彼方より 065

ジニ村に行く準備のために森へ、暗殺者に狙われる

 俺たちがアッザームの生まれた故郷であるジニ族の村、ヨルリ村に行くことになったんだけど、そのために俺はお土産を用意したいのでまた森に潜った。
「果物とか珍しいものがあるといいよね」
 俺がそう言ったら、アッザームも心証はよくなるだろうなと認めた。
 今の村はアッザームが戻らずに街に出てしまったのでちょっと問題があるんだとか。
 そのややこしいことに俺もちょっと関わっているみたいで、奴隷云々っていうのよりも何か問題が水面下で進んでいるみたいだとアッザームと昨日話した人は思っているみたいなんだ。
 それでアッザームの知りたいことを教える代わりに、村に戻って様子を見て欲しいと言われたとか。
「俺が見て分かるような異常なら、それは大した異常になるだろうからと言われてな」
「断れないよね、こういうのは」
 俺もその事情を聞いて断り切れないアッザームの事情も考慮した。
 それにまだアッザームのご両親にも会っていなかったし、勝手に村の序列からアッザームを外させてしまったのも謝らなければならないだろう。
 アッザームは村長の次男なので村の跡継ぎはいるけれど、それ以外での仕事があっただろうしね。
 その謝罪の意味も込めて果物を持っていくのはありだった。
 というのもヨルリの村のすぐ近く威はアルセツハントという大きな森があるんだけど、そこの森では何故か果物は採れないんだって。深すぎる森と魔物多さと砂漠から吹く風でなんか色々違う森になっているんだって。
 それに森っていうのは特徴で同じなのは歪みの闇から魔物が湧く、魔の森の木々は深いほど一瞬で回復して元通りになる。森は広がっている。ということらしい。
 それ以外は森の中に出る魔物も違うし、採れる薬草も果物系も違うわけ。
 ラヅーツの森はかなり整備されている森で、広がらないように管理されているんだけど、アルセツハントの森はベルテ砂漠側は整備されていないので森はずっと広がっているみたい。
 そういう違いがあるのでラヅーツの森で採れる果物はお土産になるのだ。
 俺の創造魔法の複製で増やしたものでもいいんだけど、何故か俺たちがアッザームの村に行くことを聞いたカルロさんたちが張り切って俺たちの屋敷にやってきてさ。
「さあ、村への土産にはラヅーツの森の果物がいいだろう!」
 とか言い出して一気に俺とイヴァンが担ぎ出されてしまったんだ。
 アッザームは村の人と予定を決めるからと言って出かけていくから付いてこられなかったけど、カルロさんたちがいるなら全然余裕だろうと言うことで、レギオンも料理を付くって待っていると言って、旅用の食事を作る作業に入ってしまったから、俺とイヴァンがカルロさんたちに付き合うことになってしまったんだ。
「カルロさん達、果物の納品がいいお金になったから味を占めたでしょ?」
 俺がそう言うとカルロさんはにっこりと笑って言った。
「その通りだ、俺たちならまだ採ってこられるだろうからとブラン組長からハルを連れていけばいいとお墨付きも貰ってきたぞ」
 というわけで、俺は収納を使った配達の役割で終焉の業火の皆さんの仕事を手伝うサポート役で参加することになっていた。
 だから三日くらいかけて潜ってくる羽目になったのである。

「ラヅーツの森にはエリアたちも行ったから俺たちも行こうと思って昨日行ってきたんだが、何故か覚えている道を通っても最初の果物があるところまで行けなかったんだよな」
 そうカルロさんが実は自分たちだけで決行をしてみたけど無理だったと言った。
「そうなんですか? ちゃんと真っ直ぐだって教えたんですけど」
 俺の教え方が悪かったのかなと俺が言うと、エリアさんは自分が覚えが悪いだけかも知れないと落ち込んでいたそうだ。
「どうでなら、ハルを連れていけば俺たち全員迷宮で迷ったことはないベテランだから、今度はちゃんと道を覚えられると思ったんだ」
 そう言われて俺は真剣にカルロさんたちに道を教えた。
 すると途中の木を指差して俺が誘導するとカルロさんが深い溜め息を吐いたんだ。
「どうかしました?」
 俺が問い掛けたらカルロさんもマッテオさんも残りのロッカさんにサンドロさん、ポールさんまで同じように首を横に振っていたんだ。
「ハル、こりゃお前にしか見つけられない場所だったんだよ」
「どういうことですか?」
 俺にはいつも通りの道なのだが、カルロさんは違うと言うのだ。
「エリアの時にはこの木はなかった。俺だって迷宮を潜っている白金級の冒険者だぜ? 方向音痴でもないし、道を覚えるくらい初見でもできる。だが、断じて言うが、この木はエリアが道案内をした時にはここになかった木だ」
 そうカルロさんが言うと全員が頷いているのだ。
「つまり……俺にしか見えてないってこと?」
「いや、今は俺たちにも見えているから、正確にはハルが見つけて認識するまで俺たちには見つけられない木だってことだ」
 カルロさんがそう言ったので俺はイヴァンを見る。
 イヴァンはそれを聞いてもよく分からないというように首を横に振った。
 イヴァンもここには来たことがあるが、俺の案内できたので俺がいない時に来たことがないから違いが分からないのだ。
 そしてそんな木を前にして話し込んでいた時だった。
 遠くからヒュンと何か妙な音がしたような気がしたとたん、イヴァンが目の前で抜刀して何かをたたき落としたのだ。
「……え?」
「ハル、俺から離れるな!」
 そうイヴァンが言ったらカルロさんとロッカさんが攻撃に転じた。
「距離二百、矢を射ったのがいる」
 ロッカさんがそう言って素早く矢を射っていた。
「当たったが、他にもいる」
 カルロさんが飛び出して行って、それに続いてマッテオさんも飛び出していった。
 ポールさんが俺たちの前に出てくれて盾を構えてくれたんだけど、その一瞬の行動を俺はぽかーんと見ているだけしかできなかった。
 全員、一秒以内で動いていたと思う。
 それより、何があったのか俺には分からなかったので目を見開いていた、久しく聞いていなかったナビゲーションが告げてきた。

『襲撃の条件を確認しました。危険察知を解放します。成功しました。敵意を持って近づく存在を察知すると危険を知らせるメッセージが聞こえます』

 ナビがそう言うので俺はちょっと解放条件が酷くない? と思った。
 命を本気で狙われないとこの能力が解放されないとか、どんな危険な立ち位置にいなきゃいけないんだよ!!

「あ、女神の祝福だ」
 ロッカさんが俺を見てそう言った。
「ハル、何が解放された?」
 イヴァンがそう聞いてきたので俺は素直に答えた。
「危険察知……」
「よしゃっ!!」
 俺が解放された能力が危険察知だと知ったイヴァンはグッと拳を突き上げて喜んでいる。
 攻撃系の剣士だとかは危険察知を持っていなくても何か色々感じられて敵がいるのが分かるらしいんだけど、俺みたいに攻撃系の魔法が一切ない人間には、これがあると先に逃げるということができるから役に立つらしいんだよね。
 俺はその能力をちょっと使ってみた。
 するとナビが告げてくる。
『危険を察知します、魔物が400メートル先にいます。敵意を持ったものが離れていきます』
 どうやら500メートルくらいは余裕で調べられるようだった。
「うん、魔物が近くにいるけど、これだけ離れていたら襲われることはなさそうってのは分かった」
 俺がそう言うと、イヴァンもロッカさんも俺にニコリと笑って言ってくれた。
「おめでとう」
「本当に良かった、ハル。それはこれからは重要なものだから常に使っていて欲しい……」
 イヴァンがそう言うので俺は魔力消費が少ないっぽいのでとりあえず常に使ってみることにした。
「くそ、逃げられた」
 カルロさんとマッテオさんが戻ってきたけど、追いつかなかったらしい。
「ハルは大丈夫か?」
 カルロさんがそう言って俺を見たので俺は手を振った。
「大丈夫です。それで何があったんですか?」
 俺には何が何だかな状態だったのでそう聞くと、一同大きな溜め息を吐いてきた。
「ここでは何だから先に進もう。恐らくこの先に入ったらあいつらも追ってこられない」
 カルロさんがそう言うので再度、俺の案内でもうちょっと先まで行った。
 そしたら全然危険なことはないのか、周りに魔物の少なくってすぐに果物がある群生地に到着した。
「こんなにあっさりと付くのか」
 カルロさんは驚いていたけど、俺には普通通りのことなのでちょっと困ってしまった。
「本当にあったんだな」
 そうマッテオさんも驚いているし早く果物を採りたいだろうに、皆は俺の方を振り返った。
「ハル、お前はさっき、矢で射貫かれて殺されるところだったんだ」
 イヴァンがそう言い、持って来た矢を見せてくれた。
 それは黒い矢で、矢の先はギザギザだったし、返しもついていた。抜く時にも肉を切り裂くようにできているのだ。
 そして鑑定をして見ると案の定、矢先には毒が付いていた。
 痺れて動けなくなる毒で、大きな魔物を仕留める時に使う毒のようだった。

【名前】矢尻
【特徴】痺れ薬が塗られている。返しが付いており、抜けにくくしている。
【効能】キメラなどに使う痺れ薬で、人が摂取すると一時期呼吸困難や意識不明になる強さを持っている。接触は非推奨。


「痺れ薬だけど……これ使われたら俺なら呼吸困難で死んでるかも……」
 俺がそう言うと、イヴァンも頷いた。
「あくまで体を痺れさせて、呼吸困難で弱ったところを魔物に襲わせるつもりもあったんだろう」
「本気で殺しにきたのか、解毒薬を持っていて動きを止めたかっただけなのかが分からないな」
 カルロさんがそう言うので、俺はそこでやっと本気で命も狙われているんだと気付いた。
「しかし急に殺意が出たな」
 マッテオさんがそう言うので俺もそれは以外だったけどカルロさんが言った。
「……それなんだが、昨日エリアが別の孤児院の知り合いを見つけたらしくて、怪しみながらも懐かしいふりをして話しかけたらしい。そうするとハンスの話が出て、そのハンスが悪巧みをしているのを聞いたと言っていたらしく、それを聞き出してくれたんだが……」
「ハンスってやつはそもそも何処に雇われていたんだ?」
 ロッカさんがそう尋ねた。
「やはり元司教だったソイニ・キュンメルに雇われていたようだ」
「元司教か……」
 散々もめ事を起こして、結局解任されたらしいが司教は移動になったと聞いていたのでどうなったのだろうか?
「その元司教の人は今どこにいるか分かってるの?」
「ああ、ウヤの街で司教をしているようだ。あそこは閉鎖的な街だが聖教会は何故か受け入れている街らしい」
「そこから俺の暗殺でもしてきたってこと?」
 俺がそう尋ねると、カルロさんは頷いた。
「ハンスは顔がこっちではバレているだろう? それで新しい自分と繋がっている身元はそこまで怪しくはない孤児院の仲間に声をかけたらしい。最初は商売の手伝いだったらしいんだが、ハンスがしくじっていなくなった後にハンスの仲間らしい男達がハンスの部屋で殺害の話をしているのを聞いたそうだ」
 どうやらハンスの部屋をカルロさんたちが調べた時は何もでなかったらしいので、そのまま放置しておいたらしいんだけど、その時もハンスの仲間には見られていて、もう調べには来ないだろうとそこを密会所に使っていたらしい。
 ハンスも隣の部屋に自分の孤児院での幼なじみを住まわせていたことは仲間には言ってなかったようだったので、その人は聞けるだけのことは聞いて、誰かを殺そうとしていることまで分かって、ハンスがその仲間と気付いたので逃げ出してきたと言ったそうだ。
 その人は結局カルロさんの判断でレテカの街にいるよりは他の街に紛れた方が安全だと思ったので、エリアさんたちが仕事があるクトムの街に送り届けたらしい。
 クトムの街はレテカの街としか街道が繋がっていないけれど、農家の街で仕事も沢山あるのだ。
 しっかりと証言書だけは取ったそうだが、俺が本当に命を狙われているかどうかは分からないままだった。
 恥を掻かせたのが俺なのか、領主なのか、それとも別の誰かなのかが分からなかったからだ。
 なので森へと俺を誘って相手の出方を窺おうとしたのだけど、はっきりと殺意を向けてきたのは矢を射る寸前だったようなんだ。
「囮にして悪かった……しかし誰が狙いか分からない以上、こちらも手が出せない」
 カルロさんがそう言ったので俺は全然怒ってはいないと告げた。
「大丈夫ですよ、イヴァンもいたから守って貰えていたし、こっちの用心して色々準備をしてます。それにどうやら、俺の危機察知の能力は、命の危機に一旦陥らないと解放されなかったみたいなので……結果は上々ですよ」
 俺がそう言うとカルロさんたちは俺が危険察知の能力に目覚めたことは言えてなかったので驚かれた。
「そ、そうだったのか……いや、何が幸いするか分からないもんだな……だが危険には晒した、悪かった」
「謝らなくていいですよ、だって現にイヴァンが庇ってくれてますし」
 俺がそう言うとイヴァンはニッと笑う。
「これで命を狙ってくるのが誰か分かったからカルロは謝らなくていい。こっちとしては色々と動きやすくなる切っ掛けを貰った」
 イヴァンがそう自信満々に言うとカルロさんはホッとしていた。
 相談無しにこういう危険なことをすると普通は怒るけど、イヴァンのことを信用して俺の護衛を任せているからか、カルロさんはイヴァンの力を信じて黙っていたわけだ。
 俺の事を攫いたい聖教会と、俺を殺したい旧司教が雇った暗殺集団。その後ろにはウヤの街の聖教会も関わっているらしいと分かっただけでもまだ動きようがある。
 俺たちが街を出て砂漠へと向かったら彼らはどうするのか。
 もしそれでも命を狙われるなら、ウヤの街にいる旧司教を先にどうにかしなければならなくなるが、その前に暗殺集団を撃退して証拠を握るのもありだ。
 そうなれば領主も動いてくれるだろう。何せ領主の家族も狙っていたからね。
 多分、領主を狙ったのは恐らく領主を弱らせて実権を握るつもりだったんだろうなって結論だった。其の時分はヴァレリアさんとニリレオさんは仲が悪かったからね。可能ではあったんだよね。
 でもそれら全部を暴いたのが俺だって分かって、それで殺害命令が出たのかもしれない。
 俺はこれからも暗殺集団に狙われる羽目になるんだけど、不思議と怖くはなかった。
 イヴァンもいるし、レギオンもいる。アッザームだって助けてくれるから俺は何も怖くはない。
 そう思ったのがイヴァンに伝わったのか、イヴァンはニッと笑った。
 それに俺もニッと笑い返していたのだった。



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