彼方より
063
終焉の業火の事件で噂話は重要でもあること
「これは明らかに聖教会の妨害なんだな?」
カルロさんが俺から話を聞いてから出した結論はこれだ。
「多分、はっきりとはしないんだけど……」
俺は多分聖教会だと思っているけれど、俺と終焉の業火が何で繋がっているかと言えば、終焉の業火が孤児院に寄付を始めたのと俺が領主に呼ばれた時期が一致していること。
間にハンスが介入していること。
俺と終焉の業火が狙われる理由が別々の訳が無いことを考えると、結果はそれしかない。
ここにきてはっきりと聖教会しかあり得ないという結果になるとは思わなかった。
「でも最近その司教が変わって明らかな妨害はなくなったんですよね」
俺がそう言うと、カルロさんも俺の変な噂がなくなったのには気付いたらしい。
「寄付したくらいで変な噂を立てる教会側の思考が分からないから、俺たちも寄付をしてみたんだ。ハルには助けられているし、リスク分散をするのもありだと思ったんだよな」
カルロさんがそう言うので俺はそれに礼を言った。
「ありがとう。これで一応何が問題なのかは絞れたみたいですね。でもこの辺の問題は領主が既に手を打っていて、新たな孤児院と職業訓練所の設営で基本的な嫌がらせをしている場合ではなくなったみたいですが……」
俺がそう言うとカルロさんが言った。
「俺はここにいる奴らは全員信用しているから言うが。俺は聖教会の奴らはシリンガ帝国から確実に指示を受けていると思っている」
カルロさんがそう言うけれど、そこまではっきりと言う人はあまり存在しないのか、エリアさんは口を手で覆ってしまっている。公認の事実でもそこは双方が援助しているだけと言い張っている以上、指示を受けているとはっきり口にするのは問題なのだ。
「あくまで帝国側が庇護しているとしているが、実体は他の国を探ったりするのが目的だと思っている」
「俺もそうだと思います。帝国側としてはこの世界の神を祀っただけの教会より、聖女を祀った教会を乗っ取る方が簡単だったんだと思います。現に聖女はシリンガ帝国に何人か渡ってますよね?」
俺がそう言い、シリンガ帝国が最初から密偵を送り込む機関として教会を作り、聖教会として各地に普及させていったのだと考えていると言った。
そして教会は上手く各地に残り、聖女の活躍が勇者召喚で更に珍しい物になると余計に発揮されるものとなった。
なぜそんな怪しい教会が公認されているのかというと、聖水を作ることができる機関だからだ。
普通は聖水を作るにはこの世界にいる神を信仰し祀った教会でしか聖水を作れない。しかし聖女信仰をしている教会でも聖水が作れてしまっている。
それができることで回復薬など水薬が作れているので、国としては聖水は絶対に必要である。
しかし国は宗教を増やして信者が増えるとそれが反逆や反乱の元になることを恐れた。
そこで聖教会の普及はそれなりに便利だったのだ。
聖女は実際に存在を何度もした存在であるし、聖女を祀れば聖水が湯水のように湧いたから、その管理場を自分たちですると言う聖教会は有り難い存在だった。
国も聖女信仰をしてみようとはしたらしいが、聖水は湧かないどころか国の教会から聖水が枯れる事件が起こってしまったらしく、どっちか一つ選べないとなれば、神の方を選ぶしかなかったようだ。
しかしそれはあくまで貴族や王族など理由であり、一般市民に聖水を分けてくれるわけでもなかったため、一般人には聖女を祀っている聖教会程度でいいだろうと長年放置した結果、聖教会は全土に広がった。
そしてそれは冒険者組合が広がったのと同じように必須の存在になってしまい、国がそれに気付いた時には聖教会の力が強すぎることになってしまっていた。
対抗ができない組織になりつつある聖教会であるが、だんだんと馬脚を現している。
それまでは統制が取れていたのに、急に統制が取れなくなったのだ。
司祭は私欲に走るし、目立つような領主に虚偽をしてまで一般市民を排除しようとした。
「聖女の話の噂なんだが、俺の知り合いがシリンガ帝国にも何人も居て、そこから聞いた噂だが。シリンガ帝国にセフネイア王国が呼び出した聖女が全員渡っているのは、シリンガ帝国が聖女の作る聖水が欲しいがために聖女を優遇して身の安全を保証したからだと言われている」
「……身の安全ですか……」
「伝説にも書いてあるが、この国の国王は聖女に結婚を迫り、脅迫までして監禁をしようとしたからだな。聖女にはとことん嫌われているんだ」
カルロさんがそう言うので確かに伝説にはそう書いていたなと俺も思った。
「てことは、保護されているなら聖女は異世界人だから寿命も長い。320年前にきた前回に召喚された聖女は生きているってことだよね?」
俺がそう言うと、カルロさんが頷いた。
「だが、そこで妙な噂が入ってきた。その聖女の聖水が二年前から作れなくなったらしいんだ」
聖女が聖水を作れなくなったと聞いて俺は思い当たることを思い出した。
イヴァンが言っていたことだ。
聖女はこの世界に一人しか存在しない。
つまり、俺がこの世界にきて聖女の称号を得てしまったために、まだ生きていた前回の聖女は聖女の称号を失ったのではないかってことだ。
二年前といえば俺がこの世界にきた時期と合致している。
「ということはどういうことだ?」
マッテオさんがそう言うとカルロさんが続けた。
「つまり、聖女の称号を持つものが新たに召喚されていたってことになる。前に聞いたことがあるんだが、勇者でも次の勇者が召喚をされてくると、それまで勇者だったものは勇者の称号を失って、勇者だった者にかわるんだ」
カルロさんがそういうから俺はそれで聖女が力を失った理由を知ることができるのかと納得ができた。
「え、でも、ハルたちが召喚された時に聖女はいなかったんだよね?」
そうエリアさんが俺に向けてきたので、カルロさんとマッテオさんがキョトンとしている。
「何の話だ? エリア」
「え、だってハルさん。勇者召喚でこの世界にきた異世界人だって……」
そうエリアさんが言うと、カルロさんとマッテオさんがもの凄い形相で俺を振り返った。
「なんだって!?」
もの凄く驚いているけど、教えてなかったし、もし俺を鑑定していたら偽装した情報しか読めてないしね。
「実はそうです。でも俺は「召喚に巻き込まれし者」なんです」
俺がそう言うと更に驚いていたけど。
「巻き込まれし者って勇者ではないってことだよな?」
「そうなりますね。なので城を追い出されて放逐されています。お陰で自由ですけど」
「グノ王国は鑑定はしなかったのか?」
「したので追い出されたんですよ。ゴミみたいな能力しかなかったので。実は追い出された後で収納と鑑定が解放されたんですよ。解放条件が城を如何に早く追い出されるかに掛かっていたみたいで」
俺がそう言うと全員がもの凄い顔をして俺を見て、一人一人にポンと肩を叩かれてしまった。
「大変だったな……」
「鬼畜な条件だな」
「ああ、それじゃ親切にして貰ってたら詰んでいたってことだし……」
「……神様は何を考えているのやら」
そう言われたので俺は言った。
「巻き込まれし者は神様には会えないんですよ。なのでいきなりポンッと異世界に召喚されるんですよ」
「うっそだろ!?」
「マジで、何その鬼畜!!」
ですよね、鬼畜仕様ですよね。やっぱり俺の考えは間違ってないよね。神様鬼畜だってよ。
「てことは、ハルは異世界人族ってことだよな……」
「そうですね。そうなります。でもそれだけですよ? 人よりは寿命は長いみたいですけど」
俺がそう言うとマッテオさんが言った。
「男の聖女ってのもいたよな?」
「いたいた、なんで聖女なのに男なんだよ、聖者じゃないんかよって思ったことあるもん!」
エリアさんがそう言ってずっと疑問なんだと言ってきた。
俺はバレてはいないんだけど、バレてしまったような心境になってしまう。
「いや、俺は勇者一行ではないので……そもそも違うんですけど」
俺がそう言うと確かに聖女だって分かっていてグノ王国が手放すとは思えないと思い直したみたいだ。
「異世界人だからって何かあるわけじゃないからね」
俺がそう言うとカルロさんとマッテオさんが言う。
「だが、解呪はできるし、収納も無限っぽいし、鑑定もできるし……」
「でも攻撃系は一個もないんで!」
俺が勇者だったらまずないといけないものがないのだと言うと、鑑定されてしまった。
【名前】ハル
【年齢】20歳
【種族】異世界人族
【称号】召喚に巻き込まれし者
【技能】鑑定 収納 生活魔法 言語理解 解呪 浄化
【運】幸運(大)
【加護】なし
【職業】冒険者 鉄級 炎炎組織一員 商業者 鉛級
これが普通の人に見える偽装済みの俺の情報。
解呪に関しては終焉の業火の皆は知っているから隠してないけど、普段は隠している。
言わないようにも言ってあるしね。
解呪と浄化は祈りの~って付くけどそこは省略して載せてある。祈りの~を入れると聖女感を増すので余計バレる気がして隠している。
あと俺には基礎レベルとか魔力生命力とかを数値で見えるけれど、こっちの人の鑑定では見えないみたいなんだよね。見えると余計に混乱して差別が発生するから見られないようになっているのかもしれないけど。
「確かにないな、見事に」
「ないっすね……」
カルロさんとエリアさんがそう言って残念そうに俺の情報を見ている。
そりゃね、俺も攻撃系があれば何とか普通に冒険者をしてたと思うよ。
「しかし惜しいな。ここまでいい情報持ちなのに、攻撃系がないとは……」
「本当に、もったいないですね。何だか攻撃させないために持たせなかったみたいな意地悪を感じる」
エリアさんがそんな事を言うので俺もそう思っている。
わざとなんじゃないかってね。
「称号も「召喚に巻き込まれし者」だけだな。剣士か魔法士かくらい付いていればうちに引き抜くのにな」
カルロさんがそう言うので鑑定を持っていないリナルドさんとガストネさんが俺の情報を知りたがったので紙に書いてやった。
そしたら同じように唸るんだよね。
「惜しいですね」
「本当に……惜しい」
どんだけ惜しいんだか、俺も惜しいとは思ったけども、改めてそう言われると本当に惜しい気がどんどんしてきて悲しくなるな。
「あんまり言わないでくださいよ。俺もずっと何か攻撃系が解放されないか色々試してはみているんですよ」
俺はそう言いながら角兎だけは自分で狩っている事実を切々と語った。
「そうか、自分でちゃんとやってるんだな。ハルは偉いな」
「ハルは最初から偉いぞ、だから俺はハルが好きだし、カルロ、引き抜きはさせないからな」
アッザームがそう言うとカルロさんは笑って言った。
「その時はお前も一緒だから気にすることはないぞ」
ってね。
「もちろん、イヴァンもレギオンも引き抜くに決まってるしな」
それって炎炎組織全員を引き抜きというよりは、組織の合体ってやつじゃないですかね?
ちょっと面白くて笑ったんだけど、カルロさんは割と本気みたいだった。
「とにかく、俺が聖女ではないことは分かって貰ったと思うんですけど、それで称号とか関係ないし、聖教会は俺を聖者扱いにしようとしていたんですよね。噂もそんなのが流れていましたし……」
「聖なる者として引き込みたいってことなんだろうが、それにしたって無茶するな」
カルロさんも何故聖教会がそこまで焦って俺を手に入れようとしているのかが分からないようだった。
聖女ってバレてないからまだ穏便に済んでいるけれど、バレたら多分後先を考えないできそうで怖いな。
「それで聖女が元聖女になったから聖水の質が落ちて焦っているのはシリンガ帝国ってことになりますけど?」
「だから少しでも可能性のあるハルを狙ったのかもな」
「聖水欲しさか……やっぱり聖女の作る聖水と教会が作る聖水は違うんですかね?」
俺がそう言うとカルロさんもそこは分からなかったが。
「でもな、明らかにシリンガ帝国のロドロン公国侵攻の際に騎士団が異様に強かったらしいんだ。寒さも平気で突っ込んできて一気に首都であるルロアルまで来たらしい。百年前にテヒーの国境を制したばかりなのになって。それで戦争に傭兵として参加した冒険者がいたんだが、それに話を聞いたところによると身体強化の薬を飲んだと言っていた。その身体強化の薬ってのは、一時的に能力が向上するだけで、長時間持続はしないというのが定説なんだが、何故かそれを飲んだ傭兵は丸三日は効果があったと言っていた。それで何で作られているのか調べたら、どうも作り方自体は普通の身体強化の薬らしいんだが、聖水が聖女の作った聖水だったらしい」
そうなるとシリンガ帝国が聖女のことを祀っている聖教会を支援するのは、聖女信仰をしていることを聖女にアピールする目的でもあるのかもしれない。
「教会の聖水と聖女の聖水がそこまで違いあるのが分かっているからシリンガ帝国は聖女を勧誘して正当に扱う代わりに聖女の生活を援助し保護もしたって事かな?」
そうだとすると正当な成果ではない不当な扱いを受けた聖女は皆、その誘いに乗るだろう。そのために世界中に聖教会を置いておく必要があるわけだ。聖女の情報も欲しいからだ。
「恐らくそうだろうと俺は思っている」
カルロさんがそう言うので俺は考えた。
そうだとするとちょっとマズイかもしれない。
俺は何となくで回復薬とか作っているけれど、その効果が聖女が作る聖水でできているからか異様に効きがいいのだ。
自分で飲んだし、人に数人飲ませているから分かる。
それはきっと異常なものなのだろう。
レギオンがそれを警戒して普通の回復薬以外は外に出すなと言ったのかもしれない。
俺だけ暢気に考えていたけど、高品質や最高品質なんてものは聖女の聖水を使わないとできないのだ。
ただでさえ迂闊に聖女ですとはいえないのに、異世界人であることを表に出すことに決めた瞬間、ダメ出しを食らったみたいだ。
感想
favorite
いいね
ありがとうございます!
選択式
萌えた!
面白かった
好き!
良かった
楽しかった!
送信
メッセージは
文字まで、同一IPアドレスからの送信は一日
回まで
ありがとうございます!