slavery03
03
深津維稚は事件から二ヶ月後に彰良と東京に住むようになった。
彰良は一等地のマンションを父親に買って貰ってそこに住んでいる。
大きなマンションの部屋は四十畳のリビング空間や部屋が10個もあるという馬鹿げたものだったが、リビングを隔てて彰良の部屋は奥にある。
その手前の部屋には彰良の友人が住んでいて、二人ほど同居人がいた。
派手な金髪に短髪ツーブロックの人が板倉祐悟という、大学生でネットインフルエンサーだという。
動画を撮り、それを投稿することで生計を立てているらしい。
しかし動画と実物はかけ離れていて、実物が口が悪く意地悪だった。
維稚を見かけると小突いてきて、嫌みを言う。
「彰良に気に入られているからって、勘違いするなよっ」
というのが板倉の口癖で、維稚は毎回言わなくても分かってると何度も思う羽目になった。
「おい、いい加減に突っかかるのはやめろ」
そう言って止めてくれるのがもう一人の住人、酒井陽真(はるま)だった。
二人がネット動画サイトでコンビを組んで色んな動画を上げて、登録者が二百万人をとっくに越えたという。まだまだ日に日に登録者の増加は続いていて、ついに三百万人まで数日というレベルの人気配信者だ。
基本的に撮った動画を編集してそれをアップしているので、仕事として動画撮影に出かける日々であるし、その動画撮影用の部屋も維稚が関わらない部屋にある。
生活としてリビングを隔てているし、入り口も別にあるので関わることはないのだが、冷凍庫にある食事を解凍のためにリビングにくるとたまに出会うのでこうやっていちゃもんを付けられるわけだ。
彼らからすれば、彰良は部屋を貸してくれる良い人で撮影道具も全部が彰良が用意してくれたものらしい。大学で出会った時にそういう活動をしている二人を彰良が手助けして色んなものを用意してやって、動画の編集も専門の人に委託してくれていい動画が上がるようになったので人気が出たのだ。
そのお陰で二人は彰良に心酔していて、降って湧いた彰良が執着している維稚という何の取り柄もない少年に反発心を抱くのは仕方のないことだった。
それでも維稚にとってはどの人も自分とは違う人であり、彰良の味方である以上、助けを求める人でもない。
ここから逃げても生きる道がない維稚は仕方なくここにいるけれど、この人達はもう人気者の二人で何処かに引っ越してもやっていけるくらいには稼いでいるはずだ。
それなのに彰良に心酔しているからか、絶対に出て行かないし、彰良も何も言わない。
けれどその中で彰良が明確に彼らに言ったことがある。
「これは俺のだ。俺の物でお前達の物じゃない。こっちから先の部屋は維稚の部屋だ。お前達は入ることはできない。今まで通りにこっちの部屋の出入りは禁止だ」
そう彰良が言うので二人が維稚を見て睨み付けてきたのが出会った時のことだ。
それ以来、維稚が何も反論も彰良にそれをチクることもしないと気付いたらしい板倉はことあるごとに暴言を吐くようになった。
維稚はそれらを聞いても何とも思わなかった。
もっと酷い言葉を浴びせかけられ続けた維稚にとって、板倉程度の口の悪い人はまだ分かりやすくてよかった。敵意を向けてくれれば、こっちは警戒をしやすいからだ。
厄介なのは酒井の方だった。
この人はそれなりの良心を持っているようで、彰良が維稚を物扱いすることに対して苦言を呈していたほどだ。
それでも彰良は意を介しないので対立にはなっていないけれど、こういう優しさを持つ人こそ維稚にとって浅見の二の舞にしか見えなかったのだ。
優しい言葉で維稚に近付いて、そしてやることは彰良と変わらないのだ。腹の底で何を考えているのか分からないからこそ、気味が悪かった。
なので維稚の態度はあからさまで、板倉には強気に無視を貫くのに対して、酒井には警戒心丸出しの態度で接するのだ。
それは酒井にも分かってしまうほどで、これだけ優しくしても維稚が一向に懐かないどころか、板倉との方がまだマシという態度に少し苛ついているようだった。
「維稚くん、板倉がいつもごめんね」
そう言うけれど、維稚はそんな酒井から一歩離れて頭を下げてから食事を持って部屋に閉じこもる。
「ぎゃはは、優しくしてもダメってことだ。あいつ、本当に何様なの?」
板倉が酒井が振られたと言いながら笑っているけれど、維稚にとってここは安全な場所ではなかった。
まだ彰良だけならいい。もうそれには慣れた。
けれど他人がいる空間ほど、ずっと一人で暮らしてきた維稚にとって苦痛以外の何物でもなかったのだ。
「んっあぁあーっ、おちんぽっだめっ……あ゛ひっ、んっあ゛っあんっあんっあんっ」
いつものように彰良による陵辱は止まることはなかった。
この部屋に付いたその日から彰良は維稚を抱き、抱き尽くすまで犯してきた。
「あ゛っあ゛あああっ! あ゛ひっ、そこっ、らめっ、あ゛ああっ、だめっしんじゃうっ、そこばっかゴリゴリしないれぇっ……! あ゛ーっ、あ゛ーっ、んっあああぁっ……!」
「ここが気に入っているのは分かっている。維稚、素直になれ」
彰良はそう言うけれど、そう簡単には維稚も素直になれない。
「――はっ、はぁっ……! ぃや、だ……っ、いやだぁ……っ」
逃げようと腰を引くと、それを掴まれて奥まで押し入れられてしまう。
その力強い腰使いに維稚は脳天まで快楽の刺激が突き抜けた。
「はぅ……っ、く、くぅううん……っ! んんっ……は、ぁん! あぁあ……っ!」
深いところまで彰良のペニスが挿入り込んで、維稚はそれによって感覚が段々とおかしくなっていく。
「いやぁあああっ! そ、そこダメ……っ、やぁああっ! や、だ、いや、だ……っ! こわ、れ……っ、へん、なるぅ……っ!」
「変になるんじゃない、気持ち良くなるんだ。維稚、ここに精液を出してやるよ、好きだっただろ?」
「いやだ、やめて、せいえき出さないでっ……いやあっ、おま○こにせいえき出さないでぇえ……!」
維稚はそれをされると気持ち良くなってどうでもよくなるから止めて欲しいと願った。しかしそれを分かっている彰良が止めてくれるわけもなかった。
「ほら、精液感じてイケよ」
「ああっ、やだ、や、あ、あ、いく、いくっ、いっちゃ……あぁっ、やだあああぁぁ――……っ」
奥に吐き出される精液を感じて維稚は絶頂をする。
すると彰良は結腸にペニスを突き挿入れ始めた。
「や……なに……っああっああっ……やだ、そこ……や……、ああうっ、ああ……ああっ……」
「本領発揮ってところだ。お前はここが好きだろう?」
「ああ……っ、らめっ…ああっ! んっ……あ、ああ……っああ……!」
挿入り込むペニスに維稚は更に深い快楽に陥れられる。
そうなったらもう維稚は喘ぐだけしかできない。
「ああっ、や……っ、も……あっ、あっんああ!あっ……ああー……っやあ……っ、あああっ!だめ、だめ……!」
「そうだ、受け入れろ……全部、俺を受け入れろ」
「あぁ……っ! ああ……ああっ!あ!ぁあ―――ああ……っ、ああぁ……っあ……っ、んんっ」
ゴリゴリと惜しいってきて中で射精をしてくる彰良は、いつにも増して維稚を求めてくる。
維稚が彰良の手に入ってからでも彰良はいつでも維稚を手に入ようとしてくる。
それは維稚が何かに流されてまた別の誰かに襲われたり、逃げたりしないようにしっかりと維稚に立場を分からせているつもりなのだろう。
「んぁああっ! あああっ! あぁんっあんんーっ! あああっあん! あぁああん……っ」
維稚は絶頂をしながらそれを感じ、決してそこには何も生まれないのを知っていた。
飽くまで維稚は彰良の奴隷だ。
決して自由になることはない、彰良を押さえ込むために彰良の父親が用意した人質だった。
彰良は昔ほど激高はしなくなったし、年齢が上がることで精神を鍛えられて普通の生活はできるようになっている。
それでも時々、行き場のない感情が爆発してしまう。
それを全て維稚のせいだと彰良は言う。
維稚を抱くことでしか満たされない感情や性欲があるせいだ。
小さい時からそれをすり込むように与えられ続けたら、まるでライナスの毛布のようになくてはならないものとして彰良の中に維稚がすり込まれてしまっているのだ。
だから大学で一度は彰良も維稚を手放そうと考えたらしいが、それには見事に失敗をした。
彰良は自分が思っているよりも維稚の立場が悪かったことを知らなかったからだ。
維稚は彰良の存在によって生かされる存在となっていて、それ以上でもそれ以下でもなかったのである。
維稚はこの環境から逃げ出すことは不可能で、彰良が望むことは何でもしてやらないといけない立場だった。
それを理解できない人がいる。
特に一緒に住んでいる板倉と酒井だった。
「いい加減に出て行けよ」
その日の板倉は機嫌が悪かった。
何があったのかは興味もないし知らない維稚はいつも通りに板倉を無視した。
「無視してんじゃねえよ、てめえに言ってんだよっ!」
そう言われて力強く突き飛ばされた。
その時、維稚は食事の後片付けに台所にきていたので持っていた食器と共に床にたたきつけられてしまった。
そしてその衝撃で皿も割れてしまった。
「……っ」
割れた皿が維稚の首元をかすめて飛んでしまい、維稚がその傷みに少し顔を歪めた。
何て日だ、他人の怒りを受け入れなきゃいけないなんてと思っていると酒井がそれを見つけて慌てて駆け寄ってきた。
「何やってる板倉」
吹き飛んで床に転がっている維稚と激高したまま立っている板倉を見れば、何があったのか一目瞭然だった。
「……こいつが、俺を無視しやがるからっ」
板倉がそう言って自分は悪くないと言う風に言うのだが、どうみても板倉が悪いのは酒井にも分かったようだった。
「維稚くん、大丈夫かい?」
そう酒井が助けてくれそうになるも、維稚はそんな酒井の手助けを避けた。
自分で起き上がってみると酒井と目が合った。その目が驚きの色に変わった。
「首、怪我、してる」
酒井がそう言うので維稚は首に手を当てた。
すると首筋がヌルリと濡れているのに気付いた。
破片で切ったのかと冷静に思ったが、想像以上に血が出ていた。
そのせいで着ていた服にも血が垂れてきて、首元が真っ赤になっていた。
「あ……」
「ちょっと、血を止めないと!」
酒井が慌てて側にあったタオルを渡してくれたのでそれを受け取って首元に当てた。
「大丈夫?」
「大丈夫です、見た目ほど深いわけでもなさそう」
維稚はそう言い、怪我が大したことはないと答えた。
実際、切れた場所が悪かっただけで血が大げさに出ていただけだった。
「あ……俺、悪くないっ」
板倉はそう言い逃げようとしたのだが、そこにちょうど出かけていた彰良が帰ってきてしまったのだ。
「何を騒いでいる」
彰良は何かの荷物を手に持った状態でリビングに入ってきた。
台所で三人がいて、床には散乱した皿の破片と側に維稚がいて首元に当てているタオルが赤く染まっているのが目に入ったようだった。
「……維稚」
そこで彰良が激高しそうになっているのを察した維稚は素早く声を上げていた。
「大丈夫、見た目ほど深いわけじゃない。切れた場所が悪かっただけ」
維稚がそう言うも、維稚が勝手に転んでそうなったのではないのは、板倉の様子を見ていれば分かるのだ。
彰良は荷物を置くと維稚の側にやってきて首元に当てているタオルを退けてから傷口を確認してきた。
「本当に深くはないな、縫うほどでもない」
「破片で切っただけだから」
「洗って消毒をしよう」
「うん。破片の片付けお願いできる?」
散らばったままの破片を放置するわけにはいかないので彰良にお願いをすると彰良は頷いた。
それを見届けてから維稚は自分の部屋がある方へと向かって歩いて行った。
「片付けは俺がやっておく」
酒井がそう言った。
破片の片付けをするために掃除道具を先に酒井が取りに行った。
彰良は維稚がその場から去ってしまうと板倉に目をやった。
「何かいいたいことはあるか?」
彰良の言葉に板倉は言い淀むもはっきりと言った。
「あいつが、俺を無視して腹立ったからだ」
板倉の言葉に彰良は呆れた顔をしていた。
「最初に説明したはずだ。あれは俺のでお前らのものじゃないって」
「でも、それでも無視ばっかりで? 生意気なんだよっ!」
板倉がそう言うのだが、彰良は溜息をふっと一つだけ漏らした。
彰良が覚えた中で怒りを溜息として吐き出すことがあり、今も何も知らないやつに説明をしても分からないのだなという諦めが怒りを消してくれた。
「お前ら、そろそろ二人で家でも借りて暮らせ。俺からの援助も必要ないくらい儲けてもいるだろう? 機材は全部くれてやるから、出て行け」
彰良がそう言い出して焦ったのは板倉だった。
「何でだよ! 後から来たのはあいつだろ! 何であいつの方を庇うんだよ!」
板倉がそう言うと、彰良ははっきりと言った。
「俺と維稚は維稚が幼稚園の時からの仲だ。だからお前の法則で話すと間に入っているのはお前らの方だ」
彰良がはっきりと告げると板倉もそれには思いも寄らなかったようで。
「……くっ……」
まさか自分たちが出会った方が後で、維稚の方が彰良との付き合いが長いとは想像もしていなかったらしい。
「お前らと維稚を比べる気はなかったが、お前がそうするなら俺は維稚を選ぶ。それは最初から分かっていたはずだ」
彰良がそう言うと板倉は悔しそうな顔をして部屋に逃げ帰った。
酒井はやはりそうなるんだろうと予想はしていたようだった。
「やっぱり、彰良はあの子を選ぶよね……何なの、彰良にとってあの子は?」
酒井はそれを知りたいと思った。
彰良が執着しているのは分かっているが、維稚にはそれがなかった。
仕方ないから彰良に従っているけれど、全てを諦めているのか、抵抗する様子はなかった。
だからこそ不思議だった。
維稚は自由に何処へでも行けるのに、飛び立つことも知らず羽を折られた鳥のようだった。ずっと明るいところを眺め、そしてそこに飛び立つ夢だけは持っているけれど、飛ぶことは諦めたようなそんな感じだ。
「維稚は俺の奴隷だ。俺という人間に執着され、利用され、あらゆるものを奪われてきた、そんなの奴隷だろう?」
彰良がはっきりと酒井に向かって言っていた。
愛なんて形もないものに縛られるつもりはないし、それでは足りないくらいに彰良は維稚の人生をぶち壊してきた。何でも自分の思い通りにして維稚を困らせ、立場をなくさせ、家族も兄弟も全部奪ったのだ。
彰良にとって価値があるのは当たり前であるが、維稚は彰良に何の感情も抱いていない。
ただセックスの時は反応するように躾けただけである。
何も彼もを捨てざるを得ない状況の維稚に感情はなかっただろう。
酒井は彰良の言葉を彰良の自虐だと受け入れたようだった。
でもそれは本当のことで、嘘偽りはない奴隷でしかなかったのだ。
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