彼方より
071
ジニ族の問題、謎が増える
ワイワイとお土産でジニ族の人達が盛り上がって、その夜は俺も歓迎は受けた。
俺が村に住むわけではなく、アッザームの里帰りに合わせて収納を使った荷を運んできただけだと分かったら、余計に村人が俺にはフレンドリーになった。
俺はそんなふうに近寄ってくる人を申し訳ないが一人一人鑑定をした。
全員鑑定をして欲しいと言われたので見かける人を鑑定しまくって、また果物を囮にして出てこない人を呼んだり、年寄りの方は村長などが協力して会わせてくれた。
そのお陰で約135名までは鑑定し終わったんだけど、問題が残ってしまった。
それはカイラーさんたちである。
カイラーさんはもちろん、それに従っている手下らしい子らがなかなか村の中央に出てこないので俺から行くしか方法がないんだけど、行く理由がないのだ。
仕方ないので後回しにして、分かっているだけでもヤーブの民の称号が消えている村人を全員しっかりと調べた。
まず確かに昔はヤーブの民であることは間違いない人にも聖女の奴隷の称号は付いていたこと。
あの騒動時に全員を調べたそうなので間違いないと医者のサージドさんは確認をしたんだそうだ。
ただ村人全員にそれが現れた時、女神の祝福だと思った人もいたけれど、そう感じなかった人もいたんだとか。
ここが分岐点なのか、その聖女の従者になった時は女神の祝福は感じなかったので奴隷から従者になっていることを知ったのはごく最近だという。
アッザームから奴隷という称号が採れたという話を聞いたことから調べ直したところ、確かに聖女の奴隷は全員なくなっていたけれど、聖女の従者とそれが付いていない者がいることに気付いたんだとか。
けれどそれに関わる人達の変化と言えば、それを機に村を出たがる人が増えたことだろう。
元々カイラーさんが村にやってきたことで、村人の外界への憧れは大きくなっていたのもあったらしいんだけど、それが急速に進んだみたい。
年を取った人からすればそれは天変地異と言えるくらいには衝撃が大きいのだろう。
「それまで私らは外へ出たいとか、街へ行きたいとか思うこともなく、村のためにと思ってやってきた。それが若い者にはないみたいに外へ行きたいと言う。それが信じられなかったのだが……ヤーブの民でなくなっていたのなら、それは自然な流れなのか」
村長のアーディルさんがそう悲しげに言うのだけど、族長のアーリフさんはこんなことになって村が終わると悲しんでいる。
「こんなことになったら、村の半分は出て行くことになる。若い者はほぼその傾向がある以上、村には止まっておらんだろう……もうヤーブの民は終わりだ。アッザームも戻ってこず、あんたが聖女とはいえ、それに従って村を出て行く。儂らの後はアクラムが村長になるが……うちはカミールもカラムも……ヤーブの民ではなくなってしまった」
族長にとって最悪なのは自分の息子達がヤーブの民でなくなったことだったみたいだ。
跡継ぎがいなくなり、族長の跡継ぎはいなくなったと言えた。
だからか酷く落ち込んでいたし、動揺も隠せない。
よく分からない聖女の奴隷が発動して、それが解呪されたらヤーブの民が消えるなんて俺でも予想外過ぎてどうしたらいいのか分からない。
とりあえず俺はアッザームたちに頼んで、過去に森の遺跡に言ったことがあるか聞いてみてくれと頼んだ。
「アッザムは行ったことあるの?」
「近くまではあるが、遺跡に興味がなかったから中には入ったことはない」
アッザームって昔から何にも興味があんまりなくて、魔物を狩ったり、盗賊を討伐したりする方が怒りを向けられるのでそっちばかり気にしていたそうだ。
「アフマドくんは?」
「俺も行ったこともない。あそこは別に俺たちに関係がある遺跡ではないし、興味がなかった」
と言うのでタージュさんたちにも聞いたらやっぱり近くまでは狩りで行くんだけど、それだけで遺跡に興味がなかったという。
「何だか変だな……」
俺は何か引っかかる気がしたんだけど、何に引っかかったのか分からなかった。
「何がおかしいんだ?」
「うん、まだはっきりしてないから後でね」
俺はイヴァンにはそう言ってアッザーム達の報告を待った。
ちなみにレギオンは持って来た料理が美味しかったと言われて、朝から料理教室を開いている。
村人は美味しいものに興味を示しているけれど、そうやって寄ってくる人を上手くレギオンに引き留めて貰って鑑定をしたんだけど、その中でちょっと興味深いことが分かったんだ。
「美味しいものを欲しがって習いに来ている人はヤーブの民じゃなくなっている人が多い」
俺は村人が質素な生活をしているとずっと思っていたから、持ち込んだ肉や果物は時々食べられる贅沢な物扱いだと思っていたんだけど、最近は商人のサーディクさんが色々持ち込んでくるし、それにカイラーさんが使い方を教えるそうで、どんどん物を欲しがって、結局冷蔵庫まで行き着いたんだとか。
もちろんそれがあれば色々便利だとは分かっているんだけど、そうやって村ならではでやってきたことが近代文明に取って代わられる事態で、それも族長はよしとしていなかったらしい。
でもアフマドくんたちは便利な物は入れた方がいいという考えで、結局俺に買わせたんだけども。
それで生活がガラッと変わるかといえばそこまで変わるわけでもないみたい。
質素な生活は続いている。
でもそれに若い人が参加をしていないことに俺は気付いてしまったんだ。
ヤーブの民として普通にしてきたことに、ヤーブの民ではなくなったから我慢をしなくなったとも言えた。
「ハル、分かったぞ」
アッザームが調べてきてくれたことによると、遺跡に興味があるのは若い人ばかりらしい。
何でもカイラーさんが遺跡に興味を持って若い人を連れて何度か調べに行っていたらしく、それでその遺跡は一万年以上前の何かの装置だと分かったらしい。
ただそれだけのことだったみたい。
「へえ、遺跡ってそういう古代文明の後だったんだ?」
「ああ、それで若いやつらが肝試し感覚で出かけていたらしい。俺らの時代にはなかった風趣だから、ここ十年程度で流行ったことらしい。だからヤーブの民ではなくなって、聖女の従者ではないものは、全員遺跡に行っていることが分かった」
でも遺跡に行ったからヤーブの民ではなくなったわけではないことが分かる。
「俺は行ったことがあるぞ」
そう言ってきたのは俺たちの護衛をしてくれたニザールさん。
「昔、雨除けのために入ったことがあるんだが、白いガゼボみたいなものが幾つかあって、そこによく分からない文字が書いてあるだけなんだ」
「そうなんだ……文字か……あれ、俺もしかして読めるかも……」
俺はそう呟いた。
そう俺には言語理解の技能がある。これは言葉や文字には困らないという便利機能なんだけど、この世界で俺が言葉や文字を見ても理解できるように神様が付けてくれたものだ。
異世界人はほぼこれを持っていて、この世界の言葉を日本語として理解して話したり文字を書いたりできるわけ。
俺はこの世界によく分からない文字があるのを知らなかったんだけど、今よく分からない文字と言われたのでこの世界の今の時代の人は読めない文字があることを初めて知った。
「あ、そうか言語理解……ハルにはそれがあるか」
イヴァンがそう言って俺が特殊であることを説明した。
「ハルはこの世界の古代文語まで普通に読んでたからな……」
「え、マジで?」
俺には全部が同じ日本語になっているので違うことが分からないのだ。
「ああ、あの書斎にある本は、割と貴重で古代文語などで書かれた物が大半だ。ハルはどれを見ても平気で読み解いたぞ」
アッザームがそう言うのでそう言えば、アッザームが興味あるときは俺に聞いてきていたけど、見れば分かるじゃんって思ってたけど、分かってないので聞いてきたのか!
「そうだったんだ……気付かなかった」
まあそれはいいとして、俺ならその遺跡の文字が読めるかも知れないけど、それは後回しで。
「その遺跡に行った若い人はそこで何してたんだ?」
俺がそう尋ねると肝試しの内容がよく分からないので聞くしかなかった。
「肝試しとは言っても、ガゼボに上がってから書いてある文字に触るんだと。そこで『入ります』と言うらしい」
そう言われて俺はキョトンとした。
入りますってどういうこと?
すると意外な反応が俺の周りに起こった。
「なんだその言葉は?」
「聞いたことがない響きだな」
「村の言葉でもないな」
とイヴァンもアッザームたちも皆首を傾げているんだよね……。
俺だけもしかして言語理解で分かってるパターンってことこれ?
「その合い言葉みたいなのは、誰が思いついたの?」
俺が自分が分かっていることは黙っていて、その言葉を誰が持ち込んだのか聞いた。
「カイラーらしい」
「あー、街から持って来たパターンかな」
俺がそう言うとイヴァンが言った。
「もしかしてハル、意味が分かってる?」
そう聞いてきたので全員がこっちを振り返った。
俺はしまったなと思ったんだけど頷いた。
「やっぱり分かってたか……どういう意味だ?」
イヴァンにそう聞かれて俺は素直に答えた。
「入ります」
「え?」
「だから、入ります、って意味なの。何処に入るのか分からないけどさ」
俺がそう言うと、ますます皆訳が分からないと言うような顔をしていた。
「何処に入るんだって言うんだ」
「分からないけど、それで何か起こったわけじゃないから意味はないのかもしれない」
俺がそう言うと確かにそうだなとなったけど、そこに行った全員は聖女の奴隷になる前にそこを訪れていて、それから聖女の奴隷になっているので、あんまり関係がないのかもしれない。
てっきり遺跡関係はありかと思ったんだけどなあと俺はちょっとがっかりした。
それでも結局、遺跡に行っていない、若しくは肝試しに参加していない人はヤーブの民のままである偶然は残っていて、特に年老いた人はどの人もヤーブの民だったからね。
彼らも過去には遺跡には行ったことがある人もいるけど、雨宿りに入った程度で何かあると思って調べたことはないし、興味もないと言った。
そんなこんなで俺たちが妙なことを調べていることは村人たちに広がって噂になってしまったから、とうとうカイラーさんたちの耳にも入ってしまったようだった。
「遺跡に興味があるのかい、ハルくん」
そう言って村の中央の食卓で俺たちが話しているとそこにカイラーさんがやってきて俺にそう聞いてきた。
「あー、何か面白そうだなと思って皆に話を聞いてました。古代遺跡らしいけど、俺はそういうのは見たことないので」
と、俺は異世界人だから、この世界の古代文明をもちろん知らない。
だからちょっと興味があると言えば、カイラーさんも不審には思わなかったらしい。
「何なら教えてあげるけど」
「どんな遺跡なんです?」
俺は素直にカイラーさんと話してみることにした。
向こうから出てきてくれたなら鑑定もできるってもんでラッキーと言えた。
それに何故かカイラーさんの側にはフリヤールさんも付いてきてくれているし、何ならずっと会わなかったカイラーさんたちの腰巾着らしい人達四人にも同時に鑑定ができそうだった。
「遺跡とは言っても一万年前のものだってことくらいが、魔導具を使った年代調査で分かったくらいで。そこには沢山理解できない文字が書いてあるから、それを写したりしてるんだけど。まだ古代文書とか取り寄せてみてるけど、はっきりとしたことは分かってないんだ」
どうやら何も分かっていないけど、一万年前の物であることは確定しているらしい。
それを色んな言語で調べているらしい、カイラーさんはというと。
【名前】カイラー・ヘンケン(ラガド・ヘルケン)
【年齢】140歳
【基準lv】350
【種族】魔族
【称号】考古学者
【技能】収納 水魔法 光魔法
【運】幸運(小)
【加護】堕落の王イェ・リク=ルドルの加護(小)
【生命力】650
【魔力】480
【備考】ジニ族の村の歴史などを調べている。
カイラーさん、魔族だったんだ……魔族って初めて見た気がするけど、もしかして人族とあまり見分けがつかないのだろうか?
それより名を偽っているところがかなり怪しいんだけど……でもカイラーって名前も表示されてるってことは改名したかなのかな……。
更にカイラーさんたちに気付かれないように必死に笑顔を保って何とかフリヤールさんも鑑定した。
【名前】フリヤール・ヘンケン
【年齢】160歳
【基準lv】350
【種族】ジニ族
【称号】堕落の王イェ・リク=ルドルの誘惑(恋)
【技能】火魔法 生活魔法
【運】なし
【加護】なし
【生命力】450
【魔力】500
【備考】恋に恋している。息子にアーリムがいる。誰よりも息子を愛している。
何か変なの付いているなあ。
やっぱり称号のヤーブの民は消えているし、聖女の従者もないな。
やっぱり遺跡に手伝いについて行っているっぽいし、何か砂漠の神ゾホニ・ヤーブの機嫌を損ねたんかな?
それしか考えられないけど……そういう場合って大体他の神様に浮気をした時くらいじゃないかな。
ん? 遺跡ってそういう意味の遺跡なら、ありえるってことかな。
ということは、カイラーさんはそれを知ってるのかな?
遺跡であることをすると、ヤーブの民ではなくなってしまう……そんなことがあるのだろうか?
若い人は肝試しに行っているから分かるけど、遺跡には行ったけどそれだけの人までヤーブの民ではないってことは……やっぱり黙っているだけで何かやったのかもしれない。
ほら日本でも神社とかで神様の機嫌を損ねたら大変だって言うじゃん。
だから一杯敵意がないことを示すんだけどさ。
このことは族長にも報告しなきゃと思ったんだけど、その前にカイラーさんから提案が出たのだった。
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