彼方より 073

ニライムジナの苗床

 何かの発動により、動くはずもなかった遺跡が稼働した。
 光で目がやられてしまったようで俺は目を開けているのに周りが見えなかった。
「……う……レギ……」
 側にレギオンがいるはずだと周りに何か触れるものがないかと手を伸ばしたら何かに触れた。
 それを握って俺はしっかりと見る。
 目がやっと慣れてきたけれど、物音一つしないのに気付いて、俺はあのガゼボが何処かへの移動装置であり、それが俺がしっかりとあの文章を読むことができてしまったので発動したと察した。
 しくじったのだと分かったんだけど、俺はその後悔よりも先に心配事がある。
「レギオン……」
 俺がそう読んでも返事がない。
 恐らくあのガゼボに入っていた人が移動したならレギオンも一緒にいたので一緒に移動をしていないといけない。
 掴んだ者がレギオンの服であることを祈って俺は目が慣れるまでしっかりと目を見開いていた。
 暫くしたら目が慣れてきたのか、目の前に倒れているのがレギオンであることだと俺はしっかりと確認ができた。
「レギオン……」
 俺はゆっくりとレギオンの側に転がったままで寄り、倒れたままのレギオンの口に手を当てた。
 死んでいるように見えたのだ。
 けど息はしっかりとしていたし、気を失っているだけなのだとやっと分かった。
 俺はホッとしてからやっと周りを見た。
 それと同時にガゼボの情報を思い出す。

【名前】アルセツハントの門
【効果】人を移動させる門への動力源
【備考】ニライムジナの苗床への輸送装置。

 そうガゼボの鑑定ではそう出ていた。
 ということはニライムジナの苗床であるはずだ。
 俺はそう思って起き上がると、そこは少し暗いのだが、少しだけ明かりが当たっている気がした。
 上を見上げたら明かりっぽい光が浮いていてそれが微量の明かりを灯しているのだと分かった。
「暗すぎるな……光をもっと」
 俺はもしかしてと思って、生活魔法の光を使ってみた。
 するとその光はちゃんと反応してくれて、光は周りの暗いところも照らしてくれた。
「レギオン……大丈夫?」
 俺は明るくなってやっとレギオンがはっきりと見えるようになったので俺はレギオンを起こそうとしたんだけど、息はあるけどレギオンは起きない。
 まるで気を失って意識もここにないようなそんな感じに見えた。
「いやだ……レギオン、起きて……」
 俺はそう言ってレギオンを揺すったけれど、レギオンはそれでも起きなかった。
「何処か打ち所が悪かったとか言わないよね……レギオン」
 俺は焦り、どうすればいいのか分からずに悩んで鑑定をまずしてみた。


【名前】レギオン・ルーラ
【年齢】93歳
【種族】 狼人族(ライカン)
【基準lv】 900
【称号】 剣士 魔法使い
【技能】 剣術 火魔法 生活魔法 (収納-聖女の祝福)
【運】 幸運(小)
【加護】 獣の神ベクメ・ゼス(小)
【生命力HP】 1300
【魔力MP】 2000
【職業】 冒険者 金級 炎炎組織 白金級 組織代表
【備考】気を失っている。何者かの能力によるため、解除は不可能。


「……え?」
 何者かの能力によるってことは……何かここにいるってこと?
 俺はハッとして周りを見回した。
 ここは苗床と呼ばれている場所のはずだと俺は鑑定をする。


【名前】ニライムジナの苗床
【素材】イミル石
【備考】魔法が込められており、異世界人以外は意識を保っていられない。

 俺は床を見てまた鑑定をすると、森で見た鑑定が出た。

【名前】イミル石
【効果】綺麗に見える。魔力を貯めることができる
【備考】魔法の発動に役に立つ珍しい石。地中深くか火山の石の中から出てくることが多い。


 それから俺は上の方を見て鑑定をした。

【名前】ニライムジナの噴火口
【効果】現在は休火山のため、マグマは落ち着いている。
【備考】ニライムジナの噴火口の中にある苗床は外からは見えない。

 俺は鑑定結果から、すぐに思い出す。
「転送されてきたのなら、こっちから何処かへ転送される何かがあるはず!」
 俺はそれを探して苗床を探すことにした。
 苗床はイミル石でできている大きなガゼボだ。直径は十メートルくらいはありそうな広間みたいになっていて、端の方には落ちないように柵がある。
 俺はそこまで行ってその下を覗き込んでみた。
 するとそこにあるのは赤くドロドロしたマグマだった。
「噴火口ってそういうこと……」
 俺はそれからハッとして自分の収納から地図を取り出した。
 ニライムジナという言葉に覚えがあったのだ。
 関係ない場所を覚えることはなかったんだけど、その場所に関しては最近ロドロン公国の大公とグノ王国の国王が逃げ伸びた国がある大陸だ。
 ゼジウド大陸の北にある大きな山と森がある。
 それがニライムジナと呼ばれるものだったのを思い出したのだ。
「やっぱり……ここだ……」
 俺は地図を見てやっと自分が何処に飛ばされたのか知った。
「まさか大陸を渡るような移動装置が無造作にあるとは思わないじゃん……」
 最初にガゼボを鑑定した時にこの場所のことを思い出していれば、もっと警戒をしたかもしれない。
 俺はそれを考えて後悔をした。
「迂闊過ぎた……」
 俺はそう口にしたけど、意を決して苗床の床を這うようにして文字を探した。
 戻れるならばこの文字だ。
 あっちからくるのに文字を読むことで来られたのなら、戻るのも同じのはず。
 まさか行ったっきりで終わるわけもない。
 そう思って必死に探したのだが、文字は見つからなかった。
「なんで……どういう場所なんだよここは!!」
 俺はパニックになってそう叫んでいた。
 するとすぐ近くに何かがいる気配が急にした。
 俺はその方向を見た。
 そこは真っ暗な闇だったけれど、やがて薄らと何かがマグマの明かりに当たって黒光りをしているのが見えた。
「……竜……?」
 二十メートルはありそうな大きな竜だ。
 日本で竜と言われている蛇のようなものではなく、中世でドラゴンと呼ばれる魔物の竜だったんだ。
 それがゆっくりと首をこちらに向けてその目が開いた。
 大きな宝石のような綺麗で赤い瞳がこっちをじっと捕らえた。
 竜は瞬きを一回してから息を一気に吸い込んで吐いた。
 それは大きな風と形、苗床を揺らすようなものだったんだけど、吹き抜ける風は俺だけに当たって吹き抜けていった。
 苗床はそんな強い風にも揺らぐことはなかった。
 俺は思わず鑑定をしていた。


【名前】ニライカムイ(ドレ)
【年齢】2300000
【基準lv】1200000
【種族】古竜種
【称号】世界を為べし者 竜族の王 金色の古竜
【技能】魔法 魔導 異界干渉 言語理解 鑑定 収納 回復 結界 解呪 呪 防御~
【運】幸運EX
【加護】ニライカムイの守護EX
【生命力】95000000
【魔力】980000000
【備考】金色の古竜

 うん、もう神様でも驚かないやつだ。
 技能あたり表示仕切れてないもんな!!
 俺がそう呆れてしまったのと同時にいきなり声が聞こえた。
『久しぶりの異世界人か。何とひ弱な状態よ……ふむ、攻撃系の魔法を一切持たずとは、また特殊な……ほう、巻き込まれし者とな……ふははははは』
 どうやら俺自身も鑑定をされているのだと気付いたけれど、偽装した分は思いっきり看破されてしまっていて巣の情報が見えているらしい。
『しかも男の聖女とな……ふはははは、それがここに辿り着くとは……ふむ、遺跡の転移を使ったのか。これはまた正当な手段で蓬莱したのは初めてかね』
 そう大きな声が言ってきたので俺はハッとした。
 言語理解が技能にあった。ということは古竜種は人と会話できるのか。
 そうと分かったら俺が言うことは一つしかない。
「あの、すみません。連れが、レギオンが起きないんです……ここ、魔法が色々かかっていて」
 俺がそう言うと一瞬で察したようで古竜が言った。
『正当な方法で蓬莱する時は、異世界人以外は気を失ってしまうようになっている。そのものはただここで見聞きすることは許されないのでな』
 そう言われた。
 つまり、あの場所からやってきて気を確かにして起きていられるのは異世界人でないと無理なのだ。
「そ、それじゃ早く返してください……!」
 俺がそう古竜に申し出ると古竜は笑った。
『よもや、用事も言わず欲しいモノのなく、何の意味もないままここへくる者がいるとは思わなんだ……お前はそのものの意識を戻したいだけなのか?』
「そうです。俺がここに来たのは来たくてきたわけじゃなくて……たまたまここへ来るための文語が理解でき発音できたからです」
 俺が正直にそう言うと、古竜はふむと頷いている。
『どうやらその通りのようだな……よかろう、願いは叶えてやるが少しお前に話がある。藤本晴一、いやハルだったか?』
 そう言われて俺はそこで察した。
 この古竜は人の記憶も見られるし、今起きていることを他の竜種を使って見ることもできるのだ。
 そうだよ神と変わらないくらいの時間を生きているものが普通の感覚で生きているわけもない。
「何でしょうか?」
 俺がそう聞く姿勢になると、古竜ニライカムイが言った。
『お前に行って貰いたいところがある。なに、こちらの世界では一瞬の出来事で終わることなのだが、あちらでどれくらいの時間が過ぎるかは分からない。そんな場所にいるものを起こしてきて欲しいのだ』
「起こす?」
 俺はまさか朝の目覚まし代わりに何処かへ行かされるとは思わなかったので首を傾げたのだが、その瞬間、竜が指を翳してそこから光がぽっと出て、その光に俺は包まれてしまった。
『では行って貰おう』
「ええ、ちょっと今すぐ??」
 俺が驚く間もなく、俺は古竜によって別の場所に飛ばされてしまった。



 また眩しく光る中に放り出されてしまい、俺は戸惑ったんだけど、今度こそ一人である。
 気を引き締めてレギオンを助けるためには、ここで何かをしなければならない。
 俺はそう気を引き締めてから前を向いた。
 しかし周りは霧が掛かっているのか、起こす人は見当たらない。
「ここで誰を起こすんだろうか……?」
 俺がそう呟いた瞬間、一気に霧が俺の方に向かって流れ始め、ざわざわとした感覚が体中に走った。
 びっくりして目を瞑っている間に、何だか空気が変わったので俺は目を開けた。
 すると目の前には大きな木が立っていた。
 その大きな木は、青々とした木で白い幹をしている。
 立派な様相だったけれど、まだ若い木のような気がした。
 俺はそれに近付いていってみると、思ったよりも大きい木であることが分かった。
 というのも、木の根っこだけでも三十メートルくらい広がっているように見えたからだ。
 どうやら俺は木の上の方の小さな先だけを見ていたようで、俺が立っている場所は崖の上だったのだ。
 その木はまるで世界樹のような大きさだと思えた。
 大きな森の真ん中にあり、他の木よりも大きくて飛び抜けているのが見えた。
 それでもこの木は若木だと分かる。
 俺は鑑定を使っていた。

【名前】世界樹
【年齢】300000
【基準lv】200000
【種族】神樹
【称号】世界を為べし緑
【生命力】8500000
【魔力】93000000
【備考】疲弊している。

 古竜よりは若いのは分かった。
 やっぱり世界樹で間違いない。
「それで何を起こすんだろうか?」
 俺がそう思っていると、世界樹の周りの緑が一気に道を作り開いたのだ。
 スルスルと蔓が俺に近寄ってきたのでそのまま受け止めると蔓は俺をしっかりと抱くように巻き付いてきて開いた緑の中を飛ぶように運んでくれる。
「わあ、ファンタジーだな~」
 この世界にきて初めて空を飛ぶとか、珍しいことが身に起きた気がした。
 それまでとは違う世界で俺はちょっと浮かれたんだけど、そういう場合じゃないと思い直した。
 早く帰らないとこっちでどれだけの長さの時間を過ごす羽目になるか分からないと言われたことを思い出したんだ。
 あっちでは一瞬でも俺の心が時の長さで変わってしまうかもしれない。
 それによってレギオンやイヴァン、アッザームが違和感を覚えて俺の事を手放すかも知れないと思ったら怖くなったのだ。
 蔓は一気に世界樹の根元に俺を連れて行ったんだけど、その根元には竜が眠っているのが見えた。
 真っ黒の大きな古竜だ。
 俺が近付いても起きてくる様子もなく、近付いていいのか分からず、俺は少しだけ気配で起きてくれるかなと思って待っていたんだけど、起きてはくれなかった。
 そして一気に日が暮れて、そして日がまた上がってくる。
 それが十分程度で続いていくのだ。
「うええ、こっちの世界の一日が早いのかよ!!」
 それは聞いていないと思って俺は慌てて起こすのはこの古竜なんだろうと思ったので行動することにした。


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