彼方より 078

ジニ族のこれからと、飛行石の所有者

 村を去る村人の荷物を俺が預かることになった。
 俺が渡した冷蔵庫やベッドも持っていくらしく、それはちょっと嬉しかった。
 荷をどんどん入れていくと開いた村の家はここに俺たちが来た時の半分も減ってしまっていた。
 亡くなった人の荷物は家具以外は一つの家を倉庫にして入れたり、予備の滞在用に手入れしたりと色々準備はして残した。
 もし街が合わなくて苦しくなったら村に戻ってきても構わないと告げた村長や族長の意志を尊重するように俺はそうした人達が泊まれるように荷を残してやった。
 村人は一所に集まった方がいいと引っ越しが決行されたりもした。
 森に近い方からどんどん家は開いて閉まったけれど、そこを上手く畑にして村内でも芋が採れるようにしてみたりと俺たちはちょっと村の復興も助けた。
 ヴァレリアさんたちは噂の遺跡を見に行っている。
 俺は俺のどんな言葉に何が発動するのか分からないので村に待機させられていて、その間に何人かと話をした。
 畑をしているとそこにフリヤールさんがやってきた。
「少しいいかしら?」
 そう言われてフリヤールさんと話した。
「さっきね……カイラーの遺体が見つかったの」
 そうフリヤールさんが言うので俺は驚いた。
「一体何処で?」
 そう聞いたら何と遺跡のガゼボの中だったらしい。
「何処へ行っていたのかは分からないんだけど……餓死していたそうよ」
 あの戦争時にいなくなってからとなると、もう一ヶ月が過ぎていることになる。
 俺たちも長居しているけど、ウヤの街のことが解決するまで身動きが取れなかったので一ヶ月もここにいることになっているけど。
 カイラーさんは何処かに送られてしまい、そこで物を食べることはできなかったみたいだ。
「そうですか……大丈夫ですか?」
 俺がそうフリヤールさんに聞くと不思議とフリヤールさんは首を傾げたのだ。
「普通は悲しくなったり、寂しくなったりするのでしょうけど、私、実はホッとしているの」
「ホッとですか?」
「ええ、これで二度とあの人のことを心配しなくていいんだって、そう思ったの。もう裏切られることもないし、何かされることもない。息子にもいい父親として亡くなってくれたと思ってるの。おかしいかしら?」
 そう言われてしまったけど、その気持ちは分かる。それにフリヤールさんは心からカイラーさんを愛していたわけではないから、ただ魅了みたいになっていただけだから、解呪されてなくてもカイラーさんが亡くなった時点でそれは解けていただろうから、きっと結果の気持ちは同じになっていただろう。
「母親としての心配であるなら、きっと普通のことだと思います」
 俺がそう言うとフリヤールさんは更にホッとしたようだった。
「そう言ってくれて嬉しいわ。皆に言ったらきっと薄情な女だと思われると思って言えないけれど、貴方ならきっとそう言ってくれる気がしたの。その通りだったわ。私の気持ちを誰よりも分かってくれて、そして協力してくれるのも……貴方だけだった」
 そう言うフリヤールさんは、カイラーさんを呼び込んでしまった責任を取って村を出ることになった。
 誰も責任を求めてはいなかったけれど、フリヤールさんは亡くなった村人がカイラーさんのせいでヤーブの民ではなくなり、そのせいで村を出るのに絶好だった投降を選んだことを知っていたからだ。
 フリヤールさんの近くには息子のアーリムくんが楽しそうに村の手伝いをしているけれど、村人も子供に当たることはしなかったのでアーリムくんにとっては村は変わった村という印象しか残らないだろう。
 それに肌の色が少し村人と違うことは本人も気にしているし、何より寿命が恐らくジニ族と同じではないらしい。それは種族が魔族となっているからだ。
 魔族は長寿の人もいるが、カイラーさんは人族と変わらない寿命しか持っていない人族と混ざった魔族らしいんだ。それに似てしまったアーリムくんはこの村の人よりも早く成長してそして亡くなるのだ。
 そんな息子を普通の環境に近い、街で暮らさせてやるのがフリヤールさんのやるべきことだった。
 これからアーリムくんが誰かを好きになる時、きっと寿命は同じくらいの人が幸せになれると考えたらしいんだ。
 そしてフリヤールさんは息子の死を見なければならないだろう。
「これからは村のことを気にせずに、息子さんの幸せだけを考えて生きてください。あなたにできることはきっとそれだけです」
 俺がそう言うとフリヤールさんはホッとする。
「よかった。皆、私には罪はないと言うけれど、私には罪はあるわ。だからその責任は取らなきゃね。でも私にできることなんて何もない。商人の娘としての私にしか価値がなかったけれど、村のこともっとしっかりと知って関わっていれば協力もできたのにね。他の人達とは違うと胡座を掻いていたしっぺ返しが今来たんだわ。私、この村は好きではなかった……でも村に居なければならないって思い込んできた。私はきっとカイラーに何かされる前に、既にヤーブの民ではなくなっていたのかもしれないわね」
 そう言うんだけど、俺は言っていた。
「ヤーブの民であることは、村に縛られる民族ってことではないんです。思った通りに生きてもいいし、村を出たいなら出ればよかったんですよ。村に残ればもちろん誰かが助けてくれるかもしれませんが、街の厳しさを知ることも経験することもせずに駄目だと言うのは、それは軟禁していることと変わりません。自分で経験してそれで暮らしていけなくて村に戻ってもいいんです。この村自体が呪縛に捕らわれていただけだと思うんです。ヤーブの民だから何かしなければならないわけでもない。自由に生きていいんです誰でもね」
 俺はそう思っていると言うと、その考えを受け止めてフリヤールさんは笑った。
「そうね。私は結局好き勝手に生きてるわね」
 そう行ったのである。
 確かに結婚もごねたし、村に住むことは父親を放っておけないという理由だったけれど、その父親であるサーディクさんも結局村を出ることになったのだ。
 彼はまだヤーブの民であるけれど、カイラーさんを招き入れた責任を取って娘と一緒に出て行くことになっている。
 かなり高齢ではあるので商人の仕事も他の人に譲ったし、あとは娘と孫の側で生きていく。
「俺はこの村からアッザムを連れ出すから、族長からすればちょっとな存在なんだよね。でもそれでも諦め切れないからそうする。皆結局勝手だよ。アッザムにここに居て欲しい人は自分たちの思う理由のために居て欲しいだけだからね」
 俺がそう言うと、フリヤールさんは笑った。
「ウヤの街に行くなら、レテカも近いし、また会えるよ」
 俺がそう言うと、フリヤールさんは確かにそうだなと思えたようだった。
「そうね、村にいる時よりはずっと会えるわね……なんだか一生会えなくなる気がしていたわ」
「ふふ、ウヤの街が上手く復興すれば、俺たちが訪れることもあるし、その時はよろしくね」
「その時はね」
 そう言って笑ったらアーリムくんが戻ってきた。
「それじゃウヤの街に着いた時は話す間はなさそうだから、ここでお礼を言えて良かったわ。ありがとう」
「いえいえ、それじゃまた後日」
 俺とフリヤールさんはそう言って別れた。
 フリヤールさんは最近よく笑うようになったみたいで、息子のアーリムくんも楽しそうだった。
 これはこれで良かったのかもしれない。


 それから遺跡を見てきたヴァレリアさんの意見によると。
「あの遺跡の記録は王国にもあるのだが、ハルの言う通り、称号を入れ替える装置と苗床への転移ともう一つが異世界人のことに関しての施設だという記載があった。だから異世界人の言葉が記されているし、正しい発音ができ、読むことができるものにしか発動はできない品物だ。ハルが転送されて行ったというニライムジナの苗床は恐らく世界樹のある場所への試練の道だと思われる」
 ヴァレリアさんがそう言う。
 結構サクッと凄い情報を持って来たけど、聞いているのは族長と村長と俺たちだけだから言ったのかもしれない。
 そう言われても俺は世界樹のことは言ってないので、恐らくそれがウヤの街を牛耳っていたカーブエシルが行きたい場所だったのかも知れない。
「しかし異世界人しか渡ることができない上に、その発動に巻き込まれたであろうカイラーがあの様だ。遺跡として保存はできない以上、破壊をするしかあるまい」
 そう言われたので俺はそれには賛同した。
「うん、破壊でいいと思う」
 俺もまた行く予定もないし、行っても意味ないしね。
 他の人が使わないことを前提とするなら壊した方がいい。
 そのことに反対する人はいなかったので、ヴァレリアさんたちは次の日には、ガゼボそのものを破壊して破片は全て水で沈めたという穴に放り込んだ。
 これでニライムジナの苗床に行く方法の一つがなくなったんだけど、俺はこれがここだけの装置だとは思っていない。どうせ、世界の何処かの遺跡にそうした物があるはずである。
 そう思うからこそ、一個くらい破壊しても大丈夫だろうと思った。
 シリンガ帝国のことを考えたら、このまま放置しておく方が危ないしね。
 全てを壊し終わってから俺はそこへ連れて行ってもらって鑑定をした。

【名前】アルセツハントの破壊された遺跡
【備考】破壊や侵食が進み、既に起動しない遺跡になっている。直すことは不可能である。

「うん、破壊された遺跡って出るね」
 ガゼボも全部なくなっているし、遺跡の入り口だったらしいところは水で沈めた後に埋めたそうだからこれを掘り返してとなると相当な労力が必要になる。そこまでして掘り返したい物なのかは欲しい人にしか分からないけれど。
 するとヴァレリアさんが俺にある物を手渡してきた。
「これはガゼボの中に入っていた。転移に必要な石であることは分かったのだが、私はこれを国に渡すのは危険だと考えた」
 出されたのは手の平サイズの青い石だ。宝石みたいな感じであるが原石で削ってはいないので歪な形をしている。
 俺はそれを鑑定した。

【名前】飛行石
【素材】青い石。硬く破壊ができない。破壊をするには竜の素材で作った鎚が必要。
【効果】呪文を唱えることで持っているものを指定の場所へと転移させることができる。
【指定】ニライムジナの苗床行き
【所有者】ヴァレリア・バルバラ・サヴォイア


 ちょっと俺は気が遠くなりかけた。
 それを見たヴァレリアさんには俺がこういう反応をすることは分かっていたらしいんだ。
「よくこれが大事な物だって分かりましたね……」
「他の鑑定持ちにこれを鑑定させたが、鉱石としかでず、効果はないと言う。あのガゼボから出て効果がないなどあり得ないことだ。だから誰も鑑定ができない高品質の物であると判断すれば、この石こそが転移に必要な部品だと考えられるわけだ」
 そうヴァレリアさんは考えてからこれを王国に渡してもきっと宝石の飾りにして着飾ることにしか利用しないと思ったようだ。
「何かのうっかりでこれが巡り巡ってシリンガ帝国へ渡っても困る。ならば、絶対に渡しそうもなく、さらにはセフネイア王国に反旗を翻しはしない、確かに信頼できる人物に隠して貰った方が安全だと考えた」
 そんなヴァレリアさんに都合のいい人はこの場には俺しかいないって訳らしい。
「多分、使えるのはお前だけだろう。その先に何があって、意味も知っているなら、ハルが持っていた方が面倒ごとが減るので受け取ってくれ」
 そう言われてしまったんだけど、要は面倒ごとなので押しつけてきただけだ。
「分かりました。俺が受け取ればそれでヴァレリア様が楽になるってことですよね?」
「そうだ」
 にっこりしてそう言われたら受け取るしかない。
 面倒ごとであるのは間違いないし、うっかり誰かがあそこに行ってしまって竜種と何か約束事をして、その結果俺たちの生活が脅かされるかもしれない事態が起きたら困るのでそこを回避するという意味では俺が持っていた方がいいんだよな。
「お預かりします」
「そうじゃない、頂きますにしてくれ。それじゃ所有者が変わらないままになる。私が返せと言ったら戻ってくる。だから貰ってくれ」
「はい、貰います。頂きますし、返しませんからね」
 俺がそう言うとヴァレリアさんもにっこりして渡してくれた。
「よし、これでその所有者はハルだ」
 そう言われたので見てみると確かに所有者はヴァレリアさんから俺に移っていた。

【名前】飛行石
【素材】青い石。硬く破壊ができない。破壊をするには竜の素材で作った鎚が必要。
【効果】呪文を唱えなくても苗床へ移動ができるようになりました。ハルが使用時のみ限定効果です。
【指定】ニライムジナの苗床行き
【所有者】ハル(藤本晴一)
【備考】所有者が固定されました。他の物には使えなくなりました。


 何か固定効果が付いたんだけど……これってもしかして俺の何か情報が変わっている可能性があるって事かな!?
 俺はちょっと不安になって、村に帰ってからベッドに入ったところで自分を鑑定してみた。

【名前】ハル
【年齢】20歳(30歳)
【種族】 神族
【基準lv】 9999
【称号】 聖女 淫乱 色情狂 神々に愛されし子 召喚に巻き込まれし者 古竜に愛されし子 世界樹の管理者
【技能】 鑑定 収納(∞) 生活魔法(火 水 風 土 闇 光)
【技能】 言語理解 隠匿 祈り(浄化 解呪)創造魔法 危険察知
【運】 幸運EX
【加護】 ****** 古竜ニライカムイの加護EX 古竜ニーズヘッグの加護EX
【生命力HP】 1700
【魔力MP】 99999
【職業】 冒険者 鉄級(収納 鑑定) 炎炎組織一員 商業者 鉛級
【備考】飛行石の所有者(固定)


 あーはい、世界樹の管理者なのでってことでそこまで簡単に行けるようにというわけか。
 つまり、異世界人の管理者が欲しくてずっと待ってたけど、誰も来なくて世界樹も弱っていたと。それで俺が来たのでそのまま任せたってことかな?
 まあ秘薬でどうにかなるなら、それくらいなら俺でも世話はできるけどなあ……。
 世界樹が何の役割をするのか、俺は知らないんだよね……かといってまた行くのも面倒ごとだろうし、飛行石はずっと収納の中だろうね。
 そういうわけで問題は何とか解決しそうだったんだけど、俺の本情報が変わりすぎていて竜種の大盤振る舞いヤバいなと思ったのだった。


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