彼方より
074
世界樹の古竜の目覚め
俺はまず起こす前に状態を確認するつもりで古竜を鑑定していた。
【名前】ニーズヘッグ
【年齢】35000000
【基準lv】25000000
【種族】竜種
【称号】世界を守りし者 竜種の王 黒の古竜
【技能】魔法 魔導 異世界干渉 言語理解 鑑定 収納 回復 結界 解呪 呪 防御~
【運】幸運EX
【加護】ニーズヘッグの加護EX
【生命力】890000000
【魔力】890000000
【備考】力を使い果たし、疲弊して睡眠中
「ああ、こいつだわ」
俺はすぐに分かって起こすことにしたんだけど、問題はどうやったら起きるのかということを聞くことができなかったことだろう。
「あいつ問答無用で送り込みやがって……」
俺は古竜をあいつ呼ばわりしたけど、どうせあいつの仕事を俺に押しつけただけのような気がしたのだ。
さて俺は睡眠中に何をされたら起きるのかを考えたけど、この竜の特徴が分からないので更に鑑定を集中して使った。
【備考】睡眠中(三千万年ほど眠っているのでちょっとやそっとじゃ起きない)
【効果】回復中のため、最高品質の秘薬があればいけるかも?
「かも?ってなんだそれ。鑑定さんしっかり!!」
俺はそう思ったけれど、秘薬があればってことは秘薬は材料があるので作れるんですよ。
「分かった、とりあえずそれをやってみよう」
俺はそう呟いて、収納の中で秘薬の材料を選んで思いっきり創造魔法を使ってみた。
ちょっと時間はかかったけれど、秘薬はすぐにできた。
「よし、いい感じにできたかな?」
俺は収納から秘薬を取り出して、それを鑑定した。
【名前】秘薬その2
【品質】最高品質
【効能】あらゆるものに聞く
【備考】神と呼ばれるものにも効果あり
どうやら上手く行ったようだったが、ここからが俺の本領発揮よ。
俺はそれを収納にしまうと、秘薬ができた状態で一気に創造魔法を掛けた。
「無限に増やしてやるからな!」
遠慮なく創造魔法を使って秘薬を複製していく。
その数、およそ千個。
バカみたいに用意すればいいんじゃないかと思ったからしたんだけどやりすぎたかもしれない。
「さあ、整ったよ……全部掛ける勢いでやらせてもらうね」
俺はそう言うと収納から秘薬を小さなバケツに取り出して、一気にバシャバシャと古竜に掛けた。
そんな雑なことをやっている間にも日は明けて暮れていくを繰り返している。
秘薬を作っている間も、それがどんどん繰り返されていたから、一年くらい過ぎていたかもしれない。
秘薬をどんどん掛けていく間も、一年くらい過ぎたかもしれない。
魔法がないので手作業でするしかなかったので俺は残り九割を掛けたところで力尽きた。
「もう、腕が動かない……」
バケツでガンガンかけたけど、古竜は起きなかった。
俺はやっぱり確定していない情報では無理だったのかと思ってちょっと気が遠くなりかけたんだけど、その古竜に掛かった秘薬が古竜の体を伝って地面に伝い、それを世界樹が吸い上げていたのに気付かなかったんだよね。
いきなり俺の前で世界樹がメキメキと音を立てて急成長を始めたんだ。
「なに、これ……!」
俺がしたことで何か世界樹に悪いことが起こっているのかと思ったんだけど、世界樹がどんどん大きく育っているのが見えた。
すぐに蔦が俺を崖の上に運んでくれたので俺は根元から逃げ出せたんだけど、見ていると来た時に見た大きさよりも二倍くらいに大きく育っているのが分かった。
「あ、やったら駄目なことしたかも……」
俺はそう思いながら世界樹を鑑定していた。
【名前】世界樹
【年齢】300000
【基準lv】200000→1200000
【種族】神樹
【称号】世界を為べし緑
【生命力】8500000→18500000
【魔力】93000000→193000000
【備考】滅茶苦茶元気になった。
「あ……」
一桁育ってしまったのかよ!!
めちゃ秘薬が効くの!?
よく分からないまま世界樹が育ってしまい、これはこれで怒られそうではある。
「こんなのドーピングじゃん……」
俺はそう思ったんだけど、若木だった世界樹はしっかりとした木の幹を付けて大きく育ち、周りにあった日に当たらなくなる木々が世界樹の木の下から遠くに離れていくのが見えた。
その世界樹の大きさに俺は崖の上からでも見上げるようになってしまったのでどうするかなと悩んだ。
大きな地殻変動が起こってからこっちの世界が変わるのが終わるまで半年ほどの日が過ぎた。
ここに来てから多分、四年くらい過ぎている気がしたが、それでもまたあの竜の元へといかなければならないと思っていると世界樹の根元から黒いものがこっちに飛んでくるのが見えた。
俺は慌てて崖の先から離れるように後ろの森に飛び込んだ。
それからすぐにドガガガッ!!と大きな土が剥ぎ取られる音がして、何かが崩れ去る音が聞こえた。
その衝撃で俺は吹き飛ばされて。地面に転がってしまった。
「……ううっ……」
俺が転がったところだったけど草が上手く受け止めてくれて擦り傷だけで済んだ。
「何が飛んできたんだ……」
俺がそう呟いた瞬間、声がした。
『君だろう? 世界樹を成長させてくれたのは』
俺はその声に驚いて顔を上げると、目の前に真っ黒な古竜がいた。
見上げるくらいに大きいけれど、長い首を俺の方に傾けて俺の顔を覗き込んできていた。
「……あ、起きたんだ……?」
『あんなに大きな音もしたし、世界樹は育って元気いっぱいだし、びっくりしたけど起きたよ』
そう言われて俺はちょっとホッとした。
「ごめんね。どうやって起こせばいいのか分からなくて、秘薬をありったけ掛けたんだ」
俺がそう正直に何をしたのかを言うと、古竜は笑った。
『秘薬だって? あはははは、随分と面白いことをするんだね!』
まさか寝ている間に秘薬をガンガン掛けられて起こされる羽目になるとは古竜も思わなかったんだろうなと俺は思ったんだけど。
『お陰で私も回復したし、世界樹も元気になったみたいで良かった』
そう言われて俺はびっくりして古竜を見上げた。
「どういうこと?」
『世界樹はこの世界の緑を守る樹なんだけど、旧神と旧支配者の戦いによって傷ついた世界を癒やすために力を使いすぎて弱っていたんだ。それで私の力を分け与えて成長を促していたんだよ』
「つまり、回復が必要だったってわけ?」
『そういうこと。私の力の回復でもなかなか世界樹の回復には時間もかかる。あと十万年は修復に掛かる予定だったんだけど……君が全部回復させてくれたみたいだね』
古竜にそう言われて俺はちょっとホッとした。
ついでに鑑定をしてみると。
【名前】ニーズヘッグ
【年齢】35000000
【基準lv】25000000→125000000
【種族】竜種
【称号】世界を守りし者 竜種の王 黒の古竜
【技能】魔法 魔導 異世界干渉 言語理解 鑑定 収納 回復 結界 解呪 呪 防御~
【運】幸運EX
【加護】ニーズヘッグの加護EX
【生命力】890000000→1890000000
【魔力】890000000→1890000000
【備考】健康状態が回復。全盛期の力を取り戻した
どうやら完全回復をしたようだった。
「そうか、元気になったのなら良かった。起こしてきてくれと頼まれただけだから、やり方を間違えたのかと思っていた。そうだ、俺はハルという」
俺がそう言うとふふふっと古竜が吹き出して笑う。
ボフボフと風が当たるんだけどまあ仕方ないか。
『私はニーズヘッグだ。でもあなたどうやってここにきたの? 簡単にニライカムイが通すとは思わないのだけど』
そう聞かれたんだけど、俺はすぐに返答した。
「あの金ピカのやつのことなら、すんなり行ってこいって言ってきて、速効で俺をここに送りましたけど?」
こっちの少しの余裕もなく、あっという間に送られたもんな。
俺がそう言うとちょっと古竜は驚いている。
『金ピカのやつ……ふふ、その通りだけど、どうしたのかしら? あら、ハルは異世界人なのね。ということは、正当な方法で苗床に辿り着いたのかしら?』
「そうですね、そう言われました。ベルテ砂漠内に昔あった遺跡が最近森に飲まれて地下施設が地上に上がってしまったようで。それを調べていたらうっかりと発動する言葉を俺が読めてしまったのできてしまっただけです。なので行き先が苗床だと思わなかったですし、そもそも来たくてきたわけではないのですが、連れがちょっとこちらの世界の狼人族で、異世界人しか渡れないところ付いてきてしまったようで、その副作用か何かで気を失ってしまっていて意識が戻らないので元の場所に戻して欲しいとお願いしたら、ここに行けと言われて、あなたを起こしてこいという意味合いと受けたのであなたを起こしました」
俺は一気に状況を説明したんだけど、そうしたら古竜にちょっと気の毒がられた。
『あら、それじゃとばっちりじゃない。大変だったね。もう大丈夫よ、それじゃ一緒に戻りましょうか』
そう古竜が言うと俺はまた飛ばされてしまった。
ふっと息を吹き掛けられたら、また苗床に戻ってきていた。
「わっ……と……」
俺は苗床に戻ってきて、どさっと床に崩れ落ちたんだけど。
「ハル!」
そうレギオンの声が聞こえてきたのでハッとして顔を上げた。
眠っていたはずのレギオンが起きていて、俺をしっかりと見て走り寄ってきた。
「よかった、レギオン。目が覚めたんだね……」
「ハルは、大丈夫だったのか……? 何だか体が薄汚れているし、それにちょっと体が大きくなってる?」
そう言われたので俺はそんなバカなと思って立ってみたら、服がちょっと裾が足らずになっている。僅か数センチだけど、服は既製品だけどそれでもちゃんと裾は合わせてあったので明らかに三センチ伸びているのが分かった。
成長期な二十歳だったので少しくらい身長も伸びるだろうと思っていたけど、どうやら向こうで過ごした数年分、身長が伸びたみたいだ。
「あー……あっちの世界でちょっと年数が過ぎたみたいで」
俺がそう言うと古竜のニーズヘッグが言った。
『あっちではちょうど十年分は過ぎていたかな。君は長寿だろうし、まだ二十歳だったから三十歳の体になったくらいは全然余裕だよね』
ニーズヘッグさん……さらっと凄いこと言ったけど、俺、感覚的には一日も経ってないのに十年分体だけ年を取ったことになるのか……。何だか複雑な気分だ。
「どうやら俺、体だけ十年分年を取ったみたいだよ。それちょっと成長したみたいだね」
俺がそうレギオンに言うとレギオンはホッとしたようだったけど、体中を撫で回して怪我がないか確認をしてくれている。
「大丈夫だよ、回復薬もあるし、危なかったら自分で飲んでるから」
俺がそう言うとレギオンは言った。
「顔に傷を作っている」
「ああ、ちょっと擦り剥いただけだから大丈夫」
俺はそう言って収納から秘薬を取り出した。
散々作って余ってるのはこれくらいだ。
「それは秘薬か?」
急に古竜ニライカムイが人の言葉で俺たちに話しかけてきた。
どうやらレギオンにも分かるような言葉を使ってくれているようだった。
戻ってくるまでにそんなに時間は過ぎてないけれど、俺が約束通りにあっちに行ったので起こしてくれた上で話し相手になってくれていたみたい。
「そうですけど……」
『この子、私を起こすのに、秘薬を沢山ぶっかけて起こしたんだよ。ふふふ、面白いよね』
そうニーズヘッグが言うものだからニライカムイが呆れてたように俺を見た。
「何という、無茶苦茶な起こし方なんだ」
そう言われてもな。
「起こし方を教えてくれなかったから、適当にやるしかなかったんですよ」
俺がそう言うとわざと言わずに送り出したニライカムイとしては文句も言えないらしく、ぐっと息を飲んだ。
「悪かった。できればその秘薬を分けて欲しいのだが」
そう言われたので俺は聞いた。
「どれだけ欲しいの? 増やせるからいくらでもいいけど?」
俺がそう言うとさすがのニライカムイもそうくるとは思わなかったのか豪快に笑った。
「面白いことを言う。ではこの中に入るだけ入れて貰おうか」
そう言われて広げられたのは、異空間だ。けどちゃんと制限はある空間みたいだ。
「じゃあガンガン適当に出すから、空間を下に置いて貰えるとやりやすいんだけど?」
「いいだろう」
空間が俺のすぐ横にきたので俺は自分の収納から垂れ流すようにしてそのまま異空間へと秘薬を流して入れた。結構ドバドバ入っているけど、異空間も結構な大きさがあったので時間がかかってしまった。
『ニライカムイは欲張りだね』
『そういうな。お前が完全復活を遂げて、世界樹も元通りになるどころか大きく育ったのだ。その秘薬を欲しがらない竜種はいないだろう?』
古竜達は和やかに話しているようだが、一応の説明を受けたであろうレギオンはまだ色々と感情が追いつかないようだった。
俺はもう二回も変なところに移動させられているから慣れてしまったんだけど、さすがに慣れろとは言えないよな。
「ハルは竜種は怖くないのか?」
そうレギオンに聞かれて俺は首を傾げた。
「怖いけど、話が通じているから怖くはないかな。ほら魔物の方が問答無用っぽいくって怖い気がするけど……」
「そうか……それならいいんだが……俺は怖いな。竜種は高い山に登れば見かけることもあるが……人と関わるはずのない古竜となればもう体が震えて怖い気持ちがなくならない」
いつも強気のレギオンがそう言うくらいだから相当怖いのだろう。
「気持ちが落ち着かないなら、レギオンも秘薬をちょっと飲んでみる? 俺も飲むけどさ」
そう言って収納からコップを取り出して俺は自分の分とレギオンの分を入れた。
「はい、これで気分が落ち着くかもしれないよ」
俺がコップをレギオンに渡すとレギオンは少し躊躇をしたけど、この気持ちが落ち着かないままなのは辛いのか一気に秘薬を飲んでくれた。
俺も一気に飲み干してみると、体のあちこちに打ち身があったんだけど、それが綺麗に治って顔にできた傷も痛みを感じなくなった。
それに疲れていた体が一気に軽くなって、体がすっと元以上に元気になった。
「いっぱいになったみたいだね」
異空間に入れていた秘薬が完全に堪ったのが見えたので俺がそう言うと、ニライカムイが言った。
「ああ、これなら当分困ることはなさそうだ。ニーズヘッグも起きて世界樹も元に戻った。ハルは我らを助け、そして我らの友になった。困ることがあれば我らを呼ぶといい。竜種はお前の存在を認める。異世界からきた聖女よ、よい人生を送るがよい」
そう言われたと同時に俺は何かの加護を貰ったようだった。
ニライカムイとニーズヘッグの双方からのプレゼントだったようだ。
そして俺とレギオンは光に包まれた。
「さあ、望み通り来た場所に帰るといい」
『またねー、ハル』
ニライカムイの声とニーズヘッグの笑い声と同時に俺たちはまた転送されたようだった。
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