彼方より
051
いつも通りの日々に感謝
こんにちは、ハルです。
異世界のリエキグ大陸にあるセフネイア王国の西にあるレテカという街に住んでいます。
元々はその隣にあるグノ王国の勇者召喚によってこの異世界に来ました。
でも勇者一行様ではなくて、俺は巻き込まれし者だったので「ゴミ」と言われて城を追い出されたところで、聖女の称号を貰ってドンとこの世界の技能を頂いたんですけど、その後出会ったこちらの世界の冒険者、イヴァン・タキによって俺はその技能が初期化してしまうという惨事にあってしまったんですよね。
それで色んな事があってイヴァンとその仲間であるレギオン・ルーラという人と一緒に何とかグノ王国を脱出してセフネイア王国へと来る前にベルテ砂漠のトラブルによってもう一人の仲間、アッザーム・アル=ガンダファルと合流してセフネイア王国へと入国、問題なくイヴァンやレギオンが拠点にしている炎炎組織の屋敷に落ち着いたわけです。
とまあ、簡単に俺の状況を説明するとこんな感じ。
グノ王国で勇者召喚をされてからおよそ一年が過ぎました。
セフネイア王国のレテカに落ち着いてからは十ヶ月は過ぎたかな。
何とか冒険者をやりながらぼちぼちいい感じで暮らしてます。
あ、勇者召喚に巻き込まれた者なので俺のこの世界での役割はないと言える。
聖女の称号を貰っているけど、後からの解放だったのでそこは関係ないまま。だって俺の称号に巻き込まれし者って残ってるしね。
巻き込まれし者ってことは勇者とは別行動をしても構わないと判断して俺はこの国にやってきたわけ。
そんなグノ王国はあれから一年、ロドロン公国との戦争は更に激化。
海上戦でかなり激しく戦いが行われていたんだけど、そこに突如シリンガ帝国がロドロン公国の首都に軍隊を進行してきてロドロン公国の大公が国を捨てて逃亡しちゃてね。
それでグノ王国にはセフネイア王国が国境を越えて軍隊を進行、グノ王国はこれで王都であるレダイスの直前にあるテジラまで進行を許しちゃって、対抗できずに王様は自分たちだけ金目の物を船に積んで部下の貴族とともに逃亡しユスシハ西王国へ亡命しちゃったんだよね。
なのでグノ王国に残る羽目になった貴族とセフネイア王国正規軍がまだ王都前で戦っているそうなんだけど、レダイスが陥落するのはもう誰が見ても明らか。
そしたらレダイスで住民達が反旗を翻して貴族狩りを始めてしまって。セフネイア王国の騎士団はそれを待って市民に迎え入れられて、レダイスを落としたんだってさ。
あっという間の一年。まさかグノ王国が滅びちゃうなんて俺も想像だにしてなかったけど、ロドロン公国まで消滅してシリンガ帝国の領土になるとは思わなかったよ。
ロドロン公国の大公もユスシハ西王国へ亡命をしたかったらしいんだけど、先にグノ王国国王一行を受け入れていたから結局二つの国を受け入れたらそれはそれで問題になるので、ユスシハ東王国の方へ船で向かい、そっちで受け入れられたみたい。
そのユスシハ東西の王国は元々は一つの王国だったんだけど、九千年前にニライムジナの森が大きく拡大しはじめ一千年をかけて国を分断してしまったんだ。
それで東西の国を分けて王国として成り立たせたらしい。それからお互いに辺境の地に近い状態になっているから交流は船であるらしいけど、もう八千年も経っているのでお互いに違う国になっているんだって。
いつか行ってみたいなって思ったけど船で三週間くらいかかるって聞いて断念した。
この世界の移動手段には船は一般的にも解放されて旅もできるらしいんだけど、空を飛ぶものは滅多になくて、大国がちょっと一隻、二隻持っている程度らしい。
いくら異世界人がこの世界の錬金術で魔導具を作り上げてきても空を飛ぶ飛行機は一万年掛けても作り上げられなかったのかな。
魔法とかで飛びそうと思ってたんだけどね。
「ハル、お昼ご飯食べないのか?」
俺は日記みたいなものを書いていたのでフッと顔を上げた。
アッザームが部屋を覗き込んでからそう言っていた。
「あ、もうそんな時間か」
俺は日記を閉じてそれを机の引き出しに仕舞った。
「行くよ、お腹空いてる~。今日はなんだろうな~」
「今日はハルが言ってた餃子だってさ」
「それは楽しみだ」
作り方は何となくレギオンに伝えていたら、とうとうレギオンは餃子も美味く作れるようになってさらにはタレも何処からか見つけてきたらしいラー油っぽいもので再現ができたみたい。
酢も醤油もある世界なので(どうやら日本人が召喚されやすいのか、その辺の調味料は揃ってるんだよね)恐らく餃子も何処かの世界で作られているんだろうね。
食卓には餃子がいい感じに焦げを付けているのが並んでいる。
レギオンが三枚目の餃子を載せた皿を持ってきて言った。
「イヴァンは冒険者組合に行っているから、今日は三人だ」
「依頼の確認に行ってくれたの?」
「ああ、最近は依頼を受けてなかったからな。焦げ付いたのが出てきているだろうからついでに見てきてくれと頼んだ」
「そっか、何かあるといいね」
俺はそう言い、席に座ると皆が揃ったので昼食の餃子を食べた。
めちゃくちゃ美味しかったから、レギオンに追加で作って貰ったのを収納に入れた。
あとでイヴァンにも食べさせたいしね。
食べた後は洗い物を一緒にレギオンとやって、その後は居間で本を読みながらゴロゴロとした。
この世界に来て俺のやるべきことはないから日常はこんなものだ。
読んでいる本は薬草の本だ。
回復薬は作ることを覚えたんだけど、それから色々あってそれ以外作ってなかったんだよね。
解毒薬とか回復でも魔力だけ回復するやつとか、体力強化やそれを撒くだけで結界になるとか色々タイプがあるのを本を読んで知った。
なので創造魔法を使って調合をするのはできるんだけど、材料はやっぱり一回取りに行かないと駄目なんだよね。
ラヅーツの森に行かなきゃならないんだけど、そのためには依頼があった方がいいってことでイヴァンが時間がある時に見に行ってくれると言っていた。
依頼がないのに森を彷徨いていたら怒られるというか、怪しまれるんだよねブラン組長に。
俺たちが真っ当に冒険者をやっているのに、なんでかやりすぎって怒られるんだよね。
全然やり過ぎてなんかないし、普通に依頼を熟しているだけなんだけどね。
「ハル、依頼を見てきたぞ。焦げ付いた依頼が結構あった。薬草関係もラヅーツの森の奥地のあるものの需要が高まってるようだ」
イヴァンが冒険者組合から戻ってきて居間で寛いでいた俺にそう言ってきた。
「どんな薬草?」
「最近、熱が出る病気が流行っているらしくて、解熱効果のある薬草が求められている」
そう言われて見せて貰った絵はグルキュ草と言われる薬草。ラヅーツの森では深いところにしか生えていない薬草で、他の解熱薬草とは違い、回復効果のある薬草に混ぜただけで効き目が百パーセントになる一瞬で熱の原因を取り除くことができるらしい。
二つ目はゼダス草とイガース草、混ぜると回復薬になる薬草。
俺も持っていて複製できて備蓄があるものだ。
さらには解毒効果のあるラウレシア草とアラト草、これに回復薬草であるゼダス草かイガース草を混ぜて解毒効果を発揮する。
冒険者の魔物捕獲ように麻痺薬草のアスベラ草とカルデラ草。混ぜて使うと魔物を麻痺させる効果があって捕獲目的に使う。中には魔物を従者にするテイムする時に使うこともあるんだそうだ。
あとはあればエニー草。これだけ食べても回復するという脅威の回復薬草。
俺もまだ見つけられていないんだよね。もっと深いところに潜らないとないみたいでさ。
俺はラヅーツの森は半分くらいしか攻略しきってないんだよね。魔物がとても多いから、世界的に見ても小さい森なのに魔物だけは凶悪なのが多いからね。
「エニー草にそろそろ出会いたいね」
俺がそう言うとイヴァンはフッと笑った。
「今度はもう少し深いところに潜ってみるか……」
「もう少し先にいくと、珍しい果実が採れるんでしょ? いきたい~」
俺はずっと街で果物を買ってきたけど、そろそろ自分でも採取してみたいところだった。
もちろん街で買った果物を複製して、採っては置けるとはいえ、この果実は実は街の外れで作られている養殖ものなんだって。
実際は森の中にある木を持って来て外で育てられるように品種改良したものらしいんだけど、そのせいで作りやすくはできたけど、味は落ちたんだって。
本来の森の中の果物はあり得ないくらいに美味くて甘いんだって聞いたら、取りに行くしかないでしょ。
だってわざわざ森に入って依頼でもないのに果物を取りに行く酔狂な人は俺くらいしかいないんだよね。
「分かった分かった。ハルはそれを聞いてからずっとそのことばかりだな」
イヴァンは苦笑しているけれど、俺がそこまで果物が大好きだとは思ってなかったみたい。
「だって甘くて美味しいのが食べたいもん。こっちのちょっと薄めなんだよね」
俺は日本で慣れた果物の味しか知らないからか、こっちの果物は甘さが足りないとずっと思っていたんだよね。それでその謎が分かって俺は俄然、森で果物を採取する目標を掲げているわけだ。
俺の創造魔法は自分で採取するか手に入れたものしか複製できないので、こればかりは自分で取りに行くしかないけどよ。
そりゃ創造魔法だから創造すればできるのかなと思ったけど、そこまでできたら俺引きこもって暮らすよ。作ったものを売って、そのお金でいい暮らしして一生外にでないとかね。
でも神様はそこまでチートは与えてくれてなくてある程度の苦労を俺に求めているようだった。
まあ、引きこもりして八百年以上生きるのも暇で死にたくなるかもしれないので駄目だよなとは思っているけどね。
「その果物もハルが収納を使えば時間停止するから純粋なものが維持できるし、魔法を使えば複製もできるから二度目は採りに潜ることもないしな」
イヴァンはそう言ってくれて行くことを前提にレギオンに提案してくれるようだった。
俺の希望が基本的に叶えられるけれど、駄目な時はレギオンが決めることに逆らったことはないので、基本的にはそれでいいと俺は思っている。
でも俺の希望をちゃんとした理由もなしに駄目だとは言ったことはないので、俺は我が儘は言うけれどもちろんそのことには従うよ。
「レギオーン、明日から果物採りに行こうよ!」
俺はそれを言いながら台所に入っていくと、レギオンは庭にいるようだった。
勝手口から俺は庭に出てレギオンを呼んだ。
「レギオン」
俺がそう呼ぶと、レギオンとそこにいたアッザームが立ち上がってきた。
「ハル、どうした?」
「何してるの?」
俺は不思議そうに尋ねたらレギオンが言った。
「アッザームに植えるように言っていたキュウリがいい感じに育ってきたからな。前にハルがぬか漬けがいいと言っていただろ?」
「うん、できるの?」
「イヴァンが街でぬか床っていうやつを見つけてきたからな」
「あったんだ……マジで」
俺はそれに感激した。
「どうやらハルと同じ異世界人の勇者の一人が昔に作ったものらしい。ハルが欲しがっていたから、モルトさんに頼んでおいたらソー大陸から取り寄せたそうだ」
「マジで、モルトさん有り難い」
モルトさんは俺がグノ王国にいるときからの荷の配達のお得意様。仕事もよくくれるし、グノ王国を脱出する時は一緒にセフネイア王国にきた人なんだよね。
モルトさんはトルブレ商会という雑貨を扱った店を持っていて、色んな国から珍しい雑貨を輸入してきてそれを売っている人なんだ。
俺が変わったものを欲しがるからよくそれを探して輸入してくれるんだよね。
「それでハルはどうしたんだ?」
レギオンがそう聞いてきたので俺はお願いをした。
「明日から森に果物を採りに行こうよ!」
俺がにっこりとして甘えるようにレギオンに言うと、レギオンはまた面倒臭いことを言い出したというように眉をちょっと動かした。
「ねえねえ行こう!」
俺がダメ押しすると、アッザームが助け船を出してくれた。
「ここのところ、ずっと家に居たからな。そろそろ感覚を取り戻すために一狩りしにいくのもありだろう」
アッザームがそう言うとレギオンもそう思ったのかふうっと息を吐いて言った。
「仕方ないな……だが森の奥なら全員でいかなきゃならない……畑の世話を頼まないといけないな」
そうレギオンが言うのでアッザームが言った。
「明日からならダヴィデに頼んでくるよ」
「なら、いいか」
「ありがとう、レギオン!」
俺はそう言って許可をくれたレギオンに抱きついた。
レギオンはそんな俺の頬にキスをしてくれて、俺もキスを返した。
アッザームがそう言って手を洗いに行くので俺もそれに付き添った。
「アッザム、ありがとうね」
俺は手助けをしてくれたアッザームにも頬にキスをして返して貰った。
「俺もちょっと狩りに行きたかったから、ちょうどよかったんだよ」
アッザームも平穏は好きだけれど、自分の磨いてきた技術が衰えるのは嫌なんだろうね。
せっかくイヴァンとレギオンという強い人達と一緒に深い森にも迷宮にも潜れるようになって技術が上がってきているからね。
アッザームの技術は上がっているけど、俺は一向に角兎かゴブリンしか狩れないけどな!
なんでか成長しないんだよ俺の攻撃系スキルが!!
剣術でも芽生えれば少しは貢献できるのになと思うのに、神様は変な技能と称号のレベルだけ上げてくるんだよ。
そういうわけで隣というか、ちょっと離れたところに住んでいるダヴィデ・ルイジさんという矮人族のおじいさん(というような見た目でも500歳くらい)に森に行くので畑を一週間ほどお願いしたところ。
「果物だと!? ならばその果物を一種ずつ儂に寄越せ。それを駄賃にする!」
とダヴィデさんは言う。
「分かりました、なるべく多く採ってきますね。種類が足りなかったら幾つかいい感じに分けます」
「そうか、それでいいぞ!」
ダヴィデさんはそれで納得してくれた。
いつも畑をお願いする時はダヴィデさんは現物を欲しがるんだよね。
魔物の素材や肉だったり、採ってきた珍しい薬草だったりする時もある。
でもそれで畑仕事は完璧にやってくれるし、何ならアッザームがダヴィデさんの弟子みたいになってて畑のことは何でも聞け状態なんだよね。
面白い近所さんで俺も大好きだけどね。
そういうわけで俺たちは明日、森に潜るための準備をし始めたのだった。
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