014-執着の行方

 あれは夕暮れだったか。
 酷く暑かった日の夕暮れだったと思う。
 太陽はすでに山と接触したように半分ほど陰っていたと思う。
 どうしてこうも曖昧なのかは、その時、宮里に起こっていた出来事のせいだ。
 その日はいつもと変わりないはずだった。部活で美術を専攻していた。とはいえ、美術部員はほぼ幽霊部員でまともな活動をしているのは宮里くらいだった。担任の教師は、特段美術に詳しいわけでもなく、いくつもの部を兼任していた。
 その中で宮里は作品を世に出すことなく、ただ黙々と一人で作品に打ち込んでいた。この学校は地域に住む学生が仕方なく通っているような田舎にある学校だ。
 将来何になりたいとかそうしたものがないものが、高校くらいは出ておこうとして通うようなところとでも言おうか、田舎にはよくある事情だ。
 宮里の家も一般的な自営業で、地元から離れたところに通うほどの経済的余裕がなかった。まして絵を習うために専門学校へ行くなどという選択もない。仕方なくこの学校を出て、そして就職をするという道を選ぶだろうと思っていた。
 その日、宮里は屋上から町を眺め、絵を描くために屋上へ出入りをする許可をもらっていた。基本的に学校の屋上には業者くらいしか入ることができないのだが、緩い感覚の持ち主だった担任から簡単に鍵を借りられた。
 そうして屋上へ出て、絵を描いていると夕方近くになり絵を見るにはつらい時間になったので宮里は道具を片付けて屋上から出ようとした。
 するとそのドアが独りでに開いた。
「お、なんだ人いたんだ」
 開けて出てきた人間が一人、驚いたように宮里を見た。
「珍しく開いているなと思ったら、なんだよ」
 その後ろからほかにも二三人、生徒が上がってくる。
「あの、もう鍵かけるから」
 宮里がそう言って次々に出てくる人たちに言う。
「お、宮里じゃん」
 宮里の言葉に気づいた一人が、クラスメイトだった。他の生徒は皆知らない生徒ばかりだ。「……岡崎君」
 宮里は少し気まずそうにした。
 岡崎は、いわゆる不良と言われる人間に属する。教師からは髪型や服装を直せと毎回注意を受けるも本人は意に介したようではなく、平然と耳にピアスどころか舌にまでピアスをあけてしまうような人間だ。
 教師が強く退学まで持って行けないのは、ここが田舎だからだ。
 田舎の金持ちの息子というのは、都会よりもより厄介だ。すべてが村や町で収まってしまう世界に教師も例外ではない。長いものに巻かれた方が長く教師でいられる。教育委員会も牛耳れるどこかその親の親戚が委員会会員だったりする狭い世界に置いて、権力を持つ金持ちには従うのが常だ。
 面倒ごとになると学校の存続どころが、教師自体が村八分にされ精神を病んでやめていくほどなのだ。
 岡崎は町長の息子で、母親が教育委員会会長である。
 町の人たちはそれに不満を持ってはいるが、口に出してまで批難はできない。口に出したが最後、町にはいられなくなる。泣き寝入りするのが昔から変わらないことだ。
 そんな岡崎はなぜか昔から宮里に構ってくる。
 隣の席になって話しかけてきたり、宿題を勝手に借りていったり、修学旅行で同じ班にしたりと、とにかく岡崎のテリトリーに入れられていた。
 宮里は一応は断ったりしていたのだが、そのうち周りが空気を読むようになり、宮里は岡崎以外から話しかけられることはなくなっていた。
 だからと言って宮里が岡崎と仲良くなるということはなかった。
 そもそも派手な岡崎と、地味な宮里では共通点が何もなかった。
 ゲームやバイクと趣味が多彩な岡崎に対して、宮里は絵を描くことだけが楽しみの人間だ。 親の繋がりもなく、親の仕事の関係もない。そんな関係なのに、どういうわけか岡崎は昔から宮里に笑顔を向ける。
 この時も岡崎は宮里に笑顔を向けた。
「ちょっといいじゃん、屋上初めてだし」
「あの……困る……」
「何、ここで絵を描いてたんだ?」
「あ、うん」
 宮里の言葉を無視して、岡崎は笑顔で話しかけてくる。
 基本、誰に対してもぶっきらぼうな態度でいることが多いのだが、宮里にだけ向ける笑顔の意味は、まだ分からない。
「お、岡崎、ついにやるのか!」
「手伝ってやるぞ」
 岡崎が屋上から町を見て、その隣に宮里が立っていると横に来た岡崎の友達三人が、宮里の方や腕を掴んだ。
「え、何?」
 急に体を拘束され、宮里は戸惑った。
 一人は完全に後ろから体を押さえ込み、両腕も二人に双方から捕まれた。
「お、おい」
 岡崎が焦ったような顔をしていたが、それでも周りは笑っている。
「この際だしいいじゃん」
「今更だよ」
「ほーら、岡崎もな。宮里ちゃんのこと好きじゃん」
 そういうと、一人が宮里のネクタイを外し、ワイシャツのボタンを外していく。
「え……なにっ?」
 なんで服を脱がされるのか分からなくて、宮里は混乱して暴れるも、体の大きな人に完全に体を固定されていて動けない。
「ほらーかわいい乳首だ」
 ワイシャツを開けさせ、インナーをたくし上げて肌を露わにされた。
「やだっ離せ!」
 じたばたとしていたが、今度はもう一人がズボンのベルトを外し、一気に下着までも一緒に宮里のズボンを下ろした。
「やっ……んぐっ」
 叫んで誰かを呼ぼうとしたが、口を咄嗟に塞がれた。同時に鼻まで塞がれて息ができなくなる。
「んぐっんん!」
 必死に暴れても息が出来なければ意識が遠くなる。
「おい、窒息するぞ」
 岡崎が焦ったようにそう言って、塞いできた手が退いた。
「……はぁああっ」
 急激に息が入ってきて咳き込みそうになったが、全身が疲れ切っていてぐったりと体が弛緩した。さすがに人間の重さには耐えられないのか、抱きかかえたままの男がその場に宮里と一緒に座り込んだ。だが拘束は解いてくれなかった。
 するとその場に座り込んだ宮里に向かって、岡崎が宮里の顔中にキスをしてきた。
「ああ、宮里……」
 我慢しきれなかったというように岡崎が宮里の顔中にキスをした後、唇にもキスをした。緩んだ口の中に岡崎の舌が入り込んできて、宮里は不快感に顔をしかめていた。
 そこでやっと、宮里は悟った。
 自分は、岡崎にそういう視線で見られてきていたのだと。
 好意はいわゆる性的衝動のものだったのだ。だからなのか納得ができた。
 そしてこの展開にどうあがいても逃げられないことや、逃げたとしても無駄なことまで悟った。
「キスなっが」
「岡崎ずっと我慢していたしな」
「しっかし、宮里はかわいいな」
「岡崎も宮里とやるために、わざわざ男とのやり方覚えてきたもんな」
 そう言っている男たちも、宮里の体を触っていた。
 乳首を指で弾いてみたり、直接局部には触れないが内股を撫でたりと、好き放題していた。 岡崎はキスをいつまでも繰り返し、その口からは涎が零れ、滴り落ちていたが、それでも岡崎はキスをやめない。
「あきらめたのか、大人しいな」
 宮里が諦めた態度でいることを不思議がっているようだったが、一人が言った。
「そりゃ、岡崎から逃げられないことくらい、俺でも分かるよ」
 そう言いながらも彼らは笑っていた。
 こうやって宮里を押さえつけていることさえ、彼らからすれば岡崎の機嫌取りだ。宮里には申し訳ないが被害者になってもらって岡崎の機嫌を損ねたくない。
 岡崎の親の関係者である彼らの親のためにも、ここは宮里に諦めてもらう方が都合がよかった。
 宮里に満足するほどキスをした岡崎は、そのまま唇から首筋とキスを落としていく。
 宮里にとっては強姦をされているはずなのに、いやに優しい扱いをされて戸惑った。
 チュッチュッと音を立てて肌を吸われて、キスマークを残していく岡崎を宮里はただ眺めていた。乳首を吸われてくすぐったい感覚になり、体をひねっても押さえ込んでいる腕が強く締め付けてくるだけで逃げられない。
「ほら、足広げて」
 抵抗なく開く宮里の足を、二人の生徒が広げてそこに持ち込んでいた何かを垂らした。
「お前、持ってきていたのか」
「そりゃね。宮里がいること分かっていたし」
 どうやらずっと宮里が完全に一人になることを狙っていたらしい。普段は運動場や部活で人がいるところを選んでいた。内心警戒していたのだろう。
 だが、屋上から町を見たいと思った好奇心が、それをすべて台無しにした。
 ぬるりとしたモノが肌を這い、ペニスやお尻の割れ目まで流れていく。
 コンドームをした指が、アナルの中へと入っていく。
「う……ぐ」
 排泄するための場所を無理矢理こじ開けられて、口からうめき声が漏れた。一本の指でも痛く違和感が酷かった。だが、急激に入ってきた指を受け入れられたのは、さっき垂らしていたローションのせいだろう。滑りが馴染んでくると、指が高速で出入りしていく。
「ん……う……あぁ」
 前立腺を擦られると、たとえその気がなくても体やペニスが反応するのが男だ。
 だらりとしていたペニスがすっかり立ち上がり、先走りを垂らし始めている。耐えられない快楽が突然、宮里を襲ってきて体が仰け反るのを押さえ込まれる。
「宮里ちゃん、気持ちよくなってきちゃったか」
「いいね、なんか色っぽい」
 岡崎が宮里のアナルに指を入れ、中を擦っている。そして余った手が宮里のペニスを掴みしごき始める。
「んぁあっはっ」
 息が漏れ、甘い声が出た。
「ひゃぁあっあっ……んぁ」
 一度漏れた声はそれ以降、抑えきれずに出てしまう。
 男たちが乳首を弄り、岡崎が前も後ろも指で攻めてくる。
「すげぇ、宮里ちゃん……」
「まぁ、あれクスリ入ってるらしいから効いてきたんじゃない?」
「マジかよお前」
「叔父さんにもらったやつだから、半信半疑だったけど、セックスに使うとよがりまくるらしいんだ」
「やばくね?」
「大丈夫だって、一二時間くらいで抜けるんだってよ」
 そう言われて宮里は、これはすべてクスリのせいだと思うことにした。
 アナルを弄られて気持ちがよくて、射精をしてしまうのもすべてそれのせいだと気が楽になったら、自然と快楽に身を任せることが出来てしまった。
「あぁあああっ!」
 宮里は完全に達して、精子を吐き出した。それがペタリと床に落ちた。
「いった……」
「すげぇ」
 ぐたりとした宮里の体を押さえ込んでいる男が驚きながらも拘束を解いた。
 屋上の床に寝転がったままの宮里は、体を震わせて快楽の余韻を味わっていた。
「我慢できない……もういいよな」
 岡崎がゴクリと喉を鳴らし、宮里の細い足を掴んで広げ、その間に入り込み腰を高く上げてアナルに勃起しているペニスを当てた。
 穴の周りについている滑りをペニスに擦りつけ、そしてアナルにペニスを突き入れた。
「あぁぁああ゛っ」
 メリッと音がしたように肉が開かれ、太い異物がアナルに入り込んできた。それが耐えられないほどの痛みであるはずなのに、あり得ないほどの快楽に変わって襲ってきた。
「すげぇ……宮里……」
「んぁあっあっあ゛あ゛」
 跳ね上がる体を岡崎が押さえつけ、高くした足を折り曲げて胸までつけてきた。体を半分に折られた形になったまま、宮里は岡崎に犯された。
 ペニスは中に入ったまま、出口まで一気に引き抜かれ、そして突き入れられる。それがあり得ないほどの快楽になり、宮里の体を震わせた。
 ローションの滑りを借りたため、岡崎の腰使いもダイレクトに宮里に伝わる。それを感じて、宮里は嬌声を上げた。
 完全に広がったアナルは、岡崎を受け入れ、奥の奥まで突いてもらっている。
「あぁあ゛っあ゛っあ゛っんぁあっああっ!」
 突かれるたびに宮里のペニスから精液が漏れる。完全にオーガズムを迎えている体は、宮里の意思などなくしてしまっていた。獣のように襲いかかる岡崎は、クスリの効果が出てきたらしく、涎を垂らしながらも射精をしながらでも宮里のアナルを犯し続けた。
「いくっいくっいってるっのっ!」
 ビシャリと奥で岡崎の精子を叩きつけられ、それを受けながら達した宮里だったが、それでも終わりがない快楽にとうとう泣き出した。
「あっあったったすけっ……て」
 何度も達して精子を吐き出し、逃げ出す気力もない宮里がそう男たちに言うのだが、男たちはこう返していた。
「油断するから」
「油断したお前が悪い」
 そう言うのだ。
 差し出した手がゆっくりと床に落ちて、今度は快楽に耐えるために握りしめられた。
 屋上なんてこなければよかったのだ。
 そもそも教師も共犯なのだろう。鍵を渡し、宮里を一人にさせる。そういう計画だったのだろう。
 これだけ大きな声を出しているのに、誰も様子を見に来ない。
 きっと聞こえた人たちは知っているのだ。
 屋上で何が行われているのか、そして誰が何をしているのか。
「宮里……宮里……」
 狂ったように腰を使い、射精をし尽くした岡崎が、宮里の顔を掴んでキスをしてくる。
 キスをしたままでアナルの奥で最後の射精をされた。
「んふっ……ふうぅうっ」
 その快楽が酷く感じすぎたため、宮里はそのまま気を失った。

「宮里、堕ちたのか」
 ぐったりとして動かない宮里を見た男が言った。
「だろうね、クスリ強かったんじゃないかな?」
 岡崎は同じクスリを浴びる形になったのだが、効き目は先に抜けていた。
 これまでに使ってきたことがあり、慣れていたのもあるのだろう。
 宮里を犯すことを決めていた岡崎は、様々なものを持ち込んでいた。とりあえずの着替えと、体を綺麗にするものだ。
 テキパキとそれをこなしていく岡崎を見ながら男二人が先に帰っていった。
 残った男が岡崎に言われる。
「お前、クスリわざわざ手に入れてきただろう。なんでだ?」
 別に普通にレイプでよかったのにというような口調に、男は言った。
「だって可哀想じゃん。無理矢理の快楽でしたって方が悲痛な顔見なくて済む」
「何、お前も宮里のこと好きなのか?」
 そんな話は聞いたことはないし、聞けないとばかりの岡崎の言葉に男は首を横に振る。
「そういう好きじゃねぇよ。ただ、気に入っていただけだ」
 どんなに岡崎にいいように好意を向けられても、それを不審に思って行動を続けていた宮里だ。まさかこんな結末になるとは思わなかっただろうし、そうなるように仕向けるまでの宮里はそれなりに警戒をしていたほどだった。
「それって好きってことじゃん」
「好きと言っても何の解決にもならねぇだろ」
 男は岡崎にそう言う。それを聞いた岡崎はなるほどと頷く。
「確かに意味はないし解決もしそうにないね」
 この町にいる限り、岡崎の手から宮里が逃れる手段はないと言っていい。
 そして手を出した以上、岡崎は宮里を手放さない。
 その証拠に、カチャッと音がして、岡崎が宮里の腕に腕輪をつけていた。両手につけて鎖を繋いだ。
「そのまま屋敷に監禁するのか」
「宮里の親とは話がついている。ちょっと積んでやったら、借金返済に使ってもあまりあるからね、すぐに書類出して捨てて出て行った。今頃家はもぬけの殻だ」
 宮里に手を出すと言うことは、警察に駆け込まれる覚悟でなければならなかったが、少し宮里の親を調べたら、自営業の家電店が火の車で、借金もかさんでいた。
 どう考えても宮里の将来は親の借金地獄で生きていくことになっていただろう。
 そこで決意はできた。
 養子縁組を親にさせ、宮里を岡崎の家に入れた。いわゆるよくあるゲイの人間が結婚の代わりにする縁組みだ。宮里と兄弟になってしまうが、その方が今後の都合がよかった。何があっても縁は切れない。
「やっぱり可哀想に、起きた時にはさらに地獄だ」
 男がそう言う。けれど男は宮里を助けるほどの気合いはない。男もまた岡崎の家の力を恐れるあまり、何も出来ないことも知っている。身の程というものは知っておくべきだ。
 いつ飽きるかもわからない心の問題を金を使って解決したとして、それがいつまで続くのかは分からない。案外手を出さずに眺めているだけの方がよかったことだってあるはずだ。
 だが手に入れなければ気が済まないまま、もう十年以上が経っていた。
 すべての好みの基準が宮里でできている。それが覆ることなんてない。
 この町を出られないのは宮里ではない。岡崎の方だ。
 父親の事業、建設会社を継ぐことが決まっているからこそ、この町から逃げられない。いつか自由に飛び立ってしまう宮里を眺めているだけでは不満だった。
 堕ちるなら一緒の地獄がいいと。岡崎は願ってしまった。

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