彼方より 052

ラヅーツの森で果物採取する

 ラヅーツの森はセフネイア王国内にある唯一の深い太古からある森。
 魔物が歪みから頻繁に湧いていて、その森は大きく成長をし続けている。そのため辺境部分の森は常に木樵によって伐採が続き、その伐採されたものは人々の家や家具の製作などに使われている。
 そんな森の中には森にしかないものが沢山あり、それを採ることを生業にしている冒険者もいるほど。しかし俺のような収納で特に時間停止機能と無限大の大きさを持つ人はいないので、街に出回る果物や薬草は貴重品とされている。
 というのもこの森には強力な魔物が沢山湧いていて、それを討伐できる冒険者は銀級から白金級までとなっている。この基準があるので深い森の中で採取できる人が限られてしまうわけだ。
 その点、俺のいる炎炎組織ははっきり言ってラヅーツの森に適したチーム構成になっているわけだ。
 イヴァンとレギオンは剣の達人で金級の腕前を持つ、イヴァンは剣聖の称号を持つほどの剣の技術があって強い。レギオンは剣術を持っているけど、魔法使いでもあって火の魔法を使えるのでその分魔法で追いつく感じ。
 アッザームは隠密を覚えたので更に身を隠すことに長けた魔法剣士だ。銀級だけど俺と同じく盗賊討伐でしか稼いでいないのでそれだけで銀級まで来ているという事は放っておいても金級にはなれるし、もしかしたら最初に白金級になれるのはアッザームかもって感じ。魔法剣士はそれだけ強くなれる称号をなんだよね。
 でもアッザームは俺を守ることに重点を置いて行動するので魔物を討伐するよりも俺の側にいたいからって討伐にはほぼ参加しないから結局魔物討伐の功績があんまり堪らないんだよね。
 それでも金級の強さは確実にあるので、この中で足手まといなのは圧倒的に俺なわけよ。
 相変わらず攻撃系の剣術は覚えられないし、魔法も全然そっち系は習っても発生もしないという有様。
 魔力だけは腐るほどあるというのにね。
 角兎とゴブリンしか狩れませんが何かって感じのままだ。
 森はいつも通り濃い緑の中、薄暗い大きな木の下を歩いて行く。草も沢山生えているから、そこから薬草などを探して摘みながらいく。
「この辺の薬草はいいかな」
 深い森の中でも更に浅い方であるところで採れるものは前に採ってあるので今日はそこを更に越えていく。
 魔物も更に強くなってきてジャイアントベアーからバジリスク、コカトリスに変わり、マンティコアまででてくる。
 こうなると俺は完全に後方で守られているしかない。
 イヴァンとレギオンは二人でそれを倒して行く。時々アッザームが魔法を使っているけれど、恐らく強化の魔法だと思う。
 この三人は最近、また強くなっている。ステータスを見たら分かるんだけど、全体的に百以上上がってるんだよね。
 俺が迷宮や森に散々連れて行っているかららしいんだけど、そのお陰で強い魔物と戦うことが増えて、護衛などをやっていた時よりもずっと強くなっていっているらしい。
 まあ、前に終焉の業火の人達の呪いを解いて本当に力が百年振りに解放されたのを見ちゃったからさ、それで二人ともまだまだ自分たちが全然弱いって思ったのもあって、鍛錬もするようになったんだよね。
 それまでそこまで強くなっても意味がないと思っていたみたいだけど、今はあそこまで強くなれるんだと見せつけられたのでそこまで強くなりたいらしい。
 それはとてもいい変化だったし、皆やる気も出て素晴らしいよね。
 まあ、でも十メートル級のキメラを二人で倒せるのはどうかと思うよ。強すぎるだろ。
「ハル、収納してくれ」
「分かった」
 倒したキメラやマンティコアを収納して、更に奥へと向かって行く。
 途中で俺は薬草を採取していく。
 グルキュ草は解熱薬になる薬草。回復薬と混ぜると回復しながら解熱してくれるってわけ。
 なので回復薬のゼダス草やイガース草も採っておく。
 もちろん一個採れば俺の中で増やせるけど、なるべく採取したもので作りたいからね。
 創造魔法の複製を信じていないわけじゃないけど、何かあったら困るし、自分たちで使う分と時々様子見で分けてあげる分で試して貰っている。
 ラウレシア草やアラト草、この辺りは解毒薬になる。
 毒の成分をこの二つを混ぜたものに入れると解毒薬になるわけ。
 でも強すぎる毒は解毒薬にはならないので注意が必要とされている。
 それから更に深いところまで潜ってから、周りを警戒しながら順番に昼食を取った。
 見張り二人に対して一人が食事をして、終わったら見張りに戻って一人が食べるという感じ。ここまで深い森に入ってしまったらいつ何に襲われても文句は言えないエリア。
 もう少し先に行くと森の中でも果物が生っているエリアが出現する。
 そうしてもすぐ日が暮れるというところまでやってくると果物の甘そうな匂いが漂ってきた。
「ハル、ルムイの実だ」
「わ、ほんとだ一杯生ってる」
 俺は大声を出さないようにして喜びながら、木の実に近付いた。
 木の大きさは十メートルくらいだろうか。その木に実がみっしりと生っている。木に生っている時は魔物は食べないらしいけど、落ちた実は魔物が食べるので落ちた実はなくなっている。
 危険と隣り合わせなので、急いでもぎ取るしかない。
 ルムイの実は俺の世界で言うと桃の実と全く同じような実でめちゃくちゃ美味しいんだよね。
 俺はそれが大好きでとにかく欲しかったのであるだけ採って収納に仕舞い込んだ。
 群生地みたいになっていたので半分くらいは採ったけど、半分は残した。後から来た人達が俺が取り過ぎたことが原因で引き返す羽目になったら困るもんね。
 なのでその群生を抜けて。更に別の果実が生っているところまで行く。
 次に見つけたのは。
「テキロの実だ」
 テキロは梨の実に似ていて水分が多くてちょっと甘い。これが外で育てると水っぽすぎて余り甘くないので水分補給に使われているくらいだ。
 俺は梨は好きなので見かけたら買うようにしていたが、やっぱり森の中の物の方がいい匂いがする。
「いいね、集めよう」
 俺がそう言ってどんどん集めていくと、その隣にユユロの実が生っているのが見えた。
 ユユロはブドウとそっくりなんだよね。こっちでは森で生っているものがよく売れていて貴族が食べるものという認識しかなくて、庶民の口に入ることはないんだよね。
「うわ、ユユロだ、嬉しい」
「珍しいな、二つ果実が並んでいるとは」
 イヴァンがそう言うので珍しいことらしいけど、ラッキーはラッキーだ。
 遠慮なく採っていって、半分は残す。
 そうしてまだ奥まで潜るのだが今日は小さな行き止まりの洞窟が見つかったのでそこで一晩野営する。
「ふは、今日は果物も沢山採れたね」
 俺がそう言うと、イヴァンが笑っている。
「本当に果物に目が無いな」
「だって美味しいもん。いくら食べてもいいじゃん」
 俺はそう言って創造魔法でその果物を増やしてみる。そして増やした方を取り出して皆に振る舞った。
「肉の後に果物を食べるととてもいいよ」
 俺はそう言って持って来た食事も出した。
 俺の収納は時間停止が付いているから作りたてを入れれば、出てきた時は作りたてのものが食べられる。
「相変わらず、ハルの収納は便利だな」
 そうレギオンが言うけれど、俺はそうだけどそうでもないようと言う。
「熟成させたいものとかも止まっちゃうからね」
「確かにそれは困る料理もあるな。肉も味を染み込ませるために寝かせるが、ハルの場合そのまま味も染みていないものが出てくるわけか」
 レギオンがそう言うので俺は頷いた。
「そういうこと……だから俺は作って貰ったものしか保存できないわけ」
「それはそれで考え物だな」
 熟成させるのに通常の冷蔵庫を使うのもありだが、虫や寄生虫が湧かないようにするには収納に入れるのが一番手っ取り早いのだ。レギオンはそうやって料理に上手く利用している。
 俺にはそれができないんだよね。
 肉を食べ終えたら果物を食べた。
 食べたのはルムイの実、桃の味がしっかりとして甘くて堪らない。
「美味しい、滅茶苦茶食感もよくて甘いな……」
「うん、俺の想像通りだ」
 俺は満足して一個まるごと食べた。
 イヴァンもレギオンもアッザームも美味しかったのか皆一個くらい食べたと思う。
 それから俺たちは休息をすることになった。
 収納から持って来た野営用の簡易ベッドを取り出して皆の分を並べて俺とアッザームは先に休む。
「ハル、しっかり寝ろ」
 イヴァンがそう言ってくれて俺は頷く。
「うん、お休み」
「おやすみ、ハル」
 イヴァンが先に額にキスをしてくれたけど、次にレギオン、その次にアッザームと順番にキスをしてもらって俺は眠りに付いた。
 三人がいれば俺は絶対に安全だと思えたし、野営で怖い思いをしたこともないのでぐっすりと眠った。
 次の日も順調に森の奥を目指した。
 途中で薬草もしっかりと採る。
 ハーブなども見つけたのでそれも集めて収納内で創造魔法を使って増やしてみる。街に売りに出したらきっといいなと思ったのは鑑定で肉を煮込むときに使うものと、焼くときに塗り込むものだったからだ。
 きっと美味しいものができあがるだろうな。
 その後も果実を沢山見つけた。
 リコの実という桑の実みたいなものや、マハイの実という正にイチゴの味がする果物だ。
 そして俺は沢山の薬草を見つけたのだが、その中に見つけたかったエニー草を見つけた。
 エニー草はその草そのものが回復薬の役割を果たす物で、草をそのまま食べても回復をするんだ。とても貴重で、欲しがる人が山ほどいる。
 これで回復薬を作ると完全回復する秘薬に近い効果が出るって言われているものなんだ。
「群生地なんてあったのか」
 この森にエニー草の群生地があることは聞いたことはないと言うのでどうやら新たにできた群生地みたいだ。
 もちろん遠慮なく採らせてもらって、次も生えるように根は残すようにした。
 自分用には一個根があるものを採れば創造魔法で増やせるしね。
 外で栽培ができるかどうかも見てみたいね。
 そう思いながらエニー草をある程度摘んで、更に奥地を目指した。
 すると俺の鑑定に面白い薬草が引っかかった。
【名前】メルモル草
【効能】秘薬を作るための回復薬。
【材料】メルモル草 カゼベの皮 ロンダン草 サスウ粒子
 と出たのだ。
「……カゼベって何?」
 俺はレギオンに尋ねていた。
「カゼベは果物だが、もうちょっと先にいかないとないかもな」
「じゃあ、ロンダン草って言うのは?」
「それも更に奥にいかないとないな。欲しいのか?」
「うん、欲しいかな。ちょっと気になってね」
 俺の鑑定に何かの作り方が出たのは皆分かっている。
 俺の鑑定は何故か名前や効能が分かるだけではなく、レシピが出るのだ。それで何が作れるのかしっかりと記載されている。その中でも一番効能が高いもののレシピが出てくるので作ると必ず高品質になる。
 三人はいつものことだと思って何ができるのかは聞いてこなかったので俺はホッとした。
 まさか第二の秘薬の作り方が分かりましたなんて言えない。
 そしてナビゲーションが告げてきたことも言えないことだった。
『秘薬2の作り方を覚えました。霊薬を作ることが創造魔法に追加されました』
 霊薬って何?ってところからだけど。
 秘薬は怪我などが完全に治るものだけど、霊薬は不老不死になれる薬のことらしい。
 実際に不老不死になった人はいないので、霊薬自体は幻の薬だとされているけど、霊薬を作るのには実は今俺が獲得した第二の秘薬の作り方をマスターしないといけないみたいなんだよ。
 そういう条件で霊薬の作り方が解放されるわけで。
 恐らく秘薬を作り、二つを並べたら霊薬の作り方も全部分かるんだろうなと思ったけど、俺はこっちのレシピよりも冒険者組合の鑑定試験で出されたドラゴン草の方が手に入れられないだろうな。
 なので俺がこっちの秘薬を作れても第一の難しい方の秘薬の材料が揃えられないんだよね。
 そういうわけで霊薬は解禁されないだろうなと思えた。
 でも二個目の秘薬を作ってみたい欲は勝てなかったので結局ロンダン草とカゼベの実を探した。
 三日目にしてその二つが揃って、後はサスウ粒子と出たのを思い出した。
「サスウって何?」
 俺がそう聞くと、レギオンが言った。
「岩塩の仲間と言った方がいいか。そういう岩だ。フルツ山から沢山出るから塩の代わりに使われている。セフネイア王国だと岩塩の代わりに使っている」
「つまり」
「家にある塩だ」
 レギオンにそう言われて俺はその場に座り込んでしまった。
「まさか、家にあるとは……盲点だった」
 岩塩だと思っていたので家の塩まで鑑定をしたことがなかった。
 俺がグノ王国から持ち込んだ塩は海水から作る塩か岩塩から採れた塩しかなかったんだよね。
 そうか、掘る場所が違えば品も微妙に違うか。
 俺はやっと納得をした。
 最終的に手に入れたい物は手に入れられたし、俺たちはやっと帰路についた。
 森では果物が沢山採れたし、焦げ付きの依頼の分の薬草もちゃんと採れた。
 さらには依頼の中で難しいエニー草の依頼も完了できたので二日かけてラヅーツの森からレテカの街に戻った。
 合計五日間の旅だったのでその日は家に帰って休んで、翌々日まで皆でセックスをして盛り上がった。
 そのため三日後まで冒険者組合には顔を出すことができなかったんだよね。


感想



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