Dawn of darkness

4

 他人に構われることが怖い。
 そう思う深月は極力裕嗣を避けた。
 裕嗣が出かけてから出かけ、最寄りの駅すら一本離れたところを使った。
 ちょうどどちらの駅を使っても三分くらいの差しかなかったので深月は裕嗣を避けられた。
 さすがに裕嗣も深月が意図的に裕嗣を避けていることは理解したのか、それ以降家を訪ねてきたり、声を掛けてきたりなどの接触はしなくなった。
 深月はそれにホッとして大学生活を送り、それも一ヶ月が過ぎると裕嗣のことなど警戒は薄まってきた。
 そんな日々が当たり前になってきたとたん、深月の周りで奇妙なことが起こり始めたのだ。
 まず、部屋のドアに何かの白っぽい半透明の液体が撒かれていた。
「なにこれ……」
 訳が分からないまま、それを片付ける羽目になり精神的に深月の心が揺れた。
 そしてそれは露骨な形で玄関に現れた。
 今度は精液が入っているコンドームが貼り付けられていたのだ。
「……なんで……」
 それを見て固まっていた深月の側を裕嗣が通りかかった。
 素通りしようとした裕嗣であるが、深月の部屋に貼り付けられた精液入りのコンドームを見たら当然素通りできるはずもなかった。
「深月さん、これかなり悪質な嫌がらせですよ?」
 深月が動けないでいるから裕嗣がすぐに警察を呼んでくれた。
「これは……酷いですね……こんな嫌がらせはずっと?」
 そう警察に尋ねられて深月はここ二週間の間に、恐らく精液らしい液体をドアに掛けられていたことを言った。
「二日に一回くらい、三回ほど……今日はその、酷くて」
「なるほど。どうやらストーカーですかね。何か心当たりはないですか?」
 そう言われてもこんなことをする知り合いはもちろんいない。
「分からないです……あそこに住んでもう三年目なのですが……こんなことされたの初めてで、その」
 深月は裕嗣と一緒に事情を聞かれていたけれど、そこで言い淀んだ。
 刑事はすぐに裕嗣に席を離れて貰ってから深月に聞いた。
「あの、確認して欲しいのです。前に僕を襲った人たちが、少年院から出てきているかもしれないので……」
 深月はそう言い、自分の弁護士である河北を呼んだ。
 河北は詳しい事情を刑事に話してくれて、深月が性被害に遭っていた事実を知った。それは刑事にも覚えがある事件だったので、すぐに調べてくれたところ、あの少年たちは全員が少年院を出ていることが分かった。
 強姦を複数していただけで人を殺した訳ではない少年犯罪は、たった二年で少年院を出られるくらいに軽いようだった。
 そして主犯の少年だけがまだ少年院にいて、今年のうちに出てくるのだという。
 ただ彼らが逆恨みに深月に復讐をしてきている可能性もあるが、彼らは東京から離れて遠くの高校に全員が通っていることが分かった。
 けれど本人がしなくても他の仲間がいたらその仲間がやっている可能性もあるので暫くは警察が見回りをしてくれることになった。
「よろしくお願いします」
 警察に見回りを徹底して貰ったところ、被害はピタリと止んだ。
 まったく普通の生活に戻り、たまたま深月が標的にされただけなのかもしれないと思うくらい、警察の動きに敏感な犯人だった。
 深月の部屋は五階の最上階で、人の出入りはそんなにないためエレベーターで上がってくるだけで人に怪しまれる。というのもマンションの構造状、部屋が三つしかないからだ。
 そこに住人ですら無い人が上がり込むことはできない。
 宅配便もマンションに付いているボックスに置き配する決まりになっていて宅配便すら上がり込むことはできないのだ。
そんなマンションに運良く入り込んであんな手の込んだことをする人間がマンション内にいるかもしれないのだ。
「犯人がマンション内にいる可能性もある。用心して」
 河北がそう言って深月に周辺を気をつけろと言ってくれた。
 この件以来、深月はまた裕嗣と話す機会が出来てしまったが、裕嗣は積極的に深月の危険を排除してくれているようだった。
 そんな時だった。
 マンションの最上階に住むもう一人の住人が引っ越しをした。
 どうやら海外に栄転になったらしく、空いた部屋は暫くはリフォームのために開けておくことになった。
 大家も深月の事件を知っているだけに、早々に人を入れる訳にもいかなかった。まずは身元がはっきりとしている人しか入れられないと慎重になってくれた。
 幸いそれ以降、深月の周りは静かになり、大家も部屋をずっと開けておく訳にはいかないととうとう新しい人を入居させることになった。
 その人が入居する時に大家が知らせに来てくれた。
「安室さん、新しい部屋に入る方、崎原秀治さんだよ。棚橋さんところの従兄弟さんでね。私もよく知ってる方なんだ。お孫さんだけどね。都庁にお勤めなんだよ」
「あ、そうなんですね。どうも二軒先の安室深月です」
 深月は崎原を見て挨拶をした。
 崎原は真面目なサラリーマンのように、髪の乱れ一つも無いきっちりとした髪型と眼鏡をかけた顔の良い人だった。
「崎原です。どうぞよろしく。仕事が忙しいので夜くらいしかいないと思います」
 崎原はそう言い、真面目にお辞儀をしてきた。
「お、秀治さんだ。久しぶり」
 ちょうど部屋から裕嗣が出てきて、秀治を見つけるとすぐに秀治のところに駆け寄っていった。
 二人は同じ三十歳らしく、従兄弟だから顔見知りなのだろう。
「やあ、よいマンションを教えてくれてありがとう、助かったよ」
「いやいや、身元がしっかりしてる人なら紹介していいと言われたからね。秀治さんなら都庁勤めで身元ちゃんとしてるからね」
 そう言い二人が盛り上がっているのを見て、深月はホッとして大家に頭を下げてから玄関を閉めた。
 それから対して問題もなく日常が送れていたけれど、時々崎原の部屋から裕嗣の笑い声が聞こえてきたりしていて、よく裕嗣が崎原の部屋に出入りしているのが分かった。
「よかった、これで僕には構わなくなる」
 どうやら裕嗣は人と親しくしたい性格らしく、身近な人の家に行っては盛り上がるのが好きらしいのだ。
 深月があの誘いに乗っていたら、きっと家まで上がり込まれてしまっていたかもしれない。それを思うと、余計に深月は崎原の登場にはホッと胸をなで下ろせた。
 それから河北からの連絡があり、警察のパトロールが毎日から週一くらいに頻度が減ることを知らされた。
「被害もないみたいだし、見回りの頻度は減るから少し気をつけて」
「分かりました。知らせてくれてありがとうございます」
 明日からまた気を引き締めていかなければと深月は思った。
 だがそれは犯人が待っていた緩みの時間だったようだ。


深月が大学から帰ってきたのは午後十八時だった。
その日、まだ裕嗣も崎原も帰ってきてなかった。
 すぐに部屋に入ろうと鍵を取り出して開けた瞬間だった。
 絶対に人はいなかったと思ったのに、家に入った瞬間、真っ暗な部屋の中に深月は後ろから突き飛ばされて廊下に叩き付けられたのだ。
「……いた……あっなに……」
 嫌な予感しかしなくて深月が玄関を見ると、黒い影が二つ部屋に入ってきたのが見えた。
「いやだ、助けて!」
 深月は拳を作り、床を拳で殴った。
 両隣がいないことは知ってたから声を大きく出すよりは、下の階の人がいることに賭ける方がいい。咄嗟にこれができたのはずっと今度は助けを求めると決めていたからだ。
 けれど何度も繰り返したが、それを止めるかのように一人の男が深月につかみかかってきた。
「いやだっ! やめろ!」
 深月は叫び男を蹴り上げようとして足を振り回してみたが、どれも不発だった。
 空を切る足までも押さえつけられて、叫んでいるのに気にもした様子もなく、男たちは深月の服を脱がしていった。
「いやだ、いやだっやめろっいやああああ!!」
 深月は必死に叫び、他の階の住人にも気付いて貰おうとした。
 けれど深月は知らなかった。
 この日、マンションの両隣どころか下の階の五室全部が誰もいなかったのだ。
 だから叫んでも防音がしっかりしている部屋なので、精々聞こえるのはドアの側にいないと聞き取れない騒ぎにしかなっていなかった。
「いやだあああああ!!」
 もうあんなことをされるのは嫌だと深月が叫ぶけれど、二人の男は手慣れた様子で深月の体を開き、問答無用でうつ伏せに廊下に寝かせると、アナルの中に何かを注入し始めたのだ。
 ジェル状の何かがアナルに入り込み、それが中を濡らしていくのを感じて、深月は目を見開いた。
「いやああ……あああああっいやあぁぁぁ」
 ドロドロとした物が中を満たしていき、そこから熱くなるのを感じた。
「ひ、ああっ……いやああっあつい……あああっ……うあああ」
 深月はその熱さにアナルが疼いてくるのを感じた。そして逃げることよりもアナルの熱さが堪らなくなってきて床でのたうち回った。
 その熱さはやがて痒さに移行して、アナルがどうしても痒くて仕方なかった。
「あああ、痒い……やら……ああっかゆいっ……あああんっ」
 腰を蠢かせていたら、アナルに指二本が入り込んできた。
「ひあああああ!!」
 痒いところを一気に掻いて貰うことで、深月はその感触にゾクリとした快楽にした感情が芽生えたのに驚いた。
 アナルに挿入ってきた指はいいところを擦り上げては、別の液体を注ぎ込んできてそれがまた深月の思考を奪っていくものだった。
「ひああぁっ……あひっ、ん゛っあっあああっ、ひあぁっ、ああああぁ……っ」
これは完全に薬を使われていると深月が気付いた時にはすでに遅かった。アナルから入れられた熱くなって痒くなった物も後から継ぎ足されてローションのように使われた液体も全部薬が入っている。
 前の事件の時に使われたセックスドラッグだ。
 あの事件後に調べたところ違法性の無いものを使ってできた薬で、世間ではセックスドラッグとしてセックス時に使うと心地よくなり、それは六時間ほどの効果が一錠で得られるので人気らしいのだ。
 脱法ドラッグとしてなかなか規制をされないのは、作るごとに微妙に調合が違うからだ。自然にある草などを使っているせいでいわゆる漢方に近い存在らしく、それを規制すると漢方に使われているものが規制されるため、できないでいるらしい。
「あひぃっ、あ゛っうっんっ、あんっあんっあんっあんっ」
そんな薬を使われて、それも前の事件の時よりも強烈に極まっている状態では深月から逃げるという選択肢が抜け落ちていく。
「あぁあうっ……っあっはっいひ……っいいぁああ……っふ、ふぁ……っ!」
ただ指で中を擦られ続けているだけで深月は堪らなく感じて指だけで追い上げられた。
「ひ、ひぁああああっ ひっひぃ、っひ……ぁあん……っ!」
この強引さはあの事件の時に体験したものだ。
 そして今日はさらに強烈に薬が回っているようで、酔っ払ったかのようにただ快楽に身を置くしか出来なかった。
「あああぁ、ああ、おちんぽやらっああぁあ……あああっ!!」
急激に指が抜かれたと思ったらそこに大きなペニスが挿入り込んできた。
「ひ、ぁ、ぁあうっふ、ふひ……っんっぁ、あーっあ、あっ、あっあっ……ぁあっ!」
圧迫感よりも痒みを掻いてくれるペニスのカリが、内壁を擦り上げてくるのが気持ちがいいと深月は感じた。
「ひ、あ、あ、あっ……っひっあっぁあっぁひぃっあっ……あっあぁっあっひぁあっ」
挿入ってきたペニスは奥まで突き入れられた後、引きずり出すように出て行き、そしてまた中に押し挿入ってきた。
「やぁあっ……やっ! あっあっあぁうっひぁっぁあん!」 
深月がそう悲鳴を上げると、襲っている男が薄らと笑ったのが分かった。
 まるでそうなる深月を見て喜んでいるかのようだった。
「ああぁんっ、やだぁっひぃんっやだぁっあんっ、ああぁあんっ」
パンパンと突き上げてくるペニスに深月は懐かしさすら感じた。
 散々犯され続けたあの夜の出来事が蘇ってきて、その時の快楽以上の物が自分を襲ってきていることに深月は気付いた。
「あっああっやあぁっ……あ゛っああっ……あ゛ひっああっ、やっらめっ、あんっ」
すると男の声がした。
『深月、とても気持ちがいいんだね……そうそのまま身を委ねてくれればいいんだ』
 その声はボイスチェンジャーを使った物のようで、男の声は耳に直接響いて聞こえた。それもそのはずで、深月の耳にはいつの間にかワイヤレスイヤホンがされていて、そこから男の特殊な声が聞こえているのだ。
「あ゛ああっ……ひっ、あ゛っ、らめっ……あ゛っうぁあっ、おちんぽっおおきすぎっ…あっああっ……ふあんっああっ!」
『深月……ああ、とても綺麗だ……あの時よりももっともっと綺麗に淫らになって』
「ああっあんっあんっあぁあっやっ、あぁあ……あああ」
耳から聞こえる声は、何故か深月の過去を知っているようだった。
 深月が一晩中犯され続けたあの夜の淫らな姿を彼らは知った上で、深月を犯しているのだ。
「あああぁーっ、やぁっ、ひっ、ふぁっ、あんっあんっ、ぁんっ! やぁんっ、いぃっはぁっ、あっふぅっあんっ、んーっ」
何故どうしてと同じ被害に遭うことになった深月はそれを考えたいのに、思考は完全に快楽に奪われてしまい抵抗すらできないでいる。
「はあぁ……ひ、はぁ、あっ、ああんっ! あぁっ、あ、あぁっ……もっおちんぽいいから……あぁんっあっあっ……や、らめぇっ……ひあああはぁんっ」
とうとう知らない侵入者によって深月は絶頂をさせられてしまった。

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