001-4人形
次の日から、桐原は僕を完全に避けるようになった。あんなことをしたからではなく、また五条に証拠を握られたんだと思う。
桐原は知らなかったんだろう。僕の全ては五条に監視されているということを。五条は僕が何処にいて何をしているのか、そんなことさえ知っている。
家に監視カメラがあるからではなく、僕の行く先々に誰かが付いてきているのだろう。
部屋で証拠を握られたことに気づいていたくせに、桐原はまだ監視カメラがあることを危惧してなかったのには、さすがの僕も呆れた。
桧川は、廊下で僕を見かけると、何か言いたそうな顔をしていた。けれど僕はそれを無視し続けた。
桧川も僕が無視し続ける限り、無理に話しかけようとは思っていないらしい。
その方がいい。
僕を可哀想だと思って、僕が何も出来ないと思って、哀れに思って、それでも何も出来ないことに気づけばいい。
僕はいつも通りの一人の生活に戻った。
いつもの、五条の用意する相手をする生活。
「んぁ……ぁあん」
「ああいいよ……零くん、いいよ」
男が僕の中に入ってきて、僕の中を掻き回す。
「んぁあっあっあっんぁあ――――――」
後ろから性器を突き立てられて、さらに乳首まで両方こね回されて、僕は全身を振って悶えた。
「零くん、零くん……うう……はぁはぁ……」
男が達った。孔の中に熱いモノが沢山吐き出されて僕はそれを受け止めながら体を震わせた。
「よかったよ、よかったよ零くん」
男が僕を抱きしめて何度も同じことを繰り返す。
そうしているとまた男が復活して、僕の中を突き回してきた。
「あぁあっ……んぁあっあっあっ」
苦しい。男は勝手に達って勝手に復活して、これで何度目だろうか。その間、僕は一度も達ってない。 達かされないまま、抜かずの5回目くらいになるとさすがにお腹の中がどうにかなりそうだったし、苦しくて仕方なかった。
「うぅぅ……っんぁ……はぁはぁはぁ……んっんっんんっ」
「零くん、零くん、零くん」
男は壊れたCDの用に僕の名前を呼び続けた。
男がまた達すると僕はあまりの不快さに叫んでいた。
「もう抜いてっもうやだっ!」
僕が涙を流しながらそう訴えると、男は慌てたように僕から離れた。やっと孔から男の性器が抜かれると、精液が孔からまるで尿でも出たかのようにドロドロと溢れ出た。
「んあぁ――――――ん」
やっと不快感がなくなると、僕はゆっくりと目を瞑って動かなかった。さすがに一時間以上も抜かずに達かされずにやられたら、体も耐えられない。
「おっさん、マズイよこれ。やり過ぎ。零くん壊すと五条さん怒るよ」
僕と客を見張っている男、宮村がやっと僕の現状に気づいて客に文句を言った。
宮村はこの車両内で数人の男たちを見張っている。僕の他にも離れたところに二人、客を取らされている子がいる。どっちも男の子だ。
一人が集団で犯されているのに気づいて、ああ、彼も誰かに狙われて連れ込まれた子なんだと思った。 男たちが何人も入れ替わり立ち替わり、男の子の中に入っていく。だけど男の子の口から漏れているのは喘ぎ声。それも「いいよぉ、もっとしてぇ」というものだった。
僕の時と同じだ。最終的には屈してしまう。
男たちが笑いながら、そろそろ二本いけるんじゃないかとか言っている。
「零くん、大丈夫か?」
宮村は客に文句を言い終えると、僕を支えて起こしてくれた。
「……大丈夫……」
ふらふらするけれど、帰ってシャワーでも浴びて寝ればいつも通りになる。
「零くん、立って」
宮村がそう言って僕を抱えて立たせると、僕の孔の中に指を入れた。
「んん……んふ……」
指を入れて中を広げて宮村は僕の中に入っている精液を掻き出してくれる。ドロドロとした精液が足を伝って流れ出てボタボタと床に落ちる。
「数人プレイしたくらいに酷いな。おっさん溜まってたんだなあ。時間制限じゃなくて回数制限だな、あの客は。零くん、一回達っておく? このままじゃ辛いだろ」
宮村は文句を言いながらも僕が今辛い状態にあるのに気を遣っている。
「……おねがい……します」
「んじゃ、今日は舐めようか」
僕が座席に座ると、宮村は僕の足を抱えて肩に乗せると顔を股間に近づけて、僕の性器を口に含んだ。
「あぁあっ……んぁあ……」
ねっとりとした口腔が僕の性器を包んで、宮村が頭を動かすたびに僕をギュッと宮村の頭を掴んで悶えた。
「あっあっ……だめっあっ」
亀頭を強く吸われて達しそうで達しない感覚に僕は体を震わせた。宮村はフェラが上手い。最初に集団で僕を襲った時にもそこに居たらしく、僕は彼の口で達かされたのだそうだ。
「んぁあぁああ――――――!!」
宮村の口腔で強く吸われて僕はすぐに達してしまった。
僕の体がヒクヒクと震えているのを宮村は面白そうに眺めて性器を綺麗に舐めると、内股にキスをして終わらせてくれた。
「相変わらず可愛く達くなぁ。零くんくらいに可愛く達く子、あまりいないから人気出ちゃって大変」
宮村はそんなことを言いながらも反対側に置いていたバッグから蒸しタオルやバスタオル、僕の着替えまで出して準備している。
僕がたまに電車のこの車両で客を取る時、宮村はこうしたモノを全て用意しているのだという。
僕の時もそうした準備が整っていた。ワイシャツや下着からサイズが合ったものを調べ上げて用意してからこの車両に誘い込む。汚しても綺麗にしてやれば、大抵襲われた子は家族にバレないと思って黙っているのだそうだ。
この車両を使っている人間は、そこまでやってこそのモノなのだという。
落とした子に客を取らせるのか、そうじゃないのかは選んだ相手によって違うのだという。僕の場合、五条がこの場所の権力者のようなモノだったから、誰も手出しはしないし、文句も言わない。
五条も僕を抱きたいと思うなら、それ相当の対価を差し出せという。
僕は五条がここではボスのような存在なのは分かっているが、五条が外ではどうなのかは知らない。
だけど誰も僕の私生活に踏み込んでこないところを見ると、余程五条が怖い存在のようだ。
それが分かっているから、僕も五条に逆らえない。五条が僕はもう五条の所有物ではないと宣言したら、見境がない奴らに好き勝手されて、僕の人生も全て壊される。
宮村が言っていた。
二十歳過ぎたら、ここにいる者達も僕に興味はなくなる。精々学生で居るうちが賞味期限なんだそうだ。成長期が来たら、彼らの好みから外れることもある。つまり五条の仲間たちは学生服を着ている子に興味があり、電車内で調教できることが条件なんだそうだ。
「まあ、五条さんに気に入られてる零くんがどうなるかは分からないけど」
宮村はこうも言っていた。
これが僕には脅しに聞こえた。
五条が誰かを調教することはあるが、気に入って自ら管理するのは今回で二度目なのだそうだ。
前の人がどうなったか……それは聞いたが宮村は頭を指さして指をクルクルと回しただけだった。
それだけで十分だ。
気がおかしくなったって不思議じゃない。
むしろ狂った方が気が楽だろう。
僕は着替えを済ませると、宮村の合図で隣の普通車両に移っていつも降りる駅で降りた。
怠い体を引き摺って家まで帰る。
マンションの前に来ると、そこに人影があった。夕方を過ぎていたからマンションの玄関からの光で影になっていた顔が近づくとやっと見えた。
「……桧川……」
僕は溜息を吐くように目の前にいる桧川を見上げていた。
「志水、遅かったな……」
「どうしたの?」
僕はマンションにすぐに入れる位置に立ってから聞き返した。
「お前に聞きたいことがあってきた。桧川雄一ってお前知ってる?」
いきなり桧川がそんな名前を持ちだして聞いてきたので僕を首を傾げた。
「……いや、知らないけど?」
なんでそんなことを聞くのだろうか?
「そうか……ならいいんだけど」
桧川は理由を言わないで一人で納得している。
「志水、変な男に気をつけろよ」
「……え?」
どういう意味だろう。桧川は謎の言葉を残して僕の前から去っていった。
一体なんだったのだろうか。
桧川が尋ねた相手の名は、桧川姓だった。兄弟か親戚の誰かのことだろうか?
まさか、僕が寝た相手に桧川の知り合いが居たのかもしれない。
僕はそのことに気づいて身を震わせた。
桧川にバレるのは勘弁したい。これ以上桧川に関わるのはマズイ。僕がそう危機感を覚えたけれど、現状はそう上手くいってはくれないのを僕は身をもって知ることになる。
豪華なホテルのスイートでの行為にしては淫らで酷い場所だった。僕を指名してくる客で、僕が一番苦手としている相手と、五条の前でセックスしなければならないのだから、僕はいつもよりも羞恥があった。
五条はベッドの側に椅子を置いて、僕らの行為を眺めている。煙草を吸い、酒を飲み、うっすらと含み笑いを浮かべた顔。個人的に客と宮村とだけで会う時とは比べものにならないほど、僕は恥ずかしいのだ。何故だか分からないけど恥ずかしい。
淫らな行為に浸る僕を酒の肴にするのが五条の趣味だ。僕が乱れれば乱れるだけ五条は満足する。
けれど、今日は満足するのは無理だろう。
五条の顔が真剣だった。
「んぁあっうっあぁあっんぁうっ」
「零くん、零くん、零くん」
この人ののやり方はいつだって勝手だ。宮村も言っていたが、とにかく自分さえよければ相手もいいだろうというやり方しかしない。
僕の体に触ってはいても、僕を達かせることはしない。快感で声を出しているのではなく、苦しくて声が吐き出されいるという感じだ。
「それじゃ駄目ですよ、桧川さん。自分だけ気持ちよくなろうとしたって零は満足しません」
五条が言って、黒服の男たちが僕から男を引きはがした。
……桧川?
僕はその男の名前に驚いて、その男をやっとはっきりと見た。いつもは客の顔は覚えないようにしているので、はっきりと見ているわけじゃない。それに五条の条件で僕を犯すのにバックからというのがある。僕が客の顔を覚えないようにということらしいから、僕も客のことはほとんど覚えてない。
だけど、桧川と呼ばれた人を見ると、あの桧川に似ていた。
「いやだっ! 零くん!」
桧川と呼ばれた男は暴れていたが、すぐに黒服の男たちに黙らされた。腹を殴ってだったけど。
「桧川さん、いい加減にして下さいよ。零は貴方のダッチワイフじゃないんです。零を満足させてこそのものなのに貴方ときたら、なんて自分勝手なんですか」
五条は椅子に座って足を組んで悠然としたままだったが、明らかに怒っているようだった。
「まったく貴方も貴方の弟も、零のことを何も分かっていない」
五条がそう言うので僕は驚いて目を開いた。
五条の方を見ると五条の後ろに椅子に座らされ、腕や足を縛られて拘束されている桧川が居た。僕は今まで桧川がいるのに気がつかなかった。
――――――桧川が見ていた。
――――――桧川の兄と寝てる僕を。
「いや……いや……」
桧川が僕をじっと見ている。その目が嫌で僕は首を振ってベッドの端まで逃げて、シーツを引き寄せた。
桧川は何かされたのか、性器が勃起していて、口からは涎を垂れ流している。
僕を見ている目は、飢えた獣のようだ。
「兄より弟の方が使えそうだ。宮村、弟の縄を解いてやれ」
五条が宮村に命令する。
「いいんすかー? こんな凶器みたいなの持ってるこいつに獣のようにやられたら、零くん壊れるかもしれませんよ」
宮村が縄を解きながらも忠告してきた。
「零を想う心とやらがあるなら、薬くらい仕込まれたからと言って、暴走はしないだろう? なあ桧川くん?」
縄を解かれた桧川ははぁはぁと荒い息をしながら僕に近づいてくる。
怖い……桧川が怖い。
「いや……来ないで……」
僕はベッドから逃げようとして動くと、桧川が唸りながら僕の腕を掴んだ。そのまま腕を引っ張られてベッドに押しつけられた。
「桧川っ! やめてくれっ!」
僕は叫んで桧川から逃げようとしたが、桧川は苦しそうに言った。
「ごめん、志水、ごめん、収まらないんだ……ごめんごめん」
桧川はそう言いながら僕の足を開いて堅くなっている性器を僕の孔の中に突き入れた。
「あぁあっ――――――!!」
大きい、堅くて長くて大きい。脈打っていて僕の中を圧迫してくる。大きさだけなら五条と変わらないかもしれない。
「あっあぁあ……」
「志水……中が暖かいよ……締め付けてきて……ああ、すごい……志水……気持ちがいい……志水はどうしたら気持ちよくなる?」
入れたままの状態で桧川は僕の首筋に吸い付いた。吸って舐めて片方の手で僕の性器を扱いてくる。
「んぁあっあっんぁああっ」
僕は体を反らして桧川に乳首を突き出すようにしていた。突き出した乳首に桧川が吸い付く。
舌で転がして舐めて、歯で噛んで引っ張る。桧川の兄なんかとは比べものにならないくらいに桧川のやり方は上手かった。
「あっんぁあっあっいくっいくっ」
「志水……」
「あぁっあああぁっ――――――!!」
僕は桧川に乳首と性器を弄られまくってすぐに達してしまった。べっとりとした精液が僕の胸まで飛んでいた。僕が達くのを見て、桧川はさらに興奮したらしい。
胸まで飛んだ精液を桧川は舌で舐めとって、さらに乳首に塗りつけた。
「志水、いやらしくて……綺麗だ……」
執拗に乳首を攻められて僕はただただ身悶えた。
「んぁあっあっああぁあ、んぁ、あっあっんぁあ」
桧川は僕の乳首を攻めながら、腰を動かし出した。「あぁああっ!!」
浮き上がりそうになった腰を押さえつけて桧川は力強く僕の中を犯してくる。大きいモノが僕に足りなかったものをもたらしてくる。
「ひぁああっあっあっあっ」
「志水……一回中で達くよ……んん」
「あぁあぁああっ!!」
ぐっと腰を深く突き入れられて僕の奥で桧川の精液が弾けた。暖かいモノが断続的に吐き出されて、僕はそのたびにヒクヒクと体を震わせた。
「あついの……きた……あついの、おく、まで……んふう」
そうすると桧川はまた復活し、僕の中をさらに犯してくる。だけど僕に桧川だから嫌だとか、誰かが見ているから恥ずかしいとか、そういうモノが一切感じなくなっていた。
「いいの……んぁあっああっひかわっいいのっんぁあああ!!」
「志水……いいよ……いいよ……いやらしくていいよ……その顔そそるよ」
「言わないでっ……あぁああっあっあっ……またいくぅっ――!」
「んんああ…………まだだ志水……」
「もっとおくまで……ちょうだい……んう……いいっいいっ」
桧川の力強い腰使いに僕は翻弄されて、何度も達った。桧川も僕の中で何度も精液を放っていたけれど、桧川は体制を変えるたびに僕の中に溜まった精液を指で掻き出してはまた中に入り込んで中に出すという行為を続けていた。
最後の方は二人とも精液塗れになっていたけれど、行為は止まらなかった。
「あっんぁあっあっあっ! もう……だめっだめっだめぇえ!!」
「……俺も……いく……」
「――――――っ!!」
最後は声もなく僕は達していた。声だってもう枯れていたし、頭の中も真っ白だった。
荒い息を吐きながら、やっと桧川は止まったようだった。
僕の中から桧川の性器が出ていく。桧川はそのまま僕に覆い被さるように倒れた。
行為が終わったのを見た五条が拍手をしていた。
「見事だ、弟くん。そこまで零を達かせられるとは思ってなかったが過程も予想以上に良かった。可愛い子猫同士が戯れているのもまた一興」
五条がそう言う後ろで、羽交い締めにされていた桧川の兄がワナワナと震えている。
「なんでだ……なんで……金を払った俺じゃなく、弟なんだ……」
その言葉に五条は面白そうに言う。
「貴方が払った分はちゃんとやれたでしょう? それ以上何を望むんです? 望むならそれなりの対価を払って下さい。ちなみに弟くんは私が招いたゲストだから貴方とは関係ないんですよ。そこら辺勘違いしないで下さい」
五条がそう言い切ると桧川の兄は悔しそうにしていた。桧川がお金も払わずに僕とやれたのが悔しいらしい。
「お金やその価値のある対価が払えないからと言って零を襲ったりしないでくださいよ。その時はそれ相当のことをされると思って下さい」
五条の脅しに桧川の兄は何だとと怒鳴っていたが、五条が宮村に用意させた映像を見て驚愕していた。
僕も知らなかったけれど、五条は僕を買った人間用に脅しの材料を用意していたらしい。
映像は編集されていたが、僕が電車内で散々桧川の兄に犯されている映像だ。ただ違うのは、五条が僕に最初に言うように設定されていた台詞ばかりのシーンだった。
とにかく僕を買う人間は嫌がっているのを犯すのが好みらしく、僕が抵抗すればするだけ興奮するらしい。だからそれらしく少しは嫌がってみせてみろと言われていたが、この映像を見て僕はその本当の意味を理解した。
――――――嫌だ助けて。
――――――誰も助けてなんかくれないさ。
――――――いや、いや、いやぁあ!!
そうやって僕が服を脱がされて行く様子がしっかりと映っている。その後はまさしく強姦まがいの行為だから、これを警察に持ち込んだら僕はただの被害者で、大人である桧川の兄が強姦魔になるだろう。 僕が最初に見せられた僕が集団強姦されている映像とは明らかに違う。
桧川の兄は他の子も買っていた。その映像がどんどん映し出される。
「この映像を警察に送りつけてやりましょうか? ○○企業のエリートが学生を次々強姦、これだけで貴方の人生は終わりになる。それでもいいなら、どうぞ」
五条はニコリとして桧川の兄に言い放った。
「そうしたら、俺がお前のことを喋るんだぞ! お前も巻き込んでやる!」
桧川の兄がそう言うのだが、五条はまだ余裕の笑みを漏らしている。
やれるものならやってみろと。
その自信はどこから来るのか分からないけれど、今まで警察に駆け込まれたこともあるようだ。それでも五条は捕まっていない。
たぶん、五条の客の中に権力者が何人もいるのだろう。五条に疑いがかかったり捕まったりすれば、彼らだって危険だ。
それに調達してくる人もいなくなる。五条ほどの適任者は居ないのだろう。だからそういう人たちが全力で守る。そうした関係があるから五条は強気なのだ。
五条の笑顔の意味をすぐに桧川の兄は悟ったらしく、すごすごと引き下がった。
桧川の兄が部屋を追い出されると、五条が僕の方を向いた。
「悪かったね、零。私も客は厳選しているつもりだったが、まさかあんなのだとは思わなかったよ」
「……いえ」
「その変わり、弟の方は気に入っただろう?」
不適な笑みを浮かべて五条が言う。
僕は目を反らしてそれに答えなかった。
けれど五条は僕の顎を掴んで視線を合わせると、僕の目をのぞき込んで言った。
「だが、零、お前は私のモノだ。いくら良かったからと言って優しかったからと言って恋愛に発展するようなことはするんじゃない」
「どういう、意味?」
訳が分からなくて僕は聞き返していた。
僕の問いに五条は言った。
「そのままの意味だ」
五条の言う意味が分からず僕はぼんやりとした頭の中で考えたけれど、やっぱり分からない。
五条は僕にキスをすると部屋を出て行った。
いつも通りに宮村が後始末をしていく。
「さっきのどういう意味ですか?」
五条の言っていることが分からなくて、僕は宮村に尋ねていた。
「あーあれな。一時的な安息を求めても、結局はということじゃないかな?」
「やっぱり分かりません」
「安直に恋愛してるとか勘違いすると手痛い目に遭うよってこと」
宮村は淡々と言って、お風呂お湯張ったから入ってこいと言った。
僕は疲れた体を引き摺って言うとおりにした。
体を洗って湯に浸かるとほっと息が出たと同時に、恋愛ってと考えてみた。
僕の恋愛対象は普通に女性の方だ。けれどこうなった今はするべきではないし、これからも無理だと思っている。誰が何を喋るのか分からない状況で僕の味方を作るのは危険すぎるし、このことが過去になったとしても誰と何処で会うか分からない。
僕は誰とも恋愛なんて出来ないのだ。
それを自覚していれば、問題はないと思う。
だけど、そんな僕を放って置かない人がいることを忘れていた。
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