何度か、ビクビクッとペニスが震えるたびに射精でもしているかのように精子が止まらず出てくる始末だ。
「すごいな、潮吹きってやつかこれ」
 大野が感心したように、何度も精を吐き出させるようにして久坂のペニスをまるで乳でも搾るようにしごく。そのたびにピューッと精子が出て腹を汚した。
 するとその液体とは明らかに違う液体が、久坂のアナルからこぼれているのに大野が気づいた。
 それを触ると、粘りけのある液体であることが分かった。
「なるほど、犯してほしいと言うからには、準備はしたってわけか」
 どうやら大野がここに来る前に、久坂は自分のアナルでセックスするつもりで準備をしていたというわけだ。アナルは既に自分で拡張してきていて、中にはローションを仕込んである。
 大野は久坂の体を半分に折るように足を広げさせ、目の前にきたアナルを眺める。
「あ、……ん、や……」
 広げた足を自分でしっかりと持ってまでして、大野の指示に従う久坂であるが、さすがに眺められるとは思っていなかったのか、少し照れたように顔を背けた。
 大野はそのアナルに指を一本忍ばせた。
 滑っているアナルは抵抗なく指を飲み込み、アナルの入り口はしっかりとその指を咥えるように締め付けてくる。
「あぁぁあああっっ! あぁっ! いいっ!いいのっ!」
 かき回すように大野が指を突き入れ、深く入れた後、今度は二本の指をすぐさま突き入れてくる。内壁を擦りあげながら指で突かれて、久坂は飛んでいきそうなほどの快楽が脳天まで突き抜ける。
 待っていた。こうされるのを待っていた。
 そう言わんばかりに体が快楽に応じて震える。
 嬌声が口から漏れて、その口は閉ざすことを忘れる。
「んぁ!っああぁっ!! あっあっあっ!」
「犯してほしいなら、慣れてない俺のためにも準備はしてきてるだろ?」
 大野が久坂にそう言うと、久坂は何度も頷いた。
 大野に犯してもらうために大野に着けてもらうローションもコンドームもすべて持ってきた。おもちゃも一応入っているが、大野が好んで使ってくるとは限らない。
 久坂は大野に袋がある場所を指さし、それを知らせた。
 大野は一旦久坂に触るのを中断して、荷物を持ってくると中に入っていたローションを取り出した。久坂は足を広げたまま待ち、その久坂の尻に大野はローションをぶちまけた。
「んふっ!」
 ひんやりとした感覚が垂れてきてびくりと体を震わせたが、久坂はそれすらも快楽に続くように悶えて見せた。
 垂らされたローションを大野が手のひらを使って広げ、久坂のペニスにまず塗りたくった。
「あ゛っお゛っ!」
 撫でつけるようにペニスを擦られて、久坂の腰が上下に動き回る。アナルは収縮している。それを楽しむように大野は久坂のペニスを乱暴に擦った。
「んっあっあっあぁぁああっ!」
 乱暴にされたそれでも久坂は体全体が震え、快楽に溺れていた。精子は勢いよく吐き出され、擦るたびに何度もピュッと精を吐き出してくる。
 ドロリとした精がペニスの先から垂れたままで、ペニスがぴくんと何度も跳ねている。絶頂が続いていて、久坂はオーガズムを味わっているようだった。
 大野は自分のペニスからも先走りが既に大量に垂れていることに気づいた。
 陵辱されて出来上がった久坂の痴態は、大野の性欲を十分に刺激していたようだ。
 興味本位から始まったことだったが、今では久坂の体に完全に溺れようとしていた。
 待ちきれず大野はローションを自分のペニスに塗りたくり、生でそのまま久坂のアナルに自分のペニスを突き刺した。
「――――――っ!!」
 大きなペニスが一気に久坂を突き刺す。その衝撃は久坂の脳天まで快楽として伝わり、あり得ないほどの絶頂が久坂を襲った。
「……っおっきいちんちん、おっきいぃっんぁああっ!」
 どうやら大野のペニスは気に入ったようで、自ら腰を揺すってさらにはアナルの内壁はペニスを包み込んだ。
 突っ込んだ大野もその急激な締め付けに顔をしかめたが、強引に腰を使って引き抜き、また一気に突き入れた。
 久坂の口からは突き入れるたびに嬌声が漏れ、体全体で大野のペニスを味わっているように全神経をとがらせている。
「ちょうだい……もっとおおきぃのおちんちん、ちょうだいっ!」
 飢えていた。どうしようもなく飢えていた。
 ペニスがアナルに入り出て行く感覚を教え込まれ、それが快楽に変わることを知ってから、毎日それを求めた。たった三日でそれは終わってしまったが、またそれを味わうことができて嬉しかった。
 自分でオナニーをする時に使っているバイブやディルドなど、比べものにはならない。暖かなペニスが内壁を押し入って入ってきて、引きずり出すように出て行く力強さは、人間相手でないと味わえない。

2

 パンパンと音を立てて力強く突き入れられると、久坂の体はガクガクと何度も震えた。絶頂を何度も味わったのだ。
「あぁっぁああああ゛あ゛あ゛っ! ――――――ッ!!」
 悲鳴に似た嬌声や絶頂する時には声さえ出ないほどの快楽に久坂は喜んで体を開いた。何度も待ち望んで準備をしてきた。だから傷が付くなんてことはない。大野は遠慮なく突き入れてくれかき回してくれる。それが久坂が望んだことである。
 大野は久坂が望んだ通り、無茶苦茶に責め立ててくれた。
 ローションをつけた大野のペニスはスムーズに出し入れを行えていたが、久坂のアナルはそのローションがこすれてできる泡まみれになっていく。出入りする時の音がグチュグチュと液体が擦れて鳴る音に変わり、激しい音を立てている。
 大野はペニスをアナルから出してはそのまま突き入れるということまでやり、奥まで突き入れた時は射精をしていた。
「うぐっ――――――っ!」
 その射精は長く、突き入れたまま奥まで届くように深く吐き出されるのだが、大野のペニスは尽きることを知らないのか、勃起は収まらず、そのままオーガズムで精子を何度も吐き出しているのに、挿入行動をやめようとはしない。
 さすがに運動部ということだけはあり、体力や性欲は一般学生よりは強い。
 壊れた機械のように腰を振り続け、久坂を押さえ込んで種付けを繰り返す。
「んぁっああぁ……んぁ、きもちいぃ……んぁあ゛あ゛あ゛っ!」
 滑りが鈍くなると大野がローションを足していき、ますます高速になっていく腰の動きに久坂の体はただただ悶えるだけだった。
 明るかった室内は、ほとんど夕闇さえも消えてしまい、暗くなったが、それでも目が慣れてしまえば暗闇でも構わなかった。
 音だけが耳の中にはっきりと聞こえ、それが目隠しでもされているような感覚に陥った。その音と感覚だけの時間は、ただひたすら快楽を追い求めることだけに集中ができた。
 やっと体力が尽きてしまったかのか、大野が久坂のアナルからペニスを抜いた。
 その瞬間、たまっていた精子と内壁の液体と混ざったものが一気に久坂のアナルから吹き出して、白色の液体を放射した。
 それは大きく吐き出した後も、アナルの穴から垂れ続け、ボタボタと音を立てて床にまき散らされる。
「んあぁ――――――っんぁ――――――」
 大量の精子が出て行く感覚で、久坂はドライオーガズムを迎え、テーブルの上でびくびくと体を痙攣させて、身動きをしなくなった。
 荒い息を吐きながらであったが、失神したのだった。

 次に久坂が目を覚ました時には、大野はいないだろうと思っていた。
 久坂ははっと目を覚ますと、その場は暗く、まだ視聴覚室であることが分かった。
 久坂がゆっくりと体を起こすと、窓側で誰かが座っているのに気づいた。
「……大野?」
 窓側で大野は窓を開けて外を見ていたらしく、久坂が声をかけるとハッとしたように久坂の方を向いた。そして窓を閉め、カーテンを閉めると側に寄ってきた。
「起きたか。体大丈夫か?」
 そう言われて久坂は体中が筋肉痛のような疲労をおっていることに気づく。常に強張ったり痙攣したりしていた体は疲弊しているのはいつものことだ。
「大丈夫……だるいだけだし」
 そう言って久坂はハッとする。
 自分の体は自分の精子や涎まみれだったはずだ。それなのに体が綺麗になっていた。寝ていたテーブルもさっき使ったところではないようだった。上着だけ着せられた状態で、寝かされていたらしい。
 どうやらあの惨劇の後始末を大野はしてくれた。てっきりあのまま放置されて終わるのだろうと覚悟していただけに、久坂は少しだけ予想と違うので驚いた。
「片付けて、くれたんだ」
 久坂がそう言うと、大野は。
「まあ、俺も原因だしな。そのままってわけにはいかないだろ。見つかったらもう視聴覚室を使えなくなる」
 そう言うのだ。
 確かに見つかれば教師が犯人捜しをするだろうし、視聴覚室も徹底して監視されるだろうから、隠し持っている鍵も使えなくなるだろう。そして見つかれば停学、もしくは退学だ。そこまでの覚悟は久坂にもなかった。
「……ごめん、こんなことに巻き込んで」
 久坂はやっと落ち着いたかのように大野に謝った。
 元はといえば自分の性欲を抑えきれなかったことが原因だ。これは二人で視聴覚室にいるところを見つかったら大問題だ。
「気にするな。提案に乗ったのは俺だ」
 大野はそう答え、この責任は久坂にあるわけではないと言う。
「思考が落ち着いたところで聞きたい。お前は何故、俺を選んだ?」
 その言葉に行為の前に発した言葉が久坂の中に蘇る。
 本気で誰でもよかったと口にしたことは誤りだったことに気づいたのだ。だが、ああ言った手前、今更本音を口にしたところで大野が信じるとは思えない。
「……誰でも」
 そう言おうとしたのを大野が止める。
「誰でもいいなら、わざわざ俺である必要もなかった。お前のクラスにはホモを食うのが好きなヤツがいただろう? そいつで片は付いたはずだ。全く見ず知らずの俺を選んだ理由が口が堅そうだと言ったが、俺の口が堅いなんてただの噂で、それを信じたお前の印象でしかない」
 確かにそうだった。
 誰でもいいなら大野である必要はなかった。
 ホモを好きな男も何人もいたし、それを公言している人もいる。
 それなのに何の接点もないクラスメイトですらない大野を選んだ理由は、別にある。
「……で、できれば、好みの人に……その……メチャクチャにしてほしかった」
 たくさんいる中で、好みだったのは大野だけだった。
 だからノンケでも何でも構わないから、拒否されたとしても仕方ないけれど、それでも大野がよかったのだ。
「否定されるのも俺でよかったってこと?」
「……うん、そうすれば……諦めも付くって思って」
 性欲は抑えきれない。だから好きな人に拒否されて軽蔑されるまでいかないと、きっと押さえることなどできなかっただろう。
「……くそ、結局はお前の思い通りだったわけだ。俺もまだまだだな」
 そう大野が悔しそうに言うので久坂は首をかしげた。
「俺もお前には興味があったってことだ。噂も知ってたし、先輩にどうたらという話も噂で、別れたって聞いてた。だから呼び出された時はもしかしてって期待はした」
 そう大野は言う。 
「……期待?」
「お前みたいなストイックな風に見えるやつが、自分の下で悶えてくれるのを想像していた。ただ、先輩の云々は想像外だったからさすがに腹が立っただけだ」
 大野の顔ははっきり見えないが、きっと頬を染めているだろうと想像ができた。
「それって……告白みたいに聞こえるんだけど?」
「そうだ。俺はお前が好きなんだ」
 大野がそう言い切ったので、久坂は信じられずに目を見開いた。
 体温が上がってきたのか、顔が熱い。更に頭がくらくらとしてきて倒れそうだった。
「え……えっ」
「だから、もう他の人間に懐くなよ」
 そう大野が言い、久坂の頬にキスをした。
 それに久坂は真っ赤な顔をして飛び跳ねた。
 その後、着替えた久坂を連れて学校を裏門から抜けだし、二人は駅で別れた。
 久坂は始終真っ赤な顔をしていたが、大野が掴んだ手を振り払うことはせずに大人しく携帯の番号やメールアドレスを教え、見送られて電車に乗って帰っていった。




 大野はそれを見送ってから、自分が乗る電車を待つ間に電話をかけた。
「もしもし、俺だけど」
 そう言うと相手は聞いた。
『どうだった?』
「いい仕上がりだったよ。好みに仕上げてくれて助かった」
『バージンは面倒って変わってんなぁ。まぁそのおかげで俺たちは楽しめて、お金もらってラッキーだったけどな』
「残りは振り込んでおいたから、明日には受け取れると思う」
『オッケー。これで俺たちの関係は終わり。もう関わり合いはないってことで』
「分かっている。連絡手段はすべて処分する」
『じゃーな』
 そう向こうが言うと電話は切れた。
 大野はそれを確認してから連絡先を登録してあるアドレスを開く。先輩と書いてあるページを開いて編集を押し、削除を選んだ。


 大野と先輩は中学時代に同じ塾に通っていて顔見知りだった。その先輩がホモで慕って寄ってくる後輩などを食っている話は有名だった。
 しかし女子とは違い、男子で被害にあっても訴え出る人間は誰もいなかった。自分から先輩の誘いに乗り、ホモだと分かっている相手の家にのこのこついていったら何をされても文句は言えない。更に受験がかかっている今こそ、そんなことで成績を落とすわけにはいかない。更に先輩たちは一度構うと二度と同じことはしないため、泣き寝入りが一番被害がなかった。
 そんな先輩の仲間に一時期大野はなっていた。
 だが高校に入ると付き合いは消えていた。
 お互い、大学へ行くために選んだクラスが違ったのもあり、交流は一切消えたのだが、そこに先輩から話を持ち込んできた。 
 先輩は調教を楽しみ、その後の始末を大野に頼んだのだ。
「今度のやつ、ちょっと適正ありでな。お前好みに仕上げるから、後頼むわ」
 というのが先輩の言葉だった。そして、その相手を聞いて大野は大いに興味を持った。
 久坂の話は隣のクラスでも耳には入らない。それくらいに付き合いがなかった。そこから久坂を眺めて調べて、調教次第では快楽で何でもする奴隷になるだろうと分かった。
 そこで大野は、自分の好みに仕上げてくれるように再度依頼をした。
 大野が欲しかったのは、自分のために勝手に服を脱いで抱いてくれと言い出すような淫乱な男。乳首を弄られて射精するような敏感な男。オーガズムを迎えてもどんな強いセックスにも耐えるような快楽を追い求めるタイプ。この三つが条件だった。
 なかなかに趣味に沿ってる依頼に先輩はため息を吐いて言った。
「可哀想に。お前に相談するんじゃなかったなぁ」
 先輩は大野の性欲が先輩たちよりもたちが悪いことを知っていた。
 優しく抱きながらも、セックスしか考えられないように仕上げるのが先輩たちだったが、あくまで個人として意思を持って、その後の人生をホモとして暮らしていけるようにはしてやってはいた。
 だが、大野は完全に個人の意思を壊し、性奴隷にしてしまうのに、本人にそれを気づかせないような仕上げをする。いわゆる嫌だ駄目だと言うのに腰を振って喜んでしまう淫乱にしてしまい、放っておくと誰にでも体を簡単に開くようにする。
 実際、久坂も「誰でもよかった」と思うほどになっていた。だが大野はそれを上手く誘導して久坂の目に入るように生活を行い、久坂が大野を選ぶように行動をした。それくらいに大野はたちが悪いことをする。
 先輩はそれを知っていたため、大野と距離を取ることにしたのだ。


 大野は今度は恋愛を楽しむように、セックスは仕上げられた久坂との日々を楽しみたいと思い始めていた。
 久坂には関心がある。だから全方向に久坂の逃げる道を塞ぎ、大野に縋ってくるように仕上げていく。久坂は今、恋愛になると思って喜んでいる。まさか奴隷として仕上げられているとは思いもしないだろう。
 だが、その奴隷を大野はちゃんと愛している。
 愛して愛して、愛し尽くす。
 ただその過程で、壊れる人間が出てくるだけだ。
 大野は過去に何人も同じことをして、相手を自殺させている。
 三度目の自殺を知った先輩は、さすがについていけなくなって距離を取っていた。だが、それでも大野がそれを悲しんでいることは知っていて、久坂の性格上の従順なところが大野に向いていると思ったのだろう。
 しかしそれでも先輩は可哀想だと口にしただろう。薦めたものの、やっぱり後悔することだってあるからだ。
 先輩は今度こそ大野と縁を切るつもりで、久坂を生け贄にした。
 先輩の周りで自殺者が出続けることには警察も不審がっているのもあった。
 いじめを疑っている教師もいるため、派手な行動がとれなかった。
 大野はそんな先輩の逃げ腰につけ込んで久坂を仕込んでもらった。このあたりは目の当たりにしていただけに先輩を信用しての依頼だった。久坂はその通りに仕上げられ、三つの条件をクリアした。
「かわいいかわいい、久坂。絶対に離さないよ」
 そう言いながら、大野は携帯に入れたムービーを再生する。音が漏れないようにイヤホンをさしてその動画を見る。
 久坂が大野のペニスで喘いでいる姿が映し出される。
 大野は久坂が視聴覚室を使うことを知っていた。そこで隠しカメラを設置し、あらゆる角度から動画を撮影した。暗視カメラも使ったほどだ。
 久坂が気絶した後にそれらを回収した。もちろん、まだ装置は視聴覚室に残っているが、あれは元々先輩たちが使っていた道具だ。あとは先輩たちが片付けるだろう。
 その動画を見ながら電車に乗り、誰にも見られないように最後尾の車両に乗り動画を見続けて家に帰った。
 すべての動画を見終わるのは明け方になるだろう。それでも大野はそれが楽しみでたまらないと思いながら、久坂に甘い言葉と一緒におやすみのメールを打った。

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