彼方より 058

領主に会うための準備と商業者にもなりました

 俺が領主に呼び出されたことやヴァレリアさんに会ったことをイヴァンやレギオンに話したら、まあ二人とも頭を抱えちゃったんだけどね。
 レギオン曰く。
「ヴァレリア様が出てくるなんて相当珍しいことなんだ。彼女はあちこちに顔出しはするらしいが、貴族らしさはあまりない。だから街人はとても気さくな人柄を気に入っていて彼女が街にいても見て見ぬ振りをしている。そんな人から好意を抱かれればそりゃもう街人には街に必要な人間だと認めて貰ったようなものなんだ」
 ということらしい。
 俺が怪しい人物でないか、領主が確認する前にヴァレリアさんがやってしまうから街人はそれを信じるってことなんだよね。
「でもそうなると中央聖教会のことはどうにかなっちゃうのかな?」
 俺がそうレギオンに聞くと。
「恐らく妙な勧誘も噂も止まるだろうな。聖教会も領主には強く出られるが、ヴァレリア様には強く出られないんだよ。それくらい発言権があるってことだ」
 どうやら孫の領主であるニリレオは優柔不断なところがあって事なかれ主義な部分があるらしく、その代わりにヴァレリアさんが動いて領内を見回って、助言をしているらしいんだ。
 だから今回のことは領主に報告するために俺を先に危険人物ではないかと視察をしたわけだ。
 でも俺はまあ自分で言うのもなんだけど人畜無害なんだよね。
 攻撃魔法は一切ないし、手段もない冒険者だもの。
「ヴァレリア様のハルに対する心証が悪くなければ、ハルが領主に会っても問題はなさそうだな」
 レギオンがそう言うので俺はちょっと気分的には楽になれた。
「それで何かお土産を持っていった方がいいってブラン組長も言うから持っていきたいんだけど。ヴァレリアさんに聞ければ良かったんだけど、聞けなかったから。ブラン組長はレギオンに相談しろって言うからさ」
 俺がそう言うとレギオンは俺に聞いてきた。
「もしハルが領主に会うとして、土産は何がいいと考える?」
 そう聞かれたので俺は、
「高くて高価な物がいいわけだよね。それなら、果物とかキメラの素材とか渡せばよくない?」
 俺がそう言うとレギオンはふむと頷いた。
「ハルにしてはまともなことを言ったな」
「俺にしてはって酷い」
 俺がいつ規格外なことをしたっていうんだ……。
 それに俺が出せるものはレギオンたちも一緒に採取したり狩ったものだからね?分かってる?
 その中に常識外れがあったらそれはレギオン達が常識外れってことだからね?
「それでそれを幾つやればいいのかが分からない」
 俺は自分の収納に入っている分だけではなく、複製ができるからそれで増やしたものを渡すのはいいんだけど、俺にとって数に制限はないからいくつ渡せばいいやら謎だ。
「そうだよな、ハルには制限はないも同然だもんな」
 イヴァンが呆れたように言うから、俺はちょっとむくれる。
「仕方ないじゃん、そういう仕様だもの。それで幾つくらいが常識なのかが分からない。百個が非常識で、えげつないことはこの間知ったので、十個ぐらいが妥当かなと思っているんだけど……」
 そう俺が言うとレギオンも頷いている。
「恐らく、前の果物を沢山買い取って貰った時に領主も買い込んだはずだが、そろそろ在庫もないだろう。各種二個ずつを10種くらい用意すれば十分だな。それにキメラの爪と牙、毛皮があれば領主自体を満足させられるだろう」
「結構少なくていいんだね」
 俺がレギオンが見繕ったものが少ないと言うとイヴァンとレギオンがちょっと頭を抱えた。
 アッザームだけは俺と同じ意見だったらしくて、街での常識のなさが窺える。
「これでも普通よりは多いんだ」
「そうなんだ……でも多くするのは印象をよくするため?」
 俺がそう尋ねるとレギオンは言った。
「それもあるが、それ以上に俺たちの冒険者としての価値を見せつける意味もある」
「価値?」
「そうだ。例えば果物をこれだけポンと出せるくらいに余裕があり、それらを手に入れられる環境にあること。更にそこまで行くためには魔物を狩る能力もあること。ハル一人では駄目だが、俺たちが付いていることで戦闘能力がある事を知らしめるんだ」
「こう言ってはなんだが、俺たち炎炎組織はレテカの街でも数少ない白金級の組織だ。その機嫌を損なえば俺たちは別の街に移動するだけ。そうなればこの報酬は領主は受けられなくなり、功績も全部他の領主が受けることになるっていう脅しでもある」
 イヴァンとレギオンがそう言うので俺はそういう意味もあるのかと驚いた。
 お土産一つにしても自分たちの価値や意味を持たせるなんて驚きだな。
 でもそれを読み取れない領主なら、こっちからお断りってことなんだろうけど。
「じゃあ果物を各種二個ずつ十種で、キメラの牙と爪と毛皮でいいんだね」
「それでいこう」
 レギオンとの話合いによって持っていくものは決まったので、俺はその日までの間にまた迷宮に潜って角兎を狩った。いつもの孤児院用であるけど、角兎は大量に発生するので誰かが狩らないといけないんだけど、いつの間にか俺の役割になってしまって、新人冒険者か俺しか狩ってない魔物になりつつあるわけ。
 だから肉を複製できるとしても俺が焦げ付いた依頼を熟さないと新人冒険者が角兎の群れに襲われる羽目になるので定期的に狩って、それを複製して、大元も肉は街の肉屋に卸すわけ。
 そうすることで街では俺が大量に肉を持ち込んだ日は特売日になるので街の人には喜んで貰えているけどね。
 焦げ付いた薬草の依頼の方は迷宮の十層まで潜らないといけなかったのでそこまで潜って薬草を採りつつ、オークもいたので今回はオーク肉も孤児院の方に入れてやろうと思って多めに狩って貰った。
 もちろん複製をした物以外は街の肉屋に流す。
 俺の収納の中で綺麗に解体ができるから、肉は新鮮なまますぐに孤児院に届けられた。
 まだ俺は警戒をしていてイヴァンに肉を持っていって貰っているけど、そのうち俺がちゃんと届けられるといいんだけどね。
 俺は孤児院には行かずに、街の肉屋にいって取ってきた肉を買い取って貰う。
 売れた先から店に並ぶし、特売になるしで、一気に主婦たちが肉屋に殺到をしている。
 俺はそれを横目に市場で珍しいものがないか探す。
 時々、輸入されてきた珍しいものが入っていることもあるので、市場で物色するのは止められないね。
 だって味噌や醤油、みりんとかラー油とかまで見つけられるんだから、止められないよね。
 俺は飾り物や置物には興味がないし、アクセサリーにも興味がないので着飾ったりもしないから、まあ買いたい物が調味料とか珍しい食べ物ばかりになってるけどな。
 こうやって俺が街に貢献していることで、ちょっとは領主にいいところが伝わるといいんだけどね。


 それから二日後になって領主が指定した面会日になった。
 俺は朝から体をしっかりと洗って綺麗にして、着る服はいつも毛皮を卸しているお店にお願いして貴族達と会うのにおかしくない服を用意して貰った。
 相談をした時はちょっと遅かったみたいなんだけど、急いで服を作る代わりにこの店から領主の奥さんと子供に贈物として献上して欲しい服があるとかで、それを俺がお薦めだって献上して欲しいんだって。
 俺はレギオンに付いてきて貰っていたから聞いたら、それはありだと言われたのでお願いを受けた。
 そしたら洋服のオーダーメイドって最低でも一週間はかかるらしいんだけど、三日で仕上げてくれた。
 商会運をかけたものだったらしいんだけど、凄くいい服ができてよかった。
 それから献上したい服を見せて貰ったけど、俺が取ってきた角兎の毛皮を使った可愛いドレスだったんだよね。これからの季節ではないけど、秋には十分に着られる洋服と外套だったので恐らく喜ばれると思うんだよな。
 俺はそこでコートを一枚頼んだ。
 仕上がりは冬まででもいいんだけど、毛皮が外套に付いたもので、首周り、袖口、裾にファーがついたやつをお願いしたんだよね。
「こ、これは……何て可愛いデザインなんだ」
 これまでは毛皮と言えば全部が毛皮だったらしいんだけど、ワンポイントでファーを入れるのはなかったみたいだね。
「この意匠、売ってくれませんか!? 商会を通して手続きしましょう!!」
 そう洋服店の主人に言われて俺は驚きながらも頷いていた。
 結果、商業者組合に駆け込まれてしまい、そこでとうとう俺も商業者組合に属することになったんだけど。それをいいことにレギオンが俺が考案したわけでもない、異世界の飯レシピを俺の考案だって言って登録させたんだよね……。
 異世界人が聞いたらお前何してんの?って言われるやつなんだけどね。
 なんでか炒飯と餃子に豚汁もレシピ登録されたなかったんだよね。味噌汁はあるのにね!!
 唐揚げとかフライドポテトとかは登録はされているんだけどね。偏ってるなあ。
 俺はとりあえずその三つのレシピは登録してもらって、それが公開されると人がレシピを買ってくれたら俺にお金が入るってことらしい。
 もちろん真似をすることはできるんだけど、それをすると店が証明書を持ってないところは信用されなくなって街ではやっていけなくなるみたい。
 個人でやる場合はそれは自由だけど、使用権や利用権は店を開いたりお金を貰ったりし始めたら発生するんだって。
 よく分からないけど、まあいいや。
 そういうわけで俺は商業者にもなってしまったのだった。
 商業者は基本的に年間の税金を払えば、証明書を維持できるんだって。
 冒険者組合みたいに規定の討伐証明だったり達成証明が必要ではないので年会費で賄うんだとか。もちろん払わなかったら証明書の年間更新が切れて、権利を放棄したとされるんだって。
 例えば俺とかが更新料を払わなかったら、俺が登録した権利を放棄したとして、著作権とかそういうものが破棄されて、取扱いが自由になる仕組み。
 そうやって亡くなった人の権利とかは自然と切れるし、相続対象にもなるので家族はそれを継承すれば、そのまま権利が移行するらしい。
 その移行にも結構大変な手続きがあるとかで、面倒らしいので省略。
 俺には冒険者組合で作った銀行口座があるのでそこに使用量を振り込んで貰うように手続きをした。
 商業者組合の階級は基本的に商会を持つかしないと上がらないらしいんだけど、俺はこれまで肉屋なんかに肉を卸しているからその功績も一応称えてくれて、下から二番目の階級である鉛級からスタートになった。
 レシピが売れたりデザインが沢山貯まってくれば錫級にも上がれるらしい。
 ちなみに運送商会は既にあって、手紙や物を送るのに使われていてそれは国全土に配達ができるような商会らしいんだよね。収納持ちはこの商会に就職して荷運びをするんだって。結構安定した職業らしくて収納持ちになりたい人は結構いるらしい。
 俺みたいな規格外な荷物運びはいないので運送商会に俺を紹介してくれって言ったらしいけど、俺に話が通ってないところを見ると、冒険者組合の方がもみ消したのかもね。
 それで商売をするつもりはないのでいいんだけどね。
 商業者組合から出て、店に戻ってデザインを詰めてやったらちょっと違うデザインができたけど、それはこの店独特のデザインになった。
 あまりによかったからか、これもすぐに作るので領主家族に渡して欲しいと言われたから、領主に呼ばれた日の朝に受け取ることにして洋服店は引き上げてきた。
「あの意匠も全部あっちにはあるものなのか?」
 レギオンがそう言ってきたので俺は頷いた。
「あっちの意匠を全部俺の物にするわけにはいかないから、あんまりあれこれ言わないけど、俺の後からこの世界に来た人がいるかもしれないから、俺はこの辺で登録はやめておくよ」
 俺がそう言うとレギオンもそれには納得してくれたけど。
「大丈夫、俺が食べたいものはレギオンには教えるし、それでレシピがあれこれするなら登録するから」
 俺がそう言うとレギオンの機嫌が一気に上がった。
「本当に料理するのが好きなんだね」
「そりゃな、食は大事だからな」
 レギオンにとって食事はそれなりに重要だったらしいんだけど、俺と暮らすようになってから色々とこり始めたみたいで、イヴァンもちょっと驚いていたな。
 なんでも女性と一緒に暮らしていた時とかは飯を付くってやって気を引くこともしたみたいで、俺の時もそれで気を引いたみたいだね。俺はまんまとハマりますけどね!!


 あれこれと準備して、服も間に合ったし、洋服店が出して欲しいと言ったダッフルコートのやつも間に合ったし、俺たちは準備万端で領主の呼び出しに応じることになったのだった。



感想



選択式


メッセージは文字まで、同一IPアドレスからの送信は一日回まで