彼方より 053

森の産物と不穏な出来事

 森から戻って三日後に冒険者組合にイヴァンとアッザームとで行くと、ブラン組長が待ちわびていたように俺たちを呼び出したんだ。
「えー何もやってないのに」
 俺がそう文句を言うとブラン組長が言った。
「お前はこれからやるんだろうが」
 そう言われてしまって反論できない。
 そう言うわけで、特別室に呼ばれてそこで持って来た品物を出したのだった。
「これが焦げ付いていた依頼の薬草で……」
 そう言いながらグルキュ草を出すと、すぐに鑑定士が鑑定をしてくれてさっと引き取ってくれた。
「ちょうど切れていて困っていたところだ。あるならもっと出せ」
 そう言われたので創造魔法で複製した分もあるだけ出した。
「素晴らしい、性能も高く均一な状態だ。これならすぐに解熱効果も出るだろう」
 鑑定士がそう言うのでどうやら複製は複製した物の状態が良ければ良いだけ得をするようだった。
 俺はそれに続けて回復薬も沢山出して、ゼダス草やイガース草の山を築いてしまった。
「あるだけ出せとは言ったが、お前は摘み取れるだけ摘み取ってきたな……」
「いいじゃないですか、あそこまで深いところまで潜っている冒険者を見なかったから」
「何処まで潜っていたんだ?」
「カゼベの実があるところまで」
 俺がそう言うと、さすがのブラン組長が唸った。
「そうなると果物が沢山あるということか?」
「そうですよ、それが目的で潜りました」
 俺がそうはっきりと告げると、ブラン組長がダヤ副組長とその他作業員を連れてきた。
「ここではなんだ、お前は裏の冷蔵庫まできて貰おう」
 そう言われて俺は薬草を全て出した後に、果物を出すために組合の裏にある商業者組合と同じエリアにある倉庫へと連れてこられた。
 そこには商業者組合の組長であるイムレ・フラダさんもいて俺の事を拝んでいる。
 何でだと思っていたら、どうやら果物は相当価値がある品ってことみたいだ。
「ここで出せ、あるだけ出せ」
 そう言われて俺は持っているだけではなく、複製もした果物も出した。
 大元の果物は隔離して採っているので、それ以外は出してもいいなと思ったのだ。
 自分で食べたくなったら複製するし、一番いい果物を十個ずつ取っておいてあるので後は出しても問題はなかったのだ。
 一個の果物に付き、百個くらい出したらフラダ組長が膝をついて驚きながらも俺を崇め始めたので俺はちょっと居心地が悪かった。
「おお、神よ!」
 ってな具合なので。
 ルムイとピクシーとテキロと、ユユロ、リコにマハイの実を出してしまったら驚愕されたし、それが各100もあるのだから驚くなという方が無理なのだろうか?
 それから果物も喜ばれたんだけど、更にエクタゾの実という実を出したらもの凄く皆の目の色が変わったな。
 レギオンに聞いたところによると、このエクタゾノ実ってのは小さな小梅くらいの大きさなんだけど、それが熟していると食べるだけで酒を飲んだかのように酔うんだって。お酒の実ってわけ。
 エール酒ではそこまで酔えないので、これを肴にするととてもよい酔っ払いになれるんだとか。
 この実を専門に育てている商会もあるくらいにメジャーな果物なんだけど、やっぱり森の中から採れるのと外で育てるのは違うみたいで、森の物の方が高いんだとか。
「よ、良ければ皆さんに十個、銀貨一枚で売りましょうか?」
 俺がそう持ちかけると全員が滅茶苦茶真剣に俺に頼んできた。
「お願いします!!」
「えっと、小さな袋をくれたら分けますよ」
 そう言うと一斉に倉庫内にあった小さな袋を持って全員が並んだので十個ずつ分けてやった。銀貨十枚くらい儲けたけど、お金が欲しかったんではなくて、無料で配ったら碌なことにならないことを知っているからだ。
 対価なしで何かをしてはいけないんだって。そうなったらずっと俺は集られる羽目になるからって。
 銀貨一枚は安すぎかもしれないけどね。どうやら森で採れたエクタゾの実は十個で銀貨五枚はするそうだからね。
 貴族の食べ物だってわけよ。
 あとはガトルムの実という影響がよく詰まっていて回復効果もある冒険者が必ず持つ非常食の小さな実を米袋の中に入れて大量に出したら、また拝まれたけどね。
 これは単価は安いんだけど、リンゴくらいの大きさの袋に一杯入れても金貨一枚くらいなんだって。でも絶対に皆持っていくのであればあるだけいい。売れている商品だけど、森産となるともちろん効果も対価も倍くらいになるわけだ。
「これは貴族達の争奪戦になりますな……」
「領主たちは鼻高々だろうな」
 この地の物が高く王都で売れればそれはそれで領主の懐も暖かくなるし、自慢にもなるというわけだ。
 またレテカの街は冒険者の街。冒険者が活躍してなんぼの世界である。その活躍が広がれば広がるだけ、冒険者たちの立場も安泰ってわけ。
 なので俺がいい感じに大量に物を持ち込んでいるのは悪い事ではないみたい。
 それから森の奥で沢山出た魔物の素材を取引して貰った。
 主にイヴァンとレギオンが狩ってくれた魔物の素材だけど、要る物は渡しておいたので要らない物だからと大量に出した。
「……普通にマンティコアとか出すなよお前ら」
 そう言われたけど気にしないでどんどん出して、キメラまで出したらまた商業者組合のフラダ組長に拝まれてしまった。
 マンティコアだけでも十体あったし、キメラは三体分は俺とイヴァンとレギオンで分けて、アッザームは何か欲しい時は俺に作らせてくれるので俺が素材だけ貰ったんだけどね。
 俺はその複製で増やせるからいいんだけど。
 そういうわけで、キメラの素材も二体分あったし、ジャイアント・ベアーとかも二十体くらい綺麗な毛皮になっていたし、タイガーとかも見栄え良く解体したから綺麗な毛皮になってるものが二十体くらいあったしで、強い魔物が綺麗に解体されていたらまあ、俺でも拝みたくなるかもしれない。
「肉はどうします?」
「いるに決まっているが、キメラとマンティコアだけでいい。あとは市場に流した方が良さそうだ」
 そう言われたので。
「じゃあ、街の肉屋に売ってきますね」
「そうしてくれ、それで市民の口に入る」
 そう言われたのでそうすることにした。
 孤児院に持っていって貰うのもいいな。いつもは角兎ばかりなので違う肉もありかもね。
「イヴァン、孤児院の方を頼んでいい?」
 俺がそう言うとイヴァンは頷いてすぐに俺から肉を受け取って孤児院に向かってくれた。
 今日は冒険者組合でしか用事がないので、その間に行って貰うのが早い。
 それから俺たちは裏の倉庫で最後の薬草であるエニー草をブラン組長に出した。
「……おまえは本当に……」
「焦げ付いた依頼にあったんで採ってきたけど、これ、採れるわけないだろうという依頼だよね?」
 俺がそうブラン組長に言うとブラン組長とフラダ組長が口笛でも吹きそうなくらいにとぼけている。
「……あったらいいな~っていうだけのことで」
「組長が出した依頼だったんですね……そりゃ焦げ付きもするわ……」
 俺が呆れてしまうと、アッザームが笑っている。
「どうせハルが採ってくるだろうと思って、わざと焦げ付く依頼を用意していただろう。ハルが採れなくても他の誰でもいいんだ。誰かが持って来てくれればそれでいい」
 そう言うので組長達を見るとうんうんと頷いている。
 どうやらわざとそういう依頼も混ぜているのだろう。
 足りなくなる前に補充分を依頼に出しておくのは当然のことだ。
「まあ、いいけど。百本くらいあるよ?」
 俺は群生地を見つけたと言って百本出したらもの凄く慌てられたけどね。
 もちろん百本全部採ったわけじゃなくて、二十本くらいを複製して増やした分だけどね。
 意地悪したくなっちゃったんだよね。
 ブラン組長もフラダ組長も呆然としていたけどな。
「これで、全部出しました」
 俺がそう言うとダヤ副組長が全ての精算をしてくれた。
 薬草だけでも相当持っていていたから白金貨が三枚。魔物の素材だけでも白金貨一枚。肉は大金貨五枚。エニー草だけでも大金貨が五枚。ここまででも白金貨五枚になってるけど、ここから更に果物の実の分。
 各百個ずつあるから、一個金貨一枚だとしても一種に付き白金貨一枚になる計算だけど、そこからさらに貴重な分などもあるので、最低が金貨一枚なのであって、物によっては金貨五枚まで値が付くことに。
 そして白金貨が軽く計算しただけでも三十五枚は出た。
「果実ってもしかして滅茶苦茶儲かるやつ?」
 俺がそう呟くとダヤさんが言った。
「そうでもないんですよ。専門の冒険者もいるんですが、ハルさんほどの収納持ちはいませんし、アッザームさんたちほど強い冒険者が果物採取の専門はしませんので、引退寸前の強いけど組織に属したくないくらいの強い冒険者が時々潜るくらいです。ほら鑑定と収納持ちほどになりますと、滅多にいませんし」
「つまり、俺たち以外にこんなに持ち込める人はいないってこと?」
「そうなりますね。ここまで儲けているのはハルさんが初めてですが……真似して潜る人がでないことを祈るしかないですね」
 そうダヤさんに言われて俺はちょっと知らない振りをした。
 そりゃ危険な行為かも知れないが冒険者ともなろうものが、自分の身の危険を冒してまで果物で儲けようなんて甘いんじゃないかと思うわけ。俺も甘い方の考えだけど、イヴァンやレギオンにアッザームの力の及ばない場所には誘わないもんね。
 駄目だって言われたら諦めるし、行けると思ってくれたら連れってくれって言うからね。
 とにかく、俺たちぐらいしか儲けられないことが分かったので、それはそれでよかったかも。
「ハルさん、アッザームさん、また機会がありましたら大量に持ち込んでくださいね。えーと、夏場は輸送にちょっと難儀しますので、春か秋辺りがいいですね。王都ではパーティーも開かれますし、沢山売れると思いますよ」
 そう言われてどうやら当てにされているようだった。
「まあ、気が向いたら……」
 俺はこの後、自分の分は複製をして食べる分だけ出すので、わざわざ採りに行く必要がないんだよね……。
 一回採って、そのオリジナルが残っていれば複製し放題だからさ。
 適当に請け負うのは駄目なので曖昧にしておいて、また機会があればってことにして置いた。
「ハル、お前、このまま果実商人にならないか?」
「バカなこと言わないでくださいよ。結構大変なんですからね」
 俺が戦った分けではないけど、果物を採取するのって結構大変なんだよね。
「ははは、そうか。まあいいや、とりあえず今日の分の支払いだ」
 そう言われて渡されたお金は大金貨にしてもらってる分と、金貨にして貰っている分と、あとは全部白金貨でもらった。
 最近、稼ぎすぎていてお金は減らないし、堪っていく一方で個人的にも組織から給料として渡して貰っているけど、その支払いが毎回大金貨か白金貨で払われていてそれを使う暇がないまでになっている。
 もう俺もどれくらい白金貨を持っているのか覚えてない。
 一生遊んで暮らせるくらいに儲けているんだけど、何もしないで生きていくことは辛いので働いている。
 そして日々にお金がそれほど掛からないわ、俺は一度手に入れた物は複製できるので再度購入はあんまりしないわで、結局お金をあまり使わない生活になってしまっている。
 さらには自給自足も野菜は始めたからな。
 そういうわけで貰ったお金はブラン組長の部屋で貰い、そのまま収納に放り込んだ。
 全てが終わった辺りでイヴァンが戻ってきた。
「ハル、待ったか?」
「お疲れ様、よかったちょうどだったよ」
「そうか、あっちはいつも通りだったが、肉が高級肉になってしまったからちょっと戸惑っていたな」
「ああ、あのお肉、強い魔物のだから高級になっちゃうんだね……それはそれで問題かな?」
「そうだな、人生で一度食べたらいい方の肉だと思う」
「え、そんなに?」
 俺は肉の価値はあんまり分からないけれど、高級肉を結構食べてきたので冒険者なら機会があるのかと思っていたらそうでもないという。
「孤児院を出て冒険者になれるような素質があるなら、そいつは既に別の主要な聖教会の個人に集められて騎士や兵士になってるはずだ」
「つまり、孤児院にいるのは普通の子供だからあんな扱いされてるってこと?」
「そういうことらしい」
「うーん、ならもうちょっと勉強を教えるとか普通にすればいいのにね……領主はそういうのはしないわけ?」
 俺がそう言うのだが、それはそれで話は別なようだった。
「そりゃやろうにも、聖教会がその孤児院の権利を国から貰って経営しているからな。領主もそうそう口を出すわけにはいかないのさ」
 話を聞いていたであろうブラン組長がそう言い出した。
「何でですか?」
「聖教会ってのは、そうした貧民を助ける聖女を主とした教会だ。しかも発祥地はシリンガ帝国だ。そこから貧困層を助けることでセフネイア王国にまで教徒を増やしたわけだ。国王は貧困対策はあまり乗り気ではなかったからそこを突かれた形だ。で、いざ領主どもに命じてみたが、聖教会が今更どの口がと言うように、孤児院の仕事を絶対に渡さない上に、シリンガ帝国の皇帝まで巻き込んで王国の対策に口を挟んできたわけだ。まあ、それまでに五千年という帰還が過ぎていたし、それまで国が何もしなかったことは国民の方がよく知っているからな。国や領主が用意した孤児院には頼らなかったわけだ」
 そうして国の貧困対策は無駄であったと貴族達が開き直り、面倒ごとは聖教会に押しつけて金で解決することにしたわけだ。それが貧困層への対策金だったが、そんなのは年々寄付金として膨れ上がるにつれ教会側も不正の温床になり、教会毎に差を付けてもはや孤児院も教会を守るだけの人材集めとしか思っていない。
 力を持つ物を集め、優遇し、力のないものは影で何とか生かされているに過ぎない存在になってしまっている。
 それもこれも生まれ持った技能というものが一生変わらないという認識のせいだ。
 俺はそれは人によってレベルが違うため、あとから解放されることを知っているけれど、この世界で後から能力開花する人は稀なのだという。
 だからイヴァンたちも俺を構うだけで収納が解放されて驚いていた。
 けれど、その奇跡はそれまでに積み重ねたものによって変わるのではないかと俺は思っている。
 生活魔法が使えるなら、何か魔法が使えるように育つ。
 確かに生活魔法と魔法は違うものとして扱われているけれど、それを習うことで生活魔法を身につけることができるはずだ。
 ただ大きな魔法に関しては俺のように魔力があっても解放条件が明らかでないものは解放は難しいかも知れない。
 けれど、俺は孤児院で捨てられるように育てられている子供達もきっと何かに開花すると思っている。
「何か、ムカつくんですけど……寄付金で好き勝手してきたくせに、能力のない子は面倒を見ませんって、それはどうかと思う」
「そりゃ俺もそう思うさ。でもお偉方の言うことを聞かなきゃ、俺だって首が飛ぶってもんよ」
 ブラン組長がそう言った。
 ブラン組長にも家族がいて、そこは守らなきゃいけないところ。俺みたいに異世界人なわけでもなく、慈善事業をしてもきっと得など一つもないだろう。
 俺みたいに何かあればここを去ればいい程度だからこそ、口出しができるのであって、ここに住むとなればもちろん俺だって追い出されるのを覚悟して喋らないといけないわけだ。
 何だか腹は立つけど発言の責任は取れってことだよね。
 そりゃ俺だって強気でいられるのはイヴァンやレギオンやアッザームがいるからで、いなかったらきっと慈善事業なんてしている余裕はなかったんだろうな。
 そう思ったけど、そこで孤児院の修道女がことを荒立てたくないというように俺の訪問を止めたことを思い出す。中の修道女が関わり合いにならない方がいいと思うようなことが内部では起きているのだろう。
「とにかくハルは大人しくしてろ。アッザーム、イヴァン、しっかり見てろよ」
 ブラン組長がそう言ったのでイヴァンとアッザームは頷いた。
 でも事は俺の知らないところで既に始まっていて、それはとても先の出来事まで色々と巻き込んだものになっていく。
 俺はそれをまだ知らないで暢気なことを考えてたんだ。


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