彼方より 070

ジニ族の村、ヨルリ村の問題

 俺たちが土産物を一斉に並べだしたら、俺たちをちょっと気味悪がってみたいた村人たちも段々と出てくる家具や貴重品が目に入ったのか、どんどん寄ってきて村の中は大盛況になった。
「慌てないで大丈夫だから、魔導冷蔵庫は一家に一台は行き渡るから……慌てないで」
 俺が出す物出す物、全部その場でさっと消えていってしまうから俺も収納から取り出すのに必死になってしまった。
 ベッドとかはもう配達しないと運べないって言うんで、俺が直接ベッドを入れ替え、魔導冷蔵庫を置いて、家具もいくつか並べてから一軒一軒回る羽目になった。
 許可を取ってなかったけど大丈夫かアフマドくんに聞いたけど。
「いいに決まってる。俺が見てるんだから大丈夫だ」
 と言うので見張って貰いながら家を一軒一軒回った。
 結構村も広いけど、空き家も結構ある。
 何でも村人はほぼ十五の家族関係で成り立っているのだとか。そして一夫多妻制なので三人の妻に子供は六人など大所帯なわけだ。
 でも村はとても元気そうな感じだったんだけど、ある一つの家に行くと、アフマドくんがちょっとだけ離れたところに立った。
「俺はここにいるから」
 そう言うのだ、
「俺が行くよ。ハル、その先に一軒だけ離れた家族が住んでいる」
 そう言われたので行くと、既に誰も住んでいないであろう家が少し崩れているのが見える村の森にちょっと飲み込まれそうな位置にある家に向かった。
 するとそこには若い村人が五人ほどいた。
「なんだ、タージュさんかよ。そいつら誰だ」
 俺とイヴァンとレギオンがいるから警戒をしているようだったが、タージュさんが気軽に言った。
「聞いているだろう、アッザーム様の客だよ。ちょっとだけ村に居るだけだ。そうそう、フリヤールが冷蔵庫を欲しがっていただろう? 他にも家具を買ってきて村人に分けているんだ」
 タージュさんの言葉に彼らはちょっと驚いている。
「は、持ってねえじゃん」
「だから収納にしまってるから」
「じゃあ、出せよ」
 そう言われたので何か偉そうだなと思いながらも遠慮なく、荷物を出してやった。
 冷蔵庫にベッドに机に長椅子に絨毯に食べ物まで一気に出していったら家の中からフリヤールと呼ばれていた女性が出てきた。
 まだ若い子だったけれど、その彼女の隣には俺がよくレテカの街で見るような町人のような人が寄り添っていた。ジニ族しかいないはずの村に、最近入ってきた街の人というのはこの人のことなのだろう。
 だって肌の色が明らかに村人ではないのだ。ジニ族ではないからか、隔離されたここに住んでいるのだろうか……。
 状況はよく分からないけど、それでも男性は全く困っているようではなさそうだった。
「君が、客人の人達かい? 俺はカイラー・ヘンケンだ。こっちがフリヤール、俺の妻だよ」
 そう言われて俺はちょっと驚いたけど名乗って挨拶をした。
「俺はハルです。こっちはイヴァン、こっちがレギオンです。暫くですがよろしくです」
 俺がそう名乗るとカイラーさんの目がちょっと輝いた気がした。
「へえ、君がハルかあ。可愛いな矮人族にしては大きくないし……」
 そう言われたので俺は正直に答えた。
「異世界人種なので、こちらの世界の体型はしてないです」
 俺がそう言うと周りがちょっと騒めいた。
「おい、そうだとすれば」
「いけるんじゃないか?」
 などと言い出したけど、それをカイラーさんが止めたのだ。
「ダーウード、悪いけどその荷物、家の中に運んでくれる?」
 カイラーさんがそう言うとハッとしたようにダーウードさんが荷物を運び始めた。
 それを見ながら俺は食べ物まで出してしまったら、カイラーさんが俺に言ってきた。
「異世界人ってことは召喚で呼ばれた勇者?」
「いえ、俺は「巻き込まれし者」なので勇者ではないです」
「ああ、そうなんだ……そうか」
 カイラーさんはそれを聞いてちょっと残念そうな顔をしたけど、俺が出した土産の中に懐かしいものや果物があるのを見てちょっと気を良くしているようだった。
「それにしてもよく持って来てくれたね、ありがとう。フリヤールの欲しかった冷蔵庫も助かる。でも俺が一番助かるのは寝具だよ。本当に助かる」
 カイラーさんがそう言うと果物を持ってから聞いてきた。
「これ、君たちが採ってきたのかい?」
「そうです。ラヅーツの森の産物です」
「そうか、ありがとう」
 カイラーさんはそう言って和やかに笑う。
 凄く気を遣っているのは伝わってくるので俺はすぐにお暇をした。
「美味しいので食べてくださいね。それじゃ」
 俺はそう言って踵を返すと側の空き家から子供が飛び出してきて、カイラーさんのいる家に飛び込んでいった。
 どうやら二人の子供らしいが、完全にジニ族とは言えない様相だったので苦労しているんだろうなと俺は思った。
 きっとここに客に来る人はいるんだろうけど、住む人はいなかったんだろうな。
「フリヤールは村の商人の子で、一人っ子だったから親が手元に置きたがってね」
 タージュさんがそう言うので俺はああそういうことなのかと思った。
「でも村の人達は外から来た人が側にいるのは怖いって事かな?」
「そうだね。そうなんだけど、俺はそれだけではないと思ってるよ」
 タージュさんがそう言う。
「根拠は?」
「アフマドが警戒をしてる。入り口であったアクラムがカイラーと懇意にしてるのをよく思っていないのもあるが、アフマドの勘は外れない。アフマドがあいつは駄目だと言うなら俺たちからすれば駄目なんだろうなってことだよ」
 そう言われたのでちょっとそれは可哀想だなと俺は思った。
 でも村人の気持ちも分かる気がして、それについて口出しする権利は俺にはないなと思った。
 それからまた村の中心に戻ると、出した肉料理で村人が大騒ぎを始めている。
「すまないな、まだ話合いが続いているので、アフマド後を頼む」
 族長のアーリフがやって着てそうアフマドに声を掛けてきたのだけど、そんなに話すことがあるのかなと不思議に思っていたらアフマドがいった。
「アッザム兄さんを引き留めるための話合いに決まってるだろ」
 そう言われたので俺はやっぱりそういうことになるのかとちょっとフッと息を吐いた。
 俺がアッザームの運命を変えてしまったのは間違いないけど、アッザームが村の人のために生涯をここで終えると言われたら俺は泣いても止めることはできないんだろうな。
 そう思えたら何だか辛くなって、イヴァンとレギオンの手を掴んでいた。
 でもそのイヴァンとレギオンの美貌に村の人は呆けてはいなかった。近付いてきて猛烈にアピールを始めてしまった。
 俺は小さいし年齢聞かれて答えたら対象外になったみたいでお酒も出して貰えなかったけども。
 イヴァンもレギオンも滅茶苦茶モテているんだけど、どうも村の女性は口説くのと同時に村から連れ出してほしいというようなことを言っている。
「私を選んで一緒に外の世界へ」
 みたいなことを必ず皆が口にしているから俺はちょっとどういうことかなとタージュさんに尋ねたら、どうも村では外の世界と積極的に関わらない派と関わっていこうという派に分かれていて、村長は慎重派ではあるが関わっていこう派で、族長は関わりを増やすべきではない派らしい。
 どうやらフリヤールさんとカイラーさんの扱いを可哀想だと思っている人と、それを当然だと言って村八分にしている派でも分かれているんだけど、女性は好きな人と添い遂げているフリヤールさんには尊敬をしているが、村を出ればよかったのにと思っているようなのだ。
「何だか女性も村も大変だね」
 俺は何となくそう言うんだけど、女性達がイヴァンとレギオンに群がっているから俺はタージュさんと一緒に隅っこでご飯をちびちび食べているしかなかった。
 まあ、村の真ん中で俺がどうこうなるわけではないだろうし、タージュさんだけではなくアフマドくんもいるんだけどもね。
 アフマドくんは村の女性にはちょっと人気がなさそう。
「偉そうで怒鳴るのであんまり人気はないんですよ。アッザーム様もちょっと前は荒くれてましたのでね。でも落ち着いて戻ってきたから、きっと縁談の話が上がってるんだと思いますよ」
 タージュさんが俺が不安そうになるのを面白がっているような気がして俺はタージュさんを睨む。
「アッザームがそれでいいと言うなら、俺に何が言えるんだよ」
 そう俺が言うとタージュさんは意外そうに言う。
「止めないんですか?」
「だから、色々あったんだけど、その上でアッザームがこっちがいいと選んだなら俺はそれを尊重するっていう話だよ」
 俺がそう言うと、向こうから村長とアッザームがやってきた。
 族長のアーリフさんは顔だけ見せてさっと引きこもっていった。
 親切な割にあまり歓迎されていないのは村に色々持ち込んだせいかもしれない。
 余所者はあくまで余所者なのだろうね。
「ハルさん、沢山の物資を運んでくださってありがとうございます。それに代金も出してくださったとか」
 そうアーディルさんに言われたので俺はこそっとアーディルさんに言っていた。
「あの聖女の奴隷の件……本当に申し訳なく思い、その謝礼に受け取って貰えると有り難いのです」
 俺がそう言うとアーディルさんは目を見開いた。
「まさか……あなたが……」
「はい、そうです……ですが他の人には……」
 俺がそう言い、広められると色々と面倒になると付け加えたらアーディルさんはそれで納得してくれた。
「確かに言わない方がいい。そうかそれでアッザームは……従者になったのか……」
 どうやらアッザームの中の称号が聖女の奴隷から聖女の従者になっているのには気付いたらしい。
 でも問題はそれだけではなかったんだ。
 少し村の外れでアーディルさんと話したんだけど……。
「実は聖女の奴隷が消えた時、称号に何も残らないものと、聖女の従者としてアッザームと同じように残ったものが存在するのです……」
「……え」
 てっきり聖女の奴隷が解かれた人は全員が聖女の従者になっていると思っていたんだけど、そうである者とそうでない者が出ているって?
 どういうこと?
「さすがに理由は分かりませんか?」
「いや、そもそも俺はアッザームの聖女の奴隷を解除しただけだから……他の呪いみたいなことはやってないんだけど……どうして従者とそうでない者が分かれたのか……分からないです……その村では何か違いでもありますか?」
 そう尋ねたら村長は少し暗い顔をしている。
「実は……聖女の従者が残っているものは今までと変わらないのですが……ついていない者は村を出たがっているんですよ……その、恥ずかしながら、ヤーブの民ですらなくなっているものさえ現れ始め……」
 さすがにそれは予想外の出来事だった。
 ここにいるものたちは全員村人である。なのでそれまでは全員がヤーブの民だった。
 それが聖女の奴隷を解呪された時に、ヤーブの民の称号も一緒に消えたものがでたのだ。
 その鑑定を行えるのは医者のサージド・ウータ・バーシーと商人のサーディク・アル=カフターニーだけなんだそうだ。
「サーディクは商人だから物には鑑定をするが人の鑑定はしない。だからまだ気付いていないが、サージドは気付いた時に報告をしてくれ、その後そうであるものとそうでないものを分けて記録を付けてくれていた」
 俺にこんな重大なことを話していいのかと思ったんだけど、俺の呪いみたいなものが原因でそうなっているから理由を聞きたくて村に招き入れてくれたんだろうなと察してしまった。
 でも俺がこの状況を知ったのは今日が初めてである。
 というのもタージュさんたちは皆、聖女の従者ではあるんだけど、影響を受けているようではなかったんだよね。おかしなところはなかったと言える。
 でも称号がなくなった人の方がおかしくなっているとなると原因は俺以外にもありそうではある。
 もちろん、貰った称号が消えることもあるし、何かあれば剥奪されることもあるんだそうだけど、ヤーブの民というのは血筋で繋がっているのだから、消えるわけがない称号である。
 それが消えることがあるなんておかしすぎる出来事だ。
 その原因を知りたいと俺を縋る気持ちは分かるんだけど、何をどうすればそれを調べられるのか分からない。
 村は俺が持ち込んだお土産のお陰で盛り上がっているんだけど、そこはイヴァンとレギオンに任せて、俺はアーティルさんとアッザームに連れられてアーディルさんとアーリフさんがいる部屋に連れて行かれてしまった。
「何か原因が分かれば……」
「あの、原因が分かるとかではないんですが、過去に称号が消えた人なんて記録はないんですか?」
 俺がそう聞くと、医者のサージドが部屋に入ってきて言った。
「五百年前に一人いたな。だが何か、触れてはいけないものに触れてしまったという記録しかない」
 そう言われて、俺はその何かは何だ?と首を傾げてサージドさんに聞いていた。
「森の中で遺跡に触れたと言っているが、今までそれに触れた者は沢山いる。儂も子供の頃に森で狩りをしていた時にそこへ行ったことあるし、遺跡に触れたこともある。だが儂は未だにヤーブの民だ」
 そう言われてしまったんだけど、俺はその遺跡が気になった。
 もしその遺跡の普通の人が触れるところではなく、誰も触れないところに触れた可能性もあるからだ。
「その遺跡が関係しているか分かりませんが、俺が鑑定をし直して見てもいいですか?」
 俺がそう言うと、アッザームが説明をしてくれた。
「ハルの鑑定は、俺たちの鑑定とは違って、他にも俺たちに見えないものが見えていることがある」
 そう言ってくれたのでアーディルさんはそれを許可してくれた。
「いいだろう。アーリフも構わないか?」
 そう言われた族長のアーリフさんは渋々頷いた。
 今やそれを拒んでいる時間はない。
 下手すればヤーブの民である村人がどんどん訳も分からずヤーブの民ですらなくなってしまうかもしれないのだ。
 それはジニ族であることすらも揺るがすような大きな問題になってしまうのである。
 俺は大役を引き受けてしまったけれど、それでもアッザームがそれを望んでいるなら、これくらいは聖女の奴隷にしてしまった結果、こんなことが起こっているんだから助け手を出すべきだと思ったんだ。


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