Dawn of darkness
1
その日、安室深月(あむろ みづき)の双子の兄、葉月が死んだ。
安室家は双子の深月と葉月が生まれて、順調に二人は育った。
しかし兄の葉月の方が勉強や色んなことが優秀で、中学に入る時には深月は葉月と比べて周りから劣等生として見ていた。
深月はどんなに勉強を頑張っても葉月のように賢くはなれなかったし、運動も普通だった。それ自体は何もおかしなことはなく、決して優秀ではなくても普通の子供だった。
けれど優秀な人と同じ顔、同じ背格好、ましてそっくりなほどに似ているとなれば、当然人は比べてしまう。
確かに葉月は明るく、人付き合いも良かった。だから人気もあった。
だが、深月は近寄り難い性格で、友達も幼なじみの山塚俊一しかいないくらいで人見知りだった。
それでも美しい容姿をしていた二人だったから、深月も目立ってしまっていたせいで余計に比べられたものだった。
そして高校に進学をすると、やっと深月は自由になれた。
葉月は優秀さから進学校へ進み、深月は普通の学校生活を送れる地元の公立に入れたのだ。受験は苦労したけれど、普通の生活は深月を明るい性格に変えてくれた。
同じ家から通っていたから、両親は深月が高校で明るい性格になったことを喜んでいたけれど、その代わり進学校へ進んだ葉月の方が深月と性格が逆転したのではないかというくらいに暗く、大人しくなったのだ。
そしてそれは一年も続かなかった。
まず深月と葉月を襲ったのは、両親の事故死だった。
豪華客船の旅行券が当たり、二ヶ月の旅行に出かけていた両親の乗っていた船が座礁し転覆して乗客二百人が死んだのだ。その中に両親も含まれていて、深月は親戚と共にそのことに奔走した。
弁護士や色んな親戚の助言で何とか一段落が付いたのは三ヶ月後だった。
その間、深月は学校を休んで色んな自体に手を回していた。
葉月はショックのあまり食事もできないほどだったが、家にいるよりはと友人の一人暮らしをしている本堂祥弘(ほんどう よしひろ)のマンションに身を寄せていた。
深月が忙しすぎて手が回らないうちにこっそりと本堂の家に連れて行かれていたのだ。
けれど深月はそれを助かったと思ったのだ。
親類も気落ちし、使い物にならない葉月を見ると、この時ばかりは葉月を責めて、深月がいてよかったと普段と真逆のことを言う有様だった。
深月が一般的な事柄に対処できるくらいに知識があるのは、ただ勉強場面や学校内では優秀だった葉月とは違い、母親の仕事をよく見ていたお陰でできることだった。
勉強ばかりではなく、将来には母親がしていた仕事は役に立つと、母親は深月には色んな家を維持する方法や役所関係の話をよくしてくれていたのだ。
だから葉月が調べないとできないと思う前に、深月は近所の人や親類に相談をさっと行い、分からないことは役所に尋ねていって片付けていたのだ。
同じショックを受けていたけれど、それでも深月は踏ん張って葉月をも支えようとしていた。けれど葉月は普段はおっとりとして何もできない深月が自分よりも優秀な動きで物事を解決していることに、余計にショックを受けたようだった。
また親類が余計なことを葉月に言ったようで、葉月は深月の世話を嫌がるようになり、本堂のところに逃げたのだ。
けれど深月はそんな葉月に呆れたけれど、構っている余裕はなかったので放置をした。
それが三ヶ月の間に葉月の心は更に悪化していたようで、カウンセリングを受けていたがそれでも鬱になってしまい、とうとう自殺をしたのだ。
その葉月が自殺をしたと聞いたのは、深月が親が亡くなったことへの色んな手続きをやっと終えた時だった。
「え……死んだ? 葉月が? なんで?」
正直ショックを受けるというよりも、何故今死んだんだ?という疑問の方が強かった。
これからやっと自分と向き合えるという時期に、葉月はさっさと一人で死んでしまったのだ。
理解できないうちに病院に向かい、確かに死んでいるところを確認させられて警察に事情を聞かれた。
「すみません、両親が死んでから、本堂さんという方のうちに行っていたので、ここ三ヶ月ほど会ってもいないんです」
だから何があったのか理解できないと深月は言った。
葉月が何を考えて死を選んだのかだなんて知るわけも無い。
まして三ヶ月ずっと忙しかった深月に葉月のことを思う余裕すらなかった。
警察は深月の両親があの客船事故で死んだことを知ると、すぐに葉月の自殺の原因はそれだろうと言った。
けれど深月は納得できなかった。
葉月は確かにショックを受けていたとは思う。けれど葉月は、そんなことで死んだりはしない。むしろ、何もできないはずの深月が率先して動いていたことに腹を立てていたほどなのだ。
そして葉月は苛立ちから深月と話し合う間もなく家を出て行ってしまい、他のことは全て深月に丸投げだった。
正直に深月は葉月が両親が死んだくらいで自殺はしない性格なのを知っていた。
ショックは受けただろう。でもそれはこれからどうやって生活を保とうかと思ったからだ。でも両親は自分の手駒のように動くと思っていた葉月は、高校生活で上手くいかなくなると当たり散らしたりして手が付けられないほど荒れていた。
深月を馬鹿にすることでしか自分の優位性を保てないくらいの性格が、負けたと認めて死ぬなんて絶対にしない。プライドは何よりも高かったからだ。
「すまない……本当に、ほんの少し目を離したんだ……鬱になっていたから、駄目だって分かっていたのに……」
そう本堂祥弘が警察に説明をしている。
葉月が鬱になっていたなんてこの時深月は初めて知った。
だって葉月は当たり散らすほどの元気を持っていたほどだ。鬱になるなんてあり得ないのだ。家を出たのだって親戚に叱責されたせいだ。
家事もやらず、かといって深月の手伝いもしない。
色んな家を維持するためにしなければならないことを葉月は。
「学校がある。成績を落としたら退学になるかもしれないだろ!」
と深月に当たり散らしたのだ。
そんなことを言い始めた葉月に親戚たちがそんなこと言っている場合じゃないだろうと叱責するに至り、そして深月が集団弁護会に出かけている間に家を抜け出してしまったのだ。
両親の死去に対して葉月が気にしていたのはこのまま学校に通えるのかということだけで、両親の死をあまり悲しんでいなかったのは間違いない。
それが急に両親のことで自殺したと言われても、深月は納得できないのだ。
もっと何か死に至る原因があるのではと、深月は本堂の話を聞いた。
「それが……一ヶ月ほど前から急に引きこもり始めて……。あ、その前はちゃんと学校にも通ってましたし、割と我が儘は言うけど元気でしたよ……。でもニュースで客船の客が客船の乗務員に置き去りにされて見殺しにされたっていう話が流れた時だったと思います。その日から引きこもり始めて……夜中に急に叫び出したりして、俺以外の人の前では狂ったように叫んだりして……」
本堂がそう言うので深月は言っていた。
「どうして、僕等に知らせてくれなかったんですか?」
そこまで重症化しているなら家族に連絡を入れるべきだと言うと、本堂は申し訳ないと謝った後に言った。
「葉月が絶対に誰にも知らせるなって……特に深月君には絶対に言うなって言って余計に錯乱したんで……」
そう言うのだ。
もうそれは連絡をすべきことだったんだよと警察に言われた本堂はすみませんと謝った。
けれどこれで葉月は両親の事故が原因での鬱病であると認定されてしまった。
実際に鬱でカウンセリングを受けていた葉月はそのニュースの日を境に病院すら行かなくなってしまったので、症状的には悪化した上での自殺と結論づけられてしまった。
「……深月くん、大丈夫かね?」
弁護士の河北が深月に話しかけてきた。
葉月が自殺をしたと聞いた河北弁護士はすぐに駆けつけてきてくれた。
深月の家とは親類で、集団訴訟の準備も手伝ってくれた人だ。
幸い事故客船のオーナー会社が社員の逃亡が原因で避難誘導ができなかったことをすぐに認めたため、被害者にはすぐに保険金と補償金が下りることになったので、河北もそこまで苦労はしないですんだ。
けれど葉月の自殺はさすがに堪えたものがあったようだった。
「すまない、我々が葉月君を責めたから……」
「いえ、あの時の葉月はそういう態度で口も悪かったですから、言われて当然だったと思います。でも……家を出ているからいいやって放置したのは僕も同じです。少しは気にするべきだったと思います。だから誰も悪いわけじゃないんです」
葉月の悪態を吐いた態度が親類の機嫌を損ねたことは仕方ないことだった。
それだけのことを葉月はしたし、親類たちも言葉を選んで諫めてくれたからだ。
それを逆恨みすることはあっても、葉月はそれを苦に自殺をするとは一切深月は思えなかった。
それからすぐに葉月の遺体を引き取って深月は家の客間に葉月の遺体の保管などを葬儀社に頼んだ。葬儀社の斎場が使えなかったので家でやるしかなかったが、自殺した葉月の葬儀を大々的にやるわけにはいかなかったので密葬という形を選んだ。
全部を隠してやったので近所の人はまだ葉月が死んだことは知らない。
ただ何かあったくらいは葬儀社の車で分かったかもしれない。
それでも本堂や葉月の学校の友人という人たちが何人か尋ねてきてくれた。
「密葬なのは分かってるけれど、最後のお別れはしたくて」
そう言われたら断れず、四人ほどの同級生たちは火葬場まで付き合ってくれて骨まで拾ってくれた。
結局火葬場から家まで来てくれて、線香まで上げてくれたのだ。
そうなったら一緒にいた河北も寿司を頼んでくれて、食べさせなさいと言ってお金も出してくれた。
葉月の同級生たちはそれらを申し訳ないと食べてくれ、片付けまで手伝ってくれた。
怒濤の日々にさすがに疲れてきた深月だったが、本堂が用事ができたと先に帰ってしまうと同級生たちの態度が変わった。
深月がお茶を出した時に、一人の男が深月をその場に押し倒したのだ。
「な、何を!」
急に押し倒されて深月は焦ると、男は深月の腕を掴んで床に押しつけた。
そしてもう一人の男が深月の上にのしかかり、暴れる深月の頬を叩いた。
「あっうっ」
「うるせえよ、黙らないともっと酷い目に遭うぞ?」
「おら、服を脱がせろよ」
「足を持ってろ、よしゃ一気に抜けた」
あっという間に四人の男の手によって服を開けさせられ、下半身を全裸にされた。
すると足を広げられて、アナルに何かを突っ込まれた。
「いやだっ! やめっうっ」
叫ぶと頬をまた叩かれた。何度も叩かれて痛みで深月は恐ろしくなり、叫ぶことができなくなった。
「おい、玄関の鍵は閉めたよな?」
「電気も消したよ。チャイムも電源も落とした」
「よっしゃ、始めようか。ほんと、葉月にそっくりな弟だな」
「そりゃ双子だもんな……似てるってかこっちの方が可愛げがあるよ、あいつ生意気だったじゃん」
「確かに、でもこうやってやっちまったら、すぐに泣き出して黙ったけどな」
そう言われた瞬間、深月のアナルに指が突っ込まれて中を掻き回し始めた。
「いや……やだ……ううっ」
「可愛く泣いてる、いいね……そそるわ」
「マジな」
男たちがそう言いながら深月の体中を撫で回し、乳首まで弄り始めた。
「いやだっ……あっ……んあっ」
「やっと薬が回り始めたか。さっき飲んでたお茶に仕込んだんだよね~、催淫剤。聞くまで十分掛かるからちょっと時間はかかるけどな」
そう言われて彼らにお茶を入れ直している時に自分の飲物に仕込まれていたことを深月は知った。
これは彼らが最初から深月を犯す目的で葉月の葬儀にやってきて、居座って本堂が帰るのが合図でこんなことを始めたのだろう。
明らかに葬儀に来ていた同級生の四人よりも二人ほど人が増えていたからだ。
玄関で待っていて呼び込んだのだ。
六人もの男の手で押さえつけられてしまったらどんなに暴れても深月の力で逃げ出すことはできなかった。
そして深月は葉月が死んだ理由に思い至る。
高校に進学してから急激に葉月の様子がおかしくなったのは、彼らにこういうことをされていたからではないか。
そしてそれで心を病んでいたところに、両親の死と葉月よりも深月を頼る親類の叱責から逃げた先でまた同じことがあったのだ。
弱り切っている葉月は彼らのおもちゃにされたのだ。
「はは、葉月のやろうも段々いい具合になってきたのにな」
「あっさり首を釣っちゃうもんな」
「あはは、結局プライドだけ高いんだよなあいつは。意地でも高校も辞めねえし」
「さっさと辞めてれば、一回で終わったのになあ」
「あいつ、意地になって何回も犯されに来るんだもん。脅せばやり放題だったし」
「ぎゃははは、ばっかみたい、これくらいで一々死んでたら命幾つあっても足りねえよ」
男たちがそういいながら葉月にしたことを口にしている。
やはり、葉月は両親が死んだことで鬱になったわけではないのだ。こいつらに犯され続けたことで心を病んでいて、そしてまたこいつらにおもちゃにされたから死んだのだ。
それが分かっても深月がここから逃げ出すことは不可能であった。
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