彼方より
062
終焉の業火の人達と薬草採取と噂と繋がる事
終焉の業火の組員であるリナルドさん、ガストネさん、エリアさんとの合同薬草採取はまだまだ続いている。
回復薬の群生地を抜けて、更に奥にある果物が生っているエリアまで来てしまった。
ここまで炎炎組織以外で簡単に来られたのは終焉の業火の人達が強いからだろう。
「ううおおおお、果物が沢山!!」
「やべえ、マジか」
「群生地ってあったんだな」
全員が感動している。
俺が散々採ったはずだったけど、森の恩恵である復元してしまう森だから採ったものは大体綺麗に復活してしまっている。
なので今回は終焉の業火の皆さんのために遠慮なくがっつりと採らせて貰った。
「ハルさんの収納がえげつないんだけど……」
「めちゃ入るんだな……」
「荷運びにハルさんがいれば、滅茶苦茶楽できるのだけは分かる」
そう言われたけど俺は言う。
「エリアさんだって迷宮の九十層にいけと言われたら行きますか?」
「いくわけないですよ!!」
エリアさんが勢いよく答えた。
「僕は薬剤師ですよ、そんなところにいったらうっかりで死にますよ!! って、あ……」
エリアさんはそう言っていて気付いたみたい。
「そうなんですよね、俺も死んじゃいますね」
「ああ、そっか。攻撃系ないんでしたね……」
「自分の身も守れないので万が一で魔物をみたらショック死もあり得ると思ってます」
迷宮の九十層の魔物なんて恐ろしいに決まっている。俺は一生そこには潜らないと決めている。
「ああー、それはあるかも。俺らでも初見の魔物は体が硬直することがあるからな」
リナルドさんたちも俺がショック死するかもと言うとそれには同意してくれる。
「それでもハルさんなら、五十層には簡単にいけそうですけどね」
ガストネさんがそう言うと目の前にキメラが現れる。
それをリナルドさんとガストネさんが仕留めていくので、アッザームは何もせずに俺とエリアさんの側で護衛をしているだけだ。
「キメラに驚かないからねえ」
「慣れって怖い」
俺はキメラが出てきてももう驚かないで夢中で果物を採る方に集中するんだけど、さすがにキメラは見慣れてきたからね。
「キメラは階層五十階くらいのボスなんですよ。だから炎炎組織の人達も迷宮には潜れると思うんですよね。ただ九十層は厳しいだろうけど」
そりゃそうだ。
カルロさんたちでも攻撃側が五人以上いて、魔法使いも四人くらいいる組織のトップたちがいる。そこと炎炎組織ではあまりに実力差がありすぎるからだ。
それでも七十階層が余裕だと言うリナルドさんとガストネさんは冒険者階級は銀級。
つまりアッザームと同じ扱いなのだ。
どういう基準でそうなっているのかは分からないが、恐らく討伐への参加人数の問題なのかもしれない。
常に組織で行動していると止めを差すのは誰か一人になるから、いくら途中で貢献をしても討伐一覧には載らない。もちろん公平に止めを差しているだろうけど、それでは平均でしか上がらなくなるわけだ。
なので盗賊討伐しかしていないアッザームと同じ階級に収まってしまうわけだ。
それでもリナルドさんもガストネさんもアッザームの方が強いと思っているようだ。
同じ階級だからこそ分かることもあるのだろう。
まあ、アッザームはイヴァンとレギオンと引けを全く取らないくらいに強いんだけどね。金級にもなれるんだけど本人は全然その気がなくて俺の護衛ばっかりしてるけどな。
「ああ~めちゃ果物が採れた~、ハルさん、収納貸してくれて助かります!!」
「うん、いいよ。入ちゃっうしね」
俺も暢気にエリアさんに渡されるがまま受け入れていたんだけど、結構取り尽くした気がする。
エリアさんは俺のようなちょっと遠慮する気持ちが一切なくて取り尽くしていくんだけど、大丈夫かなと俺が言うとケロッとした表情で言うわけ。
「え。だって明日には元に戻ってますよ? 奥に深いほど回復が早いんですよ」
「そうなの?」
「そうですよ。あの群生地も取り尽くしても大丈夫ですよ。だって夜に木を切り倒してから朝見ると元通りになってるんですよ。森っていうのは」
そう言われてしまった。
「森の外側だとある程度切っても元に戻るのには時間がかかりますから勘違いする人もいるんですけど、この森を燃やし尽くしてもある程度の深さまでは一晩で復活することは既に実証されているんですよ。だから国にある不便な魔物の森はなくならないんですよ」
エリアさんにもの凄く基礎的なことを習って俺は驚くんだけど、アッザームは俺がそれを知らないことに初めて気付いたようだった。
「だからハルはいつも半分でいいって言ってたのか。何か意味があるのかと勝手に思い込んでいたが……」
「あー。全部採ったら後から来た人が困るかと思って……」
そう俺が言うけれど、エリアさんが言った。
「え、だって実がなくても一晩寝て起きれば元通りなので大丈夫ですよ。ここまで潜ってこられる冒険者が野営もできないなんてことは絶対にあり得ないですから!」
ってめちゃ笑顔でそう言われてしまった。
冒険者としての基本を習った気がする。ちょっとカルチャーショックを受けてしまった。
「そうなの、アッザム?」
「ああ、そう森はそういう仕様だ。ハルは浅い森のことしか知らなかったのか?」
「うん、俺が森に入ること自体、一人ではあり得ないから調べたことなくて噂程度しか知らなかったんだよね。ほら、レギオンが計画を立ててくれるし、俺の希望は何となく通るし……だから気付かなかった」
俺がそう言うとアッザームも盲点だったなっと認めている。
この世界の基本的なことは俺が知らないのは当たり前で、俺が辛うじて知っていることは又聞きしたことばかりなのだ。それが常識だと言われたらそう思い込んでしまうのである。
「今度からは気を付けよう。ハルは知らなくて当たり前だっていう基礎も俺の中になかったからな」
そうアッザームが言うとエリアさんが首を傾げて言った。
「それじゃまるでハルさんが他の世界からきた人みたいじゃないですか~。森の基礎も知らないってのはちょっとないんですけど……」
と言われてしまったので俺はちょっと笑って言っていた。
「あー、俺、異世界人なんだ」
そう俺が言うとエリアさんどころかリナルドさんもガストネさんも驚いたように大きな声を出してしまった。
「マジで!?」
「俺、異世界人みたの初めて!」
「てか、なにさらっと言ってんですか! どうやってこの世界に来たんですか!?」
って次々に質問をされてしまい、俺は答える羽目になったけど、異世界人であることの公表は領主だけではなく、これからは大っぴらにしていくことにしたんだ。
俺が特殊な能力を持っているのは異世界人だから。しかも。
「勇者召喚に巻き込まれてしまって……でも俺は巻き込まれし者なんだよね」
そう俺が言うとエリアさんががしっと俺の手を掴んで言った。
「それじゃ、グノ王国の勇者召喚できたってことですよね! でもセフネイア王国にきているってことは、追い出されたってことですか!?」
察しよくて助かるね。
その通りだと言うとグノ王国はそういうことをしそうな人達だと思われていたようで国王が罵られていた。
「あの愚王は本当にやりかねないね、あれほどクソ愚王はいないってくらいに、己のことしか考えない王族だったもんな」
そうエリアさんが言うので何でそこまで詳しいのかと思っていたら。
「エリアはグノ王国の孤児院出身なんだ……だから結構悲惨な目にあってて、それで孤児院を抜け出してそれをリナルドが拾ったんだよ」
ガストネさんがそう言うのでなるほどと俺は思った。
「あの国にいなくて良かったですよね。戦争に駆り出されて無駄死にするところだったですもんね!」
そうエリアさんが真剣に言う。
「そうだね……本当に」
エリアさんは実は十年前に終焉の業火のリナルドさんに拾われて、グノ王国を脱出するのを助けて貰ったんだとか。でもその時にエリアさんに薬剤師の称号があることが分かって、リナルドさんはそのまま終焉の組織に連れ帰ったんだそうだ。
そこで勉強をしっかりとして、今では終焉の組織に欠かせない薬剤師になっているんだ。
「最近、グノ王国から逃げ出した孤児院のやつにあったんですよ。それで懐かしいって話していたんだけど、商売をしているからってまた離れ離れになっちゃったね。元気でよかったなあ、ハンスのやつ、商人になってたんですよね」
そう言われて俺の和やかな心が一瞬にして氷点下まで下がるのが分かった。
「ハンスって言うの? その商人」
「はい、菓子や茶を売ってて、俺もいくつか買ったんですけど、もったいなくてまだ食べられてないんですよね」
そうエリアさんが言うので俺は慌ててアッザームを見た。
アッザームは頷いてからエリアに聞いた。
「エリアは鑑定は持っているか?」
「あ、はい……一応……薬剤師には必須の技能ですので……」
エリアさんはそう言うので俺が新調に言葉を選んで言っていた。
「じゃあ、とても気分が悪いことを言うけれど、気を確かにして。その菓子と茶の葉は絶対に食べたり飲んだりしないこと……そして鑑定をしてみて欲しい」
俺がそう言うとエリアさんもさすがに意味が分かったみたい。俺が何を疑っているのかが。
「まさか……」
「えっとね。まず、俺はそのハンスという人が配っていた菓子と果実酒でちょっとトラブルがあったんだ。だからそのハンスって人を探している。そしてその時に俺は聖教会と揉めていた」
俺がそう関連性を続けていると、リナルドさんが真っ先に気付いた。
「俺たちも孤児院に寄付をしている……それか!」
そうリナルドさんが言うので俺は頷いた。
「今の司教はそういう人ではなさそうだけど、前の司教はそういうことをする人だったかもしれないから、孤児院関係に関わる人にそういうものを配っていた可能性があるんだ」
俺がそう言うとエリアさんは一気に暗い顔になっていった。
そりゃ懐かしいと顔を合わせた幼なじみが自分のことを平気で命を狙うような輩になっていたら俺でもショックを受ける。
そんなエリアさんにリナルドさんが話しかける。
「エリア、全部を信じろとは言わないが、それぞれに事情があることだと思う。だが、お前が持っているハンスから貰ったものに何かが混入していたとしたら、それはハンスというやつが犯罪に加担している可能性がある。だから次に見かけた時は絶対に一人で会うな、いいな?」
「……うん、分かった……そうする」
エリアさんのテンションも完全に落ちてしまったので、その日はすぐに森を抜けてレテカの近くまで戻った。
さすがに日が暮れていたので街の門もしまっていたから街道沿いの休憩施設があったのでそこを使うことにした。
休憩施設は旅をしている人などに開放される宿泊ができるエリアのこと。
レテカの街に入らないでそのままベルテ砂漠を抜ける人が休憩することが多いらしく、結構人がいた。
冒険者も門の閉鎖時間に間に合わない人などもそこで寛いでいるので何か起こることはない安全な場所だ。
そこで俺は天幕を出してエリアさんたちを休ませた。エリアさんはずっと落ち込んでいて、可哀想な位だったけど、それでもエリアさんは今の仲間を大事にしたいからと気丈に振る舞ってた。
そして次の日にレテカに戻って、そのまま終焉の業火の組織が借りている家まで行った。
去年にきたばかりの場所だったので懐かしい気分だったけど、今はそれどころではない。
俺たちが連れられて入ると、たまたま通りかかったマッテオさんと出くわした。
「おお、ハルじゃないか。どうしたんだ?」
そう気軽に声を掛けられたので俺は言った。
「カルロさんとマッテオさんもちょっと付き合ってくれますか?」
俺がそう言うとエリアさんの様子がおかしいことに気付いたマッテオさんがすぐにカルロさんを呼んできてくれて、俺たちはあの解呪した時に使った部屋に通された。
「ハル、どういうことだ?」
そうカルロさんに言われて俺はエリアさんが部屋から持って来た物をまず見て貰った。
「これを鑑定してください」
俺がそういうと鑑定を持っているカルロさんがそれを鑑定していた。
もちろん俺は鑑定済みだ。
【名前】菓子 茶
【効能】痺れ薬、睡眠薬
【備考】体が痺れ、眠りに誘われる。痺れは身体機能を止めるほど強いため食べたり飲んだりするのは非推奨。
「なんだよこれ……こんなものどこから!!」
カルロさんが信じられないものを見たというように言うが、効能までは見られたと思う。
俺のは備考まで読めるけれど、それでも菓子や茶に痺れ薬と睡眠薬が入っていたら何事かと思うだろう。
「説明します」
俺はそう言ってまずは俺が領主邸で狙われたことを説明し、そしてそれを持って来たのがハンスであることも説明をした。更にそのハンスはエリアさんの孤児院時代の幼なじみであることが昨日分かり、そのハンスから菓子や茶を貰っていたことを聞いたので調べに来たわけだと説明した。
「そうか……助かったハル。それにエリア、よく皆に出す前に止めていてくれてありがとう」
「たまたまです……本当はもったいなくてしまっていただけです。ハンスは皆で食べるように言ったんです……僕はたまたま……なんです」
エリアがそう言って泣いているけど、俺は理由はどうであれファインプレーだと思っている。
「理由は何でもいい。結果が皆を守ることになっているんだから、エリア、よくやった……お前も無事で良かった」
カルロさんがそう言ってエリアさんの肩を何度も叩いた。
それでエリアさんはホッとしたようで、やっと泣いていたけど笑顔を見せてくれた。
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