カルロさんたち終焉の業火の皆と森で果物を採って戻ってきたら、すぐに俺の命が旧司教に狙われていることが分かったと告げたら、レギオンもアッザームも驚きはしたけど。
「やりそうではあるな」
「性根が腐っているとは思っていたが、何事に置いても他力本願だな」
旧司教のあの様を見ていたから言えるんだけど、とにかく小物であることは分かる。
恐らくシリンガ帝国から司教は来ているんだろうけど、貴族の次男とか三男とかにいそうなくらいの暴君だったから、聖教会で司教に選ばれているのは恐らく貴族の家を継げない男子なのだろう。
あんなのが下から信心深くやってきて上がってきた聖職者には一切見えなかったもんね。
欲の塊ですっていう感じだったからな。
それに飛ばされたのがウヤの街だって言うなら、まだ司教である可能性もある。
ウヤの街には悪いけど、聖教会を受け入れている以上は領主の責任でもあるので、責任は取らないよ。
その日から俺は家に引きこもりをしたけど、村に行くまでの間、家の周りの様子はアッザームの村の仲間が引き受けてくれた。
受けてくれたのは、タージュさん、トゥルキーさん、ニザールさん、ファーリスさんのジニ族の方々。
皆、浅黒い肌で黒い髪をしている。アッザームのように色の付いている髪で紫なのは珍しいんだって。
全員2メートルあるのでめちゃくちゃ大きな集団になる。でも見覚えがあるような気がした。何でだろう。
そこに同じくらいに大きな身長で紫の髪色で、長い髪をポニーテールのように束ねている、アッザームと全く同じ少し若い子がいる。
明らかにアッザーム関係の血筋だと分かる人だったんだけど、すっごい睨まれているんだよね。
「こんにちは、ハルです。今回はお世話になります」
俺がそう言って会釈をすると、ポニテの子が言った。
「俺はアッザームの弟のアフマド・アル=ガンダファルだ」
「アッザムの弟さんだったんだ……そっくりだね」
俺がそう言って笑顔を向けたんだけど、すっごく睨むんだよねアフマドくん。
「ハル、悪いな。アフマドはちょっと両親と妹たちが甘やかしたんでヤンチャなんだ」
アッザームがそう言って弟を庇うと心外だとばかりにアフマドくんが叫んだ。
「アッザム兄さん!!」
恥ずかしそうにそうアッザームに怒鳴るけど、次の瞬間やっぱり俺の事を睨むんだよね。
めちゃくちゃ心証が悪いな俺。
まあ、聖女の奴隷の称号を暫くつけちゃったせいもあるんだろうけど、それ以外の恨みも感じるんだよね。
もしかしてお兄ちゃん子なんだろうか?
「ええっと、変な呪いをかけてしまい、申し訳ありませんでした。解呪はしたんですが……」
そう俺が皆に頭を下げると、全員が俺を見てええっと驚く。
「あんたがやっぱり聖女なのか」
「マジか、男だとは聞いていたけどよ」
アフマドくん以外の方々は結構フレンドリーに話しかけてきてくれる。
とってもいい感じだけど、称号のことは蟠りがないみたい?
「まあ、変な称号が一時期付いてたけど、別に何ともなかったしな」
「それで生活が変わるわけでもなかったから別にな」
タージュさんたちはそう言い合うけれど、アフマドくんはずっと俺を睨んでいる。
思わず鑑定をしてしまった。
【名前】アフマド・アル=ガンダフェル
【年齢】150歳
【種族】 ジニ族
【基準lv】 820
【称号】 ヤーブの民 聖女の従者 魔法剣士
【技能】 剣術 生活魔法(水) 火魔法 風魔法
【運】 なし
【加護】 なし
【生命力HP】 1200
【魔力MP】 1500
【職業】 ジニ民 冒険者 鉄級
あ、理由が分かった。
聖女の従者だからだな……やっぱりアッザームと同じようになっている人がいるのか。
「えっと、ごめんね。従者になってるけど別に何か要求をすることはないよ」
俺がそうアフマドくんにそう言うと、アフマドくんはやはり俺を睨んでから言った。
「そんなことはどうでもいい。俺は、あんたが嫌いだ。兄さんを勝手に連れ出して!!」
「あ、やっぱりそっちだったか。アッザム」
俺がそう言うとアフマドくんはハッとしたんだけど、アッザームはキョトンとしている。
「俺はあんまりアフマドに構ってこなかったから、あいつが甘やかされてるくらいしか覚えがない」
アッザームがそう言うとアフマドくんはショックを受けた顔をしていて、それにまた俺を睨むんだ。
何だよー、お兄ちゃん子でもなかったのかよー。構われている俺の事に嫉妬してるってことは構われたいってことかよ。
「仕方ねえよ。前のアッザーム様は色々と気分次第で常にイライラしてて家族に当たらないように盗賊退治に出てたくらいなんだから」
タージュさんがそう言うと全員が頷いている。
「俺たちはアッザーム様と一緒にずっといたからな」
どうやらアッザームが荒れている時に一緒に行動していたのが彼らだったみたい。
道理でちょっと見覚えある気がしたわけだ。あの俺が襲われた時にアッザームと一緒にいた人達じゃん。
「でもよかったよ、あの時に急に落ち着きを取り戻して村から出ると言った時は驚いたけど、ここまで人間変わるくらいに落ち着いてられるなら、そりゃ村を出た方がよかったのは確かだ」
トゥルキーもそう言うし皆頷いているんだけど。
「そんなことない、くそ聖女、俺の……アッザームを返せ!」
アフマドくんが俺にそう大きな声で言うんだけど、その瞬間、アッザームがアフマドくんの口を塞いだ。
「聖女のことは秘密なんだ、大きな声で言いふらすな。誰が聞いているのか分からない。アフマドも昨日は納得してここに来たんだろ? やる気どころか、ハルに喧嘩を売る気ならこの話はなかったことでいいぞ」
アッザームが凄く冷静にかつちょっと怒気を込めたように言ったらさすがにアフマドくんは青い顔をした、
「分かったか、アフマド」
そう言われてから塞いだ口を離して貰ってたんだけど、ただうんと首を縦に振るだけだった。
もちろんその後しっかりと俺が睨まれたけども~。懲りてないよな。
旅の支度をする間、アフマドくんたちが家の周りを警備してくれたので怪しい暗殺者は現れなかった。
街をちょっと離れることになるので冒険者組合に行くと、ブラン組長に呼び出された。
アフマドくんたちには待合で待って貰って、俺とアッザームはブラン組長の部屋に行った。
「連れていたのはアッザームのジニ族か?」
「はい、ちょっとこれから一緒に旅をするので」
「そうか……」
ブラン組長はちょっと暗い顔をした。
「どうしたんですか、今日は?」
俺が話を向けるとブラン組長が言った。
「お前、森で命を狙われたと、終焉の業火のカルロから聞いた」
「あ、はい、そうみたいですね」
俺が暢気に答えると、ブラン組長は呆れた顔をした。
「怖くねえのかよ」
「怖いんですけど……その狙われた瞬間、俺、分からなかったんですよね」
だってイヴァンが剣を抜いてたたき落とした風に振ったことしか分からなかったんだよ。
確かに矢尻は毒が付いていたし、返しもついていて殺す気満々だったけども。
「何が関わっているのか分からないが……教会が関わっているかもしれない」
ブラン組長もそう忠告してくれるくらいには教会側の動きがおかしいのだろう。
「揉めていたのはそこだけですし……カルロさんから聞いたって事は領主邸の話も?」
「ああ、領主から直接話は聞いている。お前のことも気を付けるようにと言われた」
「そうですか……領主も大変なのにね」
どうやら話は通してくれているようだった。
「それでこんな時に、お前に指名が入っている」
「俺に指名ですか?」
「トルブレ商会からの紹介できた話だが……どうする?」
「どんな依頼です?」
「荷運びだ。街の倉庫から郊外の倉庫街へ」
「荷運びは久しぶりですね……ここのところ、大きなものは受けていなかった」
俺がそう言うとアッザームがそれに口を挟んできた。
「受けよう。今日は護衛が沢山いる。相手がどうでるか見てやるさ」
そう言われてしまったのでブラン組長も溜め息を漏らしていった。
「その怪しい奴らが出たら全員殺していい。下っ端のヤツは上の者と繋がっていない。そいつらに指示をしているヤツ以外は生かしておくのも面倒だ」
ブラン組長がそう言い、アッザームは心得たというように頷いた。
「分かっている」
どうやら俺は囮として仕事を受けて、その暗殺集団ってのが襲ってくるのかを見てこいってことみたい。
あとジニ族の人達が信用できるのかというのもブラン組長は見極めたいのかも知れない。
「もし俺が襲われるようなことがあったら?」
俺がどうするんだと問うと、ブラン組長が言った。
「聖教会側には責任は問えないが、監視下に置くことにはなる。お前は一時的に街を出るわけだし、お前達が戻る前には包囲網を作っておくよ。聖教会の闇も暴くことになるが、領主も協力をしてくれるから今回は本気でやるつもりだ」
どうやら冒険者組合や商業者組合、そして役所に領主が一堂に会した時に、聖教会の悪事がかなり出ていることが分かっているらしい。それでこれからの対策に力を入れるんだとか。
そこに俺がいたんじゃ騒動がややこしくなるのでちょうどジニ族の村に行ってくれて聖教会の目を反らしてくれるのは有り難いらしい。
大分作戦としては纏まってきた気がするけれど、その決定打になるものが俺が襲われないといけないってのがちょっと納得できないけれどもね。
それから俺はブラン組長に言われた依頼を受けた。
モルトさんの紹介してくれた相手だったんだけど、どうやら商売に失敗をして店を閉めるらしいんだ。
で、その店の荷物をモルトさんが全部買い取ってくれたんだとか。
「本当にモルトさんには助けて貰いました」
その商人は高齢の人だったので、店を続けられなくなった理由の一つに高齢になったからというのもあるらしい。そして店が繁盛せずにいたため、借金ができる前に店を畳んで他の街に行くのだという。
レテカの街でも十分暮らせるんだろうけど、この人には子供がいてその子供が別の街に住んでいるため、そこへ引っ越すんだとか。
そういう話をしていたんだけど、倉庫まで店の中の荷物を運んでしまって、倉庫街はしっかりと警備が付いていたんだけど、何故かその倉庫街の中で黒い外套を着た二十人ほどの男達に囲まれてしまった。
「その小さいの以外は殺せ!」
そう指示がされたとき、俺の周りにはアッザームの仲間でジニ族の兵士が四人とアフマドくんがいた。
更にそれにアッザームもいるから六人だけど、普通なら劣勢の場面だったんだ。
「やれ!」
わっといきなり戦闘が始まる。
倉庫の兵士は向こうに買収されているのか、俺たちから離れたところに逃げてしまったんだけど、黒い外套の男達も気にしていないので俺たちも放置して、お互いにやりあった。
俺は一緒にきて巻き込まれた依頼人の老人と一緒に倉庫の端でお互いに身を寄せ合っていた。
何もできないけど危険察知だけはできる俺、それで周囲を察知していると敵意を持った人がこっちにやってくるのが分かった。
「アッザム、敵の増援だ!」
俺がそう言った時には既に黒の外套を着ている男達は半数以下になっていたし、圧倒的にアッザーム達の方が強いのが分かる。
俺はまだ生きている黒い外套を着ている男を鑑定してみたが、分かることはあんまりなかった。
【名前】ドナン・ファイル
【年齢】250歳
【基準lv】800
【種族】狼人族
【称号】暗殺者
【技能】暗殺術
【運】なし
【加護】なし
【生命力】1000
【魔力】1200
【職業】暗殺者 九元帥星(くげんすいせい)暗殺集団一員
こんな風に出た。
九元帥星暗殺集団って何だろう?
俺はそう思って他の人も鑑定を使ってみたんだけど、その集団に属していると表示されるのはこの人だけだった。あとは皆職業暗殺者なだけで、このドナンって人に雇われている立場のようだった。
「貴様ら、何をしている!?」
やってきたのは倉庫の兵士たちだ。騒がしいのが聞こえてきたのか、武器を持って近寄ってきた。
だから俺は自分たちが襲われた側だと叫ぼうとしたんだけど、急に老人が叫んだのだ。
「こっちの浅黒い肌の方が強盗団だ!」
「ちょっと、お爺さん!? 何嘘を言ってるの!?」
俺たちはちゃんと倉庫に入る時に検問を受けて入ったわけで、名前も所属も何もかも分かっている。
そんな嘘が通るはずもないのに、さらにはさっき俺たちを罠に嵌めた倉庫の兵士が叫んだのだ。
「そうだ、その爺さんの言う通りだ!! このジニ族が強盗だったんだ!!」
そう叫んでしまったから今度は倉庫の兵士と戦う羽目になってしまい、こっちは斬るわけにはいかないのでアッザーム達も何か苦労をしている。
黒の外套を着た男達は何とか最後の一人までやったんだけど、肝心のドナンに逃げられそうである。
「ちょっと倉庫の兵士さん! そっちのナナンニって兵士の人はこっちの黒い外套の暗殺団の内通者だからね! こちとら冒険者組合のブラン組長からちゃんと依頼を受けた証拠だって持ってるからな! それは貴方たちにだって見せたでしょ! このお爺さん、そいつらに脅されてるから!!」
俺がそう叫んだら、倉庫の兵士達が一瞬怯んだ。
「こっちは貴方たちを斬る気はないから、邪魔しないで!」
俺がそう叫ぶと倉庫の兵士はそれでやっと俺がよくここにも来ていた荷物持ちだって思い出してくれた。
「あんた、ハルだよな!?」
そう言われたので俺は言った。
「そうですよ! ハルです! ガネットさん!」
俺がそう叫んだら、ガネットさんが叫んだ。
「待て、俺が責任を取るから、ジニ族のやつらとはやるな! 黒の外套のヤツをやれ!」
そうガネットさんが叫ぶと、一気に形勢逆転をした。
黒の外套の男達は残りも斬られてしまったし、ドナンはやっと捕まえられたんだけどその場で自害をしてしまったんだ。
「くそ、やっぱりこいつらの方が強盗じゃねえか」
自害する正義の味方ってのはいないわけで、結果それが黒の外套を着た集団の方が強盗であると分かってしまったんだよね。
「ガネットさん! ありがとう!」
「なーに、ハルには何度も会ってるし、俺が受付をしていたらもっと手っ取り早く分かったんだけどな。それにしてもサーンド!!」
ガネットさんが叫ぶと、黒の外套の男達を招き入れたサーンド兵士がビクッと倉庫の壁の前で震えているのが見えた。逃げられなかったのか、余裕こいていたのかしらないけど、逃げてなかったみたい。
「ひいっ!!」
ガネットさんがサーンドさんに詰め寄っている。
とりあえずの戦闘は終わって、やっと全員が剣をしまったり黒の外套の男達がちゃんと死んでいるのかを確認している。
俺はホッとしてアッザームに近付こうとしたんだけど、急に真後ろから危険察知が働いた。
「まさか……」
俺はお爺さんに小刀を向けられていたのだった。
感想
選択式
メッセージは文字まで、同一IPアドレスからの送信は一日回まで