彼方より 067

意外な結末と技能解放祭り

 俺は倉庫街で黒の外套を着た暗殺団からジニ族たちのお陰と倉庫の兵士によって救われたんだけど、仕事を依頼してきたお爺さんが俺に小刀を向けているから逃げられなくなった。
 それを見たアッザームが激高しているのが分かる。
「……ハルに傷一つ付けてみろ、真っ二つに切り裂いて殺してやるからな!!」
 アッザームがそう殺意を本気で見せてお爺さんを脅した。
 お爺さんは俺に小刀を向けたまでは多分やる気だったみたいなんだけど、その威圧にビクリとして小刀を落としてしまったんだよね。
 俺はそれをすぐに取り上げて遠くへと放り投げた。
 それはアフマドくんが拾ってくれたのでもう大丈夫だ。
 お爺さんはというと、その場でわんわんと泣き出してしまったんだ。
「どうしてこんなやつらの仲間に……」
 俺がお爺さんに聞くと、お爺さんは泣きながら語り始めた。
 それによると。
「モルトのやつがトルブレ商会を俺の店の近くで開いたせいで、俺の店の客が全部取られたんだ!! だからあいつを困らせてやろうとずっと思っていたのに、俺を助けようとしやがって!! 悔しいからお気に入りの配達師を殺してやればいいって言われたんだ!!」
 どうやらモルトさんたちを憎んでいるらしいんだけど、モルトさんがレテカにきたから店が繁盛しなかったって言うのは違う気がした。
 だって……お爺さんの店、ほぼ骨董品に近い魔導具とか扱ってたんだもん。
 俺は店の荷を整理して持って来たから大体は分かるけど、モルトさんのところで扱っているものよりも明らかに千年くらい品質が違ったんだ。
 お爺さんは矮人族だから、恐らく八百年近く生きているんだろうけど、恐らくずっと同じ店を製品もほぼ変えずにというか、売れなかったのでそのまま飾って売っているつもりだったんだろうな。
 そりゃ骨董品を集めたい人は買いに来るから、時々物が売れるんで生活はできていたんだろうけど、魔導具も最新版をモルトさんが仕入れてくるようになったから骨董品には見向きもしない街の人が品を求めてモルトさんの店に殺到しているのが見えて、ずっとそのせいだと思い込んじゃったんだろうね。
 モルトさんは二年前にここにきたばかりの新人さんだしね。それが売れ売れしてるんじゃおかしいと思ったんだと思う。
 でもそうだと信じているお爺さんにはモルトさんの親切は仇になってしまったわけだ。
「その爺さんはこっちで預かろう」
 倉庫の兵士であるガネットさんがお爺さんを拘束してくれた。
 倉庫街の中で起きたことなので、後始末はガネットさんに任せた方がいい。
 スパイだった倉庫の兵士のサーンドさんも拘束されている。
 アッザーム達が倒した暗殺酒軍団の人は外套を剥いで、身元が分かるものがないか見覚えがないかなどを確認するために倉庫の兵士とジニ族たちが色々やってくれた。
 全員死亡が確認されたけど、装備だけは明らかに暗殺者と言えるような武器持ちだったようで、兵士達は騒めいている。
「こりゃ、暗殺者だな……」
「盗賊の格好じゃねえな」
 そう言い合っているのが聞こえた。
「てことは、ハルが狙われたってことか?」
 ガネットさんがそう言ったので俺は頷いてから。
「ブラン組長からも領主からも話があると思う」
 俺がそう言うと、ガネットさんは察してくれてこの倉庫商会を経営している商人ガリッタ・ヘルセンに連絡を入れてくれた。
 冒険者組合にも連絡を入れてくれたから、ブラン組長がやってきたし、ガリッタさんも慌ててやってきてくれた。
 こんな倉庫街なので、他に人はいないため、遺体はそのままだったし、倉庫の兵士も忙しそうに見回りをしているから、臨戦状態だった。
「やっぱり暗殺者が出たか」
 ブラン組長とガリッタさんは説明を受けて納得はしてくれたけど、ガリッタさんからすれば襲撃されたなどという噂は広めて欲しくないところだったみたいで。
「だったらこれは内密の出来事ってことか?」
「ああ、領主もきっと公にはしない」
「ならいい」
 ガリッタさんはそう言って納得をしてくれた。
 それから俺を見つけて近寄ってきた。
 ガリッタさんは倉庫商会ヘンセルの会長であるデッカー・ヘンセルさんの弟さん。デッカーさんはカザの街で商会をやっていて俺ともかなり親しくしていた。
「兄貴からは聞いている。お前がハルか?」
「はい、俺がハルです。今回は申し訳ありません」
 俺は謝ったけれど、ガリッタさんは豪快に笑った。
「まあ、お前も大変だったな。うちとしては公にならないで、兵士の訓練になったと思えば、それはそれで事は治められるからいいんだとよ。兄貴にはくれぐれもお前に粗相のないようにって言われてたんだよな」
 そう言われて俺はちょっと嬉しかった。
 デッカーさんが俺がレテカでも同じ仕事をすると踏んで知らせてくれていたみたい。
「確かにこの量の荷が余裕で運べるとは、うちで働いてくれたら嬉しいんだけどね」
 そう言われていきなり引き抜かれそうになったんだけど、アッザームがむっとして止めてきた。
「ハルは俺たちのだ。あんたにはやらん」
 はっきりとアッザームによって断られてもガリッタさんは大笑いしただけだった。
「困った時はいつでも歓迎だ。そっちのジニ族の兄ちゃんもな」
「ありがとうございます」
 何だかガリッタさんも豪快で面白い人だったな。
 結局そのまま遺体は麻袋に入れて俺の収納で運ぶことができた。
 死んでたら人も入る収納なのでちょっと怖いんだけど、生きている人は入れられないことが分かっただけでもちょっと収穫かな。
 その遺体は冒険者組合の霊安室みたいなところに運ばれた。そこで色々調べるみたいだ。
「ハル、悪かったな」
 ブラン組長がそう言うんだけど、俺も分かっていて受けた仕事だったので首を横に振った。
「俺はいいんですよ。でもジニ族の人達にはそれなりに便宜を図ってやってくださいね」
 そう俺が言ったらアフマドくんが滅茶苦茶驚いた顔をしていたけどな。
 俺の事どんな極悪人だと思ってんだか。
「分かっている。ちゃんと謝礼も出す。もともと砂漠の盗賊を討伐してくれていて助かっているんだ」
 まあ通行料を取るからちょっと悪い印象があるかもしれないし、護衛をやっている人にとっては隙を突かれて囲まれて通行料を取られるから、冒険者にはあんまりいい印象はないんだよね。
 それはブラン組長も複雑な気持ちなんだろうね。
 でも最近は通行料も取らなくなってるようで、盗賊退治がメインになっているらしいんだってアッザームが言っていたからきっと村も変わって行くんだろうな。
 俺たちはブラン組長に残りのことは任せて、ジニ族の人達と家に戻った。
 イヴァンとレギオンには留守番を頼んだけど、やっぱり俺が襲われたことを知ってちょっと心配をしてた。
「大丈夫、アッザムもいたし、ジニ族の人達も滅茶苦茶強かったから」
 俺がああっけらかんと言うと、タージュさんが呆れた顔をしていた。
「肝が据わってんな。ハルは」
「そうだな。そういうところで騒がれるよりは冷静になってくれる方が俺たちも扱いやすくていいんだよな」
 下手に襲われて騒がれて動かれるくらいなら、言うことを聞いて大人しく自分で状況判断をしてくれる方がいいに決まっている。
 俺はそうしたくてしているんじゃなくて、怖いんだけど足も震えるけれど、それでもしっかりとしなきゃと思って動けるんだよな。
 多分精神耐性とか苦痛耐性とかめちゃあるんだと思う。
「何だか慣れたわけじゃないけど、あまり実感が湧かないんだと思う」
 俺がそう言うとアフマドくんが言った。
「バカだから分からねえんだよ」
 あー……アフマドくん、悪意たっぷりだね。
 でもそう言った瞬間、アッザームに頭をはたかれていたけどな。
「すまないな。アフマドはやっとアッザーム様と行動できると思ってたのにアッザーム様がハルに付いていっていなくなったから拗ねてるんだ」
 タージュさんがそう言うとアフマドくんが叫んでくる。
「そんなんじゃねえ!!」
 思いっきり顔が赤くなっているからそんなのなんだろうなと俺はニヤニヤしてしまう。
「そういえば、アフマドくんは呼び捨てだけど、アッザムのことは様付きなんだ?」
 俺がそう聞き返したらそこにいる全員が顔を見合わせた。
「いや、本当はアフマドも様をつけなきゃいけないんだけど、アフマドがそれは嫌だって言うから許可貰って様をつけてないんだ」
「村長の息子だし、昔は様を付けていたよ。でも盗賊退治をし始めてから様は要らないってごねるから、仕方ないってことになって俺たちは付けてないだけ」
「アッザーム様は様付けようが付けまいが、どっちでも気にしてもいなかったとは思うけど、そういうふうになっているから皆様を付けているだけだって認識はしていたな」
 そう言われているので俺はアッザームに尋ねてみるとアッザームは普通に答える。
「様が付いていようがいまいが、呼んでる調子でそいつがどう思っているか分かるから、気にしなかったな。敬うように様を付けているやつが裏では様と付けないで俺を罵っていたのを知っている。だからやっぱり声に出るよなと俺は思ってる」
 そうアッザームが言うのでジニ族の人達は頷いている。
 やっぱり命のやり取りをしている剣士だとそういうのは分かってしまわないとやっていけないのだろう。まあ彼らは嘘つく盗賊とのやり取りをしてきたわけだし、その辺には長けているのかもしれない。
「だからハルがどう思ってるのかは俺は分かってる」
 そう言って俺をアッザームが抱いてくるから他のジニ族の人達がちょっと驚いている。
「まさか、アッザーム様の愛しい人を見る日がくるとは思わなかったな」
「俺は一生無理だろうなと思ってたんだが」
 そう口々に言われるけど、アッザームは気にした様子はなくて俺を抱き締めて優しく笑ってくるんだけど。
「アッザム兄様、そういうのは人前でやるもんではないです!!」
 アフマドくんが俺とアッザームを引き離そうとしてくるんだけど、しっかりとアッザームが俺を抱き留めているから離れることはないんだけど。
「お前、離れろよ!」
 そうアフマドくんが怒るんだけど、アッザームがそれを押しのけて俺を抱き締めたままで言うんだ。
「離れない。アフマド、ハルに触るな」
 何て言うからまた俺がアフマドくんに睨まれてしまったんだけどね。
 それにしてもアッザームに対して凄い尊敬と憧れがあるんだなアフマドくんは。
 そう思ったので俺がタージュさんに聞いたら案の定だった。
「アフマドはアッザーム様に異様な憧れがあるんですよ。一匹狼的な、孤高の存在で強くて圧倒的な統制力があったからね。でも俺はそこはずっと孤独だったんだなと分かったけどな。今はハルといることで全然あの時の激しい何処へ向けていいのか分からない怒りが見えないからな」
 タージュさんはそう言って笑っているけど、よくアッザームとアフマドくんを見ているんだなと感心してしまったよ。
「タージュさんたちはとてもいい仲間なんですね。二人は皆のこと信頼しているから」
 俺がそう言うとタージュさんはちょっと照れていたけど、そう言われるのは嬉しいらしい。
 レギオンがそこにやってきて食事を順番に取るようにしたんだけど、ジニ族の皆はレギオンの食事にすっかり胃袋を掴まれてしまった。
「この炒飯、滅茶苦茶美味いよな。米がこんな美味くなるなんて」
「餃子も堪らない、このタレも絶品だ……」
 そう言いながらどんどん食べていくので食費がかかるなと思うけど、俺の創造魔法の複製で作っている米や卵なので最高の状態を保った製品だから滅茶苦茶美味しくできるんだよね。
 俺は新しい食物も集めているけれど、最高品質の塩や胡椒も一瓶だけ手に入れれば複製できるから使い放題なので、レギオンが料理に滅茶苦茶複製品を使ってくれるんだよね。
 まあ、この複製でできた食物を食べ続けると能力が開花してしまうんだけど、ジニ族の人達なら別にいいかなと思ってそのまま食べて貰っている。
 まあ孤児院の子供達の技能などの解放は三ヶ月くらいかかっているので、そうそう簡単に解放はされないと思っていたんだけど……。
「あれ……女神の祝福だ……鑑定が解放された!」
「うお、俺もだ、収納きた!!!」
「俺もだ! 鑑定は有り難いっ、ついでに風魔法も来た!!」
「おお、俺もだ。収納と鑑定同時だ!」
 一気に四人とも能力が解放されてしまった。
 多分、それまでに蓄積された能力のポイントがあったのだろう。それでたった三回目の食事で解放されてしまったようだった。
「あれ、これ、聖女の祝福って書いてある……」
 鑑定が付いたタージュさんがそう言って不思議そうに自分を鑑定したあと、全員が同じことを言った。
「俺もだ」
「俺のも」
「本当だ、聖女の祝福だ。でも自分のは見えるけど、お前らを鑑定してもそれは見えないな」
 と言い出したのだ。
「ああ、本当だ。自分のは見えるけど、人は見えない」
「ということはだ……」
 そう全員が俺の方を振り返った。
「ハルのお陰か!?」
 そう言われて俺は首を傾げた。
「そーなのかもね……でも何でか分からないけど……」
 解放された条件を言うわけにはいかないのでそう誤魔化したけど、それ以上は突っ込まれなかった。
 技能の解放はよくあることなので、そうだと言えば言えなくもないわけだ。
「まあ、いいや。聖女様々ってことで、他に見えないなら、鑑定されても聖女が関わっているとはバレないんだろうし」
「だな、それなら気にする必要もないか」
 そう言われたので俺は鑑定してそう見えるのかアッザームに聞いた。
「もしかして聖女の祝福って書いてあるのは自分だけしか見えないの?」
「ああ、俺も自分のものは見えるが、レギオンやイヴァンのものはみえないな。今も他の奴らの技能もそれがついているのは見えない。もしかしてハルは見えているのか?」
「うん、思いっきり見えてるよ。俺の鑑定だからなのか、俺が付けたからなのか分からないけど」
 そう俺たちが言い合っているところで、アフマドくんが隅の方で握りこぶしをしっかりと軽く突き上げたのは見逃さなかった。
 あれ、何か欲しかった技能が解放されたんだろうな。
 まあ喜んでくれているなら、これはこれでいいと思うけどね。


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